15:冒険者ギルド
翌朝私は冒険者ギルドを目指していた。
私が働ける場所か確認するため、冒険者ギルドがどのようなところか見ておきたいからだ。
何をするにもまずお金がいるのだ。
そして冒険者ギルドに着くと、さっそくあのテンプレが起こった。
初めての冒険者ギルドでは、絡まれる。
「お嬢ちゃん。ここはお嬢ちゃんのような幼い女の子の来るところじゃないぜ。帰りな」
冒険者ギルドの前では、3人のガラの悪い冒険者が待っていて、入り口を塞いで入れないようにしていたのだ。
「幼くても用事があるからこちらへ来たのです。それに一冒険者である貴方たちに、私が冒険者ギルドに入ることを止める権利はあるんですか? すぐに道を開けて通してください」
「まったく面倒くさいガキだぜ」
そう言うとガラの悪い冒険者の一人が、私の襟首を掴もうと、手を伸ばしてきた。
冒険者に絡まれることも想定して、あらかじめ身体強化を使っていた私は、掴んできた冒険者の手首を掴み、折れない程度に握りつぶしてあげた。
ぐしゃ!
「ぎゃぁぁっ! いてえ! このガキなんて馬鹿力してやがる!」
「このガキ! 何しやがる!」
ガラの悪い冒険者が剣を抜いてきたために、私も臨戦態勢に入る。
「おいおい。冒険者ギルド内での冒険者同士の戦闘はご法度だぜ?」
冒険者ギルドの奥のほうから、髭の生えた天然パーマの厳つい、身長2メートルはあろうかという男が、頭をボリボリかきながら出てきた。
「失礼ですが、貴方は?」
「俺はここの冒険者ギルドのギルド長をやっている、マハトという者だ」
「げぇ! ギルド長!!」
すると3人のガラの悪そうな冒険者は、バツが悪そうに縮こまった。
「この冒険者の方たちが暴力をふるおうとしたので、少しお灸をすえたら、剣を抜かれたのです。なので返り討ちにしてもかまいませんか?」
「まあ心配するこたぁねえ。見たところその3人は冒険者ではなくて、冒険者に扮したアウターたちだ。嬢ちゃんが出来るってんなら、懲らしめてもかまわないぜ」
「くそ! ずらかれ!」
「ひぃぃ!」
ドカ! ドカ! ドカ!
私は即座に逃げ出そうとするアウターたち3人の手足を、土魔法で作った枷で拘束して、地面に転がした。
「嬢ちゃん何者だ? 俺は魔法を使う幼女なんて初めて見たがな。それとも魔法を使ったのは実はそこの熊の従魔か?」
私が魔法を使ったのを見て、驚いたギルド長は、尋ねてきた。
「今はそんなことよりも、そちらのアウターたちは何者ですか?」
私は話題をそらそうと、アウターたちの話題をギルド長にふった。
「そいつらは弱い冒険者に絡んで、上納金をせしめていたアウターだ。毎回上手く逃げるもんだから、なかなか捕まらなかったんだ。捕まえてくれて礼を言うぜ。ありがとう嬢ちゃん」
するとギルド長は、私に向かって親指を立ててウインクをした。
「冒険者ギルドは各国から認められた独立した組織で、上納金を取るような行為は出来ないはずなんだけどな。そこんとこ、この馬鹿どもの長にも、もう一度、よおく言い聞かせないといけないな」
そう言うとギルド長は悪そうな顔で笑った。
「「「ひっ! ひぃぃぃぃ!」」」
すると3人のアウターは怯え震えだした。
怖がるくらいなら初めから、冒険者ギルドなんて相手に、悪事を働かなければいいのに。
3人のアウターたちを、ギルド職員に預けたギルド長は、再び私と向き合った。
「それで事情を話したくない嬢ちゃんは、この冒険者ギルドに何しに来たんだ」
再びさりげなく、こちらの魔法についての仔細を探ろうとするギルド長に、私は再び会話を捻じ曲げにかかる。
「事情って何の事情ですかね? 幼い私にはよくわかりませんが? そういえば自己紹介がまだでしたね。私はリンネ。こちらは従魔のクマさんです」
「クマサン? 妙な名前だな?」
この会話再び。
「クマジロウで、クマさんです!」
「じゃあクマちゃんだな?」
ゲシ! ゲシ! ゲシ!
キルド長の台詞を聞いたクマさんは、ギルド長のすねを何度も蹴り始めた。
「な、何だ? 何怒ってんだこの従魔」
「ちゃん付けは禁止なんです」
「あー。すまんすまん。じゃあクマジロウでいいな」
納得いったのかクマさんは、頷いてギルド長への攻撃を停止した。
ギルド長。どうしてその風貌でクマさんを、クマちゃんとよぼうとしたのか?
「私は冒険者になるためにここに来ました。6歳ですが冒険者登録は可能でしょうか?」
私は冒険者ギルドに来た理由を、ギルド長に話した。
「冒険者登録に年齢制限はない。実際に身寄りのない子供が、冒険者ギルドの薬草の採取で生計を立てている例もある。しかし薬草は街の外にある。街の外は危険がいっぱいだ。入れるなら孤児院をお勧めするがな」
「孤児院にならもう入っています」
「孤児院にいるなら、ギルドの仕事は必要ないだろ? それなのになぜ冒険者になろうとするんだ?」
「孤児院から出て行くように言われているからです」
「その力のせいでか?」
「ご想像にお任せします」
ギルド長は隙あらば私の力について尋ねてくる。
そんなことを聞かれても、本人が分からないのだ。何の答えようもない。
「冒険者登録には、銅貨10枚が掛かる。払えない場合は身元の調査の後、後払いということもできるが・・・どっちにする?」
身元の調査か・・・・私を調べたところで何も出てはこないし、きっとますます謎が深まるだけだと思うが、調査は時間がかかりそうで嫌なので、ゴブリンの魔石で払うことにする。
「銅貨10枚なら、ゴブリンの魔石2個で大丈夫ですね?」
私はゴブリンの魔石を2つギルド長に渡した。
「よく知っていたな?」
「この街に入るときに、支払ったのが、ゴブリンの魔石だったんです」
「この魔石はお前さんの仕留めたゴブリンか? いったい今までに何匹仕留めたんだ?」
ギルド長は冗談まじりに聞いてくる。私はあえて真実を告げておくことにする。
「100匹近くは仕留めてるんじゃないですか?」
「ハハハ! 大人の冒険者顔負けの数だな?」
「お金を支払ったならこちらへ来て手続きをしてくださ~い!」
声のしたカウンターの方を見ると、ギルドの受付の女の人が、手続きの紙をヒラヒラさせながら呼んでいた。
「それじゃあな。嬢ちゃん。何かあったらいつでも相談してくれ」
「色々ありがとうございましたギルド長」
私はお辞儀をすると、テテテとカウンターに小走りで向かった。
「クマジロウもまたな!」
ギルド長は手をヒラヒラと振って去ろうとする。
「ああ、またな」
クマさんは、ギルド長に向けてボソッと挨拶した。
ギルド長はギョッとした顔でふり向いて、しばらくクマさんを目で追うと、頭を振って階段を上って行った。
クマさんは悪戯が成功したのか、悪い顔で笑っていた。
「先に自己紹介をしておきますね。冒険者ギルドの受付嬢のサニーと申します。よろしくお願いしますね。」
「これはご丁寧にどうも、私はリンネです。こちらが従魔のクマジロウで、クマさんです」
クマサンネタは引きずらない。
「クマちゃんですか? かわいいですね。後で撫でさせてください。それと・・・」
ギルド嬢は先ほどの用紙を差し出してくる。
「冒険者ギルドに登録するためにはこの用紙を書いていただきます」
初めて見る異世界語は、どこか英語のようにも見えるが、これが異世界語であるならば、このリンネという少女の記憶を探る限りでは、読めないはずなので代筆を頼む方向で考える。
「あの文字が読めないのですが、代筆していただくことは可能でしょうか」
「農村出身者など、文字を書けない方はけっこういますので、代筆は可能ですよ」
「ではお願いします」
名前はリンネ。年齢は6歳。職業は孤児。特技は・・・。
「特技のところには、剣術や、使える魔法をおっしゃってください」
特技のところで悩んでいるとサニーさんが教えてくれた。
おそらく本当のことを書いても信じてはくれないだろうし、魔法の実演なんかして、目立ちたくはない。
「そういえば、さっきの土魔法の枷は、あなたが作られたんですよね? なら土魔法は使えるということでよろしいですね?」
土の枷はまずかったかな?
私が気づかなかっただけで、けっこうな人に見られていたのかもしれないな。
サニーさんは特技の欄に土魔法と書き込んだ。
「従魔の名前はクマジロウでしたね? 種族は何ですか?」
自称聖獣フェンリルのクマさんの種族は何であろうか?
本当の種族を聞いたことがないから分からない。
私はクマさんの顔を見る。
しかしクマさんは黙して語らない。
「じゃあ珍獣で・・・」
私がそう言うとクマさんは悲しそうな顔をしたが、本当の種族を言わないクマさんが悪い。
そしてサニーさんは無情にも種族、珍獣と書き込むのだった。
「珍獣で通るんですね?」
「はい。従魔の種族が分からないことはたまにありますから。そういう場合は珍獣ですね」
無事冒険者登録をすることが出来た。
サニーさんは袋を出すと、何やら中から取り出し始めた。
「冒険者登録がお済みでしたら、このバッジをどうぞ」
サニーさんは私に木製のバッジを渡してきた。
「木のプレートは仮の証でGランクということになっています。
30日以内に、20以上の仕事をこなせば晴れて正式な冒険者で、Fランクになります。もし30日以内に仕事が20以上こなせなければ冒険者の仮資格は抹消となりますので、お気をつけください。
そしてクマちゃんにはこのスカーフをどうぞ」
サニーさんはクマさんの首に、赤い金の刺繍で冒険者ギルドのマークの入った、スカーフをつけてくれた。
「じゃあ早速、薬草の採取に向かいたいと思いますので、詳しいことを教えてください」
ギルド長が、子供が薬草で生計を立てている話をしていた。ならば薬草採取の仕事はあるはず。
「薬草採取の仕事ですか? それなら薬師組合が常時依頼してますね。
制限はありませんが、最低でも10株は欲しいですね。10株でも構いませんが、あまりお金になりませんね。10株で銅貨5枚なので。
あと薬草を取る時は根を残して採取してください。同じ場所での取りすぎにも注意してください。同じ場所で乱獲すると、その場所で育たなくなることもあるので。薬草はこの瓶の中にある草です」
サニーさんが私に瓶を見せると、中にヨモギのような草が入っていた。
サニーさんがクマさんをわしわしと撫でまくった後、クマさんと私は、薬草を探すために門の外を目指した。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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