32 小さな賢者
総合評価44000pt突破!!
ブックマークも9000件!?
ご愛読まことに感謝します!!
ご感想に竹槍が多いですが、こんなに反応してくれるとは思いませんでした。
色々と見ていただきありがとうございます!!
一時とはいえ戦線から離れるのは不安だけど、今ならエスメラルダ嬢が連れてきてくれた兵士もいるし、他の誰かに聞かせるわけにはいかないので、防衛線のなかで救護室になっているテントを借りる。
幸いまだ怪我人がいないから外に見張りを立てて話せるということだ。
「それで、現状はどうなっているんですか?」
時は金なり。
今は雑談している時間も惜しい。
「状況はひっ迫していると言っていいでしょう。南門に突如としてドラゴンゾンビが現れてから形勢は敵方に傾きました。こちら側は内外からくる敵の対応をせざるを得ない状態で、ほかの門の戦線を維持するので手一杯です」
「ダンジョンの討滅に戦力が割けないほど?」
そして深刻そうな顔をしているあたりで、嫌な予感がしていたが本当に悪い予感が当たるのは心境的にはよろしくない。
「いえ、それは別の戦力があります。不幸中の幸いと言えばいいでしょうか、それとも不幸があったからこそこの窮地に陥っていると言えばいいでしょうか」
俺としては、このまま商店街で耐えつつダンジョン攻略を待つつもりだったんだけど、それが期待できないと計画そのものを変えざるを得ない。
「どういうことで?」
「今回の襲撃で王都の防衛が手薄になっているのは、複数の騎士団が遠征や交代で移動している隙を突かれた結果です」
「ええと、国防的な意味の情報ですよね?それ、俺が聞いていい話です?」
状況はいささか複雑のようで、困り顔でも美人なエスメラルダ嬢は溜息を吐きつつなぜか俺に重要なことを話し始めた。
俺的には今どこが危険で危ないとかの、現地情報を聞きたかったのに、そんな戦略的背景情報はいりませんよ?
「ええ、むしろ是非にと」
そして笑顔でこんな重要な情報を教えてくるあたりで俺の中でピーンと予感的なものがひらめいた。
「もしかして、現状打開を俺にさせようとしてません?」
「……」
「笑顔で誤魔化そうとしないで!?無理無理絶対に無理!!俺子供、平民!!そして低レベル!!どうあがいてもこのスタンピードは規模がけた違いすぎて手に負えませんって!?」
「それでも、竜を屠ったあなたに期待しなければならないほど今の国に余力はありませんわ」
このお嬢様、表では恩に報いて助けに来たという体を装いつつ、裏では俺にこのスタンピードの鎮圧の知恵を吐き出させに来たか!?
「あれは、達成可能な条件が重なっただけで」
「普通の子供はいかに条件が重なろうとも這竜を倒そうなんて思いませんわよ」
「いやぁ、できるからやっただけで」
「そもそもの話、這竜を低レベルで倒せると思いさらに実行できることが普通ではありませんわ」
さすが貴族汚い!!
利用できる奴は何でも利用しようとする魂胆が汚い!?
いや、国を守るために何でもやるという思想は素晴らしいけど。
利用される側からしたら迷惑なんだよなぁ。
「リベルタ」
「うっ」
そして、真剣なまなざしで見ないでほしい。
あまりにも推しキャラとそっくりな顔つきに、思わずうなずきたくなる。
「お願いします。助けてください」
そして貴族として傲慢にならず平民相手に頭を下げる。
「……はぁ」
そこまでされてしまえば、力の片鱗を見せてしまった責任を果たす必要があると思ってしまうじゃないか。
「状況を教えてください、戦力含め細かいことをすべて」
「はい!すぐに用意させますわ!!」
まったく、ずるいなぁ。
地獄に光明を見たと言わんばかりに推しキャラの顔を輝かせられると、頑張ろうと思ってしまう自分の下心に呆れる。
準備万端と言わんばかりに、テントの中にすぐに大きな地図が貼り出された。
そこには彼らがここに向かう前に集められた情報がぎっしりと書かれている。
「私が屋敷を出る前に集めていた情報ですわ」
「ここまで来るまでの所要時間は?」
「おおよそ半刻ですわ」
「となると、ジェフさんたちからも報告は入っていないからそこまで戦況の変化はないはず」
そこには各門に配備された人員の人数はもちろん、誰が指揮し、どこにどういう被害が出ているか。
残存戦力に、さらに被害状況、現在のモンスターの流入状況と事細かく書かれていた。
といっても、ゲーム時代のようにリアルタイムで仲間で連携して通信することで情報が流入してくるわけじゃない。
こうやって考えている間も刻一刻と情報は劣化し続ける。
「となると、まずは……」
打てる手はすべて打っていかないといけない。
「そうなると、問題は……」
戦力を見る限り、まだ逆転する方法はある。
地図と一緒に持ってきた名簿を見れば、俺の知っているネームドキャラもいる。
方法は思いつく。
「連絡手段がない」
しかし、その方法を伝える手段がない。
今この場所はモンスターの流入をせき止める最奥だ。
そして周囲にはモンスターがあふれている。
とてもじゃないが伝令でどうにかなるとは思っていない。
「その点は問題ありませんわ!!」
「へ?」
ブツブツと考えをつぶやいていたら、エスメラルダ嬢が腰の鞄に手を伸ばした。
「それって!?」
「ええ、我が家に代々引き継がれた家宝の一つ、マジックバッグですわ」
ゲーム時代、プレイヤーのクレームランキングの常時十位以内に入っていたインベントリ問題。
普通のゲームなら多数のアイテムを持ち歩くことに困らないようにインベントリという便利な空間を所持していることが多いけど、FBOの運営は何故かそこら辺はアナログ思考で、鞄や馬といった騎獣をつかって荷物を運べと無理を強いてきた。
どう見ても持ち運べねぇだろ!!というイベントアイテムもあってその救いを見つけるのに躍起になっているプレイヤーが数多くいた。
そのなかでお約束の便利アイテムであるマジックバッグ。
中身の容量と重量を変化させることができる摩訶不思議な鞄だ。
それを手に入れるには高ランクダンジョンのレア素材をふんだんに集めて、そして高レベル職人の手によってのみ作れるというクソ仕様のハイスペック設計のものかもしくは、
これぞFBOと言わんばかりのNPCの隠しイベントを攻略し、好感度を上げてどうにか手に入る小容量のものか、マジックバッグはこの二択でしか手に入れられなかった。
「そ、そんなに怖い顔で見ないでください」
「あ、失礼、ちょっと過去のトラウマが」
プレイしていた当初はてっきり存在しないかと思っていたが、とある職人系プレイヤーがマジックバッグを完成したとSNSに報告したときの記憶は今でも鮮明だ。
歓喜しその直後に添付されているレシピを見て乱数チャレンジが多すぎる素材のラインナップに発狂したのだ。
その記憶の所為で思わず凝視してしまい、エスメラルダ嬢を引かせてしまった。
反省反省。
……今回の騒動を鎮圧できたらもらえないかな?
「あげませんわよ!?」
「何も言ってませんよ?」
「語るに落ちるとはこのことですわ。目が語っておりましてよ?」
「これは変なことを、目は見る場所です」
「もう!話が進みませんわ!!とにかく、これを使えばあなたの言う方法を試せますわ!!」
その欲望に危機感を覚えたエスメラルダ嬢がとっさにマジックバッグを背後に隠してしまった。
誤魔化すように言葉を選んだつもりだったけど、自分でも目が泳いでいる自覚がある。
FBOプレイヤーならだれでも通るトラウマを語れば、きっと同志なら理解してくれる。
エスメラルダ嬢が持っているアイテムの価値を。
そしてそんなエスメラルダ嬢がマジックバッグから取り出したのは水晶玉だ。
「……占いスキルはちょっと持ってませんね」
「そういうものでもありませんわ!!いいですか!この球を机に置きまして魔力を注ぎます!」
「ふむふむ」
それは俺も知らないアイテムだ。
いや、正確にはそれと似たアイテムは知っている。
占いスキルという、当たるも八卦当たらぬも八卦という、ネタスキルを使うためのアイテムだ。
しかし、よくよく見るとところどころ違う。
占いスキルでつかう水晶玉は透明だけど、この水晶玉は若干青みが入っている。
『む、エスメラルダか!?』
「はい、お父様、お待たせしましたわ」
そしてこんなダンディなお顔で、少し若いけどすごく見覚えのある顔を表示するような機能は存在しない。
『通信がつながったということは見つかったのだな?』
「ええ、無事に合流でき彼の作っていた拠点に身を寄せておりますわ」
『ふむ、この状況で安全地帯を自力で確保しているとは』
「はい、やはり私の予想は正しかったかと」
親子、その時点でこの水晶の先にいる御仁がだれかは明白。
グルード・エーデルガルド公爵。
ゲーム時代はちょび髭が似合うおじ様だったが、この時代は髭がない。
『……では、彼が?』
「はい、賢者です」
ち・ょ・っ・と・ま・て
「誰が?」
「あなたがです。リベルタ」
そんなことを暢気に考えている場合ではない。
なぜか、俺は賢者になっていた。
そんなモノ名乗った覚えもなければ、俺はバリバリの前衛職で魔法なんてマジックエッジしか覚えていないぞ。
そして広範囲魔法を覚える気もない!
「??????」
『当人には全く自覚がないようだぞ』
「仕方ありません。賢者というのも私たちが勝手に呼んでいるだけですわ」
『しかし、エスメラルダよ。娘の言葉を信じないわけではないが、この困り顔を披露する少年が本当に這竜討伐の指揮を成し遂げたのか?』
「ええ、間違いありません。神に、そしてエーデルガルド家の家紋の獅子に誓って」
それなのにもかかわらず、なぜか賢者と呼ばれているのか解せん。
そしてさらりとエスメラルダ嬢、とんでもない誓いを立てるんじゃありません。
それって、貴族として命を懸けるって言っているようなモノでしょ!?
俺、それイベントで知ってるんだからね!!
やだぁ!!これってかなり責任重大っていうことじゃないですかねぇ!?
なに国の運命を子供に任せようとしているの!?
『そうか、ならその言葉に殉じよ。誓いの言葉を損なったときはわかっておるな?』
「はい、この戦場で散る覚悟はできております」
だから重い!!重いんだよ!?
こちとら中身はただのゲーマーなんだよ!?
色々と修羅場を潜ってきたと言ってもゲームの中でなの!!
『ならば良し、それでは少年、たしか』
「り、リベルタです」
そしてこんな話を目の前でして俺が断れないのも計算づくだとしたら貴族ってやっぱり汚いよねぇ!!
『そうか、リベルタ。今から君の言葉には我が娘の命が乗る。それを重々承知の上で献策してくれ』
「は、はい!」
内心で毒づき、けれどもここまで来て怖気づくわけにもいかず。
覚悟を決めて、ここからの巻き返しを図る。
「戦力図を見ながらの説明になりますが、よろしいですか?」
『よかろう、こちらにも同じ物がある、それとすり合わせる』
重要なのは、いかにして効率よくモンスターを撃退し、そして安全地帯を確保し続けるか。
まったく、俺がやっていたのはVRMMORPGだというのに、なんで戦略シミュレーションみたいなことをやっているんだ?
「ひとまずやることは、東門の戦力を使って防衛線再構築です」
『だが、東門にも敵はいる。防衛を手薄にすれば破れるぞ』
「東門の敵は囮です。今以上の数は来ません」
まぁ、レイドバトルを何度も経験していると相手の行動パターンは予測できる。
南門にドラゴンゾンビを投入してきたということは、敵さんの本隊は〝北〟だ。
西に大量のモンスターをぶつけて視線を西に集めて大型モンスターであるドラゴンゾンビを南に投入、これでこちら側は南が本命だと思う。
実際そうやって騙された経験があるからなぁ。
FBOのイベントのレイド戦は、底意地が悪い運営のおかげで疑心暗鬼になることが日常茶飯事だ。
モンスターっぽくない動きと言えばそれまでだけど、ダンジョンボスは一定以上進化すると知性みたいのが芽生える設定だった。
だからこそ、こうやって裏をかくような動きもやってくる。
最盛期には凶悪に育ったプレイヤーによる殲滅戦がメインになっちゃったからその知性もあまり役に立っていなかったけど。
『どうしてそう思う?』
「俺が敵なら、こちらの注意を四方の門に散らせて戦力を分散させて、それぞれの位置に兵力をくぎ付けにして相互に援軍に行けなくします。そのあとに一ヵ所を瓦解させて、そこに主力をかき集めさせて、そこから正反対のところに本命を叩き込んで一気に全体を瓦解させます」
『ドラゴンゾンビが、主力じゃないと?』
「このモンスター構成ならドラゴンゾンビはあくまで前座ですよ前座」
そして相手の行動パターンはモンスター構成を見れば割と読める。
ゴブリンゾンビ軍団だけで構成された軍団であれば、もうちょっと絞るのに時間がかかったけど、ここにドラゴンゾンビが加算されるのなら相手のボスはだいぶ絞れる。
「本隊は、別にいます」
確定情報になるまでもう少しモンスターの情報が欲しいが、まずは戦線の復活を最優先だなぁ。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




