23 実感
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皆さまありがとうございます!!
何やら勝鬨を上げる声が聞こえるけど、今の俺はそれどころじゃない。
この体になってからだいぶ鍛え上げて、レベルも上げてたけどさっきの戦い、一か所でも集中力を切らしてたら負けてた。
弱肉強食。
未だその神髄には踏み込んでいなかったと理解はしていた。
だが、どこか楽観視していたとここで自覚できたのは幸いだと思う。
ゲームの経験、知識、その二つがあるからどんなモンスターと戦っても勝機を見いだしてそれをつかみ取れる自信がある。
そういう自負を持っていた。
竹槍を杖代わりにして、もたれかかるように息を整える。
日が暮れて、汗がどんどん冷えていくのがわかる。
火照った体にはその冷たさが心地よいとも思えるが、喉がカラカラでどちらかと言えばすぐに水が欲しいと思った。
そんな喉の渇きを覚えるほど体を酷使したはずなのに、冷や汗が止まらない。
ステータスが完全に上位なモンスター、這竜。
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル2/スキルスロット4
槍豪術 クラス7/レベル22
マジックエッジ クラス9/レベル4 』
たった一度の戦闘でここまでスキル熟練度が爆上がりするんだ。
ゲームの経験で言うなら、どこかの動画投稿者が企画でやるような無茶だった。
闘ってわかった。
いや、戦っている最中どころか戦い始めた直後にわからされた。
何もかもが足りない。
理屈的には勝てる戦いだった。
理論を知っているからこそ勝てる道筋を知っていた。
だけど。
「はは、現実って厳しいねぇ」
その道筋の険しさは知らなかった。
コンテニューできるという環境、死に戻りができる環境。
そのどちらもが今の俺ならとんでもないチートだというのがわかる。
竹槍で攻撃を弾いて自分の体が飛ばされた感触に死を感じた。
獰猛な瞳で見つめられ、大口を開けて襲い掛かる姿に死を感じた。
ダメージを与えて叫び声をあげるモンスターの姿に命を感じた。
痛みを覚えて怒りに染まったモンスターから向けられる憎悪に恐怖を感じた。
一歩でも判断を間違えれば死が待っているそのことに怯えを感じた。
「なるほど、なるほど、だからこの世界だとレベリング技術が発展しないのか。当然か、当然だよな」
気軽に挑んでいい勝負ではなかった。
小声で自嘲しながらそう言い聞かせないと俺の中にある衝動を抑えきれない。
「少年、大丈夫ですの?」
「あ、はい。ちょっと気が抜けて力が入らなくなっているだけですんで」
「無理もありませんわ。その小さな体で竜に立ち向かい私たちを勝利に導いたのです」
生死をかけた戦い。
これはゲームでは体験できなかったな。
それを体験して感じた感情に整理がつく前に話しかけられてしまった。
「傷だらけですね。こちらには、生憎とポーションを先ほどの戦闘で使い切ってしまったので包帯を巻くくらいのことしかできませんがしないよりはいいでしょう」
一つの選択ミスがパーティーの瓦解、そして全滅の機に瀕することになるという事実が俺を我武者羅にさせた。
無様でもいい、生き残り、そしてダメージを与えろという意志で集中力を高め視野を広げ、全力で相手を倒すことだけに全神経を費やした。
おかげさまでエスメラルダ嬢の言う通り、体のあちこちに擦り傷や切り傷が走り、服や鎧は泥だらけ。
改めて落ち着くとあちこちひりひりしてじんじんと痛みを感じてきた。
「あなたたち、治療が終わったら少年の治療を」
「お嬢様、彼を優先して構いませんよ。いまレッグのやつも目覚めて自分の体を治し始めたところです」
「レッグが、それはよかった」
手を引かれ、騎士たちのもとに連れていかれたら、一人の騎士が隠していた回復役の人に肩を貸してこの場に連れてきていた。
「お嬢様、大事な時に役に立たなくて申し訳ありません」
ぐったりと青い顔色のまま、頭を下げる神官服の男性に向けてエスメラルダ嬢は顔を横に振った。
「いいのです。私の考えが甘かったのです。あなたの命が助かったこと、嬉しく思いますわ」
「お嬢様」
這竜を倒せたからこそ、こんな光景が見れている。
「……」
俺はこの戦いの別の結末を知っている。
エスメラルダ嬢の妹であるイリス・エーデルガルドと交流を重ねるとエスメラルダ嬢の最期について聞かされる。
イリス・エーデルガルドは、とある病に冒され余命が残り数か月と診断された。
治療までのデッドラインは長くて、診断から二か月後。
南の大陸で四大公爵に名を連ねるエーデルガルド家であれば、そのために必要な治療薬を手に入れることも可能だったはず。
しかし、謀略により治療薬の素材が手に入らず刻一刻とイリス・エーデルガルドの命の炎は消えていき。
諦めたくない、姉であるエスメラルダ嬢は最後の素材である這竜の素材を手に入れるために信頼できる部下を引き連れて挑んだ。
「お嬢様!!ありました!!ありましたよ!!」
這竜の体はもうない。
残っているのは這竜からのドロップ品。
それを確認していた騎士は喜びながら両手で持った赤黒い物体を差し出した。
イリス嬢のイベントストーリーで語られる結末では、これを持ち帰るのはエスメラルダ嬢ただ一人。
それも、全身毒に侵され、ぼろぼろになり命が擦り切れる直前に屋敷にたどり着き、医者に這竜の素材を手渡しそこで息を引き取るという凄惨な最期だった。
「良かった、あれだけの戦いをして手に入らなかったらと思いましたが杞憂でしたか」
這竜の血袋。
毒を操る這竜の血は錬金術師の使い方によっては文字通り毒にもなれば薬にもなる。
実際、中盤で活躍するクラス6のポーションには這竜の血袋が必須だ。
竜の素材はいずれもかなりの性能を誇る回復薬に使うことができる。
ゲームのような結末ではなく、こうやって安堵の息を吐ける彼女の姿を見られたことに命を懸けた甲斐はあったかと俺も安堵のため息を吐けた。
「それとこちらも」
「これは、スクロールですか」
「はい、今回のドロップ品はこの二つです」
「そうですか」
辺りは日が暮れて完全に闇に染まっている。
照らす灯りはエスメラルダ嬢がともしてくれている火球の明かりだけだ。
その灯りがドロップ品を回収した騎士の手元を照らしている。
片方は赤黒い這竜の血袋。
もう片方は古紙が巻かれたスクロール。
這竜から出てくるドロップスクロールはいくつかあるが、どれも有用な物だ。
できれば内容を確認させてもらえないだろうか?
でも、俺の知っている限りゲーム時代の貴族連中はある程度仲が良くならない限りそんな対応はしてくれない。
それが南の貴族なんだよなぁ。
ここまで頑張っても、ご苦労の一言で終わる可能性も十二分にある。
なにせ、貴族の役に立てたのだからそれが名誉であるという考えが浸透している。
俺の推しキャラであるイリス・エーデルガルドも好感度を上げるまではそんな感じだった。
「少年」
「あ、はい」
今回は経験値だけで我慢しておくかと自身に言い聞かせようとしたタイミングで呼び出され顔を上げると。
「これはあなたの物ですわ」
「え」
「竜を討伐できたのはほかならぬあなたの指揮によるもの。その功に報いなければエーデルガルド家の名折れですわ。それに、もしこの場にあなたがいなければ私たちはきっと全滅していましたわ」
両手で持ったスクロールをそっと差し出されていた。
「ですので、受け取ってくださいまし」
「は、はい」
一瞬受け取るか迷うが、すっと差し出されたのでそれを受け取る。
「少年、代わりというわけではありませんがこちらの血袋は私にいただけるかしら?」
「それは、はい、大丈夫です」
普通に配分してもらえちゃったよ。
いいのかね?
騎士たちも頷いているから問題はなさそうだけど、何が出ても血袋よりもこっちのスクロールの方が断然有用で高価なんだけど。
血袋に関しては出たのなら譲る気でいたから最悪なにも無しでも仕方ないとあきらめていたまさに棚から牡丹餅というやつか。
「あなたに心より感謝します。あなたと出会えたのは妹を救うために神が差し向けた運命なのかもしれませんわね」
転生者である俺にそれを言われるとないとは断言できない。
ただ、血袋を見てうれしそうに笑うのは火球の灯りの陰影も相まって表情が少し怖いですよお嬢様。
「さぁ、それは俺にもわかりません」
「そうですわね。神のご意志は誰にも測れませんわ。ですが、私がそれほどまでに今日は幸運だったと思っているだけですわ」
イリス・エーデルガルドのお姉さんというだけあってエスメラルダ嬢の顔は彼女とよく似ている。
こうやって笑う姿は、ゲームの時の彼女を思い出させる。
「……それじゃぁ、そろそろ俺は」
しかし、これ以上関わろうとは思わない。
元々予定外の遭遇戦であるし、貴族関連のクエストは報酬は美味しいけどそのおいしさを阻害するくらいに後々面倒なのだ。
「どこに行くのです?」
「いえ、帰ろうかと」
本当だったら日が暮れる前に転移のペンデュラムで帰るつもりだったのだ。
日が暮れてしまってもうすでに辺り一帯は真っ暗。
ネルとアミナも心配しているの間違いなし。
「?この近くに集落があるとは聞いていませんわ。あなたたち、子供のいるような集落に心当たりは?」
「ありません、山小屋もなかったはずです」
「そもそも子供がタックルディアに乗っていたとしてもこんな山奥にいること自体がおかしいことですが」
なので早々に離脱したかったのだが、ここで俺と出会ったことの疑問が再浮上してしまった。
どこから来たとエスメラルダ嬢と騎士たちに見つめられて、普通に王都からですと答えるわけにもいかない。
「そうですわね。戦いで忘れていましたが、少年、あなたはどこからおいでになって?」
少し汚れた金髪ドリルを揺らして首をかしげるエスメラルダ嬢。
その彼女の問いに答えたいところだが、答えたらより貴族絡みの面倒事に巻き込まれるに違いない。
お姉さんを助けた段階で、もう公爵関連のクエストが変化するのは確実。
「少年、何も我々は君を責めているわけではない。もう日が暮れて我々も野営する必要があるのだ。もし仮にこの近くに休める場所があるのなら我々としてもそこで世話になりたいと思っている。君も一緒に戦ったからわかると思うが自分も疲れていてな」
しかし、ここまで関わっておいてハイさよならというのも軽率か?
「もちろん、宿代は多めに支払おう」
だったら、ある程度は付き合って途中で別れるのが……いや、あまり時間をかけすぎるとネルたちが心配してしまう。
だが、転移のペンデュラムのことは知られたくない。
下手したら没収される可能性もある。
この人たちが良い人なのは一緒に戦ってなんとなくわかる。
どうするべきか。
騎士さんの予想では俺はここら辺の隠れ集落に住む少年ということになる。
生憎とここら辺には集落は存在しない。
「生憎と、俺もここら辺の住人じゃないんですよ」
ひとまず、嘘はつかない方針で行く。
下手に作り話をして嘘がばれたら関係性も微妙になるし。
「ここにはとある用事で、タックルディアに乗ってきていた最中でした。その用事の途中で戦闘に巻き込まれたわけです」
「そうですの。その用事について聞いても?」
「地図を作ってました。ここら辺で必要な素材が手に入るのでその分布図を」
嘘は言っていない。
必要な素材が植物とは言っていないし。
道具袋から手書きの地図を取り出してみせればなるほどと納得してくれた。
「となると、少年、いやそう言えば名前を聞いていなかったな。私はエーデルガルド家に仕える従騎士でオイゲンという。隣の二人は同僚の」
「ゲッツだ」
「ビリルという、あと肩にもたれかかっているのが」
「先ほど名前を呼ばれましたが、私もエーデルガルド家に仕える治癒師のレッグと申します」
「あ、俺はリベルタです」
そう言えば互いに自己紹介をしていなかったなと思い、俺も名乗った。
「リベルタ、良い名前ですわ。私は、エーデルガルド公爵の娘、エスメラルダですわ」
最後の締めくくりにエスメラルダ嬢が名乗ってひとまずは自己紹介は終了。
さて、この後どうするかという問題が振出しに戻ってしまった。
「それで、リベルタ。あなたもこの後帰るというのですけど、あなた一人で帰るのも不安でなくて?」
「いえ、一応、武器もありますし、山の中での行動も慣れてますので、その貴族様のお手を煩わせるわけにも」
「ふ・あ・んでなくて?」
「あ、はい」
いや、振出しではなく別方向のルートが確定しそうになっている。
「最初から素直に言っておいた方が良いですわよ?」
断ったらエンドレスで同じ選択肢が出るやつだろ。
にっこりと満足気に笑っているけど、俺この後どう言うセリフが出るかわかっちゃったよ。
「でしたら今晩は私たちと一緒に野営し明日私の馬車で送って差し上げますわ!!」
笑顔で名案と言わんばかりの提案で、善意なのはわかる。
わかるけど。
どうしよう、受け入れると帰るのめちゃくちゃ遅くなるよなぁ。
「ちなみに馬車はいずこに?」
「安心してくださいまし、ほんの二時間ほど歩いた先に従者と護衛に待機させていますから」
それ、すぐじゃないよなぁと思うのは俺だけだろうか。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




