35 ありがたみ
総合評価51000pt突破!!
まさかこんなに早く5万点を突破できるとは思いませんでした。
感謝感激です!
今さらになって冷静に考えてみれば、ゲーム時代はだいぶ恵まれていたと思う。
特にイベント関連はそうだ。
運営と言う神から事前情報を貰えていたからこそ、正確にメタを張れていたと言っても過言ではない。
「これで、おしまい」
だけど、今の現実ではそんな神の啓示的な事前情報など存在しない。
イベントごとにどんな敵が来るか予知できるような匂わせの情報などない。
過去のイベント傾向から次に来るボスの予想などできない。
何月何日からイベントを開始しますなんて襲撃の予告なんて当然ながらない。
この属性で行きますなんて、相手の弱点を教えてくれるような情報もない。
思えばゲームというのはあくまで楽しむために創られた世界だ。
「……恵まれてたんだな」
南門のドラゴンゾンビを蹴散らすことができたことによって、商店街での防衛戦は終わった。
商店街の面々は歓喜で雄叫びを上げて、生き残ったことを喜び合った。
その喜びの宴に俺も参加できていれば良かったんだけど。
『まだ、終わっていませんわ』
エスメラルダ嬢の笑顔とともに発せられたこの言葉とともに、俺は何故か最前線に連行された。
連れてこられたのは、俺がスタンピードの本隊の襲撃を予想した北門だ。
そこにはこの世界では映像越しにしか会ったことのないエーデルガルド公爵が仁王立ちしており、それは彼がこの北門の指揮官として派遣されたからだというのを示していた。
いや、大貴族の当主が最前線で指揮をとるなんておかしいだろと内心ツッコミを入れたが、どうやらここまで俺が指示を出してきていた戦果が丸々公爵の功になったようで、どうせなら最後までの対応を王から指示されたという。
それならばと、映像でのタイムラグのある戦闘方式よりも断然現場で直接会話をしながらの対応の方が便利ということで、エスメラルダ嬢の護衛とともに現着したわけだ。
なぜ?なぜに?
俺、一般人、そして平民の子供。
ちょっと中身が大人な精神が入っているだけの変わった子供よ?
そんな言い訳を心の中でしつつ、頭ではそりゃ被害を最小限に抑え込める方法が目の前に転がっていたら当然だけど使いたくなるよね。
俺が権力者でもそうするよ。
まぁ、FBOでもいたけど下手にプライドの高い貴族キャラだと、そこら辺が邪魔して俺を使おうという発想がまず思い浮かばず、自分でできるはずと思い込んで多大なる損害を出してから別の誰かにバトンタッチという最悪局面が爆誕する。
そして有能キャラが起死回生の一手を打って劇的な逆転を披露するというストーリー展開がお約束だ。
「堅実な作戦指示だったな」
「現実に博打はいりません。淡々と効率的に敵を処理するそれに限ります」
だけど、今回は有能な上司な上に、さらに無能な外野が邪魔したりしないような環境を用意してくれているから非常に快適であった。
やっぱり指示はトップダウンが一番だよ。
公爵家という大権力を背にして虎の威を借りる狐モードで対応すればどんな貴族でも素直に言うことを聞いて動いてくれる。
と言っても俺が直接指示することはないですよ?
俺もいらぬ恨みは買いたくないので。
「賢者の知識は伊達ではないということか」
「いや、だから自分賢者じゃないですよ」
「では、その知識はどこから手に入れたというのだ?」
「努力と根気という血と汗と涙の結晶です」
「……地味ですわね」
「それが事実なので」
安全になったとは言い難いが、それでも危険度は格段に下がった城壁の上で滅んでいくモンスターの群れを眼下にこんな雑談をできるくらいに迎撃は余裕だ。
公爵閣下の権力は絶大だ。
正直に言えばゲーム時代でもこれだけの権力を駆使できればNPCも動員してもっと楽に攻略できたかもと思わなくはない。
城壁の上からバリスタの斉射と探照灯ばりに眩く光る極大の光の明かりスキル。
そこに、トッピングとしてちょっと矢に細工している。
毒じゃないよ?アンデッド相手だと毒なんて意味ないし。
樽に解呪のポーションを貯めて、そこにバリスタの矢を差し込むというシュールな光景が広がっているだけだよ。
その矢を逆光で見えなくして打ち込めば北門に向けて攻めてくるオーガゾンビどももあっけなく仕留めることができた。
たぶんあれが敵の切り札なんだろう。
だけどね。
アンデッドって一応強キャラな部分も確かにあるけど、そういうアンデッドってだいたいが害悪って呼ばれるようなデバフの塊のような存在なの。
ただ脳のリミッターを解除して、ステータスごり押しにして数で攻めるなんて馬鹿なの?って言うくらいにイージーゲームだよ。
メタ張ってしまえばこんなものだ。
おかげで俺の知識の出所を聞かれるくらいに余裕な態度を公爵閣下も醸し出しているよ。
こういう時って、普通切羽詰まっていて俺の素性を聞く暇がないという展開なのだろうけど、正直城壁に取りつく前にゴブリンも、ホブも、オーガも、バリスタで蜂の巣にしてしまえば遠距離から仕留めることができる。
いや、動きは速いんだけどね。
何体か城門や城壁に取りつけていたけど、こっちも兵士の数がそれなりに揃っているんだよ。
アンデッド特有のタフさも、こっちが万全なら頭上からの攻撃で少数なら楽々対処できる。
「では、娘とともに這竜を倒した方法もこうやってアンデッドの軍勢を撃退した方法もその努力の結果だと言うのか?おまえのような子供が?」
「失礼ですが公爵閣下、机の上で勤勉に学んだだけでこうやって実戦で役に立つと思いますか?生憎と自分はそう思いません、何度も何度も泥臭く失敗してその失敗を糧に学べてようやく使えるようになると思います」
徐々に減るモンスターの軍勢、このままいけばあとはスタンピードの根本原因であるダンジョンの攻略にも手掛けることができるだろうな。
「……」
「なんでしょうか?」
「いや、お前のような年ごろの子供が私のような貴族相手にしっかりと考え自身の道理を語ることができるかと思ってな。エスメラルダよ、お前はこれくらいの年頃の時にここまで弁がたったか?」
「さて、どうでしょうか?公爵家の娘として学ぶ姿勢だけは損なわないように心がけておりましたわ」
本当ならここまで手伝う気はなかった。
なんだかんだ言ってここは国の中枢だ。
自分の周りさえ守っていればいいかと、考えていた。
だが、エスメラルダ嬢と出会ったことでそういう他人任せの態度をゆるされない運命になったのだろう。
こんな形でエーデルガルド公爵閣下というネームドキャラと出会うとは思わなかったし、自分の行動の結果で誰かが犠牲になるのが嫌だったから自重もほとんどしなかった。
そんな俺の行動が傍から見れば子供らしからぬ存在に見えてしまっても仕方ないよなと理解と納得を自分でしてしまっている。
だけど、自分のこの知識は賢者という訳の分からない役職ゆえに手に入れたものではない。
泣いて笑ってと、山あり谷ありのゲーム生活で人生を懸けて手に入れたモノだ。
公爵閣下やエスメラルダ嬢に言った血と汗と涙の結晶だというのは俺の本心だ。
それを説明した結果、語るに落ちたなという視線で見られても知らん。
「リベルタ」
「はい」
「我が家に仕えろ」
「……」
「地位も名誉も用意しよう。それを即断できるくらいお前の知識は稀有であり貴重であり、そして危険だ。お前の行動は人に影響を及ぼしやすい。何を持っているかはこの私をもってしても測りきれん。そして娘が必死に私にお前を登用しろと、例外を作れと食い下がってきた理由は今回の騒動で理解し納得もできた」
そして、ついに言われたかぁ。
途中から公爵閣下の俺を見る目がガラリと変わったのは通信越しでもわかった。
「……」
「お前は聡い。私の言葉を理解している。そして感情的に否定してもダメだということも理解している」
だからこそ、こんな勧誘をしてくるんだろうな。
だけど、知っているんだよなぁ。
貴族家とつながりを持つことは大幅なアドバンテージを手に入れることができると同時に、多大なデメリットも持つ。
ゲームでその現実を嫌というほど知って、俺はゲームをするときは一定のキャラ以外は近寄らないように心掛けてきた。
近づいたのは個人的に好意を持ったキャラだけだ。
「……はぁ、そこまでわかっているなら自分の返答もわかっているでしょう?」
公爵閣下の前でため息を吐くなんて無礼千万だけど、この人はこの程度のことを気にするような人ではない。
「個人としてはお前の気持ちは理解もできる。納得もできよう。だが、私はこの国を支える貴族だ。公爵という立場の者としてお前を放置することはできん」
僅かな希望として、断れないかなと遠まわしに尋ねてみるが、わかっているだろうと言われてしまっては、どうしようもない。
公爵閣下の言う言葉はもっともだし、俺でもそうする。
「……」
どうするかなぁ。
最悪、この国を出て逃げるという選択肢もあると言えばある。
罪を犯したわけでもない。
住み慣れ始めて、なおかつ愛着が出てきて、さらにはここに住み着いた方が効率的なのが一目瞭然。
出ていく方がデメリットが目立つという状況がより一層、俺の選択肢を奪う。
「リベルタよ、勘違いするな。私はお前の自由を奪うつもりはない。わずかな時間お前と接して分かったが、お前に愛国心というものがないのはわかっている。今回私の命令に従ったのは善良な心に従っただけだというのもわかっている」
悩んでいる俺に手を差し伸べてきたのが、悩みの張本人じゃなければ素直に喜べたんだけどなぁ。
黙って話を聞くしかない俺は、一旦モンスターを掃討している光景から目を離して、公爵閣下の方を見る。
公爵閣下も戦場から俺の方に視線を向けてきた。
「下手にお前の機嫌を損ねれば、近しく親しい仲間とともにこの国を出奔してもおかしくない。それでは我が国の損が大きすぎる」
そしてその視線はちらりとエスメラルダ嬢を見た。
そのあとにこぼれるのは貴族としての顔ではなく。
「何より、お前に不遇を強いたら娘から嫌われる」
父親としての困った顔だ。
いや、あれこれと建前を並べていたけど、最後の言葉が一番本音っぽいのは何故だろう?
あれか、エスメラルダ嬢と公爵閣下は互いに俺を囲い込もうと画策していて意見は一致しているけど待遇面でぶつかり合っていたのか?
「んー」
ある程度自由にしていいのなら、むしろこの国で活動するなら公爵閣下の庇護下に入るのは良いかもしれない。
「貴族の家臣としての役目とか果たせませんよ?」
「その辺は期待しておらん」
「戦争とか嫌ですし」
「モンスターの対応で手を貸してくれれば問題ない」
「あれもこれもと頼まれるのは嫌なんですけど」
「そこは応相談だな」
ゲームの時と違って、いろいろと面倒事が増えているのは間違いない。
学園に入るのなら、ある程度の貴族との関わり合いは必要かぁ。
「正直に言って、何を求められるかわからないのが一番不安なんですけど」
政争の道具とかにされるのが一番嫌だ。
どろどろの貴族社会に入りたいとは欠片も思わない。
「知恵を、私はそれを貸していただければいいと思っております」
「エスメラルダ」
「お父様、隠し立てしても仕方ありません。それ以上を求めないと言えばウソになりますが、かといって一番欲しているモノを隠す必要性も感じません」
そんな世界に片足どころかどっぷり浸かっている公爵閣下の思惑が見えない。
「……リベルタよ。この後の言葉は他言無用だ」
公爵閣下のことはゲーム時代でもそこまで深堀されていたわけじゃない。
娘を溺愛し身内以外には冷酷。
そんなイメージの人だ。
外伝ストーリーがあったわけでもない。
過去に何があったかは、イリス・エーデルガルドがかいつまんで教えてくれるだけだった。
そんな人物から誰にも言うなという言葉が出てくる段階で厄介ごと確定なんですけど。
「我が家以外の三公爵家に不穏な影がある」
はい、ほかの公爵家という話が出た時点で厄介ごとですよねぇ!?
子供に何を言おうとしているの!?
「嫌そうな顔をするな」
「小市民の子供に何を言っているのだと、普通言われるような内容を言われれば仕方ないかと」
「お前をただの子供とは思っておらん」
子ども扱いして、いや、この場合は俺がどこぞの頭脳は大人な名探偵の子供みたいにぶりっ子を演じれば……だめだ。
頭がおかしくなったかという視線にさらされて終わる未来しか見えん。
「その公爵家を抑えるためにお前の知恵、力を貸してくれ」
「私からもお願いします。リベルタ。どうか」
そして、そんな幼稚な言い訳でこの二人の真剣な頼みを断れるほど、俺は薄情じゃない。
「……条件があります」
頭の中で算盤を弾き、メリットをどうにか計算し、デメリットを差し引いた結果。
「その条件次第では、協力しますよ」
断るという選択肢はなかったが、巻き込まれるのならその環境を存分に活用させてもらおうということで自分を納得させるのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




