30 商店街防衛戦線 3
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アングラーを操作して最初にやっているのは商店街の小道の封鎖。
木箱、荷車、物は何でもいいせっせと大通り以外の道を封鎖して誰も入れないようにしている。
「細かいルートはこれで」
重量物もアングラーがいれば簡単に運べる。
ゴーレムのアームを操作してズシンと重々しい音を響かせて、障害物を重ねて建物と建物の隙間を埋め終える。
次にやるのは、商店街の南側の入り口の封鎖だ。
ゴーレムで木箱を積み上げて、さらに荷車や、石像、さらには樽と、とにかく大きくて重いものをかさねていってひたすら置いていき、子供でも入れないようなバリケードを形成する。
大きくて重い物ならそう簡単にモンスターも飛び越えようとしないし、大きな道が開いているのならそっちの方からモンスターたちは流入してくるはず。
おおよそ目につくようなものを使ってバリケードを形成し終えた。
「リベルタ!!集めてきたわよ!!」
その作業を終えるころに、ネルが人を集めてきてくれた。
ジンクさんを筆頭に、パンクさんに男手が十人近く。
「坊主!!商店街を守れるっていうのは本当か!?」
商店街にはほかにも人はいるはずだが、やはり戦うのが怖いのだろう。
ネルがジンクさんを説得して、そこからジンクさんがどうにか人手を集めてくれたのか。
「はい!皆さんが協力してくれれば間違いなく勝てます!!」
そんな努力を無駄にしないために俺はここで虚勢を張った。
怖気づかず、そして、嘘だと見抜かれないように自信満々にゴーレムの上から頷く。
エスメラルダ嬢と一緒に戦ってわかった。
ゲームの時は指示通りに動いてくれるNPCが特別なだけで、現実ではこうすれば勝てるとわかっていても不安が勝れば動きが鈍り、そして指示に疑問を持つ。
大事なのは自分たちの行動が勝利につながると確信させ続けること。
下手に言いよどむなんて最悪な結果しか生み出さない。
だから、胸を張れと自分に言い聞かせて。
「もうすぐアミナが戻って――」
「リベルタ君!!お待たせ!!」
さっそく策を説明しようとしたタイミングで。
「ああ、アミナちょうど、いいところに?」
空からアミナの声が聞こえて上を見上げたら、なぜかアミナの後ろに飛ぶ人影を見つけた。
「どなた?」
「お父さんだよ!南の門が壊れちゃったから、こっちにみんな連れてきたんだ」
「みんなって」
「こんにちは、君がリベルタ君かな?娘からこっちにいた方が安全だと聞いたのだけど……」
着陸しても、その人影が減ることはなく、アミナの後ろにはアミナと似た大人の鳥人が男女一人ずつ、考えるに両親だろう。
その夫婦の後ろに五人の鳥人が続いている。
流れからしてアミナの兄弟か?
「ええ、ここならしばらくは安全です。これからいろいろと忙しくなるので手伝いをお願いできれば助かりますが」
「もちろん、家内と一番下の子供たちは無理だが僕と上の兄弟たちは手伝えると思うよ」
実際その予想は当たっている。
少し気弱そうな父親と違って、息子二人は何やら不満げに俺の方を見ている。
年上で、なおかつ体格も向こうの方が勝っているからだろうか?
「わかりました。では奥さんたちはひとまず避難をしてもらって……」
しかし、ここで何か言いだす雰囲気はない。
なぜか?
それは何か言いだそうとするたびにアミナが振り返って兄弟の方を見るとビクッとなって大人しくなるからだ。
兄弟のヒエラルキーがしっかりとストッパーになってくれている。
俺からするといつも無邪気で優しいアミナなんだが、アミナに見られた後にそっと怯えたような眼で俺を見つめてくる兄弟を見ていると、家庭内では俺の知らないアミナの別の側面もあるんだろうなぁ。
「アミナの、お父さん?とご兄弟には」
「ああ、僕としたことが自己紹介がまだだったね。僕はジェフ、それで後ろにいるのが」
「妻のジュナですー。ここならお腹いっぱい食べられると聞いてきましたぁ」
「アルドだ」
「イグル」
「ウダだよ」
「エセルダっす!!」
「……オベル」
一部心の中が正直すぎる発言が目立つが、正直空中戦力が増えるのはありがたい。
「えっと、参加してくれるのは、ジェフさんと」
「アルドと、イグル、ウダまでだね。エセルダはジュナとオベルのそばにいさせたいので」
「わかりました」
頭の中で描いていた計画を描き直し、いい意味で加入してくれた戦力を加算すれば安定した戦いが組み立てられるはず。
「それでは、話が途切れましたがこれより商店街防衛線の説明をします!!」
敵はどこまで来ているかわからない。
少なくとも時間的猶予はそこまでないはず。
「早速で悪いですが、ジェフさんは南の門へ行って、モンスターの流れを見てきてください。アルドさんは東門の状況確認を、イグルさんは北、ウダさんは西をお願いします」
「わかった、ホラ行くよ」
「わかった」
「はーい」
「いってきまーす!」
ちらりちらりと二階の窓からこっちの様子を見ている人たちがいる。
期待しているのかそれとも不安になっているのか。
そのどちらもが混ざっているような視線を浴びてもなお俺は自信たっぷりの姿勢を崩さない。
「いやぁ、幸先がいい。空を飛べる人がいるっていうことは敵の情報を集めることができますからね。これならもしかしたら俺たちだけでモンスターを全滅させられるかもしれませんね」
軽口を叩き、少しだけ冗談を混ぜ。
「そうしたら王様にご褒美をもらって、たくさん美味しいものとか食べたいですね」
士気を保つ。
ゲーム上で新しいシステムを投入された気分で、真剣に取り組む。
「美味しいお肉」
夢とは原動力だ。
「甘いお菓子」
できないこと、ありえないこと、もしかしたらと夢想するもの。
「暖かい毛皮」
けれど、もしかしたらと思う気持ちが可能性に価値を見出す。
「そんなものがもらえたら嬉しいですね」
子供のなりだから、子供っぽい夢を語るが割とこの三つはあったらあったで嬉しいものばかり。
「リベルタ君、酒が抜けてますよ」
「違ぇねぇ!!」
そこにジンクさんが乗ってきた。
さらに笑い声を混ぜながらパンクさんものってくる。
「俺は新品のベッドが欲しいなぁ」
「バッカ、そこは大きな屋敷とかだろ」
「屋敷貰っても管理ができねぇよ、それより税金をタダにしてくれねぇかなぁ」
「「「それだ!!」」」
活躍すれば褒美がもらえるかもしれない。
心の中でそんなものを貰えるわけがないとわかっていても、虚言であっても家族を守ること以外にもう少し、ここで踏ん張って戦う理由が欲しい。
そんな気持ちで、悪ふざけをして少し騒がしくなるが、皆の顔に緊張の色が消えることはなかった。
ノリと勢いで誤魔化しているだけ。
「じゃぁ、全部もらうために頑張りましょうか!」
そのノリと勢いを無駄にしない。
気が乗っているとごまかし、自分に言い聞かせている。
各々武器になりそうなものを片手に持って、バラバラな戦力。
ただ、家に立てこもっていたらダメだというのがわかるからこそ立ち上がった勇気ある人たち。
そんな人たちに向けてオー!と手を掲げる。
「「「「「「オーーーーーー!!!」」」」」」
気合は大事だ。
やる気があるのとないとじゃこれからの作戦の運用に大きく差がでる。
「それじゃ、改めて作戦を説明します」
俺はゴーレムの上でそのまま説明を始める。
紙はない、だけど代わりに用意した木の板をゴーレムに持ってもらって黒板の代わりにする。
「相手はゴブリンゾンビです。種類に関してはまだ詳しいことがわかっていませんが、相手の数を考えるとホブ、ナイト、ソルジャーといった上位種もいると思われます」
木の板に墨で描いただけの、簡単な商店街の見取り図。
「こんな奴を正面から迎え撃ったらこっちはあっという間に疲弊しちゃいます。なので、できるだけ楽に倒す方法を考案します」
そして俺の経験から可能な範囲で、できるだけ危険を下げてなおかつ、簡単に戦線を維持する方法を考えた。
「細い路地はゴーレムでバリケードを作って封鎖しました。モンスターが入ってくるとしたら大通りの方の北側の正面からです」
木の枝を使って木の板を指さし、そしてスーッと流れるように横にする。
「そして南側の入り口も封鎖してあります。なので今は北口から入ってここが行き止まりになります」
この商店街は一本道になっていて、北から南に向けてそこそこ大きい道が広がっている。
当然戦力の少ない現状では、二方面作戦は避ける。
「北の入り口もそのまま封鎖した方が安全なんじゃないか?」
「パンクさんの言うことももっともですけど、モンスター、それも攻撃を積極的にやってくるモンスターはどういうわけか人間の気配がどこにいるかわかるんです。詳しい場所とかはわからないんですけど、おおよその位置と方角がわかってそっちに向かいます。スタンピードの時に村とか町が襲われるのは、本能的に人の居場所がわかって襲おうとするからですね」
そして、この商店街で籠城戦をやろうとしても、それ専用の施設じゃないから耐久面に問題があるし、どこかに抜け穴を作られたらそこから忍び込んできて気づかず襲われる可能性が生まれる。
「実際城門が破られたのが証拠です。堅牢な要塞を打ち砕けるほどの、死を恐れず攻め立てるモンスターの殺意は侮ってはいけません。なのでその危険を冒さないためにモンスターの行動に制限をかけて一方向からの迎撃に専念できる環境を作ります」
俺の説明を理解してもらうには、この拙い絵ではわかりにくいかもしれない。
だけど、大人たちはみな必死に木の板を凝視して理解しようとしている。
これが商店街を守れるかもしれないという可能性を実感しているからだろう。
「不幸中の幸いですが、相手はゾンビ、アンデッドです。攻撃力、素早さ、タフネスと通常のゴブリンよりも恐ろしい存在になっていますが、奴らは致命的な弱点を持ってます」
実際に、これからやろうとしていることは俺も実際にやったことがあるとある罠だ。
対アンデッド用と言っても過言ではない。
ボスを倒すほどではないが、取り巻きに致命傷を負わせることができる程度の環境は用意できる。
「今から作るのは光の殺し間です」
アンデッドの弱点はもれなく光属性だ。
次いで、火も効果的だが街中で火属性を使ったら火事待ったなしだ。
対して光属性なら街中でも使い勝手は良い。
「まずは、こことここに光のランプを大量に設置してこの場所だけ照らしてください」
しかも数は必要だが、用意するのはどこの家庭にもある光の魔石を使ったランプだ。
「左右から照射して、影を一切作らない光のエリアを形成します」
スキルにライトという光を作るだけの魔法スキルが存在する。
普通のモンスターやプレイヤー相手にはただの明かりであり、良くて目くらまし程度の強さしかない。
魔道具で代用もできるため、スキル構成にはまず入らないスキルだ。
だけど、アンデッドや闇属性相手には微量であるがダメージが入るのだ。
チリチリと肌を焼くような痛みを発する程度の微量のダメージ。
ここまでやるのはクレルモン伯爵をモチダンジョンに引き込んだ時と一緒だ。
簡易的な光属性のダンジョンを再現するそれだけのこと。
当然だがこの程度では大量のモンスターを殲滅することなど叶わない。
光属性とはいえ、微々たるダメージしか与えられない。
あくまでこれは追加ダメージ効果を与えるのと、この作戦の本命を隠すためのエリアだ。
「そこで用意してもらいたい物が三つあります」
本命は別にある。
一つ目と俺は人差し指を立てる。
「木こり用でいいのでこのゴーレムが持つ斧を、壊れると思うのでできるだけたくさんお願いします」
二つ目と中指を立てる。
「この石畳を掘り返して膝くらいの高さで道いっぱいの穴を掘ります」
そして最後に三つ目と薬指を立てて。
「楽器を用意してください」
この局面である意味一番重要なアイテムを要求した。
「楽器かい?」
こんな土壇場で必要になるのかと?
ジンクさんが首をかしげると、俺は迷わず一番重要になりますと返す。
「アミナ」
そして今回の作戦の要になる少女を見る。
「今回の作戦ではお前が要だ」
いきなり周囲から視線が集まってびっくりするのは仕方ない。
「僕が?」
「ああ」
まさかこんなに早くこの作戦をやるとは思ってなかった。
スキルは育ってないし、装備も不完全と足りないモノだらけな不完全な環境。
だけど、寄せ集めでどうにかこうにか形にした。
「お前の歌が必要なんだ」
ゴーレムから降りて、アミナの目を見てしっかりと言う。
「僕の歌」
「ああ」
「それで勝てるの?」
「勝つ」
真剣に、嘘偽りなく、俺の本心をぶつける。
「うん、なら歌うよ!」
「ありがとう」
そのおかげでアミナはニコッと笑って、了承してくれた。
なら、始めよう。
見せてやるモンスターども、多忙型アイドルの恐ろしさというものを。
アイドルライブの開催だ!!
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




