10:幼女の冒険
今回は一部グルメ回です。
現在クマさんと私は、ゴブリン戦で造った落とし穴の前にいる。
村から去る前に、騎士団と冒険者たちが通るであろうこの場所を、元に戻すためだ。
深夜に村を出たので、まだ真っ暗だ。
月明りを頼りに、落とし穴を見る。
「嬢ちゃん。穴が塞がったらこの先の獣道に向かうぞ」
「獣道? 危なくないですか?」
「騎士団との接触を避けるために必要なことだぜ。その獣道なら騎士団と会わずに街道に出られる」
私は土魔法の操土で、落とし穴を埋め立てていった。
しかし夜道は思ったより暗く目視で判断しにくいために、道は思ったように自然な形にならず、あちこちデコボコしてしまっている。
「まだ暗くて道の状態が見えにくいので、道を自然に均すには、もう少し明るくならないと難しいです」
「朝日が昇ると、騎士団が来ちまうかもしれない。その辺で切り上げようぜ。
どのみち村に造った土の防壁で土魔術師がいたというのはばれるだろうし、まさか嬢ちゃんみたいな幼女が魔術師なんて思いもよらないだろうしな」
獣道に入ると、真っ暗だ。道も見えづらいしどこを歩いていいかわからない。
「暗いな・・・。弱いが明かりをつけるぜ。少し待ってくれ」
クマさんが呪文を唱えると、薄暗い光の球が3つ浮かび上がった。
「わあ! すごい! 光の球だ! 私もその魔法覚えたいです! でも光の魔法って呪文がいるんですか?」
「呪文の言葉でイメージするのと同じ効果のある言葉があるんだ。イメージしにくい場合や、イメージに時間がかかる場合は、皆呪文で魔法を発動するな」
「へー。呪文でも魔法が発動できたんですね。私も呪文教えて欲しいです。あと光魔法覚えたいです」
「旅は長いからな。おいおい教えてやるさ」
私とクマさんは、魔法の光を頼りに獣道をひたすら進んだ。
しばらく歩くと日が昇り明るくなってきて、森の様子がはっきり見えてくる。
歩きながら私とクマさんは、これからのことを色々話し合っていた。
「なあ嬢ちゃん。これからどうするんだ? 行き先とか決めてあるのか? 野宿暮らしも悪くはないが、幼い嬢ちゃんにはちとつらいかもしれないぜ」
「そうですね。ならとりあえず街を目指そうと思います」
街は人口も多い、小さな幼女がまぎれるにはうってつけの場所だと思う。
そこで目立たずひっそりと暮らせたらいいかな?
「街か? 街ならオイラが案内してやるよ」
そんなおり、クマさんは突然足を止めて、周囲に警戒し始めた。
「クマさんどうしたんですか? 何かいるんですか?」
「しっ! この気配は・・・ビッグボアか?」
クマさんは森の奥を睨みつける。
ぎゃーぎゃー・・ ぴぴぴぴ・・・
鳥の鳴き声が不気味に響く。
「ビッグボアって猪ですよね? 私、お肉食べたいです」
「イノシシが何かは知らないが、ビッグボアを肉呼ばりする幼女は、嬢ちゃんくらいだぜ」
「いた! あそこ!」
私が指さす先に、テレビとかで見たことある猪が見えた。
初めての未知の野生動物との遭遇に、私のテンションは上がる。
「よせ! 大声出すな! 向かって来るぞ!」
そのままビッグボアは、こちらに向かって突進して来た。
私は躊躇することなく、突進して来る猪に歩み寄る。
「よせ! 下がるんだ嬢ちゃん!」
もはやお肉にしか見えないビッグボア。
ある程度ビッグボアが接近すると土壁を発動。
「ぶひぃぃぃぃ!」
ドン!!
ビッグボアは土壁に激突して、そのままよろよろとしばらく後ずさると、地面に倒れ伏した。
「仕留めやがった!」
「肉!!」
私がビッグボアに近寄ろうとすると、クマさんが私の前進を静止しながら前へ出てきた。
「まて! オイラが止めを刺す!」
クマさんが呪文を唱える。
するとクマさんの左人差指から、細い水が噴き出した。
「今度は水魔法!」
そのまま細い水を、クマさんがビッグボアの首のあたりに当てると、ビッグボアの首から血が噴き出す。
「すごい! ウォーターカッターだ!!」
ウォーターカッターは、動画で石を切るのを見たことがある。
工場などでよく使われているらしい。
そのウォーターカッターをクマさんが指から出したことで、私のテンションは爆上がりだ。
魔力も同時にあふれ出してくる。このままだと軽い英雄の咆哮が出てしまいそうだ。
ぱふん!!
「痛・・・?」
クマさんの肉球パンチが私の頭に炸裂する。
痛くはないがびっくりした。
「魔力を抑えろ。興奮しすぎだ。あと無鉄砲すぎだ。嬢ちゃんがビッグボアに突撃した時にはヒヤヒヤしたぞ」
「すいませんクマさん・・・」
高まる魔力と興奮を制御できなければ、この先いつやらかすか分からないな。気を付けよう。
「この場での解体は、ちと厄介だな。ウルフどもが嗅ぎ付けてきそうだしな。移動させるにもこの大きさではな・・・」
私ならこんな大きなビッグボアも、収納ポーチにしまえる。
クマさんはなぜ収納ポーチを使わないのかな?
もしかして収納ポーチは一般的ではないのかな?
とすると高級品の可能性もあるな・・・。
「クマさんは収納ポーチとか持ってないんですか?」
さりげなく確認するために聞いてみる。
収納ポーチを持っていることは、まだクマさんにはないしょにしておく。
「収納魔法はあるが、今は魔力があまりないからな。容量が小さくてこんな大きいビッグボアは入らないな」
収納魔法あるのか!?
おっといけないまた興奮する。抑えて抑えて。
「収納ポーチって高価なんですかね? 収納ポーチがあれば、このビッグボアもしまえますよね」
「いったん、嬢ちゃんの収納ポーチに入れといてくれ」
収納ポーチ持ってるのクマさんにばれてら~!
てか名前本当に収納ポーチかよ!
「収納ポーチは性能によって、価値は様々だな。まず作れる奴がいないからダンジョンからの産出が基本だしな。しかし効果が微妙なら価値も低いな」
「効果が低いって、容量が少ないとか?」
「容量が少ないのも価値が低いが、魔力依存で容量が決まるのも微妙なものが多いな」
「私の収納ポーチは、畳二畳分くらい入るんですが、高価なものですか? あまり他人には見せない方がいいですかね?」
「畳二畳分なら結構でかいな。ちょっと見せてみ」
私は収納ポーチをクマさんに見せた。
するとクマさんは私の収納ポーチを手に取って調べ始めた。
「畳二畳分? 普通のポーチにしか見えないが・・・一応魔力は宿っているな・・・」
「そんなはずはないですよ」
私がクマさんが手に持つ収納ポーチを覗き込むと、そこには畳二畳分どころか、石ころ2~3個でいっぱいになりそうなくらいの容量しかなかった。
「そんな馬鹿な!!」
私が収納ポーチをクマさんからひったくって見ると、容量は再び畳二畳分に広がる。
「そいつぁ、魔力依存の収納ポーチだな。
しかもオイラの収納魔法の10分の1くらいしか容量がないし、10分の1くらいしか効果を発揮しない収納ポーチはあまり価値があるとは言えないな」
「え? 魔力がある人が持てばこれだけ入るのに、とても便利ですよ」
「あのなぁ。嬢ちゃんほどの魔力を持つ者はまずいない。
それに魔法を使えるほど魔力を持つ者も、その数は少ないんだ。その数少ない者ですら、多分オイラほど魔力があるかどうかだぜ? てことはその収納ポーチをまともに使える人間はまずいないってことだ」
「え!? つまり微妙ポーチってことですか?」
「嬢ちゃん以外には、微妙ポーチだな。ていうか嬢ちゃんが収納魔法を使えたら要らなくなるかもな」
そのクマさんの言葉に、私はショックを受けた。
今まで旅をともにした、相棒のような収納ポーチが微妙ポーチなんて・・・
私はしょんぼりしながら、ビッグボアを収納ポーチにしまった。
いつ見てもあんな大きなものが、こんな小さなポーチに入る様子はシュールだな。
その後、私とクマさんは拓けた場所にやってきて、ビッグボアの解体をすることにした。
太陽はとっくに昇り、辺りを鮮明に照らしている。
「アクセス アプロト アクアル」
クマさんが私の水の適性を調べると、私の手に青い紋章が浮かび上がる。
「良かったな嬢ちゃん。水の適性もあるぞ」
水魔法は空気中に浮かぶ、水蒸気を意識して発動するようだ。
私はさっそく水魔法を使い、水を出してがぶがぶ飲んでみた。
イメージは前世で見た、水道の蛇口から水があふれるところだ。
水魔法を覚えたのは、水魔法が解体に必要だったからだ。
そして最初にビッグボアの皮剥ぎだ。
ビッグボアを水魔法の水で洗い、濡らしたまま弱い火魔法で表面を焼いていく。
こうしておくと、皮が柔らかくなって剥ぎやすいらしい。
でも大きいので大仕事だ。
焼いた後は、2人がかりで土魔法のナイフを使って皮ごと毛も剥いでいく。
皮が剥げたらちょっと休憩。
その後はいよいよ、ウォーターカッターに挑戦だ。
私はまず空気中の水蒸気を意識して、魔力で支配すると、指先に集まるようにイメージした。
「私はウォーターカッターの機械になる! ういぃぃぃぃん!」
そして工場のウォーターカッターの機械になりきった。
すると右手の指先から、ウォーターカッターが噴き出した。
「妙な呪文だが成功したな。さっそく解体を教えてやるぜ」
まずビッグボアの頭を切り落とす。
水のカッターは鋭く、あっという間にビッグボアの頭を切り落とせた。
次にお腹を開いて内臓を出す。
内臓は土魔法で作った穴に埋めた。
処理の仕方は知らないし、ほっとくと魔物を呼び寄せるからだ。
少し気持ち悪さを感じたが、これから肉を食べることを考えると、その気持ち悪さもひっこんだ。
それはこの少女の精神が、こういった状況に慣れているせいだろうか?
前世の俺なら絶対に耐えられないだろうな。
「お肉! お肉! お肉!」
自然と物騒な鼻歌まで出てきた。
クマさんは呆れ顔で、そんな私の顔を見ている。
ビッグボアの骨を外していき、ついにお肉さまがその姿を現した。
こんなに大きな肉の塊は、前世でも見たはことはない。
「解体はざっとこんなところだ。後は回数を重ねて慣れていくといい」
クマさん。解体に慣れた幼女とか、野性味あふれすぎだろ。
太陽が頂点に差し掛かるころ、私はビッグボアのステーキを焼くために、土魔法で肉焼き機を作っていた。
初めに肉焼き機の焼きアミに、肉が引っつかないように、脂身を焼いて油を出して塗っておく。
肉は焼く直前に塩を振る。塩はクマさんからもらった岩塩だ。
まだいくつか死蔵しているらしい。全部くれ。
そして豪快に肉を焼く。
ジュ~
肉を焼く煙が辺りに立ち込め、美味しそうな匂いととも唾液が口いっぱいに広がっていく。
肉が焼けたらお皿に盛って、四つ切りにした酸っぱい果実を添えて完成である。
土魔法で作ったカトラリーを並べてさっそく実食だ。
「いただきます!」
「妙な食前の祈りだな? オイラもそれしとくか。いただきます」
そして食べたステーキは、転生して初めてのご馳走だった。
体がその分厚い肉を求め、ただ求め、かぶりつく。またかぶりつく。
美味しい!!
言葉にならない感想・・・。
私はただひたすら、その肉にかぶりついた。
そして気が付くといつの間にか完食していた。
また見つけたら、絶対にビッグボアを狩ろうと、心に決めた私だった。
あとクマさんは見かけによらず、お上品にちまちま切って食べていた。
所作がとても綺麗だったよクマさん。
残ったビッグボアの肉は、クマさんに冷凍魔法をかけてもらい、収納ポーチへ。
冷凍魔法は、水魔法の上位互換で、まだ私には難しいそうだ。いつか絶対覚えたい。
そして食後はステータスの確認。
「ステータスオープン」
名前 リンネ(女)
体力 弱
魔力 少し減った
物理攻撃 弱
魔法威力 クマさんが褒めるくらい
適性魔法
土魔法
習得魔法:土剣、土壁、土小物、ストーンバレット、落とし穴
火魔法
習得魔法:青い炎、青いライトセイバー
水魔法
習得魔法:放水、ウォーターカッター
回復魔法
習得魔法:治療
特技 身体強化、英雄の咆哮
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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