10 サンドバック
総合評価66000pt突破!!
まことにありがとうございます!!
頭固定に尻尾固定。
さらに窒息のスリップダメージに、腹部にはネルたちの猛攻撃がある。
かといって、このままイージーゲームかと言えば沼竜戦はここからが本番と言える。
「おっと、危ない」
沼竜の攻撃パターンは水中と陸上で大きく変わる。
水中なら泳ぎながら水系の魔法を中心に使ってたまに水系のブレスを織り交ぜてくる。
遠距離戦を主体にして、後半プレイヤーが弱っているときにとどめで接近戦を挑んでくる感じだ。
では、陸上戦になるとどうなるか。
この場合は、噛みつきと尾による振り回しの接近戦が主体になる。
魔法攻撃はサブ的な使い方がメインになり、ブレス攻撃は水中と変わらないくらいの頻度。
なので、こうやって水の塊のような物が飛んできても何ら驚くことはない。
「這竜と違って、デバフ系がないのがやりやすい!」
沼竜が使う魔法は基本的には攻撃用だけ。
防御用でシールド魔法が水と土の属性でそれぞれあるけど、それ以外はもっぱら攻撃スキルだ。
水球を飛ばすウォーターボール。
土塊を飛ばすサンドボール。
「ブレス攻撃が使えないのが痛いだろうな!!」
それぞれの攻撃を躱して、踏み込んで沼竜の左目にマジックエッジを纏わせた鎌槍を突き立てる。
「一つ!」
『■■■■■■■!?』
クリティカルヒット。
その手ごたえと、沼竜のくぐもった雄たけび。
これで左目側の視界は塞いだ。
沼竜の範囲魔法は水中限定の技だ。
陸上で使える魔法は限られている。
ダンジョンの中に水場はあるけど、モンスターの入れない安全地帯。
頭をダンジョン内に取り込んでしまえば、沼竜のスキル発動可能範囲は視認できる範囲に収まり、割と近い湖に作用できるスキルを発動することができなくなる。
おまけに。
「動きづらいだろ?そういう風に固定しているからな」
釣り竿から伸びるワイヤーのおかげで顔を動かすこともままならない。
無理矢理俺の方を向いて、残った右目で見ようとする最中、針が食い込み喉に痛みが走り動きを鈍らせた沼竜の隙を突いて、ワイヤーの下を潜り抜け反対側に回り込む。
「二つ目!!」
そして、残った沼竜の右目が改めて俺を見つけたころには俺はすでに鎌槍で右目を貫く寸前まで行っていた。
手元から感じる肉をえぐる感触。
『■■■■■!??』
これで視力は奪った。
魔法を正確に撃てなくなれば、そのあとの行動パターンは。
「それを使ってくるよな!!」
回復に入る。
水魔法にはバブルヒールという、回復効果を持つ泡を生成する魔法が存在する。
その泡に触れた部位を回復するという効果で、一定以上のダメージを負うと沼竜が使い始めるスキルだ。
「わかっていれば対策はできる」
その泡に触れないと回復ができないという欠点、空中に浮遊することによって回復ストックに使えるという上級者向けの回復スキルは武器で簡単に割ることができる。
泡一個の回復量は大したことはない。
発動場所は沼竜の額から。
そこから大量に出るその泡を見て槍を振るう。
反応して気づくことができれば、一度の攻撃で増殖する前の泡を叩き潰すことができる。
「そうだよな!!目が見えないなら音や感触で俺を見つけないといけないだろうな!!」
その際に槍が一番固い沼竜の額に触れた。
その衝撃から俺のおおよその位置を割り出したのか。
魔法攻撃の水球が現れ、俺のいた個所に乱れ撃ちされる。
普通なら横っ飛びなり、バックステップで避ける。
だけど、俺は。
「見えた。逆鱗!」
地を這うような低い姿勢で、わずかに持ち上げた沼竜の顎の下に見える逆鱗を狙うために水球の乱射の下を潜り込んでいた。
この攻撃パターンからのカウンターアタック。
あの魔法は俺を引きはがすための魔法。
距離を取れば、そのまま追撃で別の魔法が放たれてさらに距離を引きはがされる。
死中に活を求める。
これがこの場合の正解だ。
踏み込みから一閃、伸びた槍は正確に沼竜の喉元に迫り。
『!?』
痛撃にビクリとその巨体が揺れる。
怯みモーション。
そのあとに来るのは体を揺らし暴れる。
離れろと、暴れる沼竜から今度は距離を取り、開閉を繰り返す顎の前に立つ。
必死に噛み、ワイヤーを切ろうとしているがそのワイヤーにも不壊属性が付与されている。
物理的に壊れることだけは決してない。
「さぁってと、あとはひたすら熟練度上げの経験値になってくれよ」
ここから先はひたすら沼竜の顔面のありとあらゆる箇所にマジックエッジを纏わせた槍を突き立てるという作業になる。
警戒するのは時たま飛んでくる魔法だけだ。
発動するためのモーションを見逃さなければ、問題なく躱せる。
槍という間合いを広く保てる武器のおかげで、魔法攻撃の兆候を見逃さずに一方的に攻撃を加え続けることができる。
「かぁ!!硬い!!こっちも武器のレベル上げてるのに、ステータスが全く足りない!!」
完全に弾かれているという感触ではない。
多少ダメージは入っている手ごたえは感じる。
だけど、そのダメージが仮に表示されたとしても1とか2といった最小ダメージだろう。
「いいね!いいね!さすがFBOでサンドバックの異名がある竜だよ!!叩き甲斐があるってもんだ!!」
そのダメージの入り具合に反比例してグングンと俺のスキルの熟練度が上がっているのが実感できる。
そう遠くないうちに、槍豪術とマジックエッジはマスターする。
そんな予感が俺のなかにあった。
クラス10に入ると極端にレベルアップ速度が下がるが、修練の腕輪に加えてフィールドボスの沼竜とのレベル格差が加わることで、激坂であっても猛スピードで駆けあがることができるほどのペースでスキルレベルが上がっていく。
頭部をダンジョンに釣り上げ固定され、尻尾を地面にトラバサミによって固定する姿がサンドバッグのように見えるからこその異名。
おまけに経験値もドロップアイテムもおいしいと来た。
俺の攻撃を鬱陶しいと言わんばかりに顔を振り、魔法を使って反撃してくる姿も俺からしたら愛おしいと思う。
まだだ、まだ死んでくれるなと祈りつつも、攻撃の手は一切緩めず、全力で攻撃し続ける。
ダンジョンの外から聞こえる、ネルたちの声も全力で沼竜を攻撃しているのがわかるくらいに気合の声が素晴らしい。
時々俺と沼竜の魔法以外の攻撃音ですさまじい打撃音が響いているのはきっとネルのハルバードが沼竜の腹部に叩きつけられている音だろう。
時折、沼竜の顔がしかめられるのはネルがかなりいい一撃を叩き込んでいるんだろうな。
「さぁて、短い時間になるかもしれんが、もう少し付き合ってくれよ!!」
DPSから考えれば、倒すまで時間はかかるが、その分だけ熟練度上げは一気に稼げる。
成果がわかる分、俺の体の動きは精彩を欠くことなく存分に沼竜を突き続けることができた。
結果。
『グオォォォォ』
体感時間にして二時間ほど、ビクリと断末魔の痙攣をおこして沼竜は動かなくなり、そして黒い灰と化す。
「勝ったぁ!!ああー、疲れた!!這竜よりは安全だけど、全力で槍を突き続けるってマジでしんどい。ゲーム時代じゃこんなに腕がパンパンになるなんてなかったぞ」
沼竜を倒した。
その疲労が重なり、一気に息を吐きだして痙攣する一歩手前の腕を労わるように、これまた痙攣しかかっている片手で揉み解す。
「リベルター!!」
「おー!みんな大丈夫だったか?」
「大丈夫よ!!ずっとぶら下がったままだから少し暴れてたけど安全に叩けたわ!!」
疲れきったその足でダンジョンの出口に向かっている途中で外からネルの声が聞こえてきた。
出口の近くで膝をついて下を覗き込んでみれば、元気にハルバードを振って俺に返事をするネルの傍らで、大の字になって倒れ息を整えているアミナと、膝がガクガクと震えながら懸命に立っていようとするイングリットが目に入った。
大丈夫なのはネルだけか。
「そうか!少し待っててくれゴーレムを降ろすから、そこから離れてくれ!」
「わかったわ!!」
そりゃそうか。
安全とは言え、全力での運動をずっと続けていたのだ。
普通に考えれば疲れ果てるよな。
元気なネルの体力がすさまじいというだけのことか。
アングラーに乗り込み、置き盾と、スパイクアンカーを回収してそれをもって飛び降りる。
重量もあってとんでもない音を響かせて地面もえぐるほどの着地になったが、ゴーレムはこの程度じゃびくともしない。
残るは、あとで脱出用のゲートに飛び込んでダンジョンを消せば後始末は完了だ。
「見て見て!こんなにスキルレベルが上がったの!!」
『ネル クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力80 魔力20
BP 0
EXBP 0
スキル1/スキルスロット5
槍豪術 クラス10/レベル100 』
そんな感じに後始末のことを考えていると、ピョンピョンと軽い足取りでアングラーの足に飛び乗って俺の下に駆け付けたネルは尻尾をぶんぶんと振り回しながらステータスを見せてきた。
「おー、ちゃんとスキルがマックスになってるな。さすが沼竜。経験値の入り方が段違いだ」
「本当にそうね!!ねぇ!アミナもそう思うでしょ?」
「そんなこと考えられる余裕ないよ~」
そんな元気いっぱいのネルとは違って、へばっているアミナはよろよろと体を起こして。
「僕も杖豪術はマスターしたよぉ」
ステータスの結果を確認した。
『アミナ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力40 魔力60
BP 0
EXBP 0
スキル4/スキルスロット5
杖豪術 クラス10/レベル100
錬金術 クラス3/レベル18
歌唱術 クラス5/レベル33
喝采の歌 クラス4/レベル74 』
俺とネルはアングラーから飛び降りて、元気が欠けているアミナの下まで行ってそのステータスを覗き込む。
「途中から腕が取れるかと思ったよ。ねぇ、イングリットさん」
「も、問題ございません」
「いや、あるよね。膝が笑っているよね?」
「武者震いでございます」
「それ、戦う前に出るやつ」
飛ぶ元気もないと告げるアミナが一番スキル数が多い。
ステータスを覗き込めば次にあげるべきスキルが一目瞭然だ。
そしてそんなアミナの隣で膝を生まれたての小鹿のように震わせて懸命に立つイングリットの健気さについ苦笑が漏れる。
「ステータスはどう?」
「はい、こちらになります」
そんな彼女にこれ以上ツッコミを入れるのは酷かなと思って、ステータスの確認に移る。
『イングリット・グリュレ クラス0/レベル0
基礎ステータス
体力0 魔力0
BP 0
スキル1/スキルスロット2
杖術 クラス10/レベル100』
「リベルタ様のご要請通り、スキルをマスターいたしました。たった数時間でこれほど上がるとは思いませんでした」
「それくらいレベル差があるから当然と言えば当然なんだよね。これで明日はイングリットはレベルがあげられるし、そうしたらまたスキルを覚えて沼竜巡回だな」
最後にイングリットのステータスを確認して全員目標のスキルレベルアップを果たしているのを確認できた。
「えええ!?今日はもう帰ろうよ!!もう、腕なんてパンパンだよ」
「安心しろ、ここに沼竜が出るのは三日後だ。ここじゃ今日はもう狩りはできない」
俺が巡回という不穏な言葉を使ったことによって、さすがに疲れたとアミナが言うが、フィールドボスにはリポップ時間というものが存在して、そこら辺の雑魚とは違ってボスモンスターのリポップまでそれなりのスパンが空く。
「3日も待たないといけないの?」
「安心しろ、ここにはいないがほかの沼竜の位置はしっかりと登録済みだ。一日一体ペースで狩れる」
その事を聞いて、アミナは良かったと安堵し、心なしかイングリットも安堵したような雰囲気を出した。
ところがどっこい、俺がそこら辺抜かりがあるとお思いか?
この前の遠征でサンドバッグこと沼竜を狩るためにしっかりと準備をしてある。
「やったぁ!!」
「ネルは元気だな」
「一日一体ならいいかな?」
「私はリベルタ様のご指示に従います」
ネルはそのことに喜び、アミナとイングリットも一体くらいならと納得してくれた。
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル2/スキルスロット5
槍豪術 クラス10/レベル100
マジックエッジ クラス10/レベル100』
ちらっと、俺のステータスも確認すれば、問題なく全部のスキルがカンストしている。
「さてと、最後の仕上げにドロップ品を確認して帰るぞ」
「あ、そうそう、沼竜からこれが出てきたんだけどこれって骨だよね?」
「お、幸先が良いな。それはかなり使える素材だ。数を揃えれば武器になる。他にはなかったか?」
「あとは、これがあったわ」
熟練度上げとしては大成功。
そして残るは戦利品を確認だ。
何が出たかなとワクワクしながらダンジョンにはなかったから、下にいた面々に何が出たか確認すると沼竜の骨というドロップ品をアミナが見せてきた。
さらにそのそばにはもう一つアイテムがあり。
「キタアアアアアアアアアアア!!!!!」
ネルが指さしたそれを見た俺は思わず叫んでしまうのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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