21 フィールドボス
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感謝感激!!ご愛読ありがとうございます!!
さて、RPGだけではなくアクションゲームや推理ゲーム、ことキャラが戦うという性質を持つ作品においてボスという存在は重要なゲーム要素になる。
FBOでは多種多様の様々なボスがいた。
一番身近なもので言えば、ダンジョンの最奥にいるダンジョンボス。
その他にもフィールドに周期的に配置されるフィールドボス。
ストーリーイベントや運営イベントで配置されるイベントボス。
さらには特定の条件を達成しクエストで出会うクエストボス。
こうやって例を挙げることができるほど多々存在する。
さて、今回俺はクラス1という最底辺のステータスだというのにフィールドボスに挑む。
フィールドボスは大きく分けて徘徊型と潜伏型の二種類が存在する。
徘徊型は一定の場所を動き回る系統の縄張りを巡回するタイプのボス。
潜伏型は住処からほとんど動かないタイプのボスだ。
「良し、これで三ヵ所目だ。時間的にもう一か所くらい見つけられるか?」
王都から旅立ちもうすでに一週間、今日でシカコは飼い主の下に帰ってしまうが、俺は予定よりも少ないが目的地を三か所発見することができた。
時間帯はまだ朝方、すでに最低限の目的は達したと言ってもいい。
俺がFBOの記憶で描いた手書きの地図と照らし合わせて今回の探索で発見でき、転移のペンデュラムにマーキングできたポイントは全てフィールドボスの潜伏箇所。
そのエリア全てにボスの存在を確認できた。
「移動を助けてくれてありがとうな。あと、マジで寝るときあったかかった」
「めー」
「ナッツをもっとよこせって?」
戦いはしなかったが、それでもボスの存在を確認できたのは大きい。
ここまでできたのはゲーム時代ではあったはずの道が無くなっても道なき道を進み夜は枕として大活躍してくれたシカコのおかげだ。
すりすりと俺に顔を寄せて餌を強請るシカコに愛着がわき、カバンから最後のナッツを取り出す。
本当だったら俺のおやつにする予定だったんだけど、シカコが気に入ってからは俺は一個も食べていない。
むしゃむしゃと美味しく食べる彼女に俺は苦笑するしかない。
「これで最後だからな?もう袋をあさっても一粒も出てこないぞ」
「めー」
移動手段になってくれたことに感謝しつつ、俺はこの後は転移のペンデュラムで帰るだけだなと思っている。
「?」
遠くで野鳥の騒がしい鳴き声が聞こえた。
「なんだ?」
「ふぅー!!」
「シカコ?」
水辺から離れて少し小高い丘になっている場所に立っていた俺は辺りを見回して野鳥の鳴き声の方向を確認しようとしたが木々が邪魔で位置を特定できない。
だけど、野生の勘でシカコには場所を把握することができたみたいだ。
「こりゃ、良い感じはしないな。シカコ逃げるぞ!」
「めー!」
何か来る。
そんな雰囲気を醸し出す嫌な予感。
ひとまずはここから離脱するために、シカコにまたがりすぐに手綱を操作して駆けだした。
「山の上に!ひとまず何が起こってるのか確認する!!」
「めー!」
駆けだしたシカコはその勢いのまま、山を駆けあがり始めた。
急速に駆け上がりグングン視界が高くなっていく。
そして運よく視界が開け見渡せるタイミングで。
「あー、誰か闘ってる?」
「めー」
爆裂音が響き、そして白煙が上った。
一発じゃない、二発三発と爆発音が響く。
なんで森の中で火魔法系統使ってるんだよ。
山火事にでもなったらどうしてくれる。
「相手は誰だ?」
どこぞの冒険者か、それとも貴族か。
魔法使いイコール貴族ではない。
この世界はステータスを魔力寄りに振り魔法系統のスキルを得ることができれば誰でも問題なく魔法使いロールが可能になる。
しかし、ゲーム時代、特に南大陸の貴族NPCは物理で戦うのは下級貴族の騎士の役目で中流以上の貴族は何故か固定砲台みたいな魔法使いになるのが常識になっていた。
こうも森の中でバカスカと連続で派手な爆発系火魔法を発射するのは貴族魔法使いの特徴だ。
冒険者で魔法使いのNPCは、どっちかというと使いやすい風魔法や水魔法を使っている傾向があった。
派手な爆発系の火魔法は威力は高いし殲滅力があるが、消費する魔力が多くて連発が利かないし、爆発音で周囲のモンスターをおびき寄せてしまう。
対して冒険者が使う魔法は飲み水に使えるような水系統、さらに索敵に使える風魔法と威力は抑えめだが利便性の高い魔法スキルを覚える。
「あんな馬鹿みたいに魔法撃たないと倒せない敵なんてここらへんだとFBくらいしかいないぞ?」
王都周辺、シカコで移動して一週間程度の距離に徘徊型のFBはいなかったはず。
いや、この世界が現実なら流れてきたとも考えられるし生態系が変わったという線もある。
シカコに乗りながら目を皿のようにして遠くの戦闘を見る。
「魔法の威力の高さはそこまでない、だけど、木が倒れているっていうことは相手にそこそこパワーがある」
その先では爆発音と木が倒れる景色が見え、森の中で戦闘が繰り広げられているのがわかる。
爆発で木が倒れる以外で不自然になぎ倒されるという現象。
「……あの倒れ方手足じゃないな。どっちかと言えば尻尾とかでなぎ倒されている感じか?」
その倒れ方には見覚えがある。
「あー、相手は這竜か」
這う竜と書いて、這竜。
そしてその情報と、一瞬だけ見えた長い胴。
土色と黒が入り混じった鱗。
その姿から魔法使い側が戦っている相手が何かわかった。
「うわぁ、確かに這竜なら近くにいるけど、もう一つ山の向こうだろ。ここまで引っ張ってきたのかよ」
這竜とは、ようは巨大な蛇だ。
普段は夜行性で、昼間は洞窟の奥に潜み、夜中に巣から出てきてその体を這わせ獲物を静かに狩る竜種の中では珍しい暗殺タイプの竜だ。
蛇のような見た目をしているが、顔つきは竜そのもの肉体強度も竜種の中では最下級だがそれに準ずるステータスとスキルを保持している。
何よりドロップアイテム名が這竜の~となっているからあれは蛇ではなく竜なのだろうさ。
「おおよそ、巣穴に潜んでいる這竜を引っ張り出してきたんだろうけど、大丈夫か?這竜って巣穴で眠っている最中に叩き起こされるとかなり狂暴化して攻撃がかなり激しいんだけど」
這竜を倒すなら隠密系統のスキルを上げまくって気づかれないレベルにして、昼間にこっそりと洞窟に入り込んで、暗殺が一番だ。
しかし、それを失敗して攻撃で目覚めさせると狂暴化して眠りを妨げた人物を屠るまでしつこく追いかけてくるという性質を持つ。
「まぁ、俺には関係ないか。シカコこのまま離脱しようか」
「めー」
他人が手を出したモンスター討伐に対して横やりを入れるのはマナー違反。
助けを乞われたならともかく、この距離じゃ俺の存在にも気づかないだろうし救助要請もない。
今の俺のレベルで這竜に挑むには準備不足。
君子危うきに近寄らずってね。
シカコも離脱することに賛成なのか、そのまま踵を返して戦場から離れるように山を下り始める。
そしてそのまま帰路につき、王都の方に向かってシカコの駆け足で進むこと十分後。
「ん?」
なぜかいまだに背後の爆発音が聞こえ続けている。
道なき道だからシカコでも全力で駆けることはできないが、それでも人間で言う小走り程度の速さはある。
戦場から離れているはずなのに、なんでこうも爆発音の大きさが小さくなるどころか大きくなっているだろうか。
ちらっと背後を見るが何かが見えるわけではない。
「……めー」
だけど、シカコが少しスピードを上げた。
ということは。
「こっちに来てる?」
野生の勘は侮れない。
ドンドン大きくなる戦闘音。
「こっちに来てるのかよ!?シカコ!!」
ここは山間部。
左右を山に挟まれ、生憎と左右に逃げにくい土地。
シカコも登れるかもしれないが、這竜もそういった山肌をすいすいと登れてしまう。
移動速度はこの山の中なら随一かもしれない。
「クソ!?さっきのパーティーが遁走してるのかよ!?こっち来るなよなぁ!?」
言っちゃなんだが、這竜を相手にするならまだゴブリンの群れを相手にした方がマシなのだ。
竜種には位があり、這竜は最下位に位置するけどそれはあくまで竜種の中での話。
最下位の竜種は三種、這竜、飛竜、沼竜だ。
その中でこちらが対策をしていない状況で闘う相手として一番厄介なのが何かといえば、俺を含めプレイヤーたちは這竜だと断言するだろう。
這竜がなんで一番厄介かと言えば、属性にある。
這竜の属性は闇。
闇属性の厄介さはそのスキルの性質上隠密系統とデバフ系統が多い。
そして這竜が使うスキルは隠密系統と毒系統デバフに相手の視界阻害系統のデバフを併用してくる。
わかるか?
這竜は竜の強靭な肉体を持ちながらデバフを振りまき、視界を阻害し、毒で襲い掛かってくるんだ。
しかも好戦的ときた。
闇系統の対策なしに挑むと痛い思いをする。
かく言う俺もゲーム時代に迂闊に這竜の巣穴に入り込んでしまって、巣穴で何もわからず瞬殺され、リベンジに向かったら闇属性攻撃でフルボッコになった。
少なくとも、皮装備と竹槍で相手にするようなモンスターではない。
「ああ!もう、転移のペンデュラムで脱出する!シカコ!止まれる場所で」
できればフィールドボスの潜伏場所をもう一か所と思ったが、そんな欲をかいていれば背後から迫る戦闘に巻き込まれる。
命あっての物種。
そう思って、離脱するためにシカコに止まるように言おうとしたが。
「!?こんなところに少年!?逃げろ!!」
背後から声をかけられた。
ちらりと振り返ると、そこには騎士風の男が怪我をした仲間を背負って走っていた。
そして続々とその仲間らしき人物が一人二人と姿を現し。
『シャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
怒り狂った這竜も姿を現した。
竜なのに蛇のような雄叫びを上げながら。
「あああ!!もう!!シカコ!全力疾走!!」
そしてその這竜は俺をしっかりと視認した。
それを確認した瞬間止まりそうになっていたシカコに全力で走れと指示した。
転移のペンデュラムは移動しながらでは発動できないアイテムだ。
発動までの時間は約五秒。
すなわち、五秒間静止状態でないと起動できない。
少なくともボスモンスターに発見された状態では絶対に起動できない代物だ。
妨害されれば転移は失敗し、発動しなくなり、一度失敗すればリキャストタイムで一時間は使えない。
一か八かで使うような代物ではない。
ちらりと背後を振り返れば、シカコと同等の速度で走る騎士風のやつが三人、そして懸命に走りながら前を走る少女が一人。
一人の騎士の背中に怪我人、見た感じ神父っぽい格好しているからヒーラーか。
潰されたのが回復役とはついてないな。
もう二人の騎士は二人で這竜を迎撃しながら逃げているが、明らかに火力が足りてない。
そしてもう一人の少女は。
「当たりなさい!!」
移動砲台をしていた。
「もう!しつこいですわね!?いい加減お諦めになって!!」
爆発魔法で一瞬這竜をひるませているが、あれではダメージを入れられない。
走りながら、いや飛び跳ねながらでは魔法の狙いが安定していない。
「は、初めて生で金髪ドリルを見れた」
俺の背後で這竜に向けて悪態を吐く少女の髪形を見て、場違いにもその髪型についツッコミを入れてしまった。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないか」
前衛3に回復1、そして魔法1とバランスが取れているが、明らかに這竜を倒すには火力が足りていない。
冷静に分析し、このままいけばここにいる面々が壊滅するのも時間の問題。
「お嬢様!!我らが囮になります!!お逃げください!!」
「なりませんわ!!妹を助けるためについてきてくれた家臣を見捨てるなどエーデルガルド家の名に傷がつきますわ!!あなたたちこそここは私が抑えます!!お逃げなさい!!」
わお、ここでイベント発生って思うのは俺がゲーム脳だからなんだろうな。
見る感じ、主従関係は悪くない。
互いにいい人っぽいし、事情もあるっぽい。
明らかに死亡フラグを立てているお嬢様はエーデルガルド家と言った。
うん、すっごい聞き覚えがある。
ええ、ここでネームドと知り合うの?
そしてそのネームドで知っているのって。
「そこの少年は気にせず走り抜けなさい!!これは私の不始末!!ここで足止めをしますので逃げるのです!!」
イリス・エーデルガルド。
今懸命に這竜と戦っている少女と同じ金髪ドリル。
「この、エスメラルダ・エーデルガルドがいるので安心しなさい!!」
うん、間違いないこの人。
俺たちプレイヤーの中で有名かつ、割とファンの多いキャラ。
悪役令嬢イリスのお姉さん!?
しかもこれって、悪役令嬢であるイリス嬢の好感度を上げると出てくるストーリーイベントで観られる、大好きだったお姉さんの死んだ原因になる過去の出来事じゃねぇか!?
お姉さんのキャラはゲームでは描かれていなかったけど、イリス嬢はお姉さんを語るときはめちゃくちゃ笑顔だったのは憶えてる。
そんなギャップが良くて、俺、割とイリス嬢のこと推してたんだぞ!?
その推しキャラの過去の傷を癒せるかもしれないイベントがここで発生とは、これは。
少しだけ命かけねばならんようだな。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




