29 商店街防衛戦線 2
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籠城戦に入って早一週間。
最初はおどおどと建物の中に避難していた市民もいまじゃ騎士団とモンスターの攻防戦に忙しい城壁にさえ近づかなければ出歩くこともしばしば。
日常は取り戻していないが、自由はあるという微妙な雰囲気。
こういっちゃなんだが、籠城が長すぎると思うのは俺だけだろうか。
城門を突破されていないのは良いことだけど、逆にモンスターを討滅しきれていないということ。
ゲーム時代だと短すぎるとクレームが入るくらいにさっさと討伐しちゃうからな。
「おう、坊主、もう一周頼む」
「あ、はい」
そんな俺はネルと一緒にパンクさんとその息子テンク君を引き連れて今日も楽しく餅の確保に走っている。
最初は訝し気に見られていたモチダンジョンの餅であったが、俺が焼いたり煮たりと調理し、食べさせてみるとあら不思議、ジンクさんやテレサさん、ネルと皆が美味しいと大絶賛。
一緒に食べたパンクさんなんて無言で焼き餅を五つも食べきった。
うん、皆が美味しいというのは俺も同感だった。
モンスター食材って、こんなに美味かったんだな。
VR技術と言っても、さすがにゲームでは味覚までは再現できていなかった。
なので、食べ物は食べるという動作をするだけのアイテムという認識だった。
しかし、この世界は現実。
しっかりと餅の味を堪能しました。
ただ、美味いのはたしかなんだけど。
「さすがに、ちょっと飽き始めた」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでも」
餅というのはある意味保存食として便利だ。
しかし、俺にとっては真新しさはない。
味は絶品だ。
正直今まで食べてきた餅の中でも一番おいしいと断言できる。
しかし、餅だ。
この世界の住人は、食事に対してはある程度のうまさがあれば満足でき、なおかつ食べられること自体が嬉しいことと認識してて同じものを延々と繰り返しても食べられてしまう。
今の俺は、正月に餅を食べすぎて辟易してしまっている子供状態だ。
「今日のノルマは二百個だ!!商店街のやつらにも配ってやんないとな」
「「はーい」」
しかし、若干の食糧危機を抱えているこの商店街ではこの餅は生命線となり始めている。
物流が停滞し始めてから一週間。
抱え込んでいる食料は徐々に減って、そろそろ危機意識を持ち始めている。
すでに食品店の店頭には売り物が並ばなくなるか、値段が高騰している。
一応、国から炊き出しが出ているがその食事内容は腹が満たせて栄養があればいいという感じの物ばかり。
そっちで食事をとる方が大多数だが、この商店街に関して言えば餅がその代用品になっている。
よって、ここ最近はこうやってパンク親子を護衛しながらモチダンジョンを周回して餅を確保するという作業を繰り返している。
「そう言えば、アミナ最近見ないな」
「家族と一緒にいると思うけど、心配ね」
いつもなら三人でやっている作業を別の人と一緒とはいえネルと二人でやるとなんだか少し物足りない。
スタンピードは一大事ということで、テレサさんに言われてそのまま家に帰ってからは会っていない。
ネルの考えと一緒で俺も家族と身を寄せ合って安全を優先しているとは思うけど。
やはり顔を見ないと安心はできない。
そう思いながら、カガミモチを倒して、大量の餅を手に持つパンクさんと一緒にダンジョンの外に出ると。
「リベルタ君!ネル!!」
「アミナ!?」
馬小屋に見慣れた少女がいた。
「えへへへ、退屈だから来ちゃった」
「来ちゃったって、家族と一緒にいなくて大丈夫なのか?」
テヘッと男には許されない女の子の特権を駆使した舌を出す笑いで誤魔化す彼女に向けて俺は少し呆れる他なかった。
「大丈夫大丈夫、ネルのところって言ったらじゃぁいいかってなったんだよ」
非常事態だというのに、遊びに行く感覚で出かけて良いものか?と疑問を呈するのは良いが、この世界の常識と俺の常識は微妙に食い違っているんだよな。
「久しぶりね!良かった。元気そうで」
「うーん、あんまりご飯食べられてないから元気じゃないかも。うち兄弟が多いからご飯が少ないんだよね」
これが普通なのかと悩んでいると、スッとネルが俺の脇を通り抜けて、アミナの翼の手を取って喜ぶが、その直後にぐーっとアミナのお腹の音が鳴る。
「うっ」
「ならいいものがあるわよ、ちょうどこれから作る予定だしアミナも一緒に食べましょ!!」
さすがにお腹が鳴るのは恥ずかしいのか、とっさにお腹を押さえるが、空腹だというのは隠すことはできなかった。
それを見て、ネルが少しどや顔でアミナの手を引き、馬小屋から出る。
今、ジンクさんの家の庭にはちょっとした食堂の屋台が出来上がっている。
もともとは商店街の誰かが屋台商売をしているときの名残なのだが、今ではすっかりと餅を焼くための施設になっている。
「来た時も見えたけど、このお店って何なの?前はなかったよね」
「臨時で作った炊き出し場ってところだな。お店の管理はジンクさんがしているけど、店員は商店街の人で持ち回りって感じでやってる」
「へぇ」
「アミナちゃん久しぶりだね。食べてくかい?」
「え、僕、お金持ってきてないよ?」
「いいのいいの、ジンクさんとパンクさんのおかげでアミナちゃんに食べさせるくらいの余裕はあるんだよ」
「それ、俺がとってきた餅だぞ」
「そんなけち臭いこと言うんじゃないよ。お腹すかせている女の子がいるんだ。男なら黙って仕事しな」
今日はパンクさんの奥さん。
頭髪が天パな奥方が、お店番をしている。
肉の仕入れができなくなり、暇だからと今ではすっかり焼き餅屋の女将さんだ。
肉を焼くことが上手い人は餅の焼き加減も上手で、俺が焼くよりも美味かった。
今も竹のトングでせっせと餅を焼き、竹の葉で包んでいる。
「ほら、アミナちゃん焼きたてで美味しいよ」
「わ!ありがとう!!」
「おばさん!私にもちょうだい!!」
「もちろんさ、ほらネルちゃんも熱いから気をつけな」
その包みを手に取りアミナとネルに渡し、そして二人は包みを解き中を見れば焼きたてで湯気が出ている餅がある。
味付けは塩だけというシンプルな焼き餅だけど。
「美味しい!最初はしょっぱいけど、噛めば噛むほど甘い!!」
「ね!ね!ね!!美味しいでしょ!!」
「こんなの毎日食べてるなんてずるいよ!!」
これが意外とうまい。
素朴な味だけど、素材がいいのか噛めば噛むほど甘みと旨味が出てくる。
俺もおばさんから餅をもらってむしゃむしゃと食べる。
なんだかんだ飽きたと言っても、体を動かせばお腹が減りこうやってまた食べたくなるわけだ。
アミナはよほどお腹が空いているのかお代わり!と元気よく手を挙げて、おばさんから新しい包みを受け取っている。
その勢いは止まらず、そのまま三つ目に突入。
「もう、そんなにお腹空いてたの?」
「空いてるよぉ。炊き出しだって、僕が子供で女の子だから少な目で渡すんだよ?ひどくない?」
食べすぎじゃないか?と心配になるが、最近あまり食べられてないと告白されれば止める気も失せる。
王都の外はまだまだスタンピードの籠城戦が収まりそうではないが、一応城壁内は平和。
「なんだ!?」
だと思ってたけど、遠くで大きな爆発音が響いた。
近くにいたパンクさんがきょろきょろとあたりを見回しているが当然だが近くで爆発が起きたわけじゃない。
「アミナ!」
「わかった!!」
俺は咄嗟に名前を呼んだが、彼女はそれだけで察して飛び上がってくれた。
ぐるぐると商店街の上を旋回していると慌てて俺の方に戻ってきた。
「た、大変だ!!城門が壊れちゃってる!!」
あたふたと焦っているという手本になるような動き。
「どっちの門だ?」
「あ、あっち!!どうしよう、このままじゃモンスターが入ってきちゃう!?」
城門が破られた。
となるとこれからがヤバイ。
アミナの声は響く、大声で城門が壊れたと言えばここら辺にいる人には聞こえてしまう。
慌てふためき、混乱が引きおこる。
家に取って返して、扉を力強く閉めたかと思うと扉の奥からゴソゴソと何かを動かす音が聞こえる。
たぶん、バリケードを作ったのだろうな。
アミナの示した方向は南門。
このお店の場所を考えると近くはないが遠くもない。
となると間違いなく、このままいけばモンスターはいずれここにも来る。
「ちっ」
「リベルタ!?」
「リベルタ君、どこに行くの!?」
思わず舌打ちをしてしまい、自分の浅はかさを恨む。
レイドバトルのことを知っているのならいずれ城門が抜かれるのは分かっていた。
プレイヤーたちが何もしないと、城壁の耐久値が下がりそしていずれ破壊されゲームオーバーになる。
だが、そんなことは基本的に起きない。
プレイヤーがいればそもそもモンスターはあっという間に殲滅されるし、よほど特殊な状況でない限り、NPCが配置され滅多なことでは城門は突破されない。
だからこそ、楽観視していた。
それではダメだというのにと思いつつ、クッションで隠していたゴーレムを掘り起こす。
「使うの?」
「ああ!これから来るモンスターのことを考えればこいつを放置することはあり得ない」
相手の種族的にクラスはそこまで高くはないはず。
最悪は修練の腕輪を外してレベルアップも視野に入れるか。
生き抜いてこそだ。
「どうすればいいの!?」
「え」
「だから!いつもみたいに指示出して!!リベルタだったら街やみんなを守れるんでしょ!?」
本当は一人で戦うつもりだったけど、どうやらネルも手伝う気満々だ。
「ここは私が生まれ育った場所なの!!そこをモンスターなんかに荒らされたくないの!!」
荒々しく、クッションを投げ捨てては掴みを繰り返してすごい勢いでゴーレムを掘り起こす。
「僕も手伝う!!ここの人たちには僕もお世話になったから!!」
それにアミナまでが加勢しちゃうからすごい勢いでクッションが無くなる。
ものの数分でゴーレムを掘り起こしその素体をさらけ出す。
そして掘り起こされたゴーレムを前にして次は何をやるのと俺に期待の視線を二人は向けてきた。
ここで、俺が一人でどうにかすると言ったら怒られるよなぁ。
俺がやろうとしているのはゴーレムを操作しての迎撃、このアングラーは名前の通り釣りをするために作ったゴーレムだから戦闘寄りの構成ではない。
だけど、戦えないわけではないのだ。
ゴーレム用の装備はないが、手足は全て金属製だ。
しかも多脚型は手数を増やせる分しっかりと立ち回れば格闘戦でもどうにかできる。
今の俺のステータスよりもこのゴーレムのステータスの方が高いのだ。
だが、それでもこの商店街を守るのには手数が足りない。
「……わかった。手伝ってくれ」
「!まかせて!」
「何でもやるよ!!」
どっちにしろ家に立て籠っても襲われる危険性があるんだ。
だったらできるだけ有利な状況でこっち側で迎撃できるようにする。
「ネルはできるだけ人手を集めてくれ!!多ければ多い方が良い!アミナはこれをもって買い出しに行ってくれ!!」
即席だが、やるしかない。
これができるのとできないとじゃ迎撃の難易度に差が出る。
「わかった!」
時間がないからネルは人手を集めるためにすぐに外に出た。
対してアミナは俺が渡した物、ここまでアミナたちがため込んでくれた米化粧水の売上金をすべて渡した。
「何を買ってくればいいの?」
「スキルショップに行って、歌唱術と気力の歌か癒しの歌だ。歌唱術は絶対買ってくれ、歌のアクティブスキルは最悪バフ系なら何でもいい。できるか?」
「う、うん、空を飛べばお店までは行けると思う」
「なら行ってくれ!ゴブリンたちが街中に広がったら買い物どころじゃなくなる」
「わかった!!」
あれだけあれば買えるはず。
買い出しを頼むとアミナも外に出てすぐに飛び立った。
「さてと、頼むから動いてくれよ」
これでゴーレムが動かなかったら最悪だ。
アングラーの背中に登り、そしてちょうど首筋あたりに手を置く。
「魔力を流すイメージ、アングラー、起動!」
そして俺の体の奥から何かが引き出され、それがゴーレムと繋がった。
「うし、起動した」
ゲームと同じ感覚でやったけど、無事に動かすことができた。
「……まずは外に出るか」
多脚型の操作は手慣れたものだ。
ガシャガシャと複数本の足が地面を蹴りつつ、ゆっくりと馬小屋の扉ををくぐる。
外に出れば、視界が高くなった分静かになった商店街が見える。
「敵は、まだ来てないか」
兵士が城門付近で足止めをしていだろうからたぶんだけどここに来るまではまだ時間がかかる。
〝グオオオオオオオオオ!!!〟
だけど、それも時間の問題かもしれない。
遠くから聞こえる雄たけび。
ゴブリンじゃない、別の種族の叫び。
「ドラゴンゾンビか、厄介な」
そしてゲーム時代でも聞き覚えのある雄たけびだ。
その正体に思い至り、そして城壁を破った攻撃を知るのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




