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31 商店街防衛戦線 4

総合評価41000突破!!

5万までいけるか!?


ハイファンタジーランキング月間すべて2位獲得!!


皆さまの評価とブックマークそしてご感想のおかげでまだまだ頑張ります!!


 

「来ます!!」


 上空で警戒しているジェフさんの叫び声に待ち受ける俺たちの顔に緊張が走る。


 ゴクリとつばを飲み込んでから俺はニッと笑って振り返る。


「大丈夫!!しっかりと手順通りやれば安全ですから!!」

「坊主に心配されるほど耄碌してねぇぞ!!なぁ!」

「ああ!」


 ギリギリ準備が間に合った。


 ゴーレム万歳。

 下手な重機よりも役に立った。


 掘り返した土はバリケードに転用して、そのバリケードの後ろには商店街の男たちが槍を構えて待ち構えている。


 商店街の道を普段なら買い物客が歩いていたはず。

 だけど、いま歩いてくるのは傍迷惑なモンスターたちだ。


 キョロキョロとあたりを見回す、青白い肌のゴブリンたち。


 赤黒い瞳をぎょろぎょろと動かし、獲物を探す。


「アミナ、頼む!」


 その姿に商店街の男たちの誰かが息をのむ。

 場の雰囲気に飲み込まれる前に俺は叫び、その叫び声で俺の背後が明るくなる。


「任せて!!」


 簡易的に作ったステージ。


 かき集めた木箱を集めて、土台にしてその上に板を置き、釘で打ち付けたというだけの簡素な舞台ステージ


 アミナのデビューステージとしては質素すぎるような気がするけど贅沢を言ってられない。


 さぁ、聞けよゴブリンども。


 お前たちには贅沢な歌姫の声を。


『♪~』


 アミナの声が歌へと変わる。


 歌唱術に加えて、アミナが買ってきてくれたスキルを見て最初は目を見開いた。


「力が湧いてくるぜ!!」

「ホントに坊主の言う通りだな!!これなら戦える!」


 喝采の歌。

 リジェネ効果と物理魔法両面に攻撃補正をかけてくれるという歌唱術の中では必須スキルだ。


 なんでこんなものが買えるんだと思ったが、歌唱スキルはそもそも歌唱能力が高くないと効果が出ないスキルだ。


 歌唱術そのものも、歌唱スキルの効果を引き上げて長く歌えるようにしてくれるだけのパッシブ、歌が上手くなるわけではない。


「低クラスのレベルの限界効果を叩きだしてるなこれ」


 そして体感であるが、アミナの歌は喝采の歌の最大効果を発揮している。


 しかも。


「ゴブリンたちがこっちに気づいたぞ!!」

「いや、アミナちゃんを見てる!!」


 ゴブリンたちの注目を浴びてからさらに効果を増した。


 歌唱スキルは、敵味方の区別は歌い手に委ねられるという特殊スキル。

 広範囲でバフをかけることと注目効果アップを付与するという特徴のあるスキル。


 俺たちにはバフを付与して、敵のゴブリンたちには注目効果を付与。


 ゴブリンたちの目にはアミナしか見えていない。


「演奏隊!!演奏を開始してくれ!!」

「わかった!!」


 アミナの歌声に合わせて、楽器を扱える商店街の面々が演奏を追加する。

 と言ってもたった三人の演奏だ。


 笛とカホンとリュート。


 この演奏が乗ることで、さらに歌唱スキルの効果が上がる。


 戦闘BGMが生演奏とは洒落ているなと口元に笑みを浮かべながら、前を見る。


「それじゃ、手はず通り頼むよネル」

「うん、アミナは任せて!!」


 そして、ステージ以外は明るい通路にゴブリンゾンビたちが入った。


『!?』


 おー、慌ててる慌ててる。


 だけど、お前たちは気にせず進むだろ?


「さぁ、水上戦だ!!」


 水に入ってくるゴブリンゾンビに合わせて、俺も〝泥沼〟と化した商店街の道に突入する。


 二足歩行かつ、低身長のゴブリンたちにとって左右の建物から流入してくる水によってつくられている泥沼は非常に動きにくい。


 それに対して、背丈が高く、多脚でしっかりと足を踏ん張り、動き回れるアングラーなら泥沼の中でも快適に移動できて。


「その首もらったぁ!!」


 アングラーの手に握られた斧を振りぬきゴブリンゾンビの首をいとも簡単に斬り飛ばす。


 下半身をほぼほぼ水に浸している状態ではアングラーの斧を躱す術はない。


「もともとこっちは不安定な場所で踏ん張るために多脚にしているんだよ!!こういった場所なら」


 六本の足をカシャカシャと軽快に動かして、スーと横に移動してみせ次のゴブリンの首を刎ねる。


「得意中の得意なんだよ!」


 しかもアミナの歌がゴブリンたちの注目を集めているおかげで、俺へのヘイトがほぼゼロ。


 だから常時先制攻撃ができる。


 俺とアングラーが暴れに暴れても、アミナの歌がゴブリンたちを惹きつけて止まない。


 だけど。


「やっぱり全部は無理だった!!頼む!!」

「まかせて!!」


 暴れに暴れて、ほぼほぼ無双状態になっていても、すべての敵を倒し切るのは無理だ。


 機動性、パワーどっちも勝っていてもすべてさばききるには敵の数が多すぎる。


 ほんと、どんだけ入り込んでいるんだよ。


 泥沼の中に魔石がいくつも沈んでいるあたり、とりあえず斧を振れば当たるくらいにゴブリンゾンビがそこら中にいる。


 ひとまず俺が前に出て暴れまわって数を減らして、その後ろのバリケード上から沼から上がる前のゴブリンゾンビを槍で突き仕留める。


 アミナの喝采の歌の効果で全体の攻撃力が上がっているからか、HPが増しているゴブリンゾンビを相手にしても一撃で屠れている。


「ちっ、ホブも混じってる」


 そしてひときわ大きな個体もちらほらと混じり始めている。

 体に矢が刺さっているあたり、兵士たちもただただ通したわけじゃないのだろう。


 しかし、ホブゴブリンゾンビであっても照らされた光に皮膚を焼かれ、さらにはアミナの歌でこちらへの注意ヘイトがない。


 未完成形の多忙型アイドルビルドであっても。


 問題なく、アングラーの振るう斧の一撃でホブゴブリンゾンビの首を斧で叩き斬って終いだ。


「しかし、この数は何とかならんのか」


 商店街の戦闘が開始して、建物の中の人間には目もくれずゴブリンゾンビの大集団がこっちに向かってくるのはありがたいのだが。


 休まず敵を倒し続けているが、いかんせん減っている気がしない。


 ゴーレムの上から見下ろすような形で戦場を見渡せるけど、ゴブリンゾンビの群れがまだ続々とこの商店街になだれ込んできているあたり、全体では相当量のモンスターが王都に入り込んでいるのでは?


「ジェフさんの見てきたことが本当なら、結構やばいかも」


 ジェフさんに突破された南門を見に行ってもらったが、あそこは地獄だった。

 ドラゴンゾンビとゴブリンゾンビたちの混成軍に対して騎士と兵士と冒険者の混成部隊が迎撃に当たっていたが、とにかくドラゴンゾンビが暴れすぎて、南の門がだいぶ広げられてしまった。


 おかげでモンスターの流入を止めようにも穴が塞げないというわけだ。


 このまま行くと王都中にモンスターが広がる可能性が高く、戦線維持を考慮してあちこちで兵士たちが冒険者たちと一緒に協力して防衛ラインを構築しているが、敵の数に対して人手が足りていない。


 本当だったらこっちに流入してくる前に迎撃ラインが形成されるはずだったんだけど、数に押されて防衛ラインが下がってしまっている。


 そのラインと城壁の間の住民区にモンスターが流れ込んでしまっている。


 当然だけど、避難しきれていない人も。


「防衛線を上げる?それとも避難民をこっちに誘導する?」


 その現実が俺の判断を阻害するが、ゴブリンを斬り倒しながら現実的ではない選択肢をすぐに否定する。


 どちらをするにもこの場を放棄するという最悪の選択肢を選ばないと実行できない上にさらに言えば、成功する可能性もほぼ皆無。


 俺が現状打てる手で、最善を選んでいるはずだ。


「って、贅沢言ってる暇もないぞ!?」


 そんな思考をしている暇もないぞと、今度はホブの群れが現れた。


 どう見ても第二波に突入したということか。


 この調子で敵がランクアップしていくのなら、最終的にはゴブリンキングとか出てくるか?


 ひとまず、モチダンジョンから引っ張ってきている水が途切れていないことを確認してから沼を動き回る。


 サイフォンの原理を利用してモチダンジョンの泉の水をこの沼地に流し込んでいるのだ。

 光系統の水だからゴブリンゾンビたちにとっては毒沼と化しているから、ここが制圧されない限り負けはない。


 しかし、想定よりも消耗が早いかも。


 アミナはまだ大丈夫だ。


 しかし、防衛ラインの商店街の大人衆は持つか?


 交代で休憩して、レベルが上がった分だけステータスに振ってくれと頼んではいるが、そのステータスアップで間に合うか?


 当然だが、EXBPを獲得するような条件を彼らは満たしていない。


 普通のレベルアップしかしてない状態で、小ボスみたいな存在が来たらまずいかも。


 ジェフさんたちには念のため、そういった危なさそうなモンスターが来たら伝えてほしいと頼んである。


 アングラーの斧の切れ味が下がり始めた。


 モンスターは倒せば黒い灰になって消えるけど、切った時の抵抗はしっかりとあるから武器も摩耗する。


 ゾンビとはいえ、ゴブリンの首を骨ごと切っているのだから当然なのだが。


 まだ耐久値的には行けるが、ホブの群れを相手にすることを考えると一回武器の交換に行こうか。


 と思った矢先にホブゴブリンの群れが爆発した。


 正確には、その集団に魔法がさく裂した。


「リベルタさん!!ご無事ですか!!」

「お嬢様!!そんな前に出ないで!!」


 どこかで聞き覚えのある声、そして見覚えのある魔法。


「ひとまずは、援軍と受け取っておいた方が良いか?」


 ゴブリンゾンビの群れの中をわざわざ来たのだ。

 ここで敵なのならよほどの阿呆か、狂人のどちらかだろうな。


 ゴーレムの右腕を掲げて、ここにいると合図してからゴーレムを前に進める。


 エスメラルダ嬢と、護衛騎士にさらに兵士が数十名。


 このモンスターの群れを突破してきたのだ。


 沼地から石畳にアングラーを上げて、ひとまずはエスメラルダ嬢たちをこちらに合流させるためにゴブリンの群れを殲滅する。


「リベルタさん!ご無事でしたのね!!」

「ええ!なんとか!!ひとまずはこっちの陣地に!!ゆっくりと話している暇もありませんから!!」


 活路を切り開き、兵士たちを含めてエスメラルダ嬢を連れて陣地に戻る。


「エスメラルダさんはこっちに、兵士の皆さんには申し訳ありませんけど」

「気にするな少年!!この程度の堀なら問題ない!」


 ゴーレムにエスメラルダ嬢を乗せて、そのまま堀を進みバリケードのところまで後退する。


「このような場所を作っていたのですね。それにしてもなぜあの子は歌っているのでしょう?」

「アミナがゴブリンたちの注目を一身に集めているからこっちは一方的に攻撃ができるんですよ。今のゴブリンゾンビたちは全員アミナに視線がいって俺たちなんて眼中にないんです」


 俺たちの陣地が機能し、市民だけで防衛できていることにまずは驚き、次いでアミナが歌っているステージを見て驚いていた。


 ゴーレムがバリケードにとりつき、それを足場にエスメラルダ嬢がバリケードの向こうへ。


 そしてゴブリンゾンビを相手にしながら堀を進む兵士たちを次々にバリケードの裏手に引き込む。


「あなたたちは防衛線に加わりなさい!!」


 そして裏手からエスメラルダ嬢の声が響き、兵士たちがバリケード戦線に加勢し、少しの間なら俺が下がっても平気になった。


 アングラーでガシガシとバリケードをよじ登り、そして裏手に入り込んで少し進んだところでゴーレムから降りた。


「ふぅ」


 バリケードの裏は休憩ができる用のテントと、軽い食事がとれる屋台。

 さらには治療ができるように救護施設も用意してある。


 そこの管理をしてくれているのはテレサさんを筆頭とした女性陣だ。


「見事な陣営ですね。今はどこもかしこも混乱しているというのに」


 商店街防衛戦の陣営を見て、冷静に対処していることに驚嘆しているエスメラルダ嬢を脇目で見て俺は近くを通りかかった商店街の女性から水を受け取りそれを一口口に含んで。


「それで、なんでこんな危険な場所にわざわざ来たんですか?」

「命の恩人の危機に駆け付けないほど私は恩知らずではありませんわ。せめてリベルタさんと親しい方を連れて我が屋敷に避難してもらおうと兵を連れて参上した次第ですわ」


 義理堅い。

 それが最初に思った印象だった。


「ですが、見た限りですと食糧や防衛面では問題はなさそうですね」

「それもこの混乱がいつまで続くか次第ですけどね。こっちとしてはいきなりスタンピードが起きて、籠城して門が破られてと情報が一切ないんです。現状打開策はある感じですか?」

「それは……」


 そして公爵令嬢であるのなら、もしかして現状の詳細情報を持っているのでは?と思い尋ねてみるが口をつぐみ辺りを見回した。


「なるほど、おおよそ状況はわかりました」


 状況は想像しているよりも悪い。

 打開策がないのか、最悪打開策として送り込んだ戦力がやられたか。


 その情報を語ることでここの防衛線に影響が出るのを恐れて口をつぐんだというところだろう。


「それじゃあこっちに、護衛の人も一緒なら大丈夫でしょ?」


 少しでも情報が欲しい、情報のあるのとないのではこれからの戦いに雲泥の差が出る。


「わかりましたわ」


 教えることはやぶさかでないのか、エスメラルダ嬢は護衛を引き連れて一緒に建物の中に入ってくれるのであった。


楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
それより言わなきゃ 『武器返して、素手で殺らせる気?』 早く早く、不壊の竹槍を返してもらわないとw 時間に余裕があれば不壊の斧(ゴーレム用)にしたろうに・・・
槍の人気に嫉妬www
公爵令嬢に対するヘイト凄い…。 確かに竹槍好きだからなー。 若しくは武器屋に頼んでいた新しい武器が欲しい。
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