8 パワーレベリング
総合評価63000pt突破!!
ありがとうございます!!
さて、イングリットさん改め、イングリットが正式にうちのパーティーに加入したとあればさっそくだがレベリングを開始しよう。
「リベルタ様、これは?」
「武器だ」
「リベルタ、さすがにそれは無理があるわよ」
「そうだよ、それどう見ても竹ぼうきだよね?僕も使ったことがあるからわかるよ」
「私の家にもあるわよ」
「お兄ちゃんがふざけて振り回して壊して、お母さんに怒られてたなぁ」
「男子ってそういうことするわよね」
メイド服と竹ぼうき、組み合わせとしてちょっとミスマッチなんだけどこれがサポート型メイドの一番効率的な武器なんだから仕方ない。
俺もネルとアミナの言葉には全面的に同意だけど、仕方ないだろ、これが一番効果的な武器なんだから。
この竹ぼうきもガンジさんに頼んだ一品。
ただ、頼んだらここは武器屋だぞ!?と怒られてしまったが、そこは何とかと頼みお金を積んで作ってもらった特注品。
まぁ、頼んでいる品が釣り竿に竹ぼうきじゃ普通に武器屋として怒るよな。
「武器と言ったら武器なんだよ!!しっかりと強化もして、弱者の証も合成した。火力的には問題ない!それにこのあと改造するからさらに強くなれるんだよ!!」
「そうなのですか?」
「それに実際殴ったらかなり痛い」
「それはそうでしょ」
竹ぼうきと言えば落ち葉を掃いたりする屋外用の掃除用具だ。
アミナの言う通り、子供とかが剣だと言ってチャンバラごっこに使う程度のことは日常茶飯事、戦士や剣士、さらには騎士とかが竹ぼうきを持っていたらギャグの世界になってしまう。
ネルやアミナの言う通り、本来であれば武器とは決して言い難い代物だ。
しかし、どういうわけかFBOではこれも立派な武器判定があるんだよね。
そしてカテゴリーは杖判定。
うん、あれだな。
FBOで日常的にみられた武器判定の中で一番ガバいのが杖であるのは知っていたけど、これはないと俺も思った。
魔法使いが乗る的なカテゴリーなのか?
知り合いと一緒に、カガミモチデスマーチをしていろいろな武器種の判定をしたから間違いない。
竹ぼうきでカガミモチを倒した瞬間に覚えたパッシブスキルが杖術なのだ。
すなわち、竹ぼうきは杖なのだ。
「立ち回りは言った通りに頼む。戦えば問題なく勝てるから」
「かしこまりました」
そしてここでとやかく言っても仕方ない、まずはイングリットさんにはクラスゼロでスキルスロットを確保してもらわないと始まらない。
「ネルたちも、一応だけど武器持っておけよ」
いつも通りのモチダンジョンの鍵を取り出して、それぞれの装備を確認する。
「はーい!」
「モチ相手にこれ、いるかしら?」
俺も含めて、イングリット以外は全員革製の防具をしっかりと装備して、さらに各々の新しい武器を持参している。
なんだかんだ言って、スタンピードが起きても仕事はしっかりとこなしてくれていたガンジさんのおかげで俺たちの手元には新たな武器が来ている。
エスメラルダ嬢に回収された竹槍に替わる俺の次の相棒、鋼の鎌槍。
まだ戦闘では使っていないが、握り心地は良い。
「ネルのはすっごく重いからね。これで普通に攻撃したらモチなんて潰れちゃうんじゃないかな?」
竹槍から進化したネルの相棒、総鋼のハルバード。
「そうかもしれないわね」
成長途中の彼女がそれを持つと、アンバランスな見た目だが、軽々と持つネルはその威力を楽しみにしている様子。
「アミナの武器は変わった形よね」
「リベルタ君が言うにはこの形が一番僕のスタイルに合っているんだって」
そして一見マイクスタンド風の、魔結晶の杖を持つアミナ。
ガンジさんは注文通りマイクスタンドの形で仕上げてくれているようで、非常に満足の出来だ。
そこに竹ぼうきを持ったメイド服のイングリットを加えたのが今の俺たちのパーティーということだ。
俺と、ネル、アミナだけなら子供が背伸びして冒険者になろうとしている駆け出しパーティーに見えなくはないが、メイドを率いたパーティーとなると色物感がすごい。
「開いたぞー、イングリットここから先がダンジョンだから気を引き締めてな」
「はい」
そして人生初のダンジョンチャレンジを前にしてもイングリットの無愛想は一切変わらない。
緊張しているのか、それとも平気なのか。
それも悟らせないほどのポーカーフェイス。
「ねぇ、リベルタ。道中のモチはどうする?」
「放っておく、時間の無駄だし、薬草だけ回収しておいて」
「はーい」
通いなれたモチダンジョン、道を間違えるはずもなく薬草を回収してからはまっすぐにボス部屋を目指し。
「それじゃ、サクサクと行こうか」
「かしこまりました」
ここから先はイングリット一人で戦う。
竹ぼうきを持ってボス部屋に入る。
その姿はさながらボス部屋を掃除しに入るメイドさん。
掃除するのはもちろんこの部屋の主であるカガミモチだ。
いつも通りのお餅っぷり、ズンズンと重量感を感じさせる跳ねっぷり、俺たちからしたら親の顔よりも見たなんて言葉が出てきそうな見慣れた奴。
「ネルなら一撃か?」
「縦に振り下ろせば行けるかしら?」
「僕のこれ、殴っていいのかな?」
俺なら四回攻撃、ネルなら一撃、アミナは少し工夫して十数秒と言ったところ。
では、レベル無しの状態になったイングリットがどう戦うかと言えば。
「それでは、参ります」
構えた竹ぼうきを思いっきり一番下段のカガミモチに向けて払いを放つ。
そうするとあら不思議、カガミモチが横転するではないですか。
「え、何あれ」
「転んじゃった」
武器というのはそれぞれ、攻撃に特徴が出る。
槍のような刺突武器は突くことでその本領が発揮される。
刀や片手剣のような刀剣類は斬撃といった斬ることが本領。
大槌やこん棒のような打撃武器は打撃を加えることが本領だ。
では、竹ぼうきはどんな攻撃が本領か。
答えは払うことだ。
元々は落ち葉を掃くための道具である竹ぼうきは、なぜか武器化することで払うという行動性能が極端に高い武器と化してしまう。
足元を払うことによって相手の攻撃を阻害しつつダメージも与えることができる。
ダメージ指数はほかの武器と比べれば低いが、攻撃対象の行動を制限するという追加効果では竹ぼうきはスリップ効果の強い部類に入る。
「なんか、戦っているっていうより」
「うん、掃除してるって感じだよね」
横転したカガミモチは分裂して、普通なら一方向で引き付けて下がりながら攻撃を繰り返すことで安全に倒せるんだけど、竹ぼうきでやると普通にスリップ効果でその場から動かさないまま完封できる。
払えばモチが転がりダメージが入り、動きそうなモチを払えば動きを封じてダメージが入る。
重量が重い敵とか、巨体な敵とか、レベルが格上相手だとスリップ効果は発生しにくくなるけど、やり方次第では竹ぼうきはラスボスすら転ばせるからな。
「終わりました」
「お疲れ様!!」
「あっという間だったね!!」
「はい、それとリベルタ様の仰る通り、レベルを得ずともスキルを獲得できるのですね」
そしてイングリットも無事にレベル無しの状態でステータスを手に入れたようだ。
『イングリット・グリュレ クラス0/レベル0
基礎ステータス
体力0 魔力0
BP0
スキル1/スキルスロット1
杖術 クラス1/レベル1 』
彼女が見せてくれたステータスは見覚えのある内容。
「よし、無事に獲得できたな!!」
「宝箱は普通ね」
「中身は米水だったよー」
これでひとまずは第一段階終了。
「それじゃ、次行こうか」
スキルを覚えさせてしまえば、あとはこっちの物だ。
モチダンジョンから揃って脱出、家の倉庫に戻ってきて振り返ると。
「やっと、こいつを正式に使える」
「麦わら帽子をかぶせる必要あったの?」
「様式美だ」
「背中に乗せた置き盾は?」
「必要装備だ」
大きな麦わら帽子をかぶったアングラーが鎮座している。
変わったことと言えば、雰囲気を出すためだけの麦わら帽子と、右手に装備した魔銀の釣り竿、そして背中に載せている盾。
「これも持っていくんだよね!」
そしてアングラーの脇には大きなトラバサミ。
「ああ、それがないと始まらないからな」
兎を捕まえるには巨大すぎる。
熊を捕まえるにしても一度起動すれば胴体に噛みつくような大きさ。
「あと、そっちのやつも持っていくぞ」
「これも?本当に何に使うのこれ?」
そしてもう一つ用意していたのは、鉄板とバネを組み合わせた代物だ。
トラバサミに置き盾、さらにFBOでは畳返しと呼ばれている代物。
この三つと、アングラー、さらに魔銀の釣り竿とモチダンジョンの鍵。
これらが揃えば鬼に金棒どころの話ではない、鬼にエクスカリバーくらいの装備は持たせてもらっているのと同じだ。
忘れ物がないように、アングラーの側に寄せてしっかりとロープで固定。
「よし!全員アングラーに乗れ!!」
「僕一番上!」
「足の上に乗ればいいの?」
「ああ、イングリットも」
「はい」
準備が整えば、あとは出発するだけ。
俺もアングラーの多脚の部分に乗り、イングリットに手を差し伸べ引き上げる。
「よし!全員乗ったな?」
「大丈夫だよ!」
「アミナ、本当に大丈夫?」
「私は問題ありません」
アングラーの肩部分に鳥獣人の足爪で掴まるアミナに、アングラーの右側の足部分に乗るネル、そして左側に俺とイングリットが乗っている。
トラバサミも、畳返しも、アングラーに接触してロープで固定されているのを確認。
「それじゃ、行くぞ」
そして胸元から転移のペンデュラムを取り出す。
手に入れてから使おう使おうと何度も機会をうかがっていたけど、終ぞ使うことのなかったアイテムがようやく日の目を見る。
「転移先、湖1!」
あの日、エスメラルダ嬢に出会う前にマーキングしていたエリアの名称は本当に適当に番号を振っただけの場所。
いや、転移のペンデュラムに登録する際に名前をつけろって言うからさ!!
こういうのって適当になるよね?
俺のネーミングセンスを咎めるようなネルの視線を浴びながら、転移のペンデュラムは起動した。
倉庫内が光で包まれ、俺の視界も真っ白になる。
そしてわずかな浮遊感を覚えた後に、ズンとアングラーが着地し、その振動を足で感じた。
「っ!?」
「おっと」
「あ、ありがとうございます」
「あ、はい」
「「……」」
俺はバランスを取れていたけど、ステータスがないイングリットがバランスを崩してアングラーから落ちそうになった。
その際に手を掴んで引っ張っちゃったから、少し体が密着し、さすがのイングリットも戸惑いを見せるかと思いきや、眉がちょっとぴくッとしただけでお礼を言ってスッと離れた。
あれ?もしかして俺嫌われてる?
「リベルタ!次は何すればいいの?」
「あ、えっとまずはちゃんと全部転移されているか確認してくれ」
「はーい、ほら、リベルタ君も働いてよ」
「わかった」
ちょっと、ショックを受けてぼーっとしそうになったのを二人に呼ばれてここに来た目的を果たすためにアングラーから降りる。
「アングラーを動かすから、イングリット降りてくれ」
「わかりました。下に降りたらいかがいたしましょう?」
「降りたら、トラバサミと畳返しのロープを外しておいて」
「かしこまりました」
うん、いつもと変わらない対応。
さっきの反応は一体何だったんだ?
「っと、そんなこと考えてる場合じゃないな。お仕事お仕事っと」
アングラーに搭乗、ひとまず魔銀の釣り竿は横に置いておいて、まずはトラバサミを設置するところから始めるか。
ゴーレムがあるとこういう作業が楽でいいな。
「ネル、発動テストするからそのロープを持っててくれ!」
「わかったわ!!」
危ない作業も、こうやってゴーレムの腕が代わりにやってくれる。
ギギギとかなりの力で閉じられているトラバサミを開き、そして固定。
踏み板を獲物が踏み抜くと自動で閉まるようになっているけど、ここで一つ仕掛けをする。
踏み板の上に台を置く、その台の上に重い石を置く。
そして台の足にはロープが繋がっていて、そのロープはネルが持っている。
「ここに、置いてっと」
アングラーを操作して準備ができたら、アングラーをバックさせてトラバサミから離れる。
「いいぞ!!」
「引っ張るわよ!!」
そして離れているネルに合図を送ると、彼女は力いっぱいロープを引いた。
そうすると台の足が引っ張られ足が取れ、石が転がり。
中々の勢いでトラバサミの板の上に落ち。
「よし、起動したな」
バキン!!と中々派手な音を響かせてトラバサミが閉じた。
人がその場にいれば真っ二つになるのではと思うくらいの勢い。
「あとは配置だが」
これなら十二分に活躍してくれると確信した。
そうと決まれば、あとはこのトラバサミの設置場所を探すだけ。ここは少し崖になっていて、湖を見下ろせる絶好の場所。
その景観からゲーム時代の知識を引っ張り出してきて逆算してやれば。
「うん、ここだな」
トラバサミの設置場所は決まるわけだ。
「お昼までには設置完了したいな」
そうして、戦うための準備をフィールドボスのすぐ近くでせっせと進めるのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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