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27 アイテム交換所

 

「むぅ」

「さっきからスクロールを見てどうしたのよ?睨んだら内容が変わったりするの?」

「いや、そういうわけじゃない。今抱えているスクロールをどうしたものかって悩んでいるんだ」


 古代の武具から抜き取った物を含めて、使っていないスキルスクロールがいくつかある。


「フレイムカノンに、シャドウエッジ、散歩、万歩計、快眠、槌の匠、あとは最後に出た腹時計、それと沼竜から出たスクロールが五本。ウォーターボールが三本、バブルヒールが一本、サンドボールが一本」


 クレルモン伯爵のところで手に入れたスクロールが一本。

 這竜と戦ってエスメラルダ嬢が譲ってくれたスクロールが一本。

 古代の武具から出てきたスクロールが五本に沼竜からのドロップ品が五本の合計十二本。


 中々の数が揃っているが、どれも俺たちが使うスクロールでもないし、売るには少々量が多すぎて出所を疑われかねない。


 なので、ずっと箪笥の肥やしになっていたが、これだけ溜まったのならあれができる。


「よし、時間もあるし出かけるか」

「出かけるってどこに?」

「市場の近く」

「あ、買い物行くなら僕も行く!!」

「夕食の買い出しもできますので私も一緒に行ってよろしいでしょうか?」

「皆が行くなら、私も行こうかしら」


 買い物に行くとはいっていないが、どっちにしろ市場でとあるものを買うので他の買い物をするのも問題ない。


 いそいそと出かける準備をする女性陣にならって、俺もせっかくだし貰ったマジックバッグにスクロールを詰め込む。


 置いていくのは槌の匠だけ。

 他は全部持っていく。


 それくらいしか、することがないから最初に出かける準備ができるのも俺だ。


「お待たせしました」

「いや、待ってないよ」


 最初に籠を持ったイングリットが来て。


「おまたせ!」


 日よけの麦わら帽子をかぶったアミナが来て。


「待たせたかしら?」


 肩ひもでつるすタイプの鞄を担いだネルが最後だ。


「いや、そこまで待ってないよ。それじゃ行こうか」


 家の鍵を閉めて、四人で出かける。

 と言っても、市場に行くだけだから特に珍しいものがあるわけでもない。


「こちらと、こちらを頂けますか」

「あいよ!」


 イングリットはさっそく夕食の買い出し。


「へー、これ楽器なんだ」

「おう!北の大陸で使う楽器でな。こうやってやると」

「面白い音がするね!」


 アミナは露店で売っている楽器に興味がありつつ、買う気はないみたいで見て楽しんでいる。


「こっちはこれくらいで、これはあっちの方が安かったわね」


 そしてネルは市場調査をしている。

 同じ物を品質と数を見比べて、値段を把握しようとしているのは商人として正しいのだろうけど、もう少し子供らしくしても良い気がする。


「はい、飴五つね」


 かく言う俺は、子供の姿に似つかわしい飴を買うために屋台の前にいる。


 前世で見るような綺麗に加工された飴じゃないが、べっこう飴に近く、串の先にこげ茶色の塊がついている。


 この世界で砂糖自体はそこまで貴重な物じゃないが、白砂糖なんて綺麗な物がないからこういう色合いになるのは仕方ない。


「とりあえずは、これでよし」


 本当は一個でいいけど、一緒に来て皆の分を買わないのは何か違うと思って思わず買ってしまった。


「思えば、これゲームの時もよく買ってたけど食べたことはないよな」


 用途は決まっているけど、食べたことがないことに気づき、そっと一個口の中に入れてみた。


「んー。甘い」


 砂糖特有の甘さが口に広がるが、それだけだ。


「あ、リベルタ君が飴食べてる」

「食べる?」

「食べるー!!」

「ネルー、頭使ったでしょ。甘い物いる?」

「食べるわ」

「イングリットもどうぞ」

「ありがとうございます」


 けれど、女性陣にとっては貴重な甘味ということで、ただの飴でも喜んで食べてくれる。

 アミナはにっこりと満面の笑み。

 ネルは少しだけ口元緩めて笑っているけど、尻尾は正直なようでゆっくりと左右に振れている。

 イングリットは一見無表情だけど、なんだか雰囲気が柔らかくなっている。


「……お菓子とか作ってみるか」

「「「!?」」」


 その喜ぶ姿を見て、ついそんなことを口にしてしまった。


「り、リベルタ君。お菓子作れるの?」

「え?まぁ、作れるが」

「本当に?」

「そんなに意外?これでも一応料理とかできるんだぞ」


 いつも色々と付き合ってくれているし、お礼で作ろうかなとの思い付きで口にしてしまったのだが、なぜか二人の反応が異常だ。

 あれ?もしかして料理下手だと思われている?


「ちなみに、リクエストは受け付けておりますか?」

「?まぁ、それなりの物は作れると思うぞ。うちの家、キッチンの設備がかなり整ってるからな」


 これでもゲームに資金を投入するために節約料理をしてきたからな。

 課金とかして金に余裕がない当時の俺からしたら早い安い美味いのコスパ重視の手料理は必須技能だった。


 コンビニ飯は楽だけど、飽きるんだよね。

 あとコスパが悪い。


 一人暮らしを始めたころはコンビニ飯ばかり食べてて、底上げ弁当のせいで物足りなくてついつい追加で買ってしまってえらい食費を叩きだしてしまって、その月は課金ができなくてショックを受けた。


 それを機に時短で、コスパがよくて、腹もちのいい料理を覚えて作るようになったんだ。

 もやしと豆腐、そして納豆にはよくお世話になりました。


 お菓子作りもなんとなく動画で流れてきた簡単なのを作ってみたら、意外とこっちの方が美味しくてコスパがよくてそれから作るようになったんだよな。


「あ、調理術を持ってるイングリットが作った方が美味しいか」

「いえ、私もまだまだ学ぶ身でございます。ぜひともリベルタ様にご教授を願いたく」

「え、そこまで凝った物は作れないけど、それでいい?」

「構いません」

「じゃぁ、うん、材料を買って帰ろうか」


 そしてまさか料理の腕が俺よりも上だと思われるイングリットにまで期待されるとは。

 大丈夫か俺?


 俺が作れる物なんて、男が趣味で作るような簡単な菓子だぞ?


 でも。


「お菓子だって、楽しみ!」

「そうね」

「はい、私もあまりお菓子を頂く機会はありませんので」


 ここでやっぱりやめる!!なんて言えないよね。


 なんか楽しみだと話が盛り上がっている。

 ハードルを上げすぎてがっかりされるのだけは回避せねば。


 この世界にもお菓子はいろいろあると思う。

 何を作ればいい?


 クッキー?は定番すぎるか。

 異世界小説定番のプリンやアイスか?


 いや、ゲームでも普通にアイテムで存在してたな。


 うーん、あ。


「ロールケーキにするか」


 スポンジ生地を作るのが大変だけど、生クリームとかなら作れるし、果物も色々と売ってる。

 たまに食べたくなって作ってたから、作り方も覚えているからいけるな。


「となると材料はって!?」


 そこまで来て俺が本来やる予定だったことを忘れているのに気付いた。


「……とりあえず、買い物だけ済ませるか」


 この流れではこのまま料理パートになりそうな雰囲気だった。

 危ない危ないと内心で思いつつ、俺も少しお菓子を食べたい気分になってきたのでロールケーキの材料だけは用意しよう。


 泡だて器とか、ボウルとかも買わないと。


「いやぁ、マジックバッグ様様だ。あれだけ買い物してもこれ一個で運べるって便利」

「たぶんだけど、使い方間違っていると思うわよ」

「容量が小さくとも、持ち運ぶという点では便利ですのでお気持ちはわかります」

「僕も欲しい」


 そんな買い物をしていたら、結構な時間を使ってしまった。

 調理器具に調味料、さらに食材と市場をあっちこっちと移動していたら時間を食ってしまったのだ。


「そのうち全員分を用意するから待っててな」

「それは嬉しいけど、どこに向かってるの?市場から逸れちゃったけど」

「たぶん、もうそろそろってあったあった」

「あれって、井戸だよね?こんなところになんであるんだろ」

「古びていますし、枯れ井戸でしょうか」


 目的地に着くころには、昼時を過ぎてもう少したてば夕方に差し掛かる時間になってしまった。そして目的地の古井戸を見つけた。


「ここに何の用なの?」

「んー、ここに住んでる存在に用があるんだよ」

「住んでる?井戸に?」

「そう、住んでる」


 一見すればイングリットの言う通り枯れ井戸だ。

 手入れはされていないし、屋根はボロボロ、滑車は取り外されていて、井戸には蓋がされている。


 その井戸は路地に隠れるように置かれていて、人通りもない。


 ここだけ孤立しているような空間にひっそりと置かれている。


 まるで何かイベントが起きますよと言わんばかりの配置だ。


 実際、ここでイベントを起こすことができるんだけどな。


 俺はこれでもFBO最古参プレイヤーの一人。ゲーム発売当初からやり始めて最前線に必死に追いつこうと努力し、運営のサービス終了までやり込んできた。その中でいくつか自慢できることがあるとすれば、一つはこの井戸のイベントを発見したことだろうか。


 俺の不可思議な行動にはもはや慣れてしまった三人は、ここに何かがいるという認識になった。


 ひとまずは俺が前に出て、井戸に近づく。


 そして。


 コンコンコンコンと四回ノックし。


「このお菓子どうしようか?」

『なら某がもらい受ける!!』


 合言葉を言うと、突然井戸のふたが開き、中から煙が飛び出てくる。


 その煙は、人の形をとり、そして。


『甘いものはどこだぁ!!!』


 頬がふっくらとして、アラビアンナイトの魔神風の少年が姿を現した。


 どうやってこのキャラを見つけられたかといえば、ちょうどゲームのハロウィンイベントを終えた直後、あまったお菓子アイテムをどうするかとここで悩んでいるときに偶然コンコンコンと井戸のふたを叩きながらそう呟いてしまった。


 そして今と同じように、彼が現れたのだ。


「ここにありますよ」

『それをくれるのか?』

「ええ、どうぞ」

『感謝するぞ人間!!』


 こいつの名前は井戸の精霊、ドンタ。

 無類の甘いもの好きという、こんな見た目でも人型を取れる水の上位精霊の一体だ。


 ついたあだ名はアイテム交換精霊タイプ水。


 出現条件は甘いお菓子を持っているという状態で、井戸の蓋を四回ノックしてお菓子の処分方法を悩む台詞を言うと出現するという特殊な存在だ。


『んー!!甘いものはやはり美味であるな!!三十年ぶりの甘味だ!!』


 ただの飴だというのにこの喜びよう。

 本当に甘味に飢えているようだ。


 精霊は本来であれば、精霊術を持っている人間の前にしか現れない。

 意思疎通ができないというのが主な理由だが、上位精霊となると人間の言語を理解している個体もいる。


 その例外的な存在がこのドンタというわけだ。


『はぁ、楽しめたぞ』


 飴を舐め終えた彼の顔は至福の一言に尽きる。


『うむ、それではまた捧げに来るのだぞ!!』


 そしてすぐに帰ろうとする。


「対価を頂ければ、リクエスト受け付けますよ?」


 こちとら未発見クエストの攻略のためにさんざん検証を重ねてきたんだ。


 その去る背中を引き留める方法を知っている。


『なんだと?』

「冷たいお菓子に、卵を使ったお菓子、サクッとした食感のお菓子もありますね。あ、蜂蜜を使ったお菓子なんていうものも」


 この精霊は甘いものに目がない。

 そして食べられるのならいくらでも食べてしまうのだ。


 だから単純に甘い菓子を捧げるだけではだめで、毅然と持ってくるための条件を付ければこういう反応を返してくる。


 そのまま相手の言葉を待っていると、無礼だ!!と怒って帰ってしまう。


 精霊術を持っているとある程度の会話ができるようになるけど、俺は持っていないので、怒られる前に畳みかけるように欲望を刺激する言葉を投げつける。


『ゴクリ』


 甘いものに対しての想像力が豊かで、きっと彼の中で色々と想像しているのだろう。

 つばを飲み込み、その口の中に残る甘味を思い返している。


「ほかにも」

『まだあるのか!?』

「ありますよー」


 そこを刺激し続ければ、帰るという意志と、怒るという意識を封じることができる。


『な、なにが目的だ。言っておくが、某は人間が扱うような金は持っておらぬし扱う気はないぞ!!』


 欲望に負けたドンタがこのセリフを出したらこっちの勝ちだ。


「それじゃぁ、これらと同じような物があったら、それと交換してください」

『なぬ、それでいいのか?それで甘い菓子を持ってきてくれるのか?』

「はい、次回もまた別のお菓子を持ってきますよ」


 このドンタはおとぎ話の泉の精霊のような効果を持った精霊だ。

 おとぎ話では泉に鉄の斧を落とした主人公が、正直に落としたものを言えば、その正直さに感銘を受けた泉の精霊が金の斧と銀の斧を授けてくれるという話の流れになる。


 鉄の斧が金や銀の斧になるのはすごいことだ。

 それと同じではないが、似たような効果で、ドンタにスキルスクロールを預けると、別のスクロールにしてくれるのだ。


 そして、一気に複数のスクロールを渡すと受け取った時のセリフが少し変わる。

 渡すのはマジックバッグの中に入れていたスクロール全部だ。


『うむ、この力なら、少し待つがよいぞ!!』


 聞き覚えのあるこのセリフ、そして受け取ったドンタはそのまま井戸の中に戻っていく。


 はてさてこれでいいはずなんだが。


楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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運営は終了してるのか。
廃人って怖いなー
廃プレイヤーって怖い( ´∀`)w
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