22 低レベル撃破
総合評価16000pt突破!!
ハイファンタジー日間ランキング(すべて)2位!!
総合ランキング日間(連載中)3位!!
ご愛読とご評価ありがとうございます!!
子供の俺を逃がそうと逃げるのを止め立ち向かう騎士とエスメラルダ嬢。
その姿勢は立派だけど、どう見ても戦力的に足りない。
「っ、シカコお前は家に帰れ!!ここでお別れだ!!」
自分の知っている人物。
一方的であり、なおかつゲームという空想の世界で知っていたという頭がおかしい理由かもしれないが、それでもその物語に感動し感情移入をした経験が俺にはある。
ゲームの中での涙は、ただの0と1の集合体。
話している声は声優に命を吹き込まれた声。
表情はAIやゲームデザイナーがこさえた作り物。
そんなリアルな理由など百も承知。
ここはゲームの世界ではない。
最底辺のクラスの強さの頂点で格上のボスに挑むのは無謀が過ぎる挑戦だが、そんな挑戦はゲームでは何度もしてきた。
「悪いな、ネル、アミナ、使わせてもらうぞ」
シカコの鞍から飛び上がり、木の枝を掴んで逆上がりの要領で木に登り、そして道具袋からスクロールを取り出す。
マジックエッジのスクロール。
「これを覚えれば!」
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル2/スキルスロット4
槍豪術 クラス5/レベル42
マジックエッジ クラス1/レベル1 』
「勝ち目は作れる!」
やっててよかったゴミ屋敷クエストってね!
スキルを覚えたのを確認して、シカコが走っていくのを見届け、木から飛び降りて俺が真っ先にやったのは戦闘に加勢するのではなく、這竜の側面に回り込むために駆け出すこと。
横目にエスメラルダ嬢たちの戦闘光景を見る。
回復役はどこかに隠してきたのだろう。
騎士三人が前に出て、這竜の攻撃を盾や剣で受けて対処。
その後ろでエスメラルダ嬢が魔法を唱え、攻撃。
基本通りの動きだ。
騎士のうち二人が挑発系のスキル持ち、片方が盾で防御するためのスキルを持っていて、片方は回避系のスキル持ち。
残った騎士がアタッカーか。
立ち回りからおおよそのレベルとスキル構成を把握。
推定平均レベルはクラス3/レベル50といったところ。
這竜を正面から倒したいのなら、クラス4/レベル80が最低で、六人のフルメンバーが必須。
タンク役が二人、ヒーラーが二人、アタッカー一人のデバフが一人、これが俺の知っている這竜を安定して倒すための構成だ。
デバフを振りまく這竜にはただ回復するためのヒーラーと状態異常を回復するためのヒーラーがいる。
タンク役はローテーションで立ち回り常に正面を確保。
アタッカーは確実に削り、デバフは動きの阻害と攻撃力の低下をやる。
ここまでやって、ようやく安定して倒せるモンスターなのだ。
ゲーム後半になれば余裕でソロでも勝てる相手で、金をかければメタ装備も用意できる。
だけど、今闘っている彼女たちは人数も、レベルも、装備も、スキルも、知識も何もかも足りていない。
子供の俺が説得できるような時間も信頼もない。
俺ができる選択肢は彼女たちの言葉通り後ろを任せて逃げるという名の見殺し。
そして。
「さぁ、やろうじゃないか!ジャイアントキリングってやつを!!」
もう一つは低レベルかつ低装備という縛りプレイによるジャイアントキリング。
武器は弱者の竹槍ただ一つ。
防具は皮装備。
アクセサリーは修練の腕輪を二つ装備。
「少年!?」
「なぜ逃げていない!?」
こんな貧弱な装備で挑むなんて自殺行為だというのは俺も同感。
戦いの場にいきなり子供が飛び出てきて、這竜に走り寄ってきているのだから驚くのも理解できる。
叫びながら飛び出してきたから這竜も俺の方に気づいているが、俺の強さから大した脅威にならないかと察して、エスメラルダ嬢の方を注視しようとした。
「ありがとうよ!!」
その油断が欲しかった!
這竜の行動パターンは全て頭に入っている。
それを忘れずにすべての行動を見極め、その都度正確な対応を要求されるジャイアントキリング。
可能か不可能かで分ければ可能だ。
頭に激ムズとつく上に、こうやって生きた動きを見るとゲーム通りになるとは欠片も思えない。
しかし、似通った行動はしてくれている。
這竜は基本的にレベルが一番高い存在に狙いを集中する傾向がある。
挑発スキルでヘイト管理すればその限りじゃないが、基本的にはレベルの高い奴から倒す。
すなわち、今の俺に向かっているヘイトはほぼゼロ。
「マジックエッジ!!」
ゆえに俺の攻撃に対する反応は遅れる。
脅威でも何でもない。
ただの子供という認識。
子供の攻撃を受けてもダメージにすらならないと踏んでいる。
竜だから、強者だから抱ける慢心。
その隙はゲーマー相手には致命的だ。
竹槍の前に形成させるのは魔力の刃。
竹槍の刃先に薄い青色の鋭い短剣のような刃が形成された。
這うような姿勢故に、這竜の顔の位置は低い。
俺はその下の隙間に飛び込み。
「ここだぁ!!」
這竜のあごの下、ちょうど、首と顎の中間地点にある三角形の鱗にめがけ下から潜り込むように槍を突き上げた。
本来であればクラス1の攻撃、それも強化されているとはいえ竹槍の攻撃など這竜には通用しない。
鱗にはじかれでおしまいだ。
だけど、物事には、いやゲームには例外がある。
『グギャアアアアアアアアア!?』
竹槍の先から感じるのは硬い感触ではなく柔らかい肉質、そして同時に聞こえた這竜の叫び。
「クリティカルヒットってね!」
いかに防御力の高い存在であっても無警戒の状態で急所を突かれればダメージが通る。
ゲーム内で言えばクリティカルヒットと言われる攻撃だ。
「うっわ、さすが格上ボス。マジックエッジに入る経験値うますぎ」
竜には共通して弱点が存在する。
逆鱗と言われる鱗だ。
急所としては目よりも小さい箇所であるが、そこに攻撃を通すことができれば痛みで頭を跳ね上げるように持ち上げるほど痛みに悶えるダメージを与えることができる。
俺はその隙にその場からの離脱を試みる。
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル2/スキルスロット4
槍豪術 クラス5/レベル53
マジックエッジ クラス1/レベル45』
その際にちらりとステータス確認したが、わずか一回でこの上がりかた。
アクティブスキルは使用頻度と使用する相手によって経験値の入り方が変わるけど、クラス差と修練の腕輪の効果でえぐいレベルアップを遂げている。
「この調子なら、もっとDPSを上げられるな」
目下、俺が這竜にダメージを与えられるのはマジックエッジで強化した竹槍でのクリティカルヒット狙いだけ。
「あ、あなた!なんで逃げないんですの!?」
「そんな話は後回し!!見たでしょ!!俺がダメージを与えるから!!あなたたちで注意を逸らして!!」
さっきの逆鱗のダメージは俺へのヘイトが一番高められるのに十分な役割を果たしている。
血走った目で俺を見た這竜。
そんな危険な存在を前に押し問答をしている暇はない。
「生きて帰るんでしょ!!」
「っ!わかりましたわ!!あなたたち!やりますわよ!!」
「「「はっ!!」」」
やはり、悪役令嬢と名高いネームドキャラのお姉さんだ。
現状把握と判断力がいい。
俺が這竜にダメージを与えられたという現実と、子供を戦わせるという常識を天秤にかけ、生き残る点において一番可能性が高い選択肢を選んだ。
「あの子への注意をこちらに向けますわ!!総員奮起なさい!!」
そして自分の役割を把握した。
火力が高い魔法使いである自身が積極的に攻撃し、ダメージを与えた俺へのヘイトを減らしにかかった。
「ファイアバレット!!」
爆発系ではなく、速射能力の高い攻撃を選んだか!!
助かる。
這竜の顔に集中し、視界を遮るようにちりばめられた炎の弾丸が俺への追尾を止める。
鬱陶しいとチロチロと舌を出したり入れたりという動作。
「毒のブレス!!前衛退避!!ファイアシールド展開!!」
「!ファイアシールド!!」
あるかわからなかったけど、あってよかった!!
前衛は俺の忠告を素直に聞いてくれた。
素早くエスメラルダ嬢の背後に回り込んで、紫色の吐息を焔の盾で防ぐ。
炎系の防御は物理面では弱いけど、ブレス系の特殊攻撃には強い。
クラス3でも防ぐことはできる。
「尻尾ががら空き!!」
そしてブレスを吐いている間は、体の動きが止まる。
前に扇状に広がるブレスを回避するために大きく背後に回り込み、そして再びマジックエッジを起動。
狙うは尻尾の先端の付け根。
先端は硬質化して、鋭い刃のようになっているが、その付け根部分。
鞭のようにしならせるにはある程度の可動領域が必要になり、柔らかくする必要がある。
そこにマジックエッジで強化した竹槍を突きこむ。
グサリと確かに刺さる手応え。
びくりと痛みでブレスを止め俺の方に振り返る這竜。
二度のクリティカルヒット。
ヘイトは完全に俺に向いた。
「少年!!」
「来ないでください!!ヘイトはこっちで受け持ちます!!その間に尾の先端の付け根に集中攻撃!!尻尾の刃を切れればこっちに有利になります!!」
「少年の言う通りに!!」
「お嬢様!!」
「彼を信じます!!私たちも彼の信頼に応えます!!」
「「「はっ!!!」」」
体を揺らしてからの噛みつき、これは竹槍で顔の側面を叩き、その反動を利用して躱す。
この突撃の後に来るのは二択。
目を逸らすな!!
相手の予備動作を見逃すな!!
チロリと出た舌。
闇魔法!
体勢をぎりぎり整えて、そのまま駆けだすと足元から黒い刃が飛び出てくる。
シャドウエッジ。
数は、四つ。
ということは相手のHPはまだ八割以上。
撃ち終えと同時に、反転、這竜にめがけて突撃。
シャドウエッジの次は決まって。
「毒のブレス!!」
吸い込むような仕草。
「首元がら空き!!」
発射まで三秒。
かろうじて首の下まで潜り込めて、二度目の逆鱗に向けての槍の突き。
吐き出す直前のブレスをカット。
『グィグゥ』
今度は痛みを我慢したか。
ブレスを吐き出せなかったからか、わずかに口元から紫色の液体が涎のように垂れている。
カットしたらこっちを注目するように様子見をする。
「今ですわ!!」
その隙をエスメラルダ嬢は見逃さない。
騎士三人が大上段から剣を振り下ろし、尻尾に切れ込みを入れて。
「イフリートソード!!」
精霊魔法!?しかも中位精霊魔法か!!
こいつは良い誤算だ!!
その切れ込みにめがけて炎熱の大剣が振り下ろされた。
その刃は鋭く、そして勢い良く、這竜の尻尾にめがけて振り下ろされ。
尻尾の先端が斬り飛ばされる。
『ギャアアアアアアアアア!?』
尻尾が斬り飛ばされ、痛みで悶えるモーションのあとは。
「今が好機です!追撃を!」
「ダメだ!!全力で後ろに下がれ!!ダークスモッグが来る!!」
尻尾が斬り割かれてHPが八割を切った。
その時に起きるのは仕切り直しのために煙幕を張ってくる。
俺は背後を警戒しながら全力で下がる。
一歩踏み出しかけた騎士たちも俺の叫び声に反応して這竜から距離を置いた。
そして這竜を中心に黒い煙が発生した。
「風系の範囲魔法ある!?」
「ありませんわ!!炎ならありますわ!!!!」
「なら壁系は!?」
「もちろん!習得しておりますわ!!」
「煙幕を遮るように、前だけ囲って!!」
這竜の真骨頂はここから。
俺が是が非でも這竜の尻尾を切り飛ばしたかったのはこの煙に紛れての暗殺攻撃があるからだ。
奴は自分の体を固定して、尻尾を器用に動かして自分の顔の位置を隠して攻撃ができる。
「ファイアウォール!!」
尻尾がなければ、使ってくるのは闇魔法か噛みつきそして毒のブレスだ。
そして煙幕の進行さえ防げれば。
『ギャアアアアア!!』
その壁を突破して本体が出てくる。
「ブレスは俺が防ぐ!!魔法は牽制程度で抑えて!!壁魔法の魔力は温存!!」
「承知しましたわ!!あなたたち行きますわよ!!」
「「「おう!!」」」
這竜は暗闇にならなければ、隠密系のスキルはその巨体ゆえにほぼ死にスキルと化す。
「油断しなければ勝てるぞ!!集中!」
「「「おおおおおおおおおおー!!!!!」」」
「やりますわよ!!」
闇魔法の攻撃はシャドウエッジだけ。
毒のブレスは予備動作があるからわかりやすい。
厄介な尻尾は真っ先に潰した。
後は体力を削りきるまで、手順をしっかりと守り続けるだけ。
そうすれば。
「くたばれ!!」
時間と根気をかければ、ジャイアントキリングも夢じゃない。
戦闘開始からどれくらい経っただろうか。
わかるのは、もうすぐ日の入り、夜になりかけのこの時間に俺の槍がもう何度目かわからなくなるくらいに這竜の逆鱗を突き続け、そこは穴が空き、血がドクドクと流れ続ける箇所となった。
集中を限界まで続けて。
魔力がつきかけたその瞬間。
『ぐぅ』
最後にうめき声をあげ、這竜はその体をゆっくりと横に倒し、黒い灰と化した。
「勝ちましたわぁ!!!!」
「生きてる、俺たち生きてるぞ!!」
「すげぇ!!俺たち竜を倒したぞ!!」
「あああああああ!!勝ったぞぉお!!!!!」
喜びに舞う臨時パーティーの面々。
「つ、疲れたぁ」
そして疲労困憊になった俺。
突発的な低レベルクリアなんてやるもんじゃないなぁ。
命がいくつあっても足りん。
この日、俺はそんなことを学ぶのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




