18 ソロ活
総合評価11000pt突破!!
さて、ゲームをしているとある意味でおなじみになる言葉がいくつかあるが、この言葉を聞いたことがないだろうか。
ソロ。
ソロ活動とか演奏とかで使われる単語だが、ネトゲで使われる意味合いは主に独りでゲームを攻略することに使われる。
別称だとボッチとかいうのもあるが、黙々とゲームを一人で楽しむとなるとソロで動いていた方が気楽で、モンスターに対しての経験値効率も高いし、収入もぐんと上がる。
欠点としてパーティとして活動していない分の労力が一人にずっしりとのしかかり、集団でできることがソロだとできないことが多くなり、ソロ活動は自体は初心者でもできるけど、どちらかというと玄人向きである。
さて、なんで俺がいきなりそんな話題を思い浮かべているかという理由だが。
「さてと、準備ができたと」
愛用の竹槍に革製の防具を装備。これは米化粧水のおかげで資金的に余裕ができたので、これを機に買ったものだ。
足回りは特にこだわって、少し頑丈なブーツを購入。
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル1/スキルスロット4
槍豪術 クラス5/レベル33 』
今の俺のステータスがこんな感じで、ここに装備を記載すると。
『弱者の竹槍
革の胸当て
革のブーツ
転移のペンデュラム
弱き修練者の腕輪』
と追加で記載される。
そこに食料と寝るためのマントを入れたリュックを背負う。
「ねぇ、本当に一人で行くの?」
そんなthe旅支度をしている俺に不満気に声をかけてくるネルに苦笑する。
首だけ振り返ると彼女は尻尾を揺らしてさらに足もぶらぶらと揺らし、目を細めて俺を睨んでいる。
私、不機嫌ですと態度で語っている彼女に向けて放つ言葉は。
「仕方ないだろ、ジンクさんもテレサさんも今回の遠出に関して許可を出さなかったんだから」
俺にはどうしようもないというお手上げの合図だった。
「でも、リベルタ君だけで冒険に行くなんてずるいよ」
「そこは両親が心配してくれていると思ってくれよ。護衛を雇おうにもデントさんたちはギルドの依頼で遠出してて今街にいないしいつ帰ってくるかわからないんだから」
その隣には似たように頬を膨らませてアミナが不貞腐れていてこっちも似たような感じで俺を見ている。
今回の街の外への冒険は保護者のいない俺一人で行くのだ。
こういう時すべて自己責任なのが生きてくる。
ジンクさんにもテレサさんにも心配はされたが、裏を返せばそこまでしかできないのだ。
彼らは居候先の恩人ではあるが、俺の保護者ではないのだ。
逆にネルにとってはストッパーになる存在。
「なんでこのタイミングでいないのよ」
「タイミング悪いよ」
「いや、あの人たちにだって生活があるし。俺たち専属ってわけでもないからな?」
その両親が反対し、さらには唯一の交渉材料になりえるデントさんたちも今は王都にいない。
何故かと言えば、彼らも冒険者。
今回はとある商隊の護衛に参加して王都から離れているのだ。
だからいつものように俺たちが雇って護衛をお願いするということができない。
しかも、今回の商隊の護衛は相当遠くに行くようで帰ってくるのは一カ月も先になる。
それを待ってから行動するのは時間が無駄すぎる。
アングラーを作ったからには、それを使うための場所に持って行かなくてはいけない。
しかし、ゴーレムで移動するにはこのアングラーは多脚型だが、総重量は中々の重さ。
移動速度はそこまで速くはない。
徒歩より少し速い程度だ。
それに乗って目的地に行って帰ってくるには前みたいな泊まりになる。
それも往復で最低一週間はかかる。
さすがにそれだけの長期的な野外外泊は許可が出なかった。
「なに、すぐに帰ってきて外に連れ出してやるよ」
なので今回は俺がソロで動き、目的地に転移のペンデュラムのマーカーを打ち込んでこようという魂胆だ。
「その間、モチ周回して熟練度上げておけよ?俺も外でモンスターと戦ってしっかりとスキル上げしておくからよ」
「わかってるわよ。その、気を付けてね。帰ってこなかったら、泣くわ」
「うん、素直でいいけどちょっとそれは怖いわ」
「僕も泣くよー」
「はいはい、そんな脅さなくてもしっかりと帰ってくるから」
真顔で泣くと宣言されて、愛されているなぁと思いつつ、そうならないように気を付けないといけないなと苦笑する。
「それじゃ、行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
「お土産よろしく~」
しばらく帰ってこれないと思うと少し寂しくなる。
その気持ちに気づき、ずいぶんとこの世界に馴染んでこの場所に愛着がわいているんだなと笑った。
二人に見送られて、俺が向かった先は西だ。
そして西門の近くにあるとある店に入る。
「いらっしゃい、って坊主一人か?」
「はい、騎獣貸してください」
「貸してくださいって」
「お金はあります」
「毎度!!」
ここはゲーム時代にもあったフィールド移動を迅速にするための乗り物、騎獣のレンタルショップだ。
ここはテイマーが自分で使役したモンスターを貸し出すことで生計を成り立たせている。
子供が借りに来たと最初は怪訝な顔をした店員だったが、じゃらりと膨らんだ財布を見せればドリルよりも滑らかに手のひらを返した。
「坊主、騎獣に関して知っているか?」
「はい、と言ってもここにどんな種類がいるかはわかりませんけど」
ゲーム時代も、なぜか時間帯によって店に残っている騎獣がランダムに変わり、あれが欲しいと思って行くといなかったりすることがあった。
変なところでリアリティを求めるなとプレイヤーの中では苦情案件だったこのレンタルショップ。
結論、多くのプレイヤーは自前で騎獣を用意してその不便性を改善していた。
「そうかい、馬は全部出払ってる。鳥系も朝一番に出て行ってる」
「飛竜はいます?」
「おいおい、あんな物騒なやつをクラス3の俺がテイムできるわけがないだろ」
「残念です」
プレイヤーの間で一番利便性があるのは飛竜ことワイバーンだ。
速い、強いと餌の燃費の悪さを除けばかなり有用な騎獣だ。
しかし、奴の強さは竜種の中では最下層であるがそれでもクラス5というモンスターの階層の中では中位であるのだ。
いればいいな程度の感覚で聞いたが、冗談だと思われて笑われた。
「今いるのは、鹿と牛、あとは……カメが一匹だな」
「ふむ」
連れてこられたのは、騎獣の厩舎だ。
騎獣ごとに飼育スペースが異なるが、基本的には同じ建物で生活しているようだ。
鹿と呼ばれた騎獣だが、俺の知っている角が枝のように伸びている奴じゃなくて短い角が二本生えているカモシカと呼ばれるような品種に近い。
しかし、カモシカよりもだいぶ体が大きく、ソリでも簡単に引けそうなほど体格がいい。
タックルディア。
クラス2のモンスターだ。
特徴と言えば、ノンアクティブで戦闘になったら逃げるか頭突きしてくるかの二択のモンスターでそこまで対応に苦労はしない。
しかし、移動速度は中々のもの。
残りの牛型のモンスターと亀型のモンスターは荷運び用の重量系モンスターだ。
移動が速くなるモンスターが残っているだけマシか。
「それじゃ、この子で」
「あいよ、こいつは一日百ゼニだ」
「それじゃ、一週間で」
「なら七百ゼニだな。こいつのメシはそこら辺の草食べさせておけばいいからな」
「わかりました」
馬は人気だし、移動速度が速い鳥は高いけどもっと人気。
下手をすれば借りられる騎獣がいなかった可能性を考慮すれば、これで十分だ。
「いいか、七日経ったら帰ってこいよ。途中で危ない目にあったら逃げること、いいな?」
タックルディアは店員の命令を理解している。
コクコクと頷き、さらに素直に鞍の取り付けを受け入れている。
これがテイムスキルの効果なんだろう。
ゲーム時代はただ指示通りに動く仲間のようなポジだったが、こうやって意思疎通がモンスターとできるのならちょっとテイムスキルをとってもいいかもと思ってしまう。
スキルスロットの余裕がないから、取るとしたらそっち方面のガチビルドになるけどな。
「ほれ、手綱離すなよっていうか、今さらだが坊主乗れるのか?」
「乗れますよ、ほっと」
鐙に足をかけ、思ったよりもがっしりしているタックルディアの鞍にスムーズに乗る。
ゲーム時代何度もやった動作だ。
変わり種の騎獣でない限り乗り方は基本的に同じだな。
「おおー、坊主お前騎乗スキル持ちか?」
「いえ、そんなものは持ってませんよ」
手綱を引いてみれば、素直に俺の指示を聞いてくれる。
気性も穏やかな子みたいだ。
首を撫でてやれば、嬉しそうな鳴き声を上げてくれる。
「ふーん、まぁ、乱暴に扱わないのならいいけどよ」
「結構乱暴に扱うやついるんですか?」
「いるっちゃいるな。そういうやつはこの子らが拒否するから貸し出せないって断るんだよ。この前もダッセっていうガキがうちの馬を借りようとしてきたけど乗り方がなってなくて馬が嫌がってな。断ったよ」
「へ、へーそうなんですね」
ゲームの時は基本的に金さえ払えば借りられた。
「そう言えばこの子の名前って?」
「シカコだ」
「鹿子?」
「ちがう!シカコ」
「あー、シカコ?」
「おう!」
まさか、拒否される可能性があったとは、そして拒否された人物に心当たりがある俺は苦笑いしつつ、そのまま店の出口に向かう。
シカコという、和名なのか洋名なのかわからない一時の相棒の背に乗って、久しぶりのソロ活動だ。
「それじゃ、お借りします」
「おう!大切に使えよ!!」
街中でさすがに駆けだしたりはしないが、この店は街の出入口の門と目と鼻の先。
シカコも街の外に出れるのがわかったのか、若干掛かり気味で前に出る。
早く外に出て走りたい。
厩舎にいる間は自由に動き回れないのだから、そういう欲求がたまっているのだろう。
門の警備兵に見送られて、久しぶりに一人で外に出る。
「さてと、まずは」
どっちに行くかと道を確認していると、ちらちらとシカコが俺の方を確認しているのに気づいた。
「あっちの方に、少し走るか」
「♪」
走らないの?走らないの?と確認してくるのでその希望に沿って俺は駆け足の合図を送った。
それに満足したシカコがゲームとは違う、生物の躍動を感じる動きで駆けだした。
「おっと、これは少し真面目に乗らないとダメそうだな」
久しぶりだったことと、ゲームとの誤差。
それを実感しながら、全力ではないにしろなかなかの速度で走るシカコの動きに合わせる。
「でも、なんだろう。楽しいなこれ」
そもそもゲームのキャラと違って今の俺の体はちょっとずつ筋肉がつき始めた子供だ。
ステータスもゲーム時代と較べるとだいぶ見劣りするステータスだし、装備も貧弱。
初期キャラから少しまともに育成し始めたくらいの状態だ。
だからだろうか、FBOをプレイしていた時、初めて馬に乗り苦労して乗馬を覚えたことを思い出した。
そして馬なんて不便だろと愚痴をこぼし、これなら自分で走った方が早いと愚痴りつつ、それでも必要だからと必死になって乗馬を覚えて乗れるようになって初めて走った時の感動がよみがえってくる。
「少しくらい、遊んでも罰は当たらないか」
よく考えれば、この世界に来て普通に遊ぶということをしていなかったな。
大体が育成に関連することで、買い食いとか買い物は休憩がてらやってたが、遊ぶということはしていなかった。
「それじゃ、シカコさんや。少しだけ全力で駆けようか」
「♪」
手綱を握り、駆け足から早駆けに切り替えると気分よくグッとシカコが加速する。
風を切る感じが自然で、ゲームにはないリアルがここにあった。
自由を満喫していると言えばいいだろうか、今この瞬間だけはなんだか開放的な気分になっているような気がする。
いや、FBOに似た世界だからって思って、そこに窮屈など感じなかった。
ここは現実で、生きているという自覚もあった。
だけど、どこかで肩肘を張って生きていたのかもしれない。
色眼鏡をかけてどこかこの世界を俯瞰していたのかもしれない。
「ハハハハハ!楽しい!」
「メー!」
「おま、それ、ヤギの鳴き声だろ!?」
難しく考える必要なんてないと思いつつも、どこか堅苦しく考えていた部分が、今この瞬間の疾走で解れているような気がする。
傍から見れば、子供がタックルディアに乗って街道を爆走しているだけ。
王都の近くで、モンスターもおらず、人の往来も多い。
子供だからということで生暖かい目で見られている気がするけど、それでもただ走ることがこんなに楽しかったのかと再確認した。
大人の常識が、純粋に楽しむということを忘れさせていたのかもしれない。
なんだろう、久しぶりに本気で楽しんでいるかもしれない。
今までの情熱も嘘ではないが、この瞬間の熱量は今までのどの時よりも高い。
だからこの時の俺は満足するまで爆走し。
「あー、ケツ痛ぇ」
「メー?」
結果、想定よりも走れるシカコさんに乗り続けて臀部にゲームでは味わえなかったダメージを負うのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




