36 EX 次代の神 2
総合評価53000pt突破!!
今話で今章は終了です!次話より新章突入します。
今日も今日とて天空の盤面は、神々のたむろする談話室となっている。
各々世界のシステムの一端を管理するという仕事を抱えているが、そんなものはすでに何千年と繰り返し続けている業務だ。
仕事内容など頭で考えるよりも早く、体が条件反射で行い、そして的確に処理して見せる。
「ねぇねぇ、南のー」
「……」
ゆえに神たちは暇を持て余す。
システムの管理は片手間で済む。
だからこそ、娯楽に飢え、暇を忌避し、どうやって悠久とも言えるような時間を過ごすか悩むのだ。
北の神、アカムが南の神ケフェリにウザ絡みするのもある意味神々にとってはよく見る光景だ。
子供っぽい態度を、読書でスルーする。
これもいつもの光景だ。
「えー?無視?無視するんだぁ!!君の英雄が下りたかもしれない国が大変なことになっているのに~?」
少年のような容姿を持つ北の戦闘神アカムは、頬を膨らませ、そして南の大陸で起きている大惨事を指さした。
「確かに、このスタンピードは中々見ない規模ですね」
「むぅ、吾輩として懸念するのはこれでどれだけの損失がでるか。東で起きなくてホッとしますな」
神の目から見ても、なかなかの規模のスタンピード。
世界が滅ぶほどではないゆえに神は達観しているが、地に住まう人からしたら間違いなく脅威であることは間違いない。
だからこそ興味を引き、そして。
「……」
盤面に目も向けず、手元の本に視線を落とし続ける南の神、ケフェリを観察している。
いまだにどこに南の英雄がいるか把握していない神々にとって、この沈黙はある意味で不気味だ。
北の神のウザ絡みにも反応せず、自身が配置した英雄の安否にも気に留めず、黙々と書物を読み漁る彼女はある意味いつも通りである。
「ねぇねぇ、東の西の、南の反応どう思う?」
「いつも通りと言えば、いつも通りではあるな」
「偽装しているという線は薄いですね、彼女、嘘をつくことはありますけど意外とわかりやすいですし。本当に興味がないのかもしれませんよ?」
「えー、っていうことは王都には英雄はいないっていうこと?」
その態度が擬態かそれともありのままの姿なのかという判断は出来ず、そのまま次に知りたかった南の英雄の位置を確認するが、南の神は前とは別の書物を読んでいて表情からそれを察することはできない。
「そうとも限りませんが……」
「このような危機に現れない英雄がいるか?仮に地位の低いものであってもこれは名誉を得るためのチャンスである」
「そうなんだよねぇ、普通に考えたらこんな出来事滅多に起きないから暴れまわっていると思ったんだけどなぁ」
なので、南の神の態度から察することを諦めた三柱は盤面をじっくりと見てそこに英雄がいるかどうかを確認する。
「これはどう?なんかドラゴンゾンビと戦っててめちゃくちゃ暴れているけど」
「老齢過ぎませんか?」
「むぅ、英雄の誕生のタイミングはある程度決められるがズレるにしても限度がある」
金棒を振り回す女性を指さして北の神は残りの二柱に確認するがそれはないと二柱も首を横に振る。
「この方はどうでしょう?」
「騎士であるな」
「さっきのおばさんよりは若いけどさぁ、それでもそれなりの年齢じゃない?」
次に西の神が、街を駆け抜け市民を助けモンスターを蹴散らす騎士を指さすが、姿は若く見えつつも年齢的には違うと北の神は首を横に振った。
「であれば、いや、何でもない」
「根拠言ってあげようか東の、ゴーレムを操ってるのが少年だからっていう安直な発想でしょ?」
次に恰幅のいい体を揺らして東の神ゴルドスは王都の一角でゴーレムに乗り暴れる少年を指さしたが、すぐに違うと首を横に振った。
言いかけた言葉を引っ込めた理由に察しがついた北の神はニヤニヤと笑い、そして盤面を指さした。
「たぶん違うよ~だってこの街、あちこちでゴーレムが暴れまわってるもん。それこそ、ここにも、あ、ここにもいるねぇ、あ~こっちにも、あそこにもいた。これなんて子供が遊んでるみたいじゃないか」
ゴルドスが指した少年以外に五体のゴーレムが街で暴れてモンスターを倒している。
兵器とは違う、オーダーメイドのゴーレム。
少年の乗るゴーレムよりも高性能でなおかつ、モンスター相手にも無双している。
「わかっているのである」
根拠が不確かで、なおかつ少年自体も貴族らしき少女に連れられテントの中に入ってしまったことも相まってその少年も違うと判断した。
そしてそのままその少年から視線を切った。
「となるとー、本当にどこにいるんだ?ほかにめぼしい人なんていないよ?」
「そうすると本当に王都ではなく、地方に配置したということになります。僻地にて修業を積み、そして成長してから表舞台にだすという形になることもあり得ます」
「しかし、それでは情報収集ができないのである。僻地は確かに誰にも邪魔されずに鍛錬を積むにはいいかもしれないが、情報を遮断してまでやることであるか?」
「そこで書物を読みふける彼女は知識を司る女神ですよ?特典として知恵を与え外の情報を不要としたらどうでしょう?」
それ以外に活躍している人もちらほらといるが、英雄と言われるほどに活躍しているかと言えば神でも首をかしげてしまう。
となれば、本当に王都にいない可能性を考慮せねばならなくなってきた。
「うわー、それありえそう。南のが見つけてくるような英雄だから特典は大図書館で僻地に設置してそこで勉強してたりして」
「ありえそうであるな」
「禁書を置いていないか不安ですね」
「実はすでに禁書を読んで発狂して終わっている?」
「……まさか」
「いえ、それなら」
想像は妄想を呼び、予測という名のからかい交じりの雑談。
沈黙していることを良いことに、南の神の英雄に関して好き勝手に言うがここまで言われても南の神はちらりとも三柱の方を見ない。
「自滅してるっていう線はないでしょ。それだったら南のがここにいる理由がないし」
「そうですよね、さすがに」
「だが、南のの場合だと普通にここに居座っていてもおかしくはないのである」
完全に疑心暗鬼になっている。
南の神ケフェリの性格を知っている三柱からしたら、ここまでの会話のすべてにケフェリならあり得るという可能性を秘めているために誰もが確信を得ることができない。
あーでもない、こーでもないと暇つぶしでそれぞれの英雄のことはいったん放置して、いまだ姿を見せない南の英雄について談義しているうちに。
「ああ!!もう!!本当にどこにいるんだよ!!王都の防衛戦が終わっちゃったじゃないか!!」
「結局のところ、現地の戦力だけで対処しましたね。突発的な戦闘で対応が遅れ、さらに戦力が分散していて対応しきれていない部分がありましたが途中から持ち直していました」
「しかし、なぜ急にあそこまで立て直せたというのである?」
「その詳細はわかりかねます。ですが、優秀な指揮官がいたのは確かですね」
「そいつが英雄って可能性は?なんだかんだ言って、貴族の子供とかなら親のコネを使って指示を出して戦況を変えるっていうこともできるかもしれないし」
王都でのスタンピードに収束の兆しが見えてきた。
モンスターの数が減り、襲撃も散発的になってきた。
本隊が倒されたあたりで、どの神の目線で見てもスタンピードは落ち着きを見せている。
「でもさぁ、それっぽいのはいなかったよ?だいたい戦っていたのは兵士か、騎士か、冒険者、あとは襲われて反撃してる市民に一部変なのがいたけど、貴族連中はだいたい屋敷の防備を固めてたじゃん」
「一人、市民のもとに駆け付けていた少女がいたである」
「ああ、彼女ですか。兵を引き連れてモンスターの群れの中に突入したのは見事ですが、能力が特段優れているようには見えませんでしたよ?用兵術も魔法も人よりも優れていると言えますが、突出しているほどでは」
残すはスタンピードの根本のダンジョンだけ。
そちらも、南の大陸の騎士団がモンスターが減ったことをチャンスととらえ、一気に攻略するために動き出している。
被害は出るだろうが攻略はできる。
その結末が見えた神々は、一度盤面から目を逸らして、再度考えをめぐらすが。
「ねぇ南の、本当に英雄呼んだの?さすがにここまで静かだと君が用意できていないのをごまかすためにブラフをかましている様にしか見えなくなってきているけど」
「……答える気はない」
「あ、しゃべった」
結論は出ないという結論に至り、ダメもとでヒントでももらおうと北の神が南の神に問いかけると、うるさいと迷惑そうに眉間に皺を寄せて本を閉じて顔を向けた。
「私の英雄がいるかいないかなど考えている暇があるのなら、自分たちの足元でもしっかりと固めてみたらどうだ?北と東は得た力を笠に着て、北は部族抗争、東は権力争いが起きているではないか」
「「うっ」」
そしてさんざん言われてきた腹いせに、反撃のための口撃を開始した。
南の神の言う通り、北と東の英雄は今絶賛トラブルに見舞われている。
「お前もだ西の、南に騒動が起きたのは事実だが、西の大陸も平和と言うわけではあるまい」
「……耳が痛いです」
英雄が現れるところに動乱が起きるとはよく聞く話だ。
北の大陸は多種多様の獣人がその土地の種族ごとに治めており、絶妙なパワーバランスで均衡を保っていた。
だが、英雄を抱え込んだ部族の武力が突出し、そのパワーバランスが崩れた。
東の大陸は、英雄が持った特典が莫大な財を生み出すことによってその所有者を巡って権謀術数の暗闘が始まってしまっている。
そして一見平和そうに思える西の大陸でも似たようなことが起きている。
「ずいぶんと耳心地の良い言葉を使っているようだな。正義心、善良性を尊重したことが仇とならないことを祈っておく」
「誰に祈るの?」
「吾輩たちが祈られる側であるのにな」
「皮肉だ、気づけ」
誠実な人柄というのは時には、争いの種にもなることがある。
特に伝統という経験に基づく行動に嫌悪感と違和感を覚え、それを変えねばと責任感にかられると行動が苛烈になってしまう。
本を読んでいるだけではなく、盤面には常に目を向けている南の神。
全ての神が順調にことを運んでいるわけではないというのを把握していた。
さんざん言われてきたのだ、この程度の皮肉くらいは許されてしかるべきだと判断した南の神は言いたいことを言い終えて、再度読書に戻ろうとした。
「ケフェリ」
「なんだ、メーテル」
だけど、意識がこちらに向いたタイミングを逃さなかった西の神がそれを止めた。
「前々から思っておりましたが、ずっと何を読んでいるのですか?この世界にあなたが熟読するような書物が残っているとは思えませんが」
てっきり、南の英雄について聞かれるかと思ったが、これ以上英雄に対して詮索してもいたちごっこになるだけだと判断した西の神は、いつも通りであるが、違和感のある部分を指摘した。
「これか?とある筋で手に入れた暗殺者の物語だ」
「とある筋?」
「ああ、なかなか面白い。こういう発想ができる奴が増えれば、この世界ももう少し面白くなるだろうがな」
前に見ていた書物と異なり、妙に濃い顔の男が描かれている表紙を見せているケフェリの表情はさっきまでの不機嫌さからかけ離れて少し自慢気に語っている。
どこから手に入れたかは語らず、だが、知識の神である彼女が面白いと太鼓判を押す書物。
メーテル自身も暇を持て余す身だ。
ちらっと盤面を見て、自身の大陸の情勢と気にすべき南の大陸は観察をしていれば問題はないと判断し。
「興味がありますね、私にも貸していただけないかしら?」
「お前が?」
「ええ、あなたが面白いというのでしょ?」
普段であれば、このようなやり取りをしないのだが、西の神メーテルも気まぐれで頼んでみる。
「まぁ、良いだろう。ほかの視点からの感想も気になる。お前ならこれがちょうどいいだろう」
断られるかと思っていたが、存外に素直にケフェリは大量の書物を用意した。
それは某少年誌に掲載された玉を集めると願いが叶う世界の物語であった。
「私はすでに読んだ。貴重な書物だ、汚すなよ」
「あの、見たことのない言語で書かれているのですが」
「辞書だ。私の手製だが、それで読める」
「ええー」
その本の量に目を見開き、一冊手に取って開いてみれば文字だらけの書物ではなく絵と文字が混在した書物であり、それは精巧につくられている。
しかし、知らぬ言語に困惑し、神であってもいきなり未知の言語を理解することはできない。
なので暇つぶしも兼ねて、素直に貸してくれた知恵の女神の辞書を片手に数百年ぶりに西の女神は書物を読みふけるのであった。
今章は終了です!次章より、新キャラを出します!!
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




