33 レイド戦
総合評価47000pt突破!!
ブックマークが1万件突破!?
まことに感謝いたします!!
まったくもって、なんでこんな理不尽なことをなんで俺がしないといけないのだとつくづく思う。
「次は、南の交差点の方に兵士を配置して、あ、その際には火魔法の攻撃スキルを使える人材を最低二人は参加させてください」
『わかったすぐに向かわせる』
面倒極まりない。
エーデルガルド公爵というネームドキャラと出会って、そこからはとんとん拍子に軍師の真似事のようなことを権力によって遠まわしに頼まれ、しぶしぶながら、やるとしたら真面目に、通信しながら少しずつ戦況の立て直しをやっている。
「リベルタ君、君の言う通り東門の敵がだんだんと数を減らし始めているよ」
「北門の警戒を厳にしてください。ジェフさん、北門を越えて偵察を。飛行型敵性存在はいないと思いますけど、いたら即座に撤退を」
「わかったよ」
しかし、最初話すときは緊張してたけど、話してみるとゲーム時代と比べてずいぶんと温和な態度だな。
これって、エスメラルダ嬢が無事だからだよね?
確かゲームのストーリーだとこの人だいぶ王家とバチバチにやりあっているほど剣呑だったし、プレイヤーと会話しているときなんて価値があるかないかの二択を迫る冷たい目をしていた。
それが、使えるのなら子供でも使いつつ、下の意見をしっかりと聞く有能貴族になってる。
イリス・エーデルガルドが昔の公爵は優しかったと言ってたが、まさにその通りか。
正直、こうやって彼に指示を出すこと自体ゲーム時代の印象がちらついて戸惑いそうになるけど。
「リベルタさん、次はどのようにしますの?」
「北西の部隊を南下させてモンスターの流入を止めます。これでひとまず、南門からのモンスターの流入は止められるはず」
その都度、エスメラルダ嬢が俺に発言を促してくる。
たぶんだけど、貴族相手にしり込みしているのではと思われている。
実際はゲームと現実とのギャップに戸惑っているだけだ。
『少年、南門のドラゴンゾンビはどうするつもりだ?モンスターの流入を止めたはいいが、アレをどうにかせねば門を封鎖することなどできぬぞ』
それでも頭は冷静に、報告と言う名の情報だけでどうすればこの戦況を巻き返せるか考えている。
数多のレイド戦を経験してきたのがこんな形で役に立つとは思わなかった。
「策はあります。ドラゴンゾンビを相手にするにはもう少し準備が必要です。現場の兵士には牽制攻撃で時間稼ぎを指示し、体力と魔力の温存をさせてください」
その知識が下す現状の戦況はこちらがやや不利と言ったところだ。
「それよりも、モンスターの種類の詳細調査の進捗はどうですか?」
『うむ、君の言う通りだった。ゴブリンゾンビの中には一切魔法種がいない。代わりにゴブリン、ホブ、ナイト、ソルジャーは確認できた』
「となると……オーガゾンビは確認できてないですね?」
『ああ、今のところ報告にはない』
しかし、その不利な状況も徐々に解消されつつある。
相手の軍勢の構成。
モンスターの種類と言えばいいだろうか。
「確認されたのはゴブリン、ホブ、ナイト、ソルジャー、ドラゴンゾンビ。それ以外の獣型のアンデッドモンスターなどは確認されていないということは、相手はやはり……」
現地で確認できているモンスターの九割はアンデッド化しているゴブリンの軍勢だ。
これから推察できることは、ゴブリンダンジョンを奪ったのはアンデッド種のモンスターだ。
『君の推論から確認を取った、流浪のモンスターで討伐が確認されていないのは西で確認されていたデュラハンだけだ。そのデュラハンがどこかで発生したゴブリンダンジョンを簒奪したというのはまず間違いないだろう。ダンジョンボスの座を簒奪すればそのモンスターは進化することができ、ダンジョンの属性もそのモンスターの属性に染まる。ここまでは理解できる。だが、短期でここまでの規模のスタンピードが発生するものなのか?』
そしてそのモンスターに心当たりはあった。
てっきり討伐されたと思っていたが、その討伐から逃れたデュラハンが一体いたようで、冒険者ギルドにも未討伐の報告が上がっていた。
そのモンスターがおそらくダンジョンを簒奪した。
ここまではいい。
問題なのは、簒奪したと言えど、ここまでの短期でこれ程の規模のスタンピードを起こせるはずがないという部分だ。
「スタンピードが起きる条件はいくつかあります。メジャーなのは放置による時間経過。これはこの際説明を省きます。今回の規模のスタンピードが起きた原因は間違いなくオーバードーズが原因です」
『オーバードーズ?それは薬物を過剰摂取するときのあれか?』
「はい、と言っても今回はダンジョンの中に過剰な力を持ったモンスターが入り込んでという意味でのオーバードーズですけど」
FBO時代、ダンジョンの鍵はプレイヤーにとって身近で密接な関係だった。
なにせレベルを上げるにしても装備や道具の素材といったものを手に入れるのにしても、一番効率的なのがダンジョンなのだから仕方ない。
そんな存在であるダンジョンを調べる者がいないかと言われたらFBOプレイヤーなら否と答える。
なにせ、いろいろな隠し要素があると噂されるFBOだ。
ダンジョンにもいろいろとあるだろうと邪推するのは難しくない。
そして案の定、プレイヤーたちはいくつかの特性を見つけることができた。
「ダンジョンでのオーバードーズは、ダンジョンボスよりも格上のモンスターが二体以上いると発生する現象です」
『二体以上だと?報告ではデュラハンは一体だけだと聞いているが』
「いたんでしょうね。どこぞから流れてきた竜種が、でないとアンデッド軍団の中にドラゴンゾンビなんて代物が混じるわけがないです」
『!?』
そのなかでオーバードーズ、別名が蟲毒と呼ばれるダンジョンを無理矢理進化させる方法を見つけた。
高ランクのダンジョンほどレアリティの高い素材を落とす。
しかし、高ランクダンジョンの鍵ほど入手効率が悪い。
となれば低ランクのダンジョンを高ランクにする方法がないかと模索する輩もいるわけで。
「偶然か必然かは今はどうでもいいです。問題は勝敗です。デュラハンと竜種が戦えば普通は竜種が勝ちます。ですけど、今回のスタンピードの相手はアンデッドの軍勢、勝ったのはどういうわけかデュラハンだったというわけです」
元々発見されていた、時間経過でダンジョンが規模を拡大させ、飽和したモンスターがスタンピードを起こすという仕様を元にプレイヤー達は考察し、流浪と言う名のフィールドを徘徊できるようになった高位モンスターがダンジョンに入り込みダンジョンボスを殺すという仕様も発見した。
「おそらくデュラハンのスキルの首切りがクリティカルヒットして勝ったんでしょうね。おかげでデュラハンは竜種の経験値を得て、そして進化したのでしょう。その闘いの現場が平原とかのマップ上であればそこで終わりです」
ダンジョンのボスを流浪モンスターが倒すと、ダンジョンのボスが代わる、そんな仕様を見つけた際に、とあるプレイヤーが一つの疑問を抱いた。
「ですが今回の現場はダンジョン、ダンジョンの簒奪という不運にライバルという存在が重なった結果が今のこれです」
簒奪者が討伐したモンスターからダンジョンの鍵を手に入れた場合、使うか使わないか。
前に、ダンジョンの中で大量の経験値獲得のループ現象を発見したプレイヤーが居たのを思い出していた。
それはプレイヤーだけができる技ではない。
「おそらく、ダンジョンの中にダンジョンがあります」
ダンジョン内にドロップしたアイテムを流浪モンスターが使えないと誰が決めた?
おそらくだが、ゴブリンダンジョンを支配したデュラハンは、ダンジョン内で殺し合ったドラゴンが偶然ドロップしたダンジョンの鍵を使って。
「そしてそのダンジョンから無限ともいえるほどの経験値を得続けてダンジョンを進化させてます」
『!?』
「すなわち、このまま放置し続けると限度はありますけど、最終的にはかなりまずいことになりますねぇ」
ダンジョンボス自身がレベリングしている。
これ、FBOでも仕様が判明してクソだと断じる人もいれば、相手が強くなって程よいタイミングに狩ればいい素材収集方法になるのでは?とダンジョンボス育成論を出す奴もいた。
すなわち今の状況は、デュラハンが占拠したダンジョンボスの広間に別のダンジョンが生成されていて、そのダンジョンにダンジョンボスが挑んでいるという最悪の循環環境が出来上がっている。
ダンジョンボスとは文字通り、そのダンジョンの主。
そのダンジョンボスが経験値を得れば当然だけど、ダンジョンにも経験値と言う名のエネルギーが供給される。
エネルギーが供給されるとどうなるかと言えば、防衛機構であるダンジョンが成長し、モンスターが量産される。
そしてエネルギー供給源は経験値豊富な竜種ときた。
そりゃ、こんな大惨事が引き起こされるわけだ。
モンスターの編成が物理寄りなのもデュラハンというモンスターがアンデッドの中でも物理アタッカー寄りだからだ。
魔法種を生み出すための下地がないんだよな。
現状の危険性で言えば、まずデュラハンのクラスは通常種なら3だ。
ここにどうやったかわからんが、最低クラス5の竜種を討伐しているので、おそらく通常種の上位種であるデュラハンライダーになっている。
クラスは4、これでも竜種を倒すにはまだ実力差があるが、このデュラハンライダーの厄介なところは自力で倒したモンスターを使役する能力があるのだ。
倒したモンスターを騎獣にできる能力。
それゆえにライダー。
倒したのは最低限でも、クラス5の沼竜、這竜、飛竜のいずれかだ。
すなわち、クラス5の戦闘能力を持った配下を手に入れたということになる。
ドラゴンゾンビになってもクラスアップしないのは幸いだ。
ダンジョン内は基本的に、ダンジョンの鍵を落としたモンスターと同格のモンスターが徘徊し、定期的にリポップする。
そしてさらに格上のダンジョンボスが待機しているというわけで。
現状を考えれば。
「最悪、クラス6のダンジョンボスを相手にする必要があるかもしれません」
『災害級だと!?』
デュラハンは、クラス5の竜を狩り続けて、同格のクラス5に上がるだろう。
そうなってくると次の進化先である、ロイヤルデュラハンになる。
同格ではクラスアップはしないので、きっと次々にダンジョン内のモンスターを使役していって数を揃えたところでダンジョンボスに挑むはず。
「ちなみに今さらですけど、ドラゴンゾンビってどんな姿してました?それによって、対応がかなり変わるんですけど」
『飛竜だ』
「あー、一番マシか」
どの最下竜でも対応はできるけど、飛竜であるのなら一番対処がしやすい。
『災害級のダンジョンが生み出されそうな状況で、一番マシと言えるとは君の頭の中はどうなっているんだ?』
「現状を打開しようと必死に頭を回している最中ですよ」
そもそも、飛竜のダンジョンであるのなら攻略は早々にできないはず。
いかに配下を揃えようとも、ドラゴンゾンビとなったワイバーンは飛べない。
翼は腐り、穴あきだらけの翼でどうやって飛べと言うのだ。
代わりに、リミッター解除した炎のブレスを吐くから火力的に見ればかなり高い。
そのブレスによって南門が壊されたのか。
「デュラハンが飛竜ダンジョンのボスを攻略するまでの猶予はあります。なのでその猶予の間にゴブリンダンジョンを簒奪したデュラハンを攻略すればこのスタンピードは落ち着きます。スタンピード本隊の北門への襲撃はおそらく夜になってからですので、こちらの当面の作戦としてはそれまでに南門のドラゴンゾンビを倒します」
飛竜ダンジョンのボスはクラス6の風竜だ。
広大なボスの間にある空を舞い、風魔法を得意とする竜だ。
空を飛んでいる風竜を、数を揃えたとはいえ対空ブレス攻撃と剣しか攻撃手段のないデュラハンの軍では攻略できない。
「あとは、南門の修理と北門の迎撃さえできれば王都に攻め込むスタンピードの波はそこでいったん終了です。一息つけますので、態勢を立て直してから、あとは反撃でダンジョンめがけて出発して攻略できれば……」
勝ち目は見えた。
再生の目途もたった。
「これ以上何もなければどうにかなるかぁ」
「不吉なことは言わないでくださいまし、そういう発言から何が起こるかわかりませんよ」
「失礼しました」
気を抜くなと言われても、かれこれ一時間以上慣れない指揮を執らされて反撃までの道筋を作ったのだ。
ついつい気が抜けてしまっても仕方ないだろ。
エスメラルダ嬢にたしなめられたけど、さすがにこれ以上のことが起きるとは思えない。
フラグとかそういう運命的な話ではなく、物理的にそれができないのだ。
スタンピードによって、王都周辺のモンスターがゾンビたちに根こそぎ駆逐されてしまって、王都に襲い掛かれるモンスターがゾンビたちしかいないのだ。
ゲーム内ではよく、モンスターイコール仲間同士的な描写があるけど、この世界ではモンスター同士はモンスター同士で敵対している。
同族しか仲間ではないというのが常だ。
今はスタンピードの湧き地点も周辺のモンスターがゾンビたちに一掃されていて、何かが起きるという心配はモンスター側にはない。
あるとすれば人同士のトラブルだけど。
「それでは、これ以上何も起きないように、王都内の戦力の手綱を握ってください。よろしくお願いします」
フラグクラッシュをするのは俺ではなく。
『むぅ、やるしかあるまい』
公爵様という、偉い人のやるべきことだ。
子供に頼り切りと言うのはメンツが立たないだろう。
俺もこれ以上手伝う気もさらさらないしな。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




