5 契約
総合評価が60000pt突破!!
ありがとうございます!!
契約という、俺の知らないこの世界のシステム。
イングリットさん曰く、この契約を行うと契約者同士は神の名によって縛られるらしい。
そんなシステムは当然だが、FBOには存在しなかった。
決闘の駒と言い、契約と言い、神関連になると途端に俺のゲーム知識が役に立たなくなる。
「まさか、こんな形でここに来るとはなぁ」
「リベルタ様は大聖堂にお越しになったことがあるのですか?」
「……ええ、昔ちょっと」
ネルとアミナには、買い出しに行くと言い。
イングリットさんと二人で出かけた先は、スタンピードの際に王都民の避難所にもなっていた大聖堂だ。
見上げるほど大きな建物、ゲーム時代に親の顔よりももしかしたら見たかもしれない建物だ。
ゲーム時代はリポップ地点として大活躍した施設だが、この世界では蘇りなんて聞いたこともないのでこの世界の神々を崇めるための施設になっている。
そんな施設に来たことがあるのかと聞かれ、ゲームの時と言うわけにも言わず、前に来たことがあるというだけで誤魔化した。
幸い、そうですかとイングリットさんは深追いしてこなかった。
そういえば、ここはリポップ地点として扱われていたが、この世界に蘇生魔法はあるのだろうか?
現場で復活するために、ゲーム時代は蘇生魔法も普通にスキルであったが、この世界だとどういう扱いになるのだろうか?
これで死者蘇生ができるスキルだということになると、とんでもないことになりそうだけど。
「リベルタ様?」
「あ、すみません。行きましょう」
「はい」
どっちにしろヒーラーを育成できる環境ではないから、その考察は後回しでいいか。
じーっと大聖堂を見続ける俺に首をかしげてどうしたのかと聞いてくるが、首を横に振って何でもないと装いイングリットさんの先導で大聖堂に入る。
あの騒動があって、混んでいるかと思ったが避難民はほぼいなくなっているから中はそこまで混雑していなかった。
「ようこそおいでくださいました。礼拝ですか?」
大聖堂の大きな扉の前には白いプレートアーマーの騎士が常駐していて、あの騎士は国に仕える騎士ではなく神聖騎士と呼ばれる大聖堂に所属する騎士だったはずだ。
信者の中でも選りすぐりの実力者だけがなれるとゲームでの設定ではあった。
そんな彼らが警護する出入り口を通って、受付らしいテーブル前に立つ。
出迎えてくれたシスターはゲームの時と変わらない黒いシスター服に身を包んだ少女だ。
「いえ、本日は契約の儀をお願いしたく」
「失礼ですが、契約の儀式は神との神聖な行いです。そのため誰でもというわけには」
「私はグリュレ家のイングリットです。こちらが家紋状になります。それとこちらは、少ないですがご寄進です。どうか神のためにお役立てください」
「これは、確かにグリュレ家の…わかりました。司祭様に確認いたしますので少々お待ちください」
ゲーム時代では、プレイヤーたちが復活して素通りするのを黙々と眺めるだけのNPCが配置されるだけの場所だった。
考察班がこの大聖堂でなにかイベントがないか調べたが、この建物内で発生するイベントは見つからなかった。
自称名探偵を名乗る、考察トッププレイヤーが見つけられないと豪語するくらいにここに配置されたNPCは少なく、侵入可能エリアも少なかった。
大聖堂以外のところで何かイベントを起こさないと発生しない系だとも思われたが本当に何もないのだ。
ただリポップするためのだけの場所。
そんな場所で、この世界では寄進をすれば何かが起きるなんて思いもしなかった。
あの袋の中に入っているのは、五千ゼニ、日本円で五十万円だ。
契約なんて、ファンタジー系の世界観ではお約束のモノなんだけど、この世界での契約の儀式はイングリット曰く、多額のご寄進と信用のできる者だけしか許されない神聖なモノだとか。
お金は俺が用意して、契約に関して言えばグリュレ家はこの契約の常連の一族らしい。
生真面目に約束を守るために命を懸ける、そのために大聖堂の司祭にも顔を覚えられていて、当日予約なしでも寄進さえすれば契約の儀式を執り行えるとか。
曰く、王族であってもこの契約の儀式には予約が必要らしい。
「おお!イングリット殿。お久しぶりですな!」
「司祭様、ご無沙汰しております。お元気そうで」
「うむ、そなたがここに来たということは」
「はい、契約の儀式をお願いしたく」
「本来であれば、そう簡単にできるものではないがほかならぬグリュレ家の頼みだ。あい分かった。一時間後に契約の儀式を執り行う。その間に契約の内容をそこの者に伝え書面に起こしてくれ」
「わかりました」
そして本当に顔パスなんだな。
え、グリュレ家って本当にどんな家なんだ?
イングリットさんは真面目だけが取り柄の文官の家系だと言っていたけど、この対応って超VIPだよな?
FBOのネームドの中にはグリュレ家なんていなかったぞ。
そもそも、ゲーム時代でも教会との関わり合いが強いキャラはかなり重要なポジションが与えられていたはず。
もしかして、原作前に滅んだ?
「…?リベルタ様、どうかしましたか?」
「いや、すごい対応だなと」
「誠実さだけが取り柄でございますので」
その誠実さにつけ込まれたとすれば、ありえないとは言えない。
ふと思ってついイングリットさんの顔を見たが、そんな未来の可能性を知らない彼女はいつも通りの無愛想で首をかしげるだけだった。
だから俺も誤魔化すように、司祭の対応が丁寧だなと感想を漏らしたのであった。
「それでは、儀式が始まるまでに契約の内容を明記させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
「お願いします」
「今回は、イングリット・グリュレ様とリベルタ様のお二方で契約を結ぶということで間違いありませんか?」
「はい、間違いありません」
そのあとは、別室に案内されシスターが書記官になり、羊皮紙のような物に羽根ペンで文字を書き込み始めた。
「契約内容について詳細を」
「私、イングリット・グリュレがリベルタ様から教授される情報の一切を他者に教示することを禁止すると」
「……期間に関してはいかがいたしますか?何もないのでしたら一生涯ということになります」
手慣れているのか、そのまま羊皮紙に迷いなくシスターは書き込み、疑問を挟むことなくこれで良いかとイングリットさんに確認し、その文言を見た彼女は頷き、次に期間はどうするかと聞かれた。
「一生涯で問題ありません」
「かしこまりました。ほかにはありませんか?」
「リベルタ様、何か追加でございますでしょうか?」
これで、俺がイングリットさんに与えた情報は漏らさないという確約につながる。
決闘で見た、ダッセ何某の頭を押さえ痛がる姿を思い出せばそれで十分だと思ったが。
「質問があります」
「はい、なんでしょうか?」
少し不安があった。
なので、質問することにした。
「この契約の場合、どこまでを教授と捉えるのでしょうか?」
「どういうことでしょう?」
「例えば、明日の天気を自分が晴れだと言った場合は、情報を教えたということが適用されます。日常的にそういうことはよく起きると思います」
「そうですね」
「そうなると、とある知識を教えてそれを他者に伝えてほしいとした場合は伝言も不可能になるということですか?」
「……そうなる可能性が高いと思われます。神の御意思次第ですが、今回の場合はリベルタ様からイングリット様に教授されるもの全般を指しております。なので仮に知識面でイングリット様の知識内容がリベルタ様の情報で上書きされた場合はそれを他者に教示することはできなくなる可能性があるかと」
案の定このままの状態で契約したらとんでもないことになるところだった。
下手したら生活に支障が出るでしょこれ。
「それじゃぁ、追加をお願いします。自分が許可した情報のみ期間を指定して教示することができると追加してください」
条件付きで情報を開示できるようにする。
「リベルタ様、よろしいのですか?」
「ああ、これでいい」
そうすれば後で、修正できるし、応用も利く。
その対応にイングリットさんは初めて、表情を変えた。
と言ってもわずかに目を見開かせるだけだったが、それでも驚いたということは十分に分かった。
「わかりました。では、他にはありませんね?」
「はい、私の方からは何も」
「自分も大丈夫です」
「かしこまりました。ではこちらの方で血判を」
譲渡する必要があるから、そういう行動をしただけなのだが驚くほどのことだろうかな?
それよりも、血判と来たか。
いや、神様の裁定で契約するのだから当然と言えば当然か。
シスターから差し出された、針を受け取りジッと針先を見るとなかなか鋭い。
「まずはここに自分の名前を書きます。そしてこのようにするのです」
やり方がわからない、そう思ってじっと見ていた俺を見かねてイングリットさんが先に手本を見せてくれた。
羊皮紙の下の部分に自分の名前を書き、そして軽く針を親指の腹に刺し、じわっと血が出てきたら針を抜きその血を使って名前の最後尾のところに押し付けた。
血の指紋がついたのを確認してそっと離したら。
「お手を」
「はい」
シスターがその指を綺麗な布で拭き取り、そこに回復魔法をかけてすぐに治療していた。
「できますか?申し訳ありませんが、これも儀式の一環に入っておりまして自分の意志で行ってもらわなければ意味がありません」
「?無効になる場合があるのですか?」
「はい、薬や酒で意識が混濁している方、脅されて無理やり行われる方と理由は多岐にわたりますが、基本として自分の意志でない場合は契約が無効になります。その場合儀式が成立しません。儀式が成立すればこの紙が神に捧げられ光となり、そしてその光は三つに分かれます。一つは神のもとに、残った二つがお二方に入り、それで契約が完了となります」
「成立しない場合はどうなりますか?」
「神の炎でこの紙が燃やされ、それで終わりです。その炎は紙を燃やし尽くすまで決して消えませんので、そうやってこの契約は無効だと示してくださいます」
「なるほど」
そういう感じで、不正を防止しているのか。
なるほどなぁ。
とりあえず、羽根ペンを握って自分の名前を書こうとしてぴたりと止めた。
「どうかなさいましたか?」
リベルタで大丈夫だよな?
一応この世界ではこれで名乗っているし、自分もそのつもりだ。
しかし、もし前世の名前の方が正解だとしたらそっちを書くべきか?
「いえ、その…俺は諸事情で自分の名前を変えています。今はこの名前が自分の名前だと思ってますが前の名前で書いた方が良いですか?」
「そういうことですか、貴族の方で家から離れる際に家名を捨て名前を変える方もいますので、変えた名前で署名していただいて問題ありません。一応聞きますが、偽名ではないのですね?」
「はい、この名前で生活しています」
「なら神もお許しになるでしょう」
「わかりました」
シスターに確認して、一安心。
さらさらとリベルタと書いて、そしてイングリットさんの真似で左手の親指に針を刺し、血がにじんで出てきたのを確認して、そっと名前の最後尾に押し付けた。
「……結構です」
そしてしっかりと二人分の血判を確認したシスターは改めて俺とイングリットさんの顔を見た。
「これより、保護魔法をかけます。これ以降は一切の変更が認められませんがよろしいですね?」
「はい」
「大丈夫です」
「かしこまりました」
最後の仕上げに、魔法によって羊皮紙が淡く光った。
保護魔法、アイテムの耐久値減少を抑えるためのスキルだったはず。
状態維持という意味で加筆も認められないということか。
こういう使い方もできるのか。
もしかしてほかのスキルも別の使い方ができるかもしれないな。
「終わりました。では、あとは司祭様が儀式の準備を終えるまでここで待機をお願いします。あちらに水がありますので自由にお飲みください。それでは私はこれで」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「いえ、これも神に仕える者の務めでございます。あなた様方に神々のご加護がありますように」
儀式の下準備はこれで終了、思わぬ発見を得てラッキーだと思いつつ、シスターが出ていくのを見送った。
「リベルタ様、お水はいかがでしょう?」
「もらいます」
「かしこまりました」
後は待つだけ、さてはて、俺の知らない儀式とはどういうものだろうか。
少し楽しみだけど、同じくらいに怖くもある。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
木のコップに入れられた水を受け取って、それを飲む。
ひとまずは落ち着いて待つとしようかね。
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