18 説教
感想欄の鋭い指摘にドキリとしてしまいました。
ご指摘やご感想非常に励みになります。
「ああもう!!なんなのよあいつら!!」
結局あの後どうなったかと言えば、アレスという男が色々と言い訳してその場では何も話が進展するということはなかった。
「最後まで謝らなかったし、私たちが危険なことをするのが悪いみたいに言ってたし!!普通に戦えてたって信じなかったし!!」
おまけに、レベリングを中途半端な形で中断させられたのでネルもご立腹。
「まぁ、傍から見ればそういう見方もできる戦い方ではあったがな」
あの後の結末はお互いに水掛け論になり、これ以上言い合いになれば武力行使になりそうな雰囲気が漂い始めたことで向こう側の冷静さを保っていた一人の男がアレスを止めたことにより流れが変わった。
「なによ、リベルタは私たちが悪かったって言うの?」
「んーそういう見方もあるっていうだけだ。あいつにも言ったが冒険者は全てが自己責任。他人に迷惑をかけていたならともかく自分への危険を他人に勝手に助けられて感謝しろと言われると納得できない部分は俺にもある」
一時の沈黙。
その隙に俺があの男に向けて言った言葉が決定打になった。
冒険者は危険を伴う仕事だというのは周知の事実。
子供だから女だから、そんなのは一切関係ない。
助けを求めずに自己判断で行ったことに伴う責任は俺たちが背負うべきものだ。
そこは絶対に変わらないルールだ。
「だから、言いたいことは言ったし、最後は向こうもしぶしぶだが引いただろ?」
「全く反省している様子はなかったけどね」
「冒険者ってもっと荒っぽい人たちばかりだと思ってたけど、ああいうお節介な人もいるんだね」
「ああいう方々は、勇者志望者と世間では言われるようです」
話し合いという名の、言葉の殴り合いの結末はドロー、相手は謝罪せず勘違いさせたのが悪いと言い残してその場から去っていった。
俺たちもそれ以上レベリングを続ける気も起きず、ましてやまた絡まれることを考えるとドロップ品だけ回収してその場を離れてさっさと転移のペンデュラムで撤退してきた。
スッキリするはずの戦闘で、モヤモヤを抱えて帰ってきてしまったことに納得ができないのは俺も同じ気持ちだ。
「勇者志望者?なにそれ?」
「え、リベルタ君知らないの?ほら、男の子特有の病気みたいな」
「たまに女性でもいらっしゃいますが」
「あー、そういうのね」
結果的にオークションのことを考えずに済んでいるからいいのかと無理やり納得させようとしているが、オークションのモヤモヤと戦闘の不完全燃焼具合が重なって余計にイライラしそうな感じだ。
おまけに、ああやって善意の押し売りで人の話を聞かない輩の正体をイングリットが教えてくれた。
勇者志望者ならぬ、中二病患者というわけか。
まぁ、この世界なら中二病の妄想が現実になるし、力を順調につけれれば自分が特別だと思い込むこともあると言えばあるか。
「ダッセも同じこと言ってたし、間違いないよ」
「あーあいつも言ってたわね。俺は英雄になる男だって」
「貴族の男性にも同じようなことを言っている人がおりました。お父様は思春期特有の一過性のやつだから気にするなと言っておりました。ただ、期間には個人差があるようで」
「あいつは長い部類で拗らせていたわけか」
「はい、そのようです。幸い、他のパーティーの方々は常識的でありましたが」
その結果善意の押し売りという迷惑な存在になってしまえばさもありなん。
「あいつって、どこかの貴族だったりする?なんかパーティーの面々も扱いに困っているみたいな感じだったけど」
そんなアレス一行で印象に残っていたのはパーティーメンバーの距離感、いや、この場合は温度感と言えばいいだろうか。
「いえ、私の記憶にはありません」
「そうか、ネルとアミナは知ってるか?商家の息子だったり、王都出身だったり」
「知らない、あんな失礼な奴。商人の家だったらもっと礼儀を学んでるわ」
「僕も知らない」
何と言えばいいだろうか、最初は仲良くやっていたがいきなり一人だけ意識高い系になって扱いに困っているといった雰囲気をあのパーティーから感じ取った。
そこまで気にすることではないかと言えばそれまでだが、どうも嫌な予感がする。
「まぁ、今後会わないことを祈っておくしかないか」
「そうね。今日は長めにお祈りしておくわ」
「クレームについてはいかがいたしましょう?私の家を経由して匿名で入れることも可能ですが」
「んー、こんなことで貴族の家に借りを作るのはちょっともったいないな」
「ですが、ああいう輩は何もお咎めがないと調子に乗りますが」
「んー、それもそうか」
関わり合いを持つことは極力避けたいが、飛び火の可能性を考えるとここで何もしないというのも悪手だというのがわかる。
ケチって後で面倒を起こすより、面倒をさきに潰すと考えて行動した方が良いか。
「沼竜から出たスクロールが余ってたよね?」
「はい、まさか」
「うん、水球のスクロール一本手土産で渡せば問題ないかな?」
「むしろ過分な支払いかと思います」
「いいよ、イングリットの親ならそれに味を占めて同じような要求をしてくるようなことはないと思うし、過剰の分は手間賃とでも思ってくれれば」
「かしこまりました。父の伝手を使い冒険者ギルドにクレームを入れるように頼みます」
「頼んだよ」
後顧の憂いを断つということで、余っていたスクロールを一本放出。
折りを見て公爵家に売りつけようとしていた一本だけど、こういう時のために金になりやすい物体はいくつか保管している。
これが効いてくれれば、解決したと考えてもいいのだが。
けど、ここまでネルたちと話していて、振り返ると自分に悪い部分はなかったかと考えざるを得ない部分もある。
「うーん」
アレスの言い方は高圧的で、男と女に対しての態度があからさまに違ったが、話だけをまとめるとまともなことを言っていたのは事実だ。
言っては何だが俺はこの世界との常識がずれている部分がある。
度々指摘され、その都度対応はしているが完全に適応しているわけではない。
ゲームでの基本が、この世界の常識ということは百パーセントではありえないと断言できるが、似通っている部分はあると思っている。
今回の言い争いもそうだ。
子供だけでオークと戦っているのは傍から見れば、異常に映る。
だから助けたという言葉は倫理的に見れば正しく思う。
しかし、冒険者として見ればどうだろう。
ここら辺は、俺の知識はゲーム基準、ネルとアミナ、イングリットは又聞きの知識になる。
こういう時にそういう情報を持っている人がいれば。
「リベルタ様、お客様です」
「客?」
「はい、デントと名乗っている男性ですが」
「すぐに通して!!」
いたよ。
現役の冒険者で、なおかつ冒険者の常識を知っている人!!
イングリットに頼んでリビングまで通してもらって、部屋に入ってきたのは最近会っていなかったが懐かしさも感じる少し気疲れしたような顔のデントさんだった。
「よう、リベルタ。しばらく見ないうちにメイド付きの一軒家の主になってるとか。独身宿屋暮らしの俺に対する皮肉か?いつの間に馬小屋から卒業したんだよ」
片手をあげてあいさつしてくる彼に向かって、俺は苦笑するしかない。
「ちょっと、活躍しちゃって」
「ちょっとってなんだよちょっとって、俺なんて苦労して商隊の護衛していたっていうのにそんなことできてないぞ」
ソファーを勧めてそしてイングリットにお茶の用意も頼む。
酒はないのかと視線で聞いてきたが、ここに飲む人がいるのかとあたりを見回すとため息を吐いてなるほどとうなずいてくれた。
「それで、どうしたんですか?」
「仕事だよ仕事。お前から教えてもらった儲けられそうな仕事が無くなってな。手ごろな奴がないか聞きに行ったら、ジンクはリベルタなら引っ越したとか言ってよ。ここを教えてもらったっていうわけだ。マジでどうやったんだ?」
「仕事を教えるのは良いんですけど、その代わり相談に乗ってほしいことが」
「なんだ?お前には世話になってるし、借金以外なら相談に乗るぞ」
そんな彼にここだけの話と前置きを置いて、今日あったことを話した。
冒険者としての流儀っていうのは、おそらく俺が知らない部分が多いはず。
「ひとまず、お前らだけでオークを狩りに行ったことに関してはツッコまないぞ。それで話を聞いた結論だが」
オークを狩りに行ったという部分はとりあえずスルーしてくれるようで、問題な部分、黄昏の剣のアレスとトラブルになったという部分に関して眉間に皺を寄せながらデントさんは全部聞き終えて、お茶を飲み干してから口を開いた。
「つけ込まれる理由を作ったお前が悪い」
「ちょっと!!」
「嬢ちゃんは黙ってな。今回は、パーティーリーダーのリベルタ。お前の不手際だ」
その顔は真剣に冒険者を経験して、その経験に基づいた冒険者の流儀を語る。
開口一番に、俺が悪いと断言したデントさんはその目で反論しようとしたネルを黙らせると、俺の方に向き直った。
「第一に、女子供だけのパーティーがオークの狩場にいること自体がおかしいんだよ。しかも冒険者ギルドに所属しているわけでもなく、近くに護衛がいるわけでもない。武器を持ってオークを蹴散らしていたとしても、傍から見たら襲われているようにしか見えないだろう。善人なら助けに入るっていうのも納得はできるし、危険な場所にいたお前らが悪いっていう結果になるぞ」
常識的に考えろと言い。
お前は子供なんだぞと、大人として教えてくれている。
「リベルタ、賢いお前ならそこら辺の常識をわきまえてないなんて言わせないぜ。知識があって、度胸もある、行動力もあるお前なら、どんな方法かは知らんがオークを安全に狩る方法を知っていても驚かねぇよ。だけどな、他人の目を気にしないなんて言うのはいただけねぇ。あそこはお前の土地じゃねぇぞ。狩る準備だけ済ませて、自分は大丈夫と自信をもって挑んだとしても他人がどう見るかなんてそいつにしかわからん。子供が危ないことをしていれば助けに入る。それが俺たち大人の常識ってもんだ。冒険者かなんて関係ない、大人か子供かその差でしかない」
そのまっすぐな言葉は俺の胸にスッと入ってきて、そんな当たり前なことを忘れていたと反省する気持ちが湧く。
自分の知識が上手くかみ合っていて、成功していてどこかで有頂天になっていたのだ。
沼竜を倒せた。
そこで少しタガが外れてしまったのか。
「私たちが悪いっていうの?」
「勘違いすんな。俺は別にリベルタがお前たちを連れてってオークを狩りに行ったことを悪いとなんて思ってねぇよ。冒険者なんて、結局は自己責任だ。若い阿呆が身の丈に合わないクエストに挑んで帰ってこねぇなんてことは日常だ。俺がリベルタが悪いと思っているのは立ち回りが下手だっていうことだよ」
俺が黙って聞き、そして後悔するような顔をしているからか、ネルも不安になりデントさんに聞く。
「勘違いさせないようにお前が立ち回れば今回みたいな事件は防げただろうさ。見張りを置くでもいい、俺を雇って引率役にするでもいい。お前が色々と秘密を抱え込んでいるのはわかってるがよ、それくらい面倒がらずやれって言ってるんだよ。だからお前の不手際だって言ってんだ。仕事中にトラブルを起こさない。冒険者の常識だ」
そうだ、デントさんの言葉は正しい。
俺はゲームの流儀に則ってオークに挑んだ。
それがそもそもの間違いだとは言わないが、この世界の流儀に合致しているとも言い難い。
この世界にはこの世界の常識があって、そして流儀がある。
「まぁ、お前が悪いと言えばそこら辺だろうな。手回しが下手糞だったそれだけだ。そもそもお前が絡まれた黄昏の剣は俺も気に入らねぇしな」
「……どういうことですか?」
説教は趣味じゃないと、頭を掻きながらさっきまでの真剣な表情を散らし面倒くさそうな顔でデントさんは語りだす。
「あいつらはこの大陸の冒険者じゃねぇんだよ。どこぞのお偉方が西から呼び寄せた冒険者だ。おかげで西からこっちに来る道中で色々と問題を起こしてるんだよ。横取りは当たり前にやる、狩場は占有する、おまけに頭がお花畑でよ。言い回しがクソと来た。横取りしたのは狩りをしていたパーティーが危険だと思ったからだとか、この狩場は危険だから安全を確保するために立ち入り禁止だとかよ」
「まるで経験してきたみたいな言い回しですね」
「全部経験してきたんだよクソが!!おまけになんだ!?罠を使うくらいに弱いならもっと安全な冒険をした方が身の丈に合っているだと!?ふざけんじゃねぇよ!!おかげでこっちに帰ってくるまでの稼ぎがパァ!明日の酒代にも困る始末だよ!!」
なんというか。
「良い仕事見繕いますね」
「ああそうしてくれよ!俺の宿代のためにな!!」
デントさんには反省をさせてくれたお礼も兼ねて、少し良いクエストを斡旋しようと思ったのであった。
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