7 メイド道
総合評価62000pt突破!!
ありがとうございます!
戦闘型メイドとは文字通り、メイドの格好をした戦闘者を指す。
FBO時代には女性プレイヤーの中で一定数の固定ファンがいて、可愛い系から凛々しい系と幅広いメイドたちがいろいろな武器を振り回してモンスターやPKを屠っていた。
メイドができそうな、掃除や調理といった家事スキルを取りつつ、戦闘用のスキルを混ぜ込み、戦うメイドさんのスキルビルドを確立させ、それでランキング上位のトッププレイヤーに名乗り上げているのだから弱いとは口が裂けても言えない。
対して、サポート型メイドとは戦闘面では一歩、二歩と後れを取るが一パーティに一人は欲しいと思わせるほどの優秀なメイドだったりする。
最初に説明した戦闘型メイドとは違って、家事全般スキルに加え、地水火風光闇雷氷のサポート魔法スキルを充実させるというサポート特化のスキル構成だ。
戦闘用スキルは、基盤となるパッシブスキルは人によって変わるが一つから多くても三つ。
アクティブスキルはそのスキルから派生する物に抑え、多くてもパッシブと合わせて十以下にする。
「さて、ここまでがイングリットさんの育成計画の概要なんだけどどうかな?」
「……正直に申し上げるなら、色々と質問したいことが多くて頭の中を整理する時間を頂きたいと」
商売の神ゴルドスの分神殿から家に直帰で、リビングでは誰かに話を聞かれるかわからないので、獣人で耳と鼻が敏感なネルとアミナも一緒に俺の部屋に集合。
そこで正式にイングリットさんもパーティーメンバーに加入して今後の活動を共にすることを伝えた。
ネルもアミナもイングリットさんには懐いていたのでそこは問題なく受け入れられた。
真面目というのはこういう時に強い。
「そうだよね。リベルタ君の話って難しくて全部覚えるのが大変だよ」
「そうかしら?私はリベルタの言っていることは理屈が通っててわかりやすいと思うけど」
「えー、それはネルが頭がいいからだよ」
アミナとネルは、この家に持ち込んだ、人をダメにするクッションの上でだらけている。
ネルは入り口の近く、アミナは窓際と、だらけているが一応警戒してくれている。
スキルスロットの取り方に、EXBP、スキル熟練度の上げ方に、ダンジョンの永久機関、武器耐久値の減少防止に、さらにはスキルビルドのやり方と、家に帰ってからは一気に説明した。
「イングリットさんは、難しくなかった?」
「はい、難しくはありましたが理解はできました。それに、この情報を漏らしたくないというリベルタ様の意見にも納得できました」
元から真面目な性格の彼女からして、勤勉さが未知の情報を必死に受け入れようと努力し、自分なりにかみ砕き理解しようという働いた結果、理解できたといった感じか。
アミナは数字に弱いからなぁ。
真面目で頑張り屋だけど、勉強というと苦手意識が先走ってやる気が落ちてしまうから理解力という点では通知表に頑張りましょうと書かれるタイプだ。
難しいと言っているイングリットさんをアミナは少しだけ顔を起こして仲間のように見ていたけど、秀才タイプのイングリットさんの言葉にそんな!?と裏切られたとショックを受けている。
「ということで、俺の育成論で行くとこういう形になるわけで、当然だけど希望があればそれに準じた形で成長していくのもありだ。なんなら勇者にでもしてあげられるよ?」
「……いいえ、私はあなた様に仕える身です。分不相応の立場は求めません」
「一生に一度とは言わないけど、育成するのにはそれなりの時間と手間がかかる。やり直すには同じ手順をもう一度踏まないといけない。レベルを上げれば寿命が延びるけど永遠というわけじゃない。レベルを下げれば当然寿命は縮む。こういう時くらいは自分の好き嫌いで選んでもいいと俺は思うよ」
アミナは勉強頑張ろうなと言ってから、イングリットさんと向き合う。
メイド関連の育成論はあくまで現在の俺たちのパーティーで不足している部分を補填するように考えた構成だ。
イングリットさんが実は騎士になりたいとか、魔法使いになりたいとか、あるいはもっと別の何か、例えばケモナーになりたいと言えばそれはそれで受け入れる所存だ。
ゲームとは違ってキャラクリエイトのやり直しは人生のやり直しと同義、人生を消費してやり直さないといけないから慎重に考えるのは仕方ないことなんだ。
「正直に言えば、貴族の娘として礼儀作法を学び、いずれどこかの貴族の家に嫁ぐか奉公に行くことが決められていたのでこうやって選択肢を出されてもなりたいものがわからないのです」
「あー、そういうことね」
「ネル、わかるのか?」
「貴族様って、私たちよりも色々とできることが多いけど、逆に私たちと違って自由が少ないっていう話もよく聞くわ。特に家のつながりで結婚相手は決められるから、自分で選べないっていうのは有名な話ね」
「あ、それなら僕も知ってる。どこかの貴族の女の人が結婚相手が二回りも離れたおじさんで、それが嫌で修道院に入ったとか」
「あり得る話です。親が決めた縁談を断るということは家との絶縁を意味しますから」
「うわー、貴族っていうのも大変だ」
しかし、純粋に何になればいいかわからないと言われてしまえば、困ってしまう。
そして事情を聞けば、貴族の娘の未来は嫁ぐか奉公するかの二択が基本だと言われ、そういう環境であれになりたいこれになりたいと夢を見る方が難しいかと納得してしまった。
むしろネルが女商人で大成したい、アミナが歌姫となりたいと夢を持てることは庶民の特権と言ってもいいかもしれないとわからされた感じだ。
「そういうことで、それでしたらリベルタ様の提案された通りの戦闘型メイドとサポート型メイドですか?馴染みのある形に落ち着く方が私としてもやりやすいのです」
「うーん」
「ダメでしょうか?」
「ダメではない、ダメではないんだけど、本当にいいんですかね?」
「はい、問題ありません」
「それなら、どっちにするか決めちゃいましょうか」
「かしこまりました」
昨夜と同じ形でテーブルで向き合い、改めて考える。
「戦闘型とサポート型の違いは、スキル構成と基礎ステータスの割り振りに出ます。前者のスキル構成は戦うことを前提とした構成、後者はサポートをすることを前提とした構成です」
頭の中を整理することも兼ねて、俺もメイドビルドの構成を思い出しつつゆっくりと説明した。
この世界の紙は貴重品だけど、ないわけじゃないんだよ。
コピー用紙という質のいい紙はアミナが錬金術のスキルレベルを上げた際に作ってもらうとして、今はせっせと質の悪い紙にこれまた安い羽根ペンを走らせ必死に文字を書く。
うん、ボールペンという贅沢は言わない。
せめて鉛筆が欲しい。
インクで書くというのに手慣れてなさすぎで、字が汚い。
「代筆いたします」
「すみません」
「いえ」
結局、紙はイングリットさんの手に渡りそれをメモ帳のように使うことになった。
「スキル構成に合わせて、ステータスを割り振る割合も決まるので、まずは形を決めることが重要です。方針と言い換えてもいいです」
「方針ですか、リベルタ様質問をよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「現状、リベルタ様、ネル様、アミナ様の三人で冒険者パーティーを組むと考えておられるようですが、現在そのパーティーに不足しているのはどういった方面でしょうか?」
俺より手慣れて紙に文字を走らせ、必要なことを書きだした手が止まったタイミングで続きを話す。
そして、パーティー構成について触れてくるということはその手の知識もあるということか?
「現状で考えているのは、ネルが前衛のアタッカー、アミナがタンク兼バッファー、俺が前衛兼斥候ということになってますんで、足りないのは後衛、デバフとヒーラーに後衛アタッカーかあるいはサポーターです」
「そうなりますと私はそちらに回る方が順当かと思います」
「うーん、となるとデバフ型メイドも視野に入るか」
「デバフ型メイドですか?」
「サポートをしつつ、敵にデバフを振りまく役割のメイドです。純正のデバッファーと比べると性能は一段落ち、戦闘能力では攻撃力がほぼ皆無になりますけど、サポートと兼任しているのでパーティーの安定性は断然上がります」
選択肢を増やすようで申し訳ないが、メイドビルドは数多の開拓者が生み出した構成が山のようにあり、そして有用な構成が多数存在する。
時代によって栄枯盛衰で色々と更新されて変わっているが、その中で生き残り続けることができた構成も当然だがある。
「ですが、純粋にデバフを使いこなす方には及ばないのですよね?」
「良さはそれぞれあるけど、やっぱり劣る部分はできてしまいます」
「でしたら、中途半端なことはなさらず、リベルタ様が望む形でお願いします」
「俺が望む形ですか」
その中で作られたデバフ型メイド、メイドのサポート力とデバフ能力を兼ね備えた育成環境の難しさの割に、使い勝手がほどほどという中途半端なビルド構成。
パーティーの面々次第だが、使えなくはないというのが純粋な評価。
高火力よりも、安定性を重視している構成だから器用貧乏になりがちだ。
そこを指摘されてしまえば、推すことができない程度の構成。
そして望む形をと言われれば。
「それだったら、サポート型メイド一択です」
最初に述べた、サポート型メイドを推す。
正直に言えば、抜刀術を使いこなす超近接高速戦闘型メイドや、分銅や鎖鎌を使いこなす中距離戦闘型メイド、杖を持ち攻撃魔法を使いこなす魔法戦闘型メイドと心揺さぶられるメイドにも心惹かれる要素はある。
だけど、パーティーのことを考えるのならサポート型一択だ。
「イングリットさんがサポート型メイドになってくれるというのなら継戦能力が段違いに上がりますし、安定性も格段に上がります。なので本心で言えばこれになってほしいと思っています」
それくらいサポート型メイドは、縁の下の力持ちと言えるほどにパーティーを支えてくれる。
「かしこまりました。リベルタ様、私はこのパーティーを支えるメイドとなります。ご指導ご鞭撻の方よろしくお願いいたします」
そんな本心を打ち明けると、イングリットさんは迷わず、俺の選択肢を選んでくれた。
「ありがとうございます」
その事に素直に感謝する。
「いえ、感謝されることではありません」
謙遜なのかそれとも本音なのか、彼女の相も変わらずの無愛想が俺に判断させてくれない。
「それでリベルタ様」
「なんですか?」
「これにて名実ともに私はあなた様のメイドとなることが決まりました。これを機にその口調も正された方が宜しいかと。私はあなた様に仕える身になった者です。ネル様やアミナ様に話しかける口調で問題ありません」
「いや、俺平民で、イングリットさんは貴族ですし」
「その前に私の主人です。確かに使用人に丁寧な言葉を使う貴族もいますが、そういう方々は全ての方にそういう口調だと認知されています。リベルタ様は私が貴族だからという理由で敬語をお使いのようですが、メイドになることが決まったのでそこは改善していただかないと困ります」
無理矢理で困ってないかなと思っている俺の心配をぶち壊すように、堂々とメイドを名乗れるようになったことを口実に俺の敬語を撤廃するように求めてくる。
それを見て、あ、この人気にしていないと直感した。
「ぜ、善処します」
「その口調の段階で善処しておりません」
「はい」
そして意外と厳しいことを言う人なんだな。
貴族と言えば、親密になるまで少しでも敬語を崩せば好感度が駄々下がりになるようなキャラばかりだったからこういう形で敬語を無くさせるのはある意味で新鮮だ。
「…ねぇ、ネル。イングリットさんって」
「わからないわ。けど、もしかして」
何やらネルとアミナが通じ合っているが、俺には皆目見当もつかないような話だ。
「イングリットさんって人族だよね?」
「はい、人族でございます」
「獣人が親族にいたりする?」
「……遠い昔に、何代も前のご先祖様に犬系か狼系の獣人がいると聞いたことがあります。ですが、すでに血は薄れ、私の見た目は人族になっておりますが」
「「ああーー、それかぁ」」
しかし、何かを感じ取った二人はその理由を察して、納得したら二人はクッションから起き出てイングリットさんの側に行く。
「まぁ、ひとまずはこれからは一緒に色々とやるし、大変だと思うけどよろしく!」
「くじけそうになる時は言ってね、私は経験者だから色々とアドバイスできると思うし」
「はい、未熟な身でありますが、よろしくお願いします」
まぁ、パーティーの仲は良い方が良いよな?
ひとまず、新しいパーティーメンバーを迎えられたことを喜ぶことにするのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。




