16 必要経費
総合評価10000pt突破!!もっと時間がかかるかなと思ってましたが、本当にありがとうございます!!
ごくごくと軽快にのどを鳴らし酒を飲む怪しいアフロことミスターエッグ。
飲んでいる当人は美味そうに酒を飲み干して、すぐに。
「おかわりだ!!」
「ちっ」
店主にお代わりを要求するという厚顔無恥っぷりを披露している。
そのお酒の代金は俺が出しているという事実。
すなわち、子供の金でタダ酒にありついているという事実がのしかかっているということだ。
すでに木のジョッキを三つも空けて、俺たちはただひたすらそれを眺めているだけだ。
「ねぇ、これってどういう意味があるの?」
無意味なことをしない。
そういう信頼があるからこそ、かろうじて怒るのをネルは我慢してくれている。
「覚醒待ち」
「かくせい?」
「この人、ホラみたいなことばっかり言ってるけど、お酒を飲み続けて一定の量を超えるとまともになる」
「えー」
ミスターエッグの野望。
このクエスト、いや、クエストを作った作家は相当性格がねじ曲がっている。
まず最初にクエストを発生させる条件がバカだろと言いたくなる。
ゲーム時代では店に入り、机で空のジョッキを持っているミスターエッグに話しかけると奢れと繰り返し要求される。
ここで断るとあーだこーだと最初に出会ったような自慢話と愚痴を延々と語りだすボットと化す。
これを解消するためには酒を渡すしかない。
しかし、ここでヤバイのは酒を渡してそれで終了というわけではない。
そう、このクエスト、延々と酒を飲ませ続けないといけないのだ。
途中で酒を取り上げるようなことはしてはいけない。
一回でも酒を飲ませるのを中断するとそれで内部にセットされているクエスト発生条件がリセットされる。
現代だったらアルハラで問題になるような酒の量を提供し続け、それでようやくクエストが開始できる。
しかも、そのクエスト発生条件の酒量がランダムに設定されているという更なるクソ仕様。
普段の人格がおかしいのに、何かを与えることでそれがまともになるという設定自体がそもそもおかしいんだよ。
ゲームではない目の前の現実に、そんな人物がいることがおかしいんだよ。
「ふむ、だんだんと頭がすっきりしてきた。これならいい発明ができそうだね」
「「「「「え」」」」」
うん、特にさっきまで変質者だと言われそうなミスターエッグの振る舞いが突如として紳士のような仕草をし始めたらこういう反応になるよな。
机の上に乱雑に並んでいたジョッキを綺麗な所作で片付け始め、そして残った酒も優雅に飲み干し。
そして静かにジョッキを置いたらこっちを見た。
「少年、君のおかげで良い気分になり良いアイディアを思いつくことができた。このお礼は必ずしよう。支払いに関しては申し訳ない、今手持ちがないのでな。その発明が売れた時に必ず返すと誓おう」
白衣の襟首をただし、素直に頭を下げて、心底申し訳なさそうな顔を作った。
来た!来た!来た!!
乱数の中でもかなり少なめの目で当たりを引いた!!
ミスターエッグがいきなり紳士的になったことで主人と客達の戸惑いの雰囲気が店中に漂っている中、俺はニコリと笑い。
「それでしたら、あなたの発明品を見せてもらうことはできますか?もしよければその中で欲しい物があれば買い取りたいのですが」
あくまで丁寧にそして迅速に、欲しい物があるかもしれないと提案する。
「なんと!ワシの発明品を欲するか!なんと見どころのある若者よ!!是非とも見てくれたまえ!!」
胡散臭そうに見る周囲の視線など気にせず、腕を左右に広げ歓迎すると言い放つ彼はそっと席を立った。
「そうと決まればさっそく移動しようではないか!!なに、ワシの研究所はここからすぐだ!!」
そして支払いが済んでいる彼はそう言い残して颯爽と店を出て行ってしまう。
大量に酒を飲んで、なおその足取りはしっかりとしてどんどん遠くに行ってしまう。
俺はその背中を追いかける。
ゲーム時代でも、ここで見失ってしまうとせっかくの支払いによる覚醒が無効化して忘れてしまう。
ミスターエッグは、飲んで覚醒したときの記憶が一切合切消え去ってしまうのだ。
しかし、酒量が一定以上になり、覚醒状態になるととんでもなく有用なゴーレムパーツを開発してみせる。
当人は自分で作ったはずの物なのにその性能を理解できず、ただ研究室にあるから自分が作ったものだという認識でしかない。
ゆえに、酔いがさめた状態だとそれが作れなくなり、しかし発明を売り払ったときに得られた名声や財は自分の物だという認識になる。
このミスターエッグは、酔っている状態こそ最高に有能な状態なのだ。
それこそ。
「なんで、あんなにお酒を飲んでるのに速いのよ!?」
「アミナ!!飛んでくれ!!絶対に見失うな!!」
「う、うん、わかった!」
クラス1だとしても最高ステータスを誇る俺とネルを、普通に振り切れるくらいの身体能力を持っている。
全力疾走で見失わないように走る俺たちを、某飲料メーカーのCMに登場する銀色の光沢をもった全身タイツのヒーローみたいな走りで振り切る勢いを見せるミスターエッグにネルは驚き、アミナは慌てて飛び上がって上空からミスターエッグを追跡した。
「おお!少年!遅かったではないか!!」
「ぜぇぜぇぜぇぇ、い、いえ、遅くなってすみません」
アミナがいなかったら完全に見失うところだった。
「ど、どこがすぐそこなのよ」
「結構遠かったよね」
全力疾走に近い速度で約二十分ほど、普通にキロ単位で走った。
いくらステータスを強化しているとしても、ミスターエッグみたいに顔色一つ変えずに走りきれる距離ではない。
空を飛んでいたアミナは大丈夫だったが、右に左にと曲がり加速と減速を繰り返していた俺とネルは息絶え絶え。
かろうじて、王都の中でも少しはずれにあるそこそこ大きい倉庫のような建物につくことができた。
その倉庫の前に仁王立ちし腕を組むミスターエッグにここでクレームを入れて機嫌を損ねるわけにはいかない。
「いや、ワシも大人げなかった。ついつい気分が高揚して風を切りたくなってね。普段であればもう少し遅いのだがね。さて、時間は有限だ。我が研究所に入り給え」
息を整えながら謝罪し、どうにか話を進める。
ゲームでは、全力でついていき同時につくと誉められ、少し遅れると鍛錬が足りないと言われ、ギリギリにつくと怒られた。
しかし、さすがに子供相手だからか言葉に温情があった。
けれど、行動に温情はなかった。
入り口の扉の鍵を開けたミスターエッグはそのまま中に入ってしまい、その扉が閉まりきる前にかろうじて俺たちは中に体を滑り込ませた。
「少々散らかっているが、まぁ、ゆっくりしてくれ」
「少々?」
「あの屋敷よりはマシだけど」
中には乱雑に積まれたゴーレムのパーツがあちこちに散乱していて、足の踏み場がかろうじてあるくらいだ。
アミナがこれで少々?と首を傾げ、ネルはクレルモン伯爵のゴミ屋敷と比べてしまった。
そんな最中でも、ミスターエッグは気にせず奥に進み俺たちも中に入り込む。
そこは入り口よりも多少スペースが確保され、作業ができるようになっている場所だった。
「これって、全部ゴーレム?」
「いっぱいあるわね」
「ふふ、お嬢さん方あまりに見ないでおくれ。これは全て駄作だ。失敗作ではないが、それでもワシからしたらあまりいい作品ではないのだよ」
完成されてはいるが、ここにあるゴーレムのスペックはどれもクラス2相当のモンスター程度しかない。
それを駄作というのはゲームプレイヤーである俺からすれば理解も納得もできる。
正直、レベル上げもできないゴーレムのスペックは作った段階で決定されてしまう。
改造するにもその素体の限界値は作った段階で決まっていて、クラス越えができるほどの改造はできない。
ゴーレムは性能至上主義と、とあるプレイヤーが言っていたがその通りだ。
「ふむ、なぜワシはこんな駄作ばかり並べている?前になかなかの物を作っていたはずなのだが?あれはどこに行った?」
その低スペックというようなゴーレムたちを眺めているのではなく、ミスターエッグは探していた、自分で作って自分なりに納得できる作品を。
しかし、酔いが覚め覚醒状態でなくなった彼がその出来のいい作品を売り払っているので当然ここにはない。
「むぅ、少年よすまない。せっかく来てもらったのだが君に見せようと思っていた作品が見当たらない」
それを知らない彼は、どこかに片付けて行方不明だと判断してしまった。
けれど、俺はミスターエッグがそれを自分で売り払いこの倉庫にはすでにないことを知っている。
「いえ、気にしないでください。そうだ!どうせなら少し見学していいですか?もしかしたら欲しい物が見つかるかもしれませんし」
「ああ、かまわないとも。ワシは少し作業をしている。もし気に入るような物があったなら一つ持っていきたまえ」
なのでこの流れも決まっている。
だからこそ、俺はこのタイミングで探す。
ここで制限時間がある捜索ができる。
時間制限はミスターエッグの酔いが覚めるまで。
リアルタイムで二時間かそこら。
余裕があるように見えるが、ゴーレムという巨大な物体をこの倉庫から持ち出さないといけないことを考えるとあまり余裕がない。
「集合!!」
なので即座に二人を呼び寄せる。
「今から言うものを探してくれ!」
「わかったわ」
「はーい」
ここがゴーレムの工房でここでゴーレムが手に入るとわかった二人は、俺の行動に対しての疑問を払しょくし素直に指示に従ってくれる。
「探すのは下半身だけのゴーレムだ」
「下半身だけ?」
「ああ、未完成のゴーレムだけどその下半身が目的の物だ」
「わかった!ここならある程度高さがあるし僕は上から探すね」
「頼むぞ!特徴はクモみたいな形だ」
ミスターエッグのゲーム時代のスペックはクラス5の錬金術師だ。
普段の行動がお粗末すぎて、低レベルの雑魚キャラだと思われているがスペックは高いのだ。
欠点の酒に見境がないことと、酒がないと覚醒できないことで人生を大損している。
だけど、今作業場でせっせとゴーレムを作っている覚醒状態のミスターエッグの作品は、間違いなく最低スペックでもクラス4を超える。
材料と覚醒という条件さえしっかりと揃えれば、NPCの中では最高峰のゴーレムを作り出してみせる。
しかし、平時の状態では下級ゴーレムを作るのが精一杯、そして無駄に散財して材料も碌な物が揃わない。
だけど、そんな最中でもしっかりと良作があるのだ。
アミナが空を飛び、そしてネルがガサゴソとあたりを探し、俺はゲーム時代で目的の物を発見できた方向に移動してそれを探す。
それは途中でミスターエッグの覚醒が解けて中途半端になってしまった作品。
未覚醒状態では完成までたどり着けず、覚醒時にはゴミに埋もれ見つからなくなった作品。
ゲーム時代ではゴーレムユニットを運用するビルドにあたって、酒を飲ませるだけでクラス4相当のゴーレムパーツを最序盤で手に入れることができることは、これ以上にないほどの戦力強化になった。
場合によってはほかのゴミ山を探れば別のクラス4のゴーレム下半身パーツを手に入れることもできる。
それも複数回。
今もせっせと作業台に向き合いゴーレムを作っているということはそういうことだ。
最初は固定でいくつかのパーツが必ず手に入るが、そのあとにはランダムでクラス4のゴーレム下半身パーツが手に入るという有能クエストなのだ。
「あった!!二人とも来てくれ!!」
そしてゴーレムの残骸に埋もれた、
若干汚れた、クモのような足のパーツを発見した。
間違いない。
多脚ゴーレムの下半身パーツ。
欠けてもいないし、錆びてもいない。
実働に耐え得る一品。
下半身だけで俺の身長並みに高く、横幅なんて両手を広げた程度じゃ届かない。
下半身だけで軽自動車くらいはあるのじゃないか?
「おっきいね」
「本当、それにリベルタが言ってた通りクモみたいね」
周囲の残骸をどかして下半身パーツの全容をあらわにすると、二人は探していた品がこんなにでかいとは思っていなかったのだろう。
一見すれば確かに大きいし、ゴーレムが完成すれば全体はもっと大きくなる。
だけど、ゴーレムビルド界隈だとこれは小さい部類なんだけどな。
最高峰のゴーレムだととんでもない物を作り出しているプレイヤーを知っている。
そのとんでもなさに見合って材料費も制作時間も維持費もすべてがとんでもないコストになっているのはご愛敬だが。
さて、そんなことを考えている暇はない。
「ミスターエッグ!これいただいてもいいですか!?」
ひとまず、欲しい物が見つかって許可を取るために声をかけるが覚醒状態の彼はこっちに手を振り、勝手に持っていけと言わんばかりの態度を示すだけだ。
「良し!それじゃ!運び出すぞ!!」
「これ、家に持って帰るのよね?お母さんに怒られないかしら」
「あとで俺も説明するから!ほら!みんなで運び出すぞ!!」
それを了承と受け取り、三人で倉庫の外に持ち出すのであった。
なにせ、ミスターエッグと同じような変人があと四人もいるのだ。
このクエストを急いで終わらせないと。まだまだやりたいことがたくさんあるのだから。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




