26 商店街防衛戦線 1
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人生生まれて初めての籠城戦。
社会人として生活していた時期も、そしてゲームをしていた時期も長期間の籠城なんてしたことはない。
王都がスタンピードのモンスターの大群に囲まれて、籠城戦に入ってからもうすでに三日の時が過ぎている。
「どうだった?」
「だめだ、どこの店も余裕がないみたいでね。これしか買えなかったよ」
俺は変わらず、ジンクさんの店の裏の馬小屋で生活していたが、その出入り口からちらっと顔を覗かせて店の方を見ていると、知り合いの商人に食料を売ってくれないかと頼みに行ったジンクさんがテレサさんに申し訳なさそうに謝っている。
「うちにもまだ備蓄はあるけど、そこまで長持ちするわけじゃないからね」
籠城戦のメリットは堅牢な王都の城壁の防御力だろう。
スタンピードで溢れかえるモンスターの止むことのない攻撃を防ぎ、そして安全に反撃できるというメリット。
対してデメリットはと言えば。
「うちはまだましだが、食料が買えなくて窃盗をしているという話も出ている」
「まだ三日なのに?街の外にはまだモンスターが溢れているのに?」
外部との接触が一切出来なくなるということだ。
すなわち、王都の外部との物流が一切なくなるということ。
俺の知る現代日本とこの世界では、保存食という分野に関して技術レベルの差は月とスッポンなみに離れている。
レトルトパックや、フリーズドライ、カップ麺に缶詰。
そんなものはこの世界に存在しないし、FBOのゲームでも存在しなかった。
あって乾物とか漬物くらいだろうかだ。
干し肉に、干し野菜、塩漬けや酢漬け。
これくらいしかない。
これは、かなりまずいだろうなぁ。
外部からの物流に頼り、今まで生活を維持してきた王都の人口は多い。
二、三日なら問題なかっただろう。
そして外のモンスターが食料を落とすタイプのモンスターならまだよかった。
テレサさんの不安な声を聴きつつ、俺はそっと扉を閉めた。
「リベルタ、大丈夫かな?」
「……」
そこには部屋にいても不安だからという理由で、馬小屋にネルもいた。
ここでどう答えるか一瞬迷った。
ネルは賢い。
俺が気休めで大丈夫と言っても、それに気づいてしまう。
「ちょっと、危ないかもなぁ」
気休めが欲しいわけじゃないのがわかっているから、俺は自分が覚えている危機感を伝えた。
ゲーム時代はそもそもスタンピードなどのレイド戦は、こんな守勢の形を取っていなかった。
相手を短時間で完全に殲滅するような大攻勢を初期でしかけ、一気呵成に相手を倒した。
だから生憎とこうやって食糧危機に陥りそうな雰囲気の経験はない。
「どうにかできる?」
「……」
しかし、どうにかできないと思いきやどうにかする方法はある。
「方法はある。かなり栄養は偏るけど、少なくとも空腹に悩まされることはない。ただ」
「ただ?」
「モチダンジョンのことをばらさないとどうにも……」
FBOではモンスターのドロップアイテムを変える方法が存在する。
とあるスキルを使うと、通常のドロップアイテムから、食材系アイテムにドロップを変換することができるのだ。
ただ、すべてのモンスターに適応しているのではなく、食材になりそうなモンスターでしか通用しない技だ。
「って、言ってる場合じゃないか。このままだと食糧危機で暴動が起きるかもしれないしな。危険回避ができるなら事前に防ぐに限るか」
その方法が知られていない可能性もある。
なにせ、必要なのは料理系か狩人系のスキルに該当する解体スキルだ。
解体スキルでとどめを刺すとそのモンスターから食材系アイテムを手に入れることができる。
ゲーム時代じゃ味を感じることはできなかったが、それでも料理スキルの効能を上げるためにモンスターのドロップアイテムを収集するための専用ビルド、戦闘型料理人というのは存在した。
その戦闘型料理人の基礎にして奥義の技が解体スキルだ。
その解体スキルを持っている人がいれば、ひとまずは食糧危機は脱することができる。
「とりあえず、ジンクさんに相談しよう」
「私も行く」
大聖堂に逃げ込めた人は大聖堂の人から炊き出しを貰えていると噂があり、逃げ込めなかった商店街の人たちは正直少し雰囲気が危うい。
このままだと王都内で暴動に巻き込まれかねない。
そうと決まればさっそく行動。
「ジンクさん」
「おや、リベルタ君どうしたんだい?」
食いぶちが一人増えたというのに、こうやって声をかけても嫌そうな態度を見せないジンクさんはやっぱりいい人だ。
「食料を手に入れる方法があるんです。ジンクさんの知り合いに解体スキルを持った人はいませんか?」
なので、こっちも遠回りをせず、直球に話を通す。
「解体スキルかい?ああ、いるとも、肉屋の親子が持っているよ。でも、なんでそれが食料を手に入れる方法につながるんだい?」
やはりこの世界の人は戦闘職だけがモンスターと戦う存在だと認識している。
そりゃ、生産職系は戦闘能力という面では本職には一歩劣るけど、戦えないというわけじゃないんだ。
いや、アミナみたいなタイプだと極めたら下手な戦闘職よりも強かったりもする。
「モンスターを解体スキルで倒すと、そのモンスターから手に入りそうな食材がドロップするんです」
「それで外にいるモンスターを倒すのかい?僕もコネを使って情報を集めたけど外のモンスターはゴブリンのアンデッドだ。とてもじゃないが食べれるような食材も手に入らないだろうし、第一城壁の外はモンスターで溢れかえってる。とてもじゃないが、安全とは言えないよ」
戦闘型料理人はゴーレムとかの無機物系のモンスターには弱いが、食材になりえるようなモンスターには無類の強さを誇る。
そう言うスキル構成をしているのだから当然と言えば当然で、実は一部のアンデッドからは発酵食品が手に入るんだよな。
シュールストレミングのような激臭を放つ珍味系の食材だけど。
それを指摘する必要もないので、ひとまずはジンクさんの困り顔の発生源である認識の違いを正す。
「まず間違いなく安全なのは保証します。倒すのはゴブリンじゃなくてモチですから」
そう言いながら俺は懐から、モチの鍵を取り出す。
「このダンジョンの鍵は何度も使うことができるモチダンジョンの鍵です。これが俺たちの手元には四つあります」
両手で持ち扇のように広げて見せる。
本当はもう三本ほどあるんだけど、それは隠す。
ネルも何も言わないから、俺の意図を察してくれたのだろう。
ひとまず目の前の食料問題の解決を考えれば四つもあれば十分だ。
「このダンジョンの中の敵なら安全に倒せますし、ボスは俺たちが倒せます。モチが落とす食材アイテムは餅です。主食になりますので、塩を振って焼いて食べたり、スープの中に入れればひとまず飢える心配は無くなります」
もし仮にこのまま籠城が続いて真っ先になくなるものは何かと考えれば生鮮食品だろうな。
生肉が無くなり、そして野菜や果物が無くなる。
そのあとに小麦や干し肉といった多少保存の利くような食材たちだろう。
王都の総人口はわからないけど、それなりの数はいるはず。
王都に流入する食料がないのだから当然だけど、このまま籠城し続けたらいずれ食料は尽きる。
せめてスタンピード解決のめどが立っているのならともかく、一カ月二カ月と王都の籠城戦が続くようならマジで餓死者がでてもおかしくない。
ゲームで餓死なんて死に方をしたことがないから何とも言えないけど……
「……わかった。テレサ、もうひとっ走り行ってくる。リベルタ君はそこで待っててくれ」
ジッと俺と手元の鍵を見比べた後に、どうしてそんな情報を知っているのかと聞かずにジンクさんは食材をテレサさんに預けて、少し出たお腹を揺らして走っていった。
そして数分後に。
「おい、ジンク。食材が手に入るって言うからついてきたが、ここはお前の店の裏庭じゃねぇか。なんだ?野菜を育てるために畑にでもするのか?」
同じく腹が出た、禿げ頭で少々いかつい見た目の男性を連れて帰ってきた。
「パンク、それを証明するために君を連れてきたんだ。君も食料が手に入りにくくなってきて不安だろう?」
「そうだがよ、食材なんてどこにも」
「リベルタ君、彼が肉屋の店主のパンクだ。彼は解体スキルを持ってるよ」
しぶしぶといった感じでついてきた男の言葉に被せるように遮り、論より証拠と言わんばかりにやってみせてくれと俺に話を振ってきた。
「わかりました、ここだと人目につくので馬小屋の中で」
「ああ、パンク。説明するからついてきてくれ」
「ったく、そのガキが関係するのか?」
「そうだよ」
スタンピードが発生している最中に、誰からも見られる可能性がある庭でダンジョンの鍵を使うわけにもいかないので、いつも通り馬小屋の中でやる。
ジンクさんとパンクさんの関係は良い様子。
だから、とりあえずは信じてついてきてくれる。
「それじゃ、ネル。準備を頼む」
「まかせて!」
俺の竹槍はエスメラルダ嬢に没収されてしまって、返ってきていない。
なので主力はネルだ。
竹槍を構えて気合を入れるネルにますます不信感が募っているパンクさんだが、俺がダンジョンの鍵を起動させようとするとぎょっとする。
「おいおいおいおい!!ちょっと待て」
そして慌てて俺の手を掴んだ。
「何しれっとダンジョンを作ろうとしてんだよ!!」
一般人でもダンジョンの鍵のことは知っているみたいだ。
そしてスタンピードはそのダンジョンの鍵が原因だということも。
「安心しなよパンク、それはモチのダンジョンだ。安全だよ」
「あ、ああ、って、ダンジョンなのは変わりないだろ!?さっきからおかしいぞジンク。食材が手に入るからって連れてきて、それでダンジョンを作ろうとしているなんて」
幸い俺のステータスでも鍵は奪われない程度の差だ。
「そのモチのダンジョンでパンクさんにはモチを解体スキルで倒してほしいんです」
「あのなぁ坊主、解体スキルは鶏とか牛に使うものでな、モンスターに使うもんじゃねぇんだよ」
「パンク」
「んだよ、ジンク」
「頼むよ」
なので、そのまま説明すると、強面な顔からは考えられないほどやさしく解体スキルについて教えてくれるが、やはり俺の認識と違う。
「……」
「……」
その差を埋めないと話は進まない。
だけど、ジンクさんがパンクさんに向かって信頼を担保にしてくれた。
そして、ジッとおっさん同士で見つめ合い。
「はぁ、わかった」
俺の手から自分の手をどかして、大きなため息を吐いた。
「危ねぇと思ったら逃げるからな」
「それでいいよ、僕も行くから安心してくれ」
「あたりめぇだ」
しぶしぶ、本当にジンクさんの人柄を信じてひとまずは納得してくれたようだ。
「では、行きます」
なのでこっちも手早くダンジョンの鍵を使ってモチダンジョンの扉を開く。
いつも通りの光景、だけど今回は新たな連れが二人。
「お二人はダンジョンに入ったことは?」
「生まれてこの方入ったことねぇよ」
「僕は少しだけ入ってすぐに引き返したね」
大の大人でもダンジョン未経験者なのか。
ジンクさんもほぼほぼ未経験でスキル使用だけでレベルを上げてきたわけか。
「そうですか、モチは知ってますよね?」
「ああ、子供でも倒せるモンスターだな」
「僕も何回か倒したことがあるよ」
そんな素人でも倒せるモンスター代表のモチがこんな形で役に立つとは思わなかっただろう。
「これが、ダンジョン」
「僕の知っているやつとはずいぶんと違うね」
「そりゃ、最弱のダンジョンですから」
いかつい見た目とは裏腹に慎重にモチダンジョンに入るパンクさんはキョロキョロとあたりを見回している。
対してジンクさんはこんなものかと納得している様子。
「それじゃ、お目当てのモチです。あれを解体スキルで倒してください」
そんな部外者がダンジョンの中に入り込んだのにもかかわらず、気楽に飛び跳ねている白い物体がモチだ。
「……」
初対面の子供に言われても納得出来ないパンクさんだが、ジンクさんに確認して彼に頷かれたら。
「はぁ」
ため息とともに腰に差していた解体用の包丁を取り出し。
「解体!!」
と叫んでそれを振り下ろした。
スキルの輝きを纏った包丁はモチを真っ二つにして、そこには。
「こりゃ、なんだ?」
「餅です」
「モチってモンスターだろ?」
「いえ、それが食材の餅です」
手のひらサイズほどの白い餅が転がっているのであった。
「焼いてよし、煮てよしの保存食ですよ」
それを拾い上げて疑問符を頭の上に浮かべるパンクさんの手元を覗き込み、ゲームと同じ、そして前世の日本でもよく見た物体を見て、頷いた後に。
「ひとまずダンジョン攻略も兼ねて餅集めしましょうか。そのあとに試食タイムということで」
「お、おう」
ひとまず、パンクさんを納得させることはできた。
食べ物なのかと首をかしげていたが、安全にかつ確実に食材らしきものが手に入るということでそのあとのパンクさんは、きびきびと動き、肉屋がすべてのモチを屠るのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




