08:幼女村を出る
再び目が覚めると、クマさんが横で大の字になって寝入っていた。
こうして見ると、まるでぬいぐるみのようだ。
そしてしばらくすると目を覚まして、私の横にゴロンと座り直した。
「目が覚めたかい嬢ちゃん? 体はまだ痛むか?」
まだ体中が痛む。この世界には回復魔法はないのか?
回復魔法があれば、すぐにでも治ると思うんだがな。
そうすればまたゴブリン退治に行けるし・・・・ここはクマさんに教えてもらうか。
「クマさん。回復魔法を教えてください」
「唐突だなぁおい」
クマさんはしばらく考えるような仕草をしていた。
そしてしばらくして口を開いた。
「いいだろう。嬢ちゃんは無理するからな。早めに覚えておいて損はないだろう・・・と言いたいところだが、前にも言ったが、適性がないと、覚えたくても覚えられないぜ。まず手を出しな」
手を出すとクマさんは私の手を取って、以前唱えたような、厨二くさい呪文を唱えた。
「アクセス アプロト リカバル」
すると私の手に、青い紋章が浮かび上がった。
「ちっ・・・。適性があったか」
クマさんは何だか教えるのが嫌そうだ。
「回復魔法で回復したら、嬢ちゃんはゴブリンのところまで飛んでいきそうだからよ。これだけは約束させてくれ。嬢ちゃんが回復しても、ゴブリンのことはもう大人に任せると」
回復したら、確かにゴブリン退治に戻りたい気持ちはあったが、クマさんがそこまで心配するなら、止めておいた方が良いのかもしれない。これ以上クマさんに、心配はかけたくない。
「わかりました。ゴブリンのことは大人に任せます」
「よし。そうと決まればさっそく教えるぜ」
こうしてクマさんによる、回復魔法の授業は始まった。
「そうだな、まず腕の痛む部分に魔力を流して、状態を確認するように、イメージをするんだ。」
痛む腕か・・・? 両方痛むな・・・。
まず利き腕じゃない方から試すかな。
失敗して、利き腕の右腕が動かなくなったら、目も当てられない。
私は利き手でない左腕に魔力を流して、骨、血管、筋肉などの状態をイメージした。
すると筋肉と血管に、ダメージを受けている感じがした。骨は何ともないようだ。
「左腕の確認からしました。血管、筋肉にダメージがあります」
「後は魔力で壊れた部分の修復作業をする。そうだな、土魔法は材料が土だが、回復魔法の材料は自分だ。
自分の素材を使って、魔力で壊れた部分が修復していくイメージが良いか?」
私は魔力でまず自分を形造る素材、たんぱく質を複製使用しながら、血管の壊れた部分をつなぎ合わせた。
細胞を復元し、再びつなげ直すのだ。
破損部分が複数あったので、少し時間はかかったが、これで血管は大丈夫だ。
次に筋肉の破損を修復していく。
同じように時間はかかったが、どうやら無事修復出来たようだ。
本当に大丈夫か、実際に左腕を動かしてみる。
うん。痛みはもうほとんどないな。
「嬢ちゃんの魔力の動きを観察してみたが、その魔法操作の知識は前世の知識の影響なんだろうな?」
「前世に魔法は存在してなかったんですが、医学は結構発達していましたよ。その知識が魔法操作をより正確にしているんじゃないでしょうか?」
「嬢ちゃんの前世は医者か何かか?」
「医者ではありませんが、医学的な情報が前世では溢れていました」
前世では会社員だったが、インターネットや保健体育の授業などで、医学的知識は少しはあった。
「情報? 本を沢山読んでいたのか?」
「本以外にインターネットとかがありましたね」
「そのインターネットとは何だ?」
「基本的に本みたいに字を読むんですが、板の画面に文字が表示されて、見たい部分が出てくる感じでしょうか?」
「う~ん・・・?」
クマさんはそのまま考え込んでしまった。自分の頭の中で整理しているのかもしれない。
その間、私は全身の治療をしておくことにする。
「私復活!!」
全身の治療が終わると、私は前世で見たアニメの主人公の台詞を言いながら、ベッドから飛び上がった。
ぐぅ~ す~ぴ~zzzzz
するとクマさんは、座りながら腕を組み、鼻提灯を出しながら寝ていた。
考えながら寝ちゃったんだな・・・。
今の内にステータスでも確認しておくか。
「ステータスオープン」
名前 リンネ(女)
体力 弱
魔力 全回復
物理攻撃 弱
魔法威力 クマさんが褒めるくらい
適性魔法
土魔法
習得魔法:土剣、土壁、土小物、ストーンバレット、落とし穴
火魔法
習得魔法:青い炎、青いライトセイバー
回復魔法
習得魔法:治療
特技 身体強化、英雄の咆哮
そして翌朝・・・
「この村を出よう」
クマさんは唐突に私に告げた。
「Naze?」
あっけにとられた私は、前世の記憶にある、日本語をしゃべってしまっていた。
「何語だよ嬢ちゃん? また言語が支離滅裂だぜ?」
「クマさんが突然、村を出ようなんて言うからですよ」
クマさんは唐突にのたまい、私をあっけにとらせた台詞の説明を始めた。
「嬢ちゃんは色々特殊すぎるからな。これからやってくる騎士どもには会わせたくないのさ」
「騎士ですか? もしかして貴族ですか?」
ラノベで出てきた騎士でも、貴族の家の者はよくいた。逆に平民もいたが、貴族の力の方が強かった記憶がある。
「知ってんじゃねえか。貴族が嬢ちゃんを見たらどう思うかわかっているな?」
貴族のような立場の人間が私を見たら、まず利用しようとするだろうな。
すでに村の人たちが私のことを見ているし、言い逃れも出来ないな。
それに英雄の咆哮の件もあるし、貴族にはなるべく会いたくはない。
「じゃあ今日の夜、こっそりこの村を出るぜ。これ以上引き止められても面倒だからな」
この村には村長など、私の英雄の咆哮で魅了されてしまった人たちもいる。
多分、村を出ようとすれば、引き止められるだろうな。
でもクマさんは違う。もしかしてこのままついてきてくれるつもりだろうか?
「クマさん・・・私と来てくれるんですか?」
「あたぼうよ。嬢ちゃんみたいな危険な存在、野放しにできるわけねえだろ」
ついてきてくれるのは本当に嬉しいが、こんないたいけな幼女に、危険な存在はないだろう。
こうして私たちは、深夜にこの村を抜け出した。
その後、冒険者や騎士たちが村にやってきて、村の前の戦闘の跡や、村の防壁に驚いたのは言うまでもない。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「クマさん!」
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