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07:英雄の咆哮

 目が覚めると、知らない天井だった・・・。

  

 というテンプレはなく、昨日泊まった村長の家の天井だ。

 変わったのは、ちゃんとベッドで寝て、布団をかけているところだ。

 昨日は(わら)に雑魚寝だったはずだが・・・。



「いた・・!」



 体中が痛くて動かせない。

 そして俺・・・という第一人称が、妙に気恥しく感じる。


 これはこの少女と自分の魂が、一つになった影響だろうか?

 蘇った記憶にある、母親に教えられた、女の子としての情操教育の影響だろうか? 

 これは第一人称を変えざるをえないだろうな・・・。



「気がついたか、嬢ちゃん」



 気づくとそこにはクマさんがいた。



「ここはどこですか・・・?」



 あれから私は何日寝ていたんだ?



 ぐぅぅぅぅ~



 お腹も空腹を訴え始めた。



「食べ物は後で何か用意させよう」


「あれからいったいどれぐらい経ちましたか? ゴブリンの動きは?」


「嬢ちゃんは2日も寝ていたんだぜ。ゴブリンは狩人に見張らせているが、今のところ動きはない」



 2日も寝ていたのか・・・・ゴブリンが2日も動かないのは少し不気味だな。

 前世で読んだ異世界もののラノベとかでは、ゴブリンは捕まえた女の人を苗床にして、繁殖するようだったし、いったいどれくらい増えたんだ?



「ゴブリンはあれから、どれくらい繁殖したんでしょうか? 苗床にされた女性たちは、無事でしょうか?」


「よく知ってるな? ゴブリンは人間の女を苗床にして、増殖はするが、2~3日で生んで、成長するなんてことはない。

 早くても戦えるようになるまでに、数ヵ月はかかるだろう。その間、苗床にされた村の女たちは心配だがな・・・」


「私が行って、苗床にされた女の人たちだけでも、助けられたら良いんですが・・・」


「ワタシ? やめとけ。今は身体強化魔術の反動で動けねえだろ? あまり無理すっと、今度はどうなるかわからないぜ?」



 気持ちは焦るが、確かに体中が痛くて、思うようには動かせないな。



「それに明日には、冒険者の集団と騎士団が、派遣されて来るそうだ。後のことは大人に任せておけ」



 それもそうかもしれない、考えてみれば私は幼女だった。

 命がけの戦いは、大人に任せておくべきか・・・。



「それと嬢ちゃん・・・自分の名前言えるか?」



 第一人称を変えたことで、記憶に障害が出たとでも思ったのか、クマさんから記憶の確認をされる。



「リンネです。私はリンネに間違いありません。ただ少し変わったのは・・・」



 私は前世の記憶のことを、正直にクマさんに話すことにした。

 そして記憶がなかった状態から、今、少女の記憶が戻ったことも・・・。


 クマさんとはこれから長い付き合いになるような気がするし、クマさんは信用するに値する存在だと思ったからだ。


 するとクマさんから、意外な言葉が返ってきた。



「やっぱり転生者だったか・・・」


「!」



 クマさんはどうやら、私が転生者であることは、予測していたようだ。

 でも何でクマさんが転生者を、知っているのかな?



「嬢ちゃんと喋っていると、何故だか丁寧な情操教育を受けた、成人男性と話しているような、不思議な気分になっていたからな。それでそうじゃないかと思っていたのだがな」


「転生者を知っているってことは、クマさんももしかして?」



 異世界もののラノベによくあるのが、同じ転生者との遭遇。そう、テンプレだ。

 転生者を知るクマさんは、もしかしたら私と同じ、転生者かもしれないと思ったのだ。



「オイラは転生者じゃねぇ。でも転生者に会ったことはある」



 私と同じ転生者か・・・いつか私も遇うことがあるのだろうか?



「そんなことより先に、嬢ちゃんには言わにゃならんことがある。」



 身体強化を強めにかけたことか・・・確かに私の魔力で普通に使っても、反動が過度なほどの身体強化を強めに使えば、幼い体にどれだけの負担がかかったかわからない。


 クマさんに心配をかけてしまったな・・・。



「身体強化は、3分の1の力でと言っておいたはずだ。あんな使い方をしていたらいつか死ぬぞ。

 そのためにも、身体強化に頼らない戦い方をもっと模索しろ。あとあの『咆哮』は・・・使うな・・・」



 あの咆哮? 私がゴブリンジェネラルを倒した後に、感極まって叫んだあの時か?


 

「英雄の咆哮・・・それがあのスキルの名前だ」



 英雄の咆哮。何かかっこ良い名前のスキルだな。私の厨二心を激しく揺さぶる名前だ。

 でもあれは声に魔力を乗せただけの、身体強化だと思っていたのだがな。



「人は本能的に、魔力の強い者を、畏怖し崇める傾向にある。

 英雄の咆哮は、強力な魔力が心に衝撃を与え、強い魔力が人々を引き付ける。敵であれば恐怖し、味方であれば奮い立つ。つまり簡単に言うと、魅了効果のある咆哮なんだ」



 魅了効果のある咆哮だと? すでに多くの村人に、クマさんにも英雄の咆哮が聞こえてしまっているはずだ。


 ならばクマさんも・・・それを聞いた村の人たちも・・・。



「聖獣であるオイラに、英雄の咆哮は効かねえ。だが村人は違う。すでに嬢ちゃんを、神のごとく崇める者まで出てきている」



 何だそれ!? ちょっと怖いな。後、聖獣設定まだ生きていたのか!?

 クマさんが聖獣というのは今だに信じられない。



「いい機会だから、実際に英雄の咆哮を使っていた者の話をしようか・・・」



 真剣な話なのか、クマさんの言葉が暗く沈んだ声になった。



「彼は、人々を勇気づけ、励ますために英雄の咆哮を多用していたんだ。そう、彼はまさに英雄と呼ぶに相応しい存在だったのさ。

 だがある時彼の狂信者が、彼を国の王にしようと反乱を起こした。多くの民がそれに影響を受け、反旗を翻した。

 それは国が貧しいせいもあったのだが、彼が王になろうと、それが覆ることはなかっただろう。

 だが国を二つに割る戦争は起ころうとしていた。

 そしてその結末が・・・英雄の死・・・。彼はその戦争を止めるために、自ら命を絶ったのだ・・・」



 何だそれ、呪われたスキルに、等しい存在じゃないか・・・。

 英雄の咆哮・・・凡人の私には、荷が重すぎるスキルだな。



「そしてこの国の王族や貴族はそれ以降、英雄の咆哮の存在を恐れている。嬢ちゃんが英雄の咆哮が使えることが奴らに知られたら・・・賢い嬢ちゃんなら、わかるだろ?」



 暗殺されるだろうな・・・国を敵に回すなんて、御免こうむりたいな。

 英雄の咆哮・・・封印決定!



「お気が付かれましたか、リンネさま」



 リンネさまだと!? 村長~~~! 魅了されてますがな・・・。



「そういうのはよせって言ったろ。村長?

 それに嬢ちゃんは布団より、(わら)の方が落ち着くんじゃないのか?」



 (わら)はやめたげて。



「そうは参りません。村を救っていただいた英雄さまです。

 本来は来客された貴族さま専用の布団ですが、リンネさまにはその布団ですら恐れ多いですぢゃ」



 なんだか村長が、怖い人になっています・・・。

 英雄の咆哮・・・知らなかったとはいえ、影響は計り知れないな・・・。

 この調子じゃ他の村人も、同じような感じなのかな?


 その後俺は麦粥をいただいて、再び眠りについた。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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[良い点] あのヒャッハー具合が成人男性に見えるだと?! この世界は終わったね [一言] 呪いというより、ただ心の弱い人。そのまま続く未来を信じない。
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