17:幼女は鳥の卵を手に入れた
まだまだ狩が続きます。
しばらく歩くと開けた場所が見えてくる。
そこに角兎が三匹、警戒しながらこちらを見ている。
「角兎は三匹しか見えませんが?」
「周囲に隠れているんだ。不意打ちに警戒して、一応防御の身体強化を全身にかけておくんだ」
身体強化は私の成長の妨げになるそうなので、頻繁には使えない。
しかし今回はクマさんの忠告どおり使っておく。
どんな危険があるかわからないからね。
私は身体強化で体の丈夫さを増した。
そして土銃を構えて角兎に狙いをつける。
角兎はこちらが何をしているのかわからないようで、不思議そうにしている。
パン!
乾いた音がして角兎の頭が弾ける!
続けてマルスさんとカンセさんの目も飛び出た!
パン!
音に驚いて硬直していた二匹目の角兎も、肩口に弾を受けて痙攣して倒れる。
瞬時に逃げようとする、三匹目。
パン! パン! パン!
連弾の一発がどこかに当たったのか、倒れて動かなくなった。
「お嬢ちゃん、左だ!!」
マルスさんが気づいて私に注意を促すと、私の意識外から一匹、茂みから角兎が飛び出してくる。
ドン!
「お嬢ちゃん!」
マルセさんの叫び声が森に響く。
そして角兎の角が私の脇腹に命中する。
身体強化をかけていたため痛くはないが、そのまま体重で負けて吹き飛びそうになるのを、角兎の角を掴んで何とか耐える。
「嬢ちゃん。油断しすぎだ。身体強化がなかったら死んでいたぜ」
「そうですね。気を付けます」
パン!
私は角兎を角を持ったまま持ち上げ、額に土銃の弾丸を撃ち込んで絶命させた。
「クマさん。残りの三匹の角兎はどこに隠れているんでしょうか?」
「嬢ちゃん。薄く魔力を周囲にはって意識してみろ。物凄く薄くだぞ。嬢ちゃんの魔力は強すぎるからな、威圧になって獲物が逃げちまう」
私は薄ーく、意識できる本当にぎりぎりの魔力を周囲に這わせた。
「だいたい上手くいってるようだな。次はその魔力に別の魔力がないか意識してみな?」
私が周囲に薄い魔力を拡散させ、その魔力に注意を向けてみると、茂みの中に角兎が3匹いるのが見えた。
見えたというよりは、魔力で感じたというべきか。魔力で見ているような不思議な感じだ。
パン! パン! パン!
茂みに隠れていた角兎一匹に命中。
残り二匹は一目散に逃走した。
「結果は五匹ですね。血抜きはここでして、解体は後でしましょう」
クマさんと私は、五匹を一か所に集めて血抜きをすると、収納ポーチに入れた。
「お嬢ちゃん。さっきから使っている魔法は何だ? とても速くて弾道が目視出来ないほどだぞ」
「あれは土魔法のストーンバレットですよ」
私はあえて土銃をストーンバレットとよぶ。
土銃なんて言っても通じないだろうし、土銃も石が飛んでるみたいなものなので、ストーンバレットには間違いない。
「土魔法のストーンバレット? あれがかい? ストーンバレットはもっと鈍重な魔法だ。とても同じ魔法には見えないぞ」
「そうだ、弾を作る速度が遅く、弾道も読みやすく遅い。それがストーンバレットだ」
マルスさんとカンセさんは理解が追いつかないようで、何やら困惑しているようだ。
「諦めろ、嬢ちゃんの魔法はいろいろおかしいからな」
クマさんがやれやれという感じに、ため息をはきつつそう言った。
いろいろおかしいは余計だけどね?
「次はビッグオストリッチの気配を感じるな。向こうだ」
「ビッグオストリッチは鳥の魔物だな。空は飛べないが、脚力が強く風魔法を使う個体も確認されている」
マルスさんがビッグオストリッチについての情報を教えてくれる。
久しぶりに鶏肉が食べられるかもしれないな。
もしかしたら卵も手に入るかもしれない。
飛べないって鶏かな?
ビッグオストリッチに対する私の期待値は跳ね上がる。
「ダチョウ~!!」
私の期待を裏切り、ビッグオストリッチはダチョウだった。
「また言葉が支離滅裂だぜ、嬢ちゃん! 奴らが来るぞ!!」
パン! パン! パン! パン! パン!
私は瞬時に土銃を連射!
二羽のビッグオストリッチに対して二羽に命中。
一羽目は頭に命中して即死。二羽目はどこかに命中したのか倒れ込んで暴れている。
三羽目が銃弾の嵐を潜り抜けて突撃してきた。
私はビッグオストリッチが接近する瞬間、土壁を造り出した。
以前ビッグボアを倒した土壁激突作戦だ!
しかしビッグオストリッチはほぼ90度の斜面の土壁を駆け上がって飛び越えてきた。
「ずいぶんと身軽な魔物ですね!」
「油断するな嬢ちゃん! 上から来るぞ!」
私は上から飛んできたビッグオストリッチを土剣で迎撃、そのまま上空に押し返した。
すると押し返されたビッグオストリッチの方からグシャ!と鈍い音が聞こえる。
どうやら土剣で押し返したビッグオストリッチは、首の骨が折れてしまったようだ。
首の骨が折れたビッグオストリッチは、地面に着地することなく激突。
絶命してしまった。
パン!
私は続けて、いまだに倒れ込んで暴れているビッグオストリッチの頭を、土銃で撃ち抜いて止めを刺す。
これで三羽のビッグオストリッチを、全て倒すことができた。
戦闘終了後は三羽の血抜きをして、収納ポーチにしまい込んだ。
「その収納ポーチどれだけ入るんだ? さっきもボアや角兎も入れていたろ?」
「そろそろ限界ですね。もっと獲物を狩りたいですがここまでですね」
「羨ましいほどの収納量だ。G級冒険者が持ってるとは信じられないな」
D級冒険者の二人が言うのだから、この収納ポーチも私が持てばそれなりのものなのだろう。
ただし今の私には、この収納量は物足りなさを感じさせるものだった。
「クマさん。この鳥たちの卵を探しましょう」
「そうだな。卵は三つあるが、そのうち二つが孵っているな。こっちだ」
クマさんに案内されると、そこには地面に大きな鳥の巣があり、二羽の雛と、巨大な卵が一つ見つかった。
「「グアー!! グアー!!」」
ビッグオストリッチの雛が私たちを威嚇してくる。
「この雛はほっておいて大丈夫でしょうか?」
「この雛でも油断すれば喉笛くらい噛みちぎってくるぞ」
「じゃあこうしましょう」
私が雛を強めの魔力を拡散して威嚇すると、雛は一目散に逃げていった。
さすがビッグオストリッチの雛、小さくてもすごい脚力だ。
残った巨大な卵は収納ポーチに入れる。
巨大な卵が収納ポーチに入らないな?
「嬢ちゃん。生物は収納ポーチには入らないぜ。入ってもちょっとした抵抗ですぐ抜け出すって話だ」
「不思議・・・この巨大な卵どうしましょう?」
「こうすれば入るぜ」
クマさんは冷凍魔法で巨大な卵を凍らせた。するとすんなり収納ポーチに巨大な卵が入った。
これで卵料理が作れる。
森を出て、マルスさんとカンセさんと別れたクマさんと私は、私の新たな魔法習得のために人気のない街道にいる。
「アクセス アプロト スペクト」
私の腕に、白い紋章が浮かび上がる。
「空間魔法も適性があったようだな」
私は収納魔法を手に入れるために、クマさんから空間魔法を学んでいるのだ。
「はい。今の狩りのペースでは、収納ポーチの収納量では心もとなかったので、良かったです」
「その収納ポーチの収納量で心もとないのは、嬢ちゃんくらいだがな」
私はさっそく、空間に穴をあけて、新たに空間を作り出すイメージをしてみた。
しかしこのままだと中が広すぎて誰かさんのポケットみたくなりそうだったので、昔オンラインゲームで遊んだときに見たようなストレージもイメージしてみた。
すると魔力がぐんとなくなる感じがして、空間に小さな穴が出来上がった。
その空間の穴に触れると、神秘的な感じのウィンドウが表示された。
試しにその辺の石ころを空間の穴に入れてみると、ウィンドウに日本語で石ころと表記され、石ころの絵が表記されていた。
別の石を入れると、石ころAと石ころBに分類された。
同じ石ころでも、別のアイテムとして判断されるらしい。銅貨とか別々に判断されるのは嫌だなとか思いながら、銅貨を収納ポーチからさぐる。
そういえば銅貨は一枚も持っていないことを思い出す。
「クマさん銅貨を貸してください。すぐ返しますので」
「金の貸し借りはよくないぞ。嬢ちゃん」
と言いつつ銅貨を三枚貸してくれるクマさん。お金持ってたんだ。
銅貨を空間の穴に入れると、なんと銅貨はちゃんと枚数が表示された。
銅貨3コ
銅貨で単位がコなのは気になるが、私のイメージの仕方の問題なのかもしれない。
銅貨の絵に触れると、銅貨に一枚ずつ触れる感じがする。
そのまま三枚掴んで引っこ抜くと、手に銅貨を三枚握っていた。
クマさんに銅貨を返し、次は収納ポーチの中身を出して入れてみる。
結果的に全部余裕で入れることが出来た。
そして収納ポーチも入れようとするが、反発される。
これは別空間同士が、反発しあうせいなのか?
「嬢ちゃん。収納ポーチに収納ポーチを入れると、入れた方の収納ポーチの収納機能がなくなると伝えられてるぜ。ついでに中身も消えてなくなるらしい。その事故を防ぐために、収納ポーチを別の収納空間に入れようとすると、反発するような処置が施してあると考えられているんだぜ」
収納ポーチを作ったのが誰か知らないが、よく考えて作られているようだ。
そういえば卵でマヨネーズを作る時、生卵についたサルモネラ菌などの食中毒菌が心配になるけど、それって微生物だよね?
生物が入らないなら収納魔法って除菌効果もあるんじゃない?
「ところで収納魔法に生き物は入らないそうですけど、微生物なんかはノーカウントなんですかね?」
「微生物? よくそんなもの知ってるな。失われた知識だぞ? 微生物が一応生物なら外に出ているだろうな」
マヨネーズ・・・いけるんじゃね?
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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