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6 商売神像

総合評価61000pt突破!!

ブックマークも13000件突破!!


ご愛読ありがとうございます!!

 

「んー、無事に儀式を終えられてよかったですねぇ」

「そうですね」

「まぁ、イングリットさんは慣れているから、目新しさはないか」

「いえ、神々を交えた契約は毎回緊張しておりますよ」

「そう?」

「はい」


 シスターの説明通り、儀式を執り行って無事に契約を結べた俺たちは大聖堂の外に出ていた。


「さて、これでイングリットさんに色々と教えることができるようになったわけで。ちょうど帰り道にあることだし少し寄り道してもいいですか?」

「構いませんが、どちらに?」

「商売神の分神殿へ」


 向かう先は今住んでいる家とは別方向。


「分神殿ですか、何用ですか?」

「イングリットさんを強くするために売る必要があるモノがあるんだ」

「売る、ですか?私は今そのような物を持っておりませんが、もしかして契約の儀式に際して払ったお金の所為で財政が?」

「そういうわけじゃないんだ。それよりも、契約で縛った感じはどう?」

「……思ったより大変な制約ではありません。リベルタ様の情報を他者に教えようとしたら、私の中でこれは言ってはいけないと警告が入るようです」

「もうやったの?」

「いえ、契約を結んだ際に私の中に知識として入ってきました。おそらくこういうことをすれば制限がかかるということを神が知らせてくれるのでしょう」

「へー、意外と便利」

「はい、ですが、この契約を破ろうとするのは良くありませんね」

「そんなにペナルティがきついんですか?」


 歩きながら話すのは、さっきの契約の結果。

 大聖堂の儀式場で執り行われた契約の儀式では、司祭が祝詞みたいなものを捧げたら羊皮紙が光に包まれ、その光が三つに分裂してシスターの言う通り一つは空に、残り二つのうち片方は俺に、もう片方はイングリットさんの中に入った。


 その成果を確認すれば日常生活に支障が出るような感じではない。


「最初は警告、これを破ろうとすれば頭痛が走り、それを我慢してやろうとすれば心臓が痛み、さらにそれを我慢すれば体中から血が噴き出ます」

「冗談ですよね?」

「いえ、これが神罰です」


 しかし、背負ったペナルティは想像以上に重かった。

 段階を隔てている分、まだましかもしれないが、それでもイングリットさんに背負ってもらったものはかなりきついものがある。


 一瞬脳裏に、全身から血が噴き出たイングリットさんを想像してしまい身震いが走る。


「ご安心を、これでも口の堅さには自信があります。私が神罰を受ける可能性は皆無と言っても過言ではありません」

「でも、誰かに無理やり吐き出させようとされたら」


 立ち止まりはしないが、一歩後を控えて歩むイングリットさんの方を向けば、彼女の無表情が俺を見て、そして少しだけ口角が上がったような気がした。


 笑った?

 いや、笑ったように錯覚した?


「お優しいのですね。大丈夫です。その際には私ではなくその者に神罰が下ります。神との契約を反故させようとするのはそういうことです。ですので、リベルタ様もお気をつけてください」

「はい」


 いや、神様よ、そこら中に地雷を敷き詰めてはいないか?

 前世では考えられない実在する神様という存在が、ある意味で抑止力になっているのか?


「でも、やっぱりイングリットさん自身が自衛できるようにしないとダメかぁ」


 それでも抜け道はありそうな気がする。

 契約頼りの防衛は危険すぎる。


 結局のところ、ここまで覚悟を決めてくれた彼女へ責任を取ってしっかりと強く育てる必要があるわけだ。


「その話ですが、分神殿にリベルタ様の秘密があるのですか?」

「一部だけど、あるね。と言ってもこれは割と知られている話じゃないかな?分神殿ではありとあらゆるものを商売の神ゴルドス様に売ることができる」

「はい、存じております。神像に捧げる形になりますが、礼に失しない物でしたら捧げ物に対して貨幣が支払われます」

「それじゃぁ、レベルも売れるって知ってる?」


 イングリットさんがしっかりと約束を果たしたのなら、俺もやる覚悟を決めてこれからの予定を話す。


「……それは本当ですか?」

「あれ?知らない?」

「はい、初耳です。ステータスは生きるために必ず必要な物です。弱くなればできることもできなくなります。それを売り払うことなど」

「できるはずだよ。じゃないと、イングリットさんを〝完璧〟に強くすることはできない」


 FBO時代には、商売の神、ゴルドスの神像に祈ることでありとあらゆる物を売り払うことができた。

 武器や防具、薬や食物、珍品や鉱石、そして有形物だけではなく、自身に宿すレベルやスキルも売ることができる。


 だが、売ることはできても買うことはできないのは注意だ。


 今回はこの方法を使って、イングリットさんのレベルをリセットする。


 レベルをすべて売り払って、レベル無しに戻す。

 その際にスキルもすべて失うが、再度モンスターを倒せば問題なくレベルは上がる。


 視界に、目的地が見えた。

 俺は分神殿に入る前に足を止めて少し道の脇により、振り返ると、イングリットさんも俺に合わせて止まっていた。


「たぶんですけど、売り払うことも俺の意志が介在したらできないことです。なのでここで一つ選択肢を出そうと思います」

「はい」


 この選択は彼女の人生に大きな影響を与える選択肢になる。


「一つ、このまま分神殿に行きレベルをリセットする。この場合は俺が責任をもって完璧なステータスに仕上げてみせます」


 人差し指を立てて、まずは最初の予定の行動を示す。


「二つ、分神殿に寄らないで今のステータスの状態で育成を再スタートします。最初に言っておきますが、これでも十分に強くなれるとは思います。ですけど不完全です」


 二つと中指を立て、無難な選択肢を出す。


「三つ、何もせず、考える時間を得る。一旦家に帰り俺からどういう方法で成長するか聞いてから未来のことを見据えて考えることです。後でこうしたいという希望があればそれを叶えますし、あの時やらなかったからもうしないと約束を反故にすることはありません。だけど、その時間の猶予を俺たちは成長に充てますので、この場合は遠征に関しては待機してもらいます」


 三つ目と薬指を立てて提案したのは保留の選択肢だ。

 今すぐに決めるのも酷な話で、考える時間も必要かなぁと最後に付け加える形で用意した選択肢だ。


「どれにします?」

「……」


 彼女が悩んだ時間は数秒間。


「では、一つ目の選択肢でお願いします」

「いいんですか?」


 イングリットさんが選んだのは一つ目の選択肢。

 俺的には三つ目を選ぶかなと思っていたから意外だった。


「はい、リベルタ様の声のトーンから、一つ目が最良だと思われているご様子でしたので、もとより、この身はあなた様に仕えると誓っております。でしたら、最良の未来を選ぶまでです」


 そしてちらりと見えるこの覚悟を決める速さは何だろうか。


 即断即決。


 それを座右の銘にでもしているのか?


「わかりました」


 そんな彼女の決断を俺は否定しない。

 止まった歩みを再び動かし、分神殿に入る。


 分神殿は大聖堂とは違い、一柱の神を祀るための建物だ。

 その神殿ごとに神の特色が出ていて、この分神殿は商業の神、ゴルドスが祀られている。


 ゆえに、分神殿前の広場は市場のように賑わい、道で区分されどこもかしこも屋台が連なっている。


「賑やかですね」

「はい、ここは商人にとっては聖地のような場所ですから。駆け出しの商人には場所代を安くして提供しているとも聞きます」


 飲食屋台や、雑貨がメインで、イングリットさんが言う通り若い店主が多い。


 そんな賑わいを見せる屋台通りを通り抜けると分神殿の本殿が見えてくる。


「あれが、ゴルドス様の神像です」


 商売の神と言うだけあって、本殿もずいぶんと豪華で派手だ。

 金があるということを堂々と主張している。


 中に入るにはお布施が必要だが、商人からしたら少しでもご利益をもらえたらいい程度の感覚で支払っている。


 そしてその先には恰幅のいい男性の神像が中央に鎮座している。


「なるほど」


 イングリットさんの視線の先にある神像を俺はじっくりと見つめて、FBOの時と大差ない代物だと結論付けた。


「あれが捧げ物の祭壇ですね」

「はい、今もやっておりますね」


 そしてゴルドス神像の足元には祭壇があり、そこに捧げ物を置き祈るとすーっと消え去り、代わりに皮袋が置かれていた。


 ゲーム時代だと買い取り価格は据え置きで、NPC買い取り価格と大差なかった。

 当然だが、プレイヤー間でやり取りした方が儲けられるからここで物を売るということは一部の例外を除いてしていなかったな。


 手ぶらな俺たちが、その捧げ物の祭壇の列に並ぶことを不思議そうに並んでいた商人たちが見ていた。


 ここに並んでいる商人たちは、どちらかと言えばお金を稼ぐために並んでいるのではなく、ゴルドス神から戴く貨幣を求めて並んでいる。


 要はお守り代わりだ。

 神様と商売したことで得られた貨幣を商売繁盛のお守りとして皮袋ごと大事に保管しておくとか。


 列に並んでいる間の、待ち時間の時間つぶしにイングリットさんが教えてくれた。


 なるほど、確かに神様からもらったお金、しかも商売の神様となればそのお金自体にご利益がありそうだよな。


「次の方、おや、参拝でしたらここではなく手前の場所ですぞ?」


 そんな列を並んだ先、列を捌いているのはこの神殿の神官だ。

 ただ、この神殿の神官というより、商人のような恰好をしている。


 そんな男が手ぶらな俺たちを見て、場所を間違えたのかと思ったのか誘導しようとした。


「いえ、問題ありません。捧げ物はここにあります」


 それに対して、イングリットさんが成長途上で見た目からしても膨らんでいる自身の胸に手を当てて捧げ物はあると示す。


「なるほど、でしたら祭壇の方にどうぞ。彼は?」

「付き添いです」

「わかりました。でしたらあなたも一緒にどうぞ」


 男の神官の視線は一瞬であっても彼女の胸に行ったことを見逃さない。

 いや、イングリットさんの仕草の所為と言えば所為なのだが。


 そこら辺も気をつけないとなと、思いつつ、祭壇の前に移動し、そこで跪く。


 と言っても俺の祈りは形だけ、何も売る気のない俺はとりあえずお疲れ様ですとだけ心の中で唱えていると、前の方からどさりと、今までの捧げ物とは比べ物にならないほどの売り上げを示す大きさの皮袋が現れた。


 同時に辺り一帯がどよめく。


「リベルタ様、終わりました」


 そんな騒ぎを気にせず、彼女はすっと祈りの姿勢を解いて祭壇に乗っている〝大きい〟皮袋を手にして俺に声をかけてきた。


「うん、それじゃぁ。巻き込まれる前に帰ろうか」

「はい」


 誰もかれもが驚愕しているだろう。

 何も持っていないのに、見るからに大金を得ている。


 イングリットさんに視線が集まり、何人かこっちに向けて話しかけようかと動き出そうとしている。


 それに巻き込まれたら面倒なので、そそくさとその場を退散。


 本殿を出て、市場の中に紛れ込んでしまえば早々追いつくことはできないだろう。


「イングリットさん、大丈夫ですか?」

「はい、少し体が重い程度です」

「その皮袋は俺が持ちますよ、今のあなたはステータスがない状態なのだから」


 商売の神の神像を使うことによるレベルのリセット。

 その影響で、少し小走りで走っただけでイングリットさんの額には汗がにじみ、息も切れ気味だ。


「ありがとうございます」

「このまま家まで帰ります。今は体の調子を確かめることに集中してください」


 今まであったモノが無くなる。

 その感覚に戸惑っているイングリットさんから皮袋を受け取り、空いた手で彼女の手を引く。


「かしこまりました」


 そこまでして、数歩歩きだしたあたりで冷静になった。

 手を引く必要はなかったのでは?


 ちらりと振り返ってみれば、イングリットさんが何かと首をかしげるだけ。

 嫌がっている様子はない。


 ゲーム時代、俺もレベルリセットした際に操作性が一気に変わってこけた経験があった。


 徐々にステータスが上がり、そして慣らしていた感覚が一気に鈍化したのだ。

 できると思っていたのが急にできなくなる。


 慣らすのにさらに時間が必要になる。


 それを知ってたから咄嗟に手を引いて歩きだしてしまった。


「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です」


 今さら、やっぱりなしということで手を離すこともできない。

 やってしまったのなら仕方ない。


 帰りの道中、できるだけ人に見られないことを祈りつつこんな日もあるかと、今日は少しだけゆっくりと歩く。


「イングリットさん」

「なんでしょうか?」

「明日から忙しくなりますよ」

「かしこまりました」


 そんな帰り道の俺の頭の中と言えば、彼女のスキル構成について考えていた。


 うーん、悩むな。


 戦闘型メイドか、サポート型メイドか。



楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ここまで読み進めても、やっぱり設定年齢間違えてる気がしてならない。 思春期来てるじゃん、主人公。 12歳程度で、メイドちゃんが15歳くらいならすんなり読めるのにもったいない。 それとも地球基準の成長…
レベルはリセットする事でしか売れないのかな? 10レベルだけ売ります的な事は出来ないみたいな? ちょっと便利な神様システムだよね~。
そこはお姫様抱っこで袋事運んであげるが、漢だよリベルタくん
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