19 余所者
疲れ気味の顔はそういうことだったのか。
デントさんもアレスという男と出会い、そして仕事を邪魔されたと言った。
「本当に頼むぜリベルタ。あいつらはこっちの常識ってものが全くと言っていいほどないんだ。守るだの、助けるだの綺麗ごとばかり言ってればそれで話が済むと思ってやがる。正義感で腹は膨れないってのによ」
相当苛立っているようで、貧乏ゆすりまでし始める。
デントさんの様子から、相当ストレスが溜まっているのがわかった。
「それだけ問題を起こしているなら、ギルドの方から何か警告とか入らないんですか?」
「入らないわけがないだろ、相手はA級だが俺たちの仕事場を荒らしまわっているからギルドマスターが直々に警告を飛ばす予定だった。だが、横槍が入ってなぁなぁで終わっちまった」
「横槍?」
「さっき言ってたお偉い方だよ。今回あいつらを呼び寄せたのはまだ攻略できていない、あのスタンピードの発生原因のデュラハンのダンジョンを攻略させるためだってな。機嫌を損ねて帰られたら困るだろ、だとよ。俺たちがダンジョンを攻略できていないことを良いことに好き勝手言いやがって」
わざわざ別の大陸からA級冒険者を呼び寄せたという理由。
ダンジョン攻略のためだったのか。
「でも、騎士団と冒険者が頑張って攻略してるんだよね?なんでわざわざ別の大陸の冒険者なんか呼んできたの?そんなに攻略が大変なの?」
「まさか、騎士団と冒険者ギルドが協力して順調に攻略しているって聞いてるぜ。ギルドマスターが俺たちに嘘を言うわけないからそれは間違いない」
「だったらなんで?」
しかし、アミナの言う通り変な話だ。
デントさんの言う通りなら別の大陸から人を呼び寄せる必要なんてないはず。
「お偉い方の利権争いだよ。西の方と大変仲良しなお偉いさまは、この大陸のS級冒険者の肩書をそいつに献上して西のお偉い方と仲良くしたいんだよ。今は王族からS級冒険者が出ているからいいけど、城蛇の公爵様の息がかかった冒険者がトップになるとか寒気がするぜ」
わざわざ火種を撒いてまでそんなことをする理由を、本当に嫌そうにデントさんは語ってくれた。
「でも、別の大陸の冒険者なのよね?この大陸の冒険者じゃダメなのかしら?」
「それだと西のお偉いさんが納得しないんだよ。お偉いさん同士でお手々繋いで仲良くS級取りましょうって話だ。相当臭い話が俺たちにまで流れてるってことは、リベルタもとんだやつに噛みついちまったな」
「でも、そんな後ろ盾があるならなんで俺の時は引いたんですか?」
権力争いとか、勘弁してほしい。
しかし、あの男はそんなに厄介な奴だったのか。
これは少しまずいことになったかも。
恨みを買っていたら、その後ろ盾にも嫌な覚え方をされたということ。
しかし、不思議なのは色々と最後まで口うるさかったが、あの場で相手が引いたことだ。
「そこのメイドの嬢ちゃんがいたからだろ。あいつらは俺たちみたいな平民出の冒険者にはでかい面してたが、この大陸の貴族相手にさすがに大事にはできないだろうさ。貴族経由で色々とクレームを入れたらこの国の王様の耳にも入る。そうなれば、公爵家とはいえ庇うのに苦労する。面倒事は起こすなって釘でも刺されてたんだろ」
「そういうことでしたか」
「そこのメイドの嬢ちゃんには感謝しておくんだな。平民の俺たちが噛みつけば、命なんてお貴族様の前じゃあってないようなものだ。さっきも説教したが、下手な立ち回りをすればお前だけじゃねぇ、ネルの嬢ちゃんやアミナの嬢ちゃんも危険にさらす。パーティーを預かる身ならもっとそこら辺に気を使え」
「気をつけます」
「そうしろそうしろ、俺の貴重な資金源が変ないちゃもんで消し飛ばされたらたまったものじゃないからな」
「最後にそれがなかったら、もう少し尊敬できたんだけど」
「いいかネル嬢ちゃん、そういうのは心に思っても口にはするなよ?大人でもグサッて心に刺さるからな」
イングリットを仲間に入れていた恩恵がここまで来るとは思わなかった。
デントさんの最後の締まらない言葉に、場が緩み笑いが起こる。
それを狙ってやっている節があって、さすがはベテランの冒険者というのがわかった。
俺に足りないのはこういう気遣いということか。
「それじゃ、聞くことは聞いたし今日はとりあえず帰るわ。早速試して生活費を稼がないといけないしな」
「はい、ありがとうございました」
「礼はもらったから気にすんな。お互い変なのに絡まれた仲だ。こっちでもあいつらの情報が入ったら伝えにくるわ」
それを教えてくれたデントさんにお礼というわけじゃないが、ギルドで受注できる依頼の中で塩漬け状態の余っているクエストについて攻略のコツを教えた。
それを聞いて満足気にデントさんは宿に戻っていった。
本当にデントさんと話せたのは大きい、今後の課題として俺に足りない部分が見えたのはプラス要素だ。
「保護者かぁ、オークションにも必要かね?」
目下、一番の問題は俺たちが子供であるということ。
それで明日に控えるオークションでも同じようなことが起きるのではという不安が出てくる。
ゲーム時代でのオークションは、会場に出品物が展示され何が販売されるかがわかるようになっている。
この世界には紙はあるが、印刷技術が発展していないからパンフレットもない。
「オークションは秘匿性を確保するために各々に個室が与えられます。今日のように絡まれる心配はないかと」
「そうか、それなら品物を見ているときだけ気をつければ問題ないか」
「はい、それに会場には大勢の貴族もいます。問題を起こせば衛兵も来ますので問題は起きにくいかと」
出品物が見れるようになるのは、明日の朝から。オークションは昼頃から始まる。
何が出るかは当日のお楽しみというわけだが、中には自分はこういうものを出品すると噂で流し注目を集めているところもある。
実際、ゲーム時代でもオークションはあったし、プレイヤーの出品ではSNSに何をいつのオークションで出品するという報告が散見された。
このオークションは国営だ。
ゆえに一定の信頼はおける。
場合によっては割高で購入する羽目になるかもしれないが、今は金よりも物を欲する。
「今日は早めに寝て、明日に備えよう!」
「一番眠れるか心配なのはリベルタじゃない?」
「リベルタ様、寝る前に蜂蜜を入れたホットミルクはいかがでしょうか?体が温まり良く眠れると聞きます」
「え?蜂蜜入り!?僕も欲しい!」
「私も欲しいわ」
「でしたら、寝る前に皆で飲みましょうか」
「わーい!!」
トラブルはあったが、反省点が見つかったおかげで早めに前向きになることができた。
「ステータスだけ振っておけよ。次に戦う時かなり戦いやすくなるから」
「リベルタ君、お願い!!」
「比率計算面倒だからって俺ばっかりに頼るな。教えるから、覚えような」
「はーい」
なんだかんだ途中まではレベリングもうまくいっていた。
『リベルタ クラス2/レベル92
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 92
EXBP 184
スキル4/スキルスロット6
槍豪術 クラス10/レベル100
マジックエッジ クラス10/レベル100
鎌術 クラス10/レベル100
隠形術 クラス6/レベル77 』
その結果がこれだ。
クラス1とは比べ物にならないほどのBP獲得率。
総獲得数は、EXBP合わせ276BP
俺の比率は体力3魔力に2という割合で振っている。
最終的にクラス2で体力240魔力160になれば問題ない。
端数込みで、振り分けてやれば。
『リベルタ クラス2/レベル92
基礎ステータス
体力226 魔力150
BP 0
EXBP 0
スキル4/スキルスロット6
槍豪術 クラス10/レベル100
マジックエッジ クラス10/レベル100
鎌術 クラス10/レベル100
隠形術 クラス6/レベル77 』
こんな感じになる。
うん、少なくともこれでオークに負ける可能性はほぼなくなった。
何なら正面から乱戦になっても問題ない。
「えーと、体力2で魔力が3だから?いち、にい、さん?」
隣で指折りで数えているアミナを見守りつつ、ネルはあっさりと振りわけ終わってソファーでのんびりとしている。
イングリットも同じで、夕食の支度のために台所に向かった。
「ねぇ、リベルタ。これなんだけど」
「ああ、噂で流れてきた出品情報か」
後は夕食を摂り、お湯で体を拭けば寝るだけだ。
それまでの空き時間に、ネルが一枚の紙を俺に渡してきた。
手に取ってみれば、俺たちがオークションに参加すると決めてからネルが集めてくれた噂で出てくると予想される出品リストだ。
「うん、私で調べられるだけ調べたけど」
「あまりいい物がなかったか?」
「ええ、ほとんどが絵画とかの美術品、モンスターの素材もあるけど少ないわ。後は武器がいくつか。スクロールは一本だけね」
商人というのは噂に敏感だ。
特に商人の奥方となれば、女性特有のネットワークでいろいろなところから情報を引っ張ってくる。
場合によっては貴族の情報も引っ張ってくるのだから恐れ入る。
情報源はテレサさんかな。
あとで菓子折り持って、お礼に行かねば。
「んー、これ以外に掘り出し物だがあればいいんだけど、やっぱり本命はS級パーティーが持ち帰った物かな」
「でも買えないんでしょ?」
「いや、チャンスはあるはず」
結局は中身を見てみないと何とも言えない。
しかし、期待は薄い。
「だけど、朝見に行っていい物がなかったら午後のオークションには参加しないで残りのレベリングしようか。沼竜も倒しておきたいし」
「そうしましょう。正直、体から力が漲ってきて試したくて仕方ないの」
「たぶん、今なら沼竜討伐も短縮できるだろうな」
商品のラインナップを見ても、そこまで珍しい物があるわけではない。
期待すべきは、噂に乗らないような出品と目玉商品と噂される一品。
「ねえ、助けて」
オークションのことでネルと話に花を咲かせていると、隣で半泣きになってわからないとアミナが嘆く。
「はいよ、とりあえず、どこまでわかった?」
「わからないところがわからないよぉ」
「あー、こりゃ最初から説明した方が良いか」
「そうね、いい?アミナこの計算はね」
歌は上手いが、計算は苦手なアミナ。
今度黒板でも買って、それで勉強会でも開くか。
この世界に教科書はないし、ノートなんて物もない。
いや、作ればあるんだろうけどそのために素材を集めて作る人がいないのだ。
「終わったぁ!!!これでいい?」
「ああ、問題ないぞ」
アミナ クラス2/レベル92
基礎ステータス
体力150 魔力226
BP 0
EXBP 0
スキル5/スキルスロット6
杖豪術 クラス10/レベル100
錬金術 クラス6/レベル22
歌唱術 クラス10/レベル100
喝采の歌 クラス10/レベル100
追い風の歌 クラス10/レベル100 』
教えたらきちんと自分で答えを出すこともできるから地頭は良いと思うんだけどな。
苦手意識が完全に邪魔しているような気がする。
「ふー、頭を使ったら疲れちゃったよ。体も動かしたし今日はいっぱいご飯食べるぞ!!」
「いつもたくさん食べているような気がするが」
「うん!だって家に帰ってもお兄ちゃんたちがいっぱい食べて僕の量が少ないんだもん!!僕は体が小さいから少な目で良いって、僕だって大きくなりたいからいっぱい食べないといけないのに」
そんな一仕事終えたアミナは、ソファーから立ち上がって、駆け足で台所に向かう。
「イングリットさんお手伝いするよ!」
『でしたら、食器の用意をお願いします』
その後ろ姿を見て。
「あれはつまみ食いにいったな」
「ええ、イングリットさんも味見と言ってアミナに食べさせるんだから」
小腹を埋めるために台所にいったなと決めつける。
『おいしい!!』
『ありがとうございます。では、こちらの盛り付けをお願いします』
『はーい!』
そして予想は外れることなく、しっかりとその予想を裏付ける声が響き俺とネルは笑うのであった。
「そう言えばリベルタはオークションに出品しなくていいの?沼竜の素材を出せばかなり儲けられるわよ?」
「まだまだ俺たちが使う分が足りないしな。それにオークションに出して有名になったら面倒事もセットでやってくる未来しか見えない」
ひとしきり笑った後に、オークションに出品しないかと聞かれてそれはしないとすぐに首を横に振った。
今の俺たちの事情を考えると、間違いなく金を持っている子供というのは治安的に狙われる存在だ。
今日レベリングしたからと言って、最強になったわけではない。
もっと力を手に入れて安全を確保したら堂々と金策をできるようにしたい。
「それもそうね。もし、子供じゃなかったら今日みたいに絡まれることもなかったかしら」
「かもな。身長もう少し伸びないかね」
「私も早く大人になりたいわ」
全ては成長途上。
それが俺たちにとって目下一番の枷なのかもしれない。
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