9 嵌め技
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ハイファンタジー連載中で月間1位!!
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さて、いろいろなゲームをしていると攻略動画サイトとかで〇〇を嵌めてみたなんてタイトルを載せた攻略動画を見たことはないだろうか。
やっていることはいたって単純、普通なら強敵な相手を工夫を凝らして簡単に倒せるようにする。
やっていることはそれだけだ。
「さて、あとはここにモチダンジョンを開放すれば完了だ」
湖畔にある崖上でトラバサミを設置し、畳返しも設置して最後の仕上げとしてモチダンジョンを開放。
ただ開放する場所は一工夫する。
「そんなところに鍵って刺せる物なの?」
今俺の隣にいるアミナは羽を羽ばたかせて俺の周りを旋回している。
すなわち、飛んでいるということは今の俺の居場所がそれなりの高所になるということだ。
それもそのはず。
俺の足場はアングラーの頭部だ。
このゴーレムの身長は中々の高さ、高所恐怖症の人なら登ろうなどと考えるはずもない。
「できてるから問題はない」
小さな足場に絶妙な力加減で立ち、そして少しでも高い位置で開錠をしようと手を伸ばし、ダンジョンを作るという意志を示せば何もない空間にダンジョンは出来上がる。
「ネル、ボスだけ倒してきてくれ。脱出はしないでそのまま入口の方に戻ってきて」
「わかったわ」
そして空中にできたダンジョンという不思議な空間のボスをネルに倒しに行ってもらう。
身軽にアングラーを上り、そしてそのままダンジョンの中に入っていく後ろ姿を見送って、俺はダンジョンの中にアングラーを入れる作業をする。
アングラーの頭を蹴って、ダンジョンの中に飛び込んでそして入り口にアンカーとなる杭を打ち込む。
そしてその杭をとっかかりに、アングラーをジャンプさせて杭を掴みよじ登らせる。
「なんか。変な光景」
空中にできたダンジョンによじ登って入ろうとするゴーレム、外から見た光景は相当にシュールに映ることだろう。
アミナの感想がそれを物語っている。
「この位置に出すのが重要なの。アミナ置き盾に繋がってるロープを運んできてくれ」
「そういうものなの?」
不思議そうにアングラーがダンジョンに入り込む姿を見終えたら、アミナは足にロープを掴んで飛んでくる。
「はい、これ」
「ありがとう。あとは、この置き盾を二枚設置すればっと」
そしてそのロープをアングラーで手繰り寄せて、ダンジョンの中に大型の置き盾を搬入する。
設置位置は、入り口から五メートルほど入ったあたりだ。
置き盾のスパイクをダンジョンの地面に突き立て固定する。
「リベルタ、倒してきたわよ」
「おう、ありがとう。こっちも準備が終わったところだ」
そんなことをしているうちに、ネルがカガミモチを倒して帰ってきた。
ハルバードを肩に載せて、余裕をもっての帰還。
「さすがに過剰な火力だったか?」
「当然!!一撃よ!!」
最初の頃はおどおどしながら倒していたのに、今はダンジョンボスを余裕で倒せるようになった。
時間が経つのは早いもんだ。
「こっちも準備完了したし、二人とも修練の腕輪は装備したな?」
「もちろん!」
「ええ」
「ネル、外に出たらイングリットも装備してるか確かめておいてくれ」
「わかったわ」
周りを見回してほかに見落としがないか確認してから。
「頼むな。さてと、それじゃ、始めるか」
いよいよ、本番を迎える。
「ネルとアミナは外でイングリットと合流して準備に入ってくれ、絶対に敵がこのダンジョンに頭を突っ込むまで姿を見せるなよ?」
「うん、トラップに全部かかってから全力で攻撃すればいいんだよね?」
「ああ、ネル。お前がうちのメインアタッカーだ。頼りにしてるぞ」
「任せなさい!!」
ネルは飛び降りるように、アミナはそのまま舞い上がりダンジョンから脱出。
「さて、頼むぞアングラー。お前の本領を見せてくれよ」
そして俺はこのダンジョンから釣りを始める。
「餌の仕込みは十分、あとはターゲットをしっかりと釣り上げないとな」
アングラーに魔銀の釣り竿を持たせ、その先にあるミスリル製のルアーを見る。
ガンジさん手製の疑似餌。
ミスリルをガンジさんの鍛冶師の技で加工し、鋭い釣針を付けた白銀色の魚。
針は一度肉に食い込めばやすやすと外すことはできない良い出来だ。
「あとはここにこれを張り付けてっと」
その疑似餌を覆い被すようにピンク色の物体、餅と魚の血を混ぜたものを手袋をつけてしっかりとつける。
そうするとなんとなく魚っぽい形の何かが出来上がる。
「あとはこいつを湖に投げ入れれば、始まるな」
ダンジョンの入り口はそこそこ大きいけど、それでも釣り竿を振ってその先にあるルアーを湖までキャストするとなると中々遠い。
限定された外の景色、その空間めがけて竿を振るうのは難しそうに見えるけど、何千、何万と繰り返してきている俺からすれば。
「こうやって」
アングラーをどう動かせばいいかなんて、自転車に乗るよりも簡単に思い出すことができる。
「こうっと」
ゲームと同じ動き、釣り竿を振りかぶり、そして前方にキャスティングすればルアーの重みで一気に飛んでいき、崖からだいたい六十メートルくらいに着水。
元々の重量の所為か、水しぶきもそこそこ大きいものが上がったのが見える。
「さて、あとは魚っぽい動きをすれば」
アングラーの腕を操作してリールを回す。
釣り竿の細かい動きで、ルアーに魚のような動きを再現するためにVR釣りゲームで訓練した竿捌きを見よ!!
これでゲームじゃカジキマグロだって釣ったことがあるんだ。
「ゲームだと、数秒もしないうちにヒットするんだけど、現実じゃそれはないだろ」
ただ、いかに巧みな動きを再現したからと言っていきなりヒットするわけでは。
「ないと思ったけど、いきなり来たか!?」
そんなことはなさそうだ。
湖の水面にあからさまな反応があった。
黒い影が、俺が動かすルアーに向かって移動している。
良く晴れた空に、澄み切ったとまではいかないがそれなりに湖の中が見える水面ではその黒い影がよく見える。
「いきなりヒットぉおおおおおおおお!!!」
泳ぐ速度は、ルアーを引く速度よりもだいぶ速い。
あっという間に影はルアーに追いつき、そしてその影。
沼竜の顎が大きく開かれ、その餌に食いついた。
一気にしなる魔銀の釣り竿。
普通の釣り竿であればあっという間に壊れて使い物にならなくなる。
だけど、さすがはガンジさんが止めに入るほどの高級な素材をつぎ込んだ釣り竿だ。
軋み一つ上げない。
さらに、アングラーだ。
多脚のすべてで踏ん張り、しっかりとダンジョンの地面を踏みしめている。
重心を下に下げて踏ん張り、巨大な沼竜を相手にしてもしっかりとリールを巻き、こっちに引き寄せるという重要任務を達成してみせている。
これから釣り上げる巨体は全長二十メートルを超える巨大な鰐だ。
這竜の姿が大蛇のようなものであるように、この沼竜も竜の名を冠する鰐だ。
物理的な思考で考えるのなら、こんな細い釣り竿と釣糸で釣りあげられる質量ではない。
だけど、この世界の法則では釣り上げられてしまうのだ。
質量的に負けていようが、能力面では負けていないアングラーが釣り竿を操作してじわりじわりと、沼竜を水の中から水面の上に引っ張り出そうとしている。
ステータス至上主義、能力的に問題なければ実現できてしまう。
「だからこそ、こういうこともできるってねぇ!!!」
そんな光景を目の当たりにしてしまっては釣り師の興奮を止めることなどできない。
一進一退の攻防じゃない。
餌に食いついたボスをいかにして釣り上げるかの動き。
相手に反撃の隙など与えはしない。
アングラーから魔銀の釣り竿へ魔力を供給してスキルを発動。
釣り竿の先端にあるルアーに付与されている一つのスキル。
膨張スキル。
これは触れている物体を膨張させるだけの所為、クズスキルと呼ばれる代物だ。
ただ膨らませるだけ、それだけのスキルなのだが。
釣りと餅、この二つを掛け合わせるとある意味で凶悪なスキルに変化する。
「おー、慌ててる慌ててる」
スキルを発動してすぐに、変化が訪れる。
何せ、飲み込んで食いついているルアーの周りにある餅が一気に膨れ上がったのだ。
それ自体で体が破裂して死ぬ、なんてことにはならないけど気道を封鎖することくらいはできる。
粘り気の強い餅。
それが一気に膨れ上がって沼竜の喉を詰まらせた。
飲み込もうにも息を吸い込むこともできなくなり、口を開けて水を入れて流し込もうにもルアーとワイヤーにも餅が絡みついて全く動かない。
「これで窒息効果のスリップダメージも狙える」
呼吸を封じる。
これがあるから、確実に沼竜を倒すことができる。
人間なら持って数分。
早ければ数十秒で命を奪える。
だけど、相手はフィールドボス。
最底辺であっても竜種。
そう簡単には窒息死は狙えない。
時間をかければ、放っておいても倒すことはできる。
「だけど、それじゃ準備をしている意味がないんだよなぁ」
確実に勝てる戦、その盤上を用意してこそのジャイアントキリング。
喉がつまり、慌てふためく水中の巨体が徐々に水面に上がってくる。
「よう、久しぶり」
百年来の友にあいさつするような気やすさで聞こえないはずの声をかける。
濃い緑色の鱗、巨大な口、縦長の胴体、長い尾、短い手足。
どこからどう見ても鰐にしか見えないが、沼竜と冠するだけあって、水のブレスも吐くし、水魔法と土魔法も使う。
水中で戦えば苦戦間違いなしどころか勝機すら与えない水中での王者。
それが今、水中から引きずり出され、さらには崖の上に運ばれるために宙づりにされている。
「もうひと踏ん張り!!」
崖の高さはおおよそ十メートルに届かないくらい。
必死に水面に戻ろうともがく沼竜が暴れれば、当然その崖にもぶつかり、短い脚をばたつかせ抵抗する。
じわりじわりと、水面に持ち上げ、そしてさらに崖のぼりまでさせる。
ちょうど死角になり巨体が見えなくなるが、釣り竿は今もなお暴れ続けている。
敵はこの先、目の前にまで迫っている。
慌てるな、ここでミスればこの後が大変になる。
一気に釣り上げることなく、じわりじわりと、タイミングを見計らい少しずつ沼竜を引き上げ。
「会いたかったぜ!!」
崖の先に長い口と繋がる顔が見えたと同時にじろりと敵を睨む沼竜の目が俺を射抜いた。
ゾクリと背筋に寒気が走る。
何せ相手は俺よりも格上、正面からまともに挑めば勝つことは難しい。
這竜と違って得意の水中に逃げ込まれたら勝ち目はゼロ。
そんな敵から睨みつけられて、怖気が走ってもおかしくはない。
だけど、口走った声も本音だ。
こいつほど、今の俺たちに美味い敵はいない。
だからこそ、ひるまず、ニヤリと口元に笑みが浮かんだ。
『■■■■■■■!!』
餅によって詰まらせたゆえに、雄たけびもくぐもり、迫力に欠けるがそれでも沼竜は自身の敵がそこにいると理解した途端、抵抗を止め自分の足で駆けだしてきた。
水中の方が得意であっても、竜種である沼竜は地面を駆けるのも速い。
高所に位置している俺めがけて全力で駆けようとした。
「残念」
その瞬間沼竜の顔が打ち上げられた。
畳返しと呼ばれるトラップが発動したからだ。
地面に敷かれ、遠くで待機していたネルたちがタイミングを合わせてロープを引き、見事に沼竜の顔の下で発動させた。
のけ反るように沼竜は顔を持ち上げられ、その隙に一気にリールを巻く。
前足は持ち上げられるのが見えた。
沼竜の上半身は宙に浮き、頭部がダンジョンの中に引き込まれる。
その瞬間。
『■■■■■■!?』
ガチンとけたたましい音が響く。
沼竜の尾がトラバサミで挟まれた。
それによって沼竜はダンジョンの中に入り込めなくなった。
結果として、沼竜は顎を乗せるようにダンジョンの入り口に頭を入れる形となり。
尾が固定された事によって、前足は空を藻掻き、後ろ足で蹴ろうにも中途半端に宙づりになってしまって身動きが取れなくなってしまった。
脱出するには釣り糸を切るか、尾のトラバサミを取り外すかの二択。
「沼竜の嵌め技完成」
沼竜は窒息状態の上、魔銀の釣り竿によって釣り上げられている。
「さぁ」
ゴーレムの指示は現状維持。
引き上げ続けてもトラバサミに負担がかかる、かといって緩めれば頭がダンジョンから出てしまう。
そうならないように絶妙な力加減に調整して、リールをロック。
アングラーには姿勢維持を指示して、俺は鋼の鎌槍を片手にアングラーから降りる。
「スキル熟練度上げのサンドバッグになってもらおうか!!」
この形も最早見慣れた光景。
沼竜の頭部だけと戦うのは久しぶりだけど、やりこんだことは憶えている。
『■■!?』
「ネルたちも攻撃を始めたか」
鰐にメンチ切られているという特殊な状況はすぐに変化が始まる。
敵が俺だけと思ったら大間違い。
今頃、沼竜の中でも比較的防御力の弱い腹部めがけて女性陣三人が猛攻撃をかけているだろう。
特に攻撃特化に育成中のネルの攻撃は痛いぞ?
「さてさて、無駄話をしていたら俺も経験値を稼げなくなる。だから頼むぞ沼竜」
俺は持った鎌槍の刃先を沼竜に向け。
「俺の経験値になってくれ」
罠に嵌った沼竜に襲い掛かるのであった。
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