4 試練のダンジョン
気づいたら、総合年間ランキング(連載中)で二位に浮上していました!!
試練の場に通じる大きな扉、その重厚感は他の部屋の扉の追随を許さず。
何人たりとも出さない、あるいは入れないことを示すかのような堅牢具合を示している。
扉もそしてその枠も金属が使われ、見張りの兵士が常駐するほどの警備網の厚さ。
その扉が、大司教だけが持つことを許されたカギによって開かれる。
「ご武運を」
「ありがとうございます」
その扉を開ける鍵もただの鍵ではなく、魔法の鍵。
魔道具となっている鍵で、使える者を限定するこの扉を開けるための専用の道具だ。
それはおいそれとはここに入ることを許されない、非常に重要な場所であるからだ。
そんな扉が軋むような音をたてて開き、それと同時に中に設置されていた魔道具の照明器具が暗く頼りない明かりを灯して、暗い道の足元を照らした。
俺がその中に迷わず入り込むと、扉はゆっくりとだが即座に閉められる。
「・・・・・さてと、行くか」
孤独となった俺の試練は始まったばかり、内容が記憶通りであるのならそこまで難しい試練ではない。
ゲームの記憶とはそのリアルさという点で齟齬があるが、試練の場の構造自体はそこまで違いはない。
まず初めにある螺旋階段をまっすぐに降りる。
その階段もそこまで深い物ではない。
三階分ほどの深さを降りた先に今度は石造りの門とその前に鎮座する水晶の球の乗った台座が照明によって照らされているのが見える。
その階層に降り立つと、その台座が光る。
『試練を受けし者、この宝玉に触れよ』
どこからともなく聞こえる声は、俺の記憶にある通りの流れ。
俺は迷わず歩き出し、台座に近寄りそっとその水晶に手を触れる。
『これより、貴殿の力を封印する。それによりこの試練の扉は開かれる』
触れた瞬間に、俺の体に黄緑色の帯のような光が走り、それが俺の体を覆って光った瞬間一気に脱力感が体を襲う。
これはステータスダウンの処置、この試練を受けると一律クラス3のステータスまでダウンされる。
レベルがクラス4まで到達していないと試練を受ける資格が無い者として弾かれ、強制的に外に転移される。
資格があると認められるとこうやってステータスダウン処置が施され。
『力の封印は終えた、次に技能の封印を行う。汝が、この試練に持ち込むスキルを三つ選べ』
最難関試練は、クラス3までのステータスダウンに加え使えるスキルも三つに制限される。
このスキルは当然アクティブもパッシブも関係ない。
選んだ三つ以外のスキルは全て封印され、パッシブスキルは効果を失い、アクティブスキルは使えなくなる。
「マジックエッジ、空歩、影纏いの三つです」
『承諾した』
その条件下でどのスキルを選ぶかはあらかじめ決めていた。
この後に来る試練のことを考えると、俺のスキル構成ではこれが一番妥当になる。
首狩りなどのダメージ系のスキルも一考の余地はあるけど、この試練は敵を無理をして倒す必要性がほぼない。
一部、ボスは倒さないと前に進めないが、それ以外の試練は戦闘による消耗を避けるべき場面が多い。
そうして次に帯状の赤い光が俺の体を走り、どことなく力を失ったかのような空虚感に襲われる。
『封印措置を行った。汝を神の試練への挑戦者と認める。先に進むがよい』
その一連の作業を終えて、ゆっくりと門が開かれる。
その門を抜けた先は、青白い靄のようなものに包まれている。
要は先が見えない門に入らないといけないわけだが、この場に長居する必要性を感じない俺は、そのまま先にすすむ。
そして門をくぐる時若干の浮遊感を感じる。
この先がどうなっているかはわかっているので、できれば運のいい方向での展開を望むが。
「うーん、相変わらずのクソ運」
ぽたりと頬に当たる雨粒、そして体に吹き付ける風、ぴかっと光った後に響く轟音。
どうあがいても嵐の真っただ中に放り込まれましたよ。
さっきまで地下にいたはずなのに、気づけば嵐が吹きすさぶ森の中に転移している。
そう、ここは神が用意した試練という名のダンジョンの中。
ネルに言ってた別ルートの登山ルートというのはこのダンジョンのことだ。
一番簡単なルートだと全三層のダンジョン。
ほどほどで五階層、普通くらいで七階層、ちょっと難しいかなで十階層と難易度に差があり、俺が挑む最難関は全部で二十階層だ。
「まぁ、霧よりはマシか」
その一発目から、上の階層を目指す出口を探すのが面倒な見通しの利かない暗い森と嵐という組み合わせ。
「とりあえず、登るか」
そんな嵐の中大きな木の下にいるが、風の所為で雨宿りもできない。
僅かな時間で、体はドンドンと濡れていく。
これでは体温をあっという間に奪われてしまうが、それよりも先にこのエリアの脱出条件が『どれ』なのか確認する必要がある。
この条件次第で、この階層での動きが変わる。
滑る幹を、弱体化した体で登るのは大変かと思いきや、弱体化してもしっかりとEXBPまで獲得している肉体はあっさりと幹を掴みよじ登っていく。
「ひとまず、救助系ではないのは助かるね」
そしてある程度の高さまでのぼり、風で吹き飛ばされないようにマジックエッジを発動させて、手を深々と幹に突き刺してから周りを見回すが、巨大なモンスターが暴れている様子はない。
暴れているイコール何かを襲っている。
その襲っている存在を助ける系の試練があるので、見つけたらとにもかくにもすぐに助けに行かないと大変なことになる。
それがわかっているから、木に登ってまずは不安の払しょく。
時間制限がかかるクエストを初手で悪天候プラス森という悪環境でこなすのは骨が折れる。
「あとは、この森の中から上に行けるルートを探すのだけど・・・・・さてさてどの条件かな」
森であるなら普通に出口を隠しているパターンもあれば、ギミック系で何かの条件を満たさないといけないという線も残っている。
「周辺にモンスターらしき姿は無し、となると徘徊系のモンスターではなくギミックで登場するパターンだな。そうするとこのフィールドで嵐のパターンなら」
周囲を見回して見覚えのある景色を探し、さらにギミックになりそうな特徴的な物を探しとぐるりと見回し。
「良し西スタートだ。三番目くらいの難易度なら上等上等」
この階層の攻略方法がわかって、地面を下りずに猿のように木の上を移動し始める。
なんでそんな面倒なことをしているかと言えば、この嵐の中移動するとなると自然と人間は雨宿りをしながら木の下を通る。
「はい、見つけた」
となると自然と頭上は木の枝が覆うことになる。
それを狙ったモンスターが配置されていてもおかしくはないわけで。
わざわざ木の上を移動して、飛び蹴りで地面に叩き落とす。
『ぐぎゃ!?』
カメレオンのような見た目の、木の葉の中に紛れ込む緑色の保護体色をしたスピレオンというモンスターだ。
体は中型犬程度の大きさで、長く伸びる舌の先が槍のように鋭く、瞬発力のある突きを繰り出すモンスターだ。
これが木の上から奇襲してくるのだから地上に居ると厄介極まりない。
「まずは一匹と」
そしてこのモンスターを一定数、一定時間以内に討伐しないと次の階層に行くための鍵となるボスモンスターが出ないときた。
「次はっと」
幸いにして、スピレオン自体はそこまで強くないクラス2のモンスターだ。
弱体化している身とはいえ、今の俺が負ける要素はない。
面倒なのは探すこと。しかし、それもコツを知っていれば早々に見つけることができる。
スピレオンは、群れでは動かないがそれでも仲間が近くにいることを好む。
一匹いれば、周囲に三匹くらいは潜んでいる。
「オラ!」
そして頭上の安全を確保すれば、次にいそうな木を思いっきりヤクザキックで蹴り飛ばしてやると。
「はい、いらっしゃい」
クラス3のパワーに加えてEXBPで補強した力で盛大に揺らした木の上から何かが落ちてくる。
その何かに向かって、マジックエッジを纏わせたショートソードを振るって首筋をスパッと切る。
「二匹目っと」
モンスターの種類がわかってしまえばこっちの物。
木を見極めれば、どこに潜んでいるかが良くわかる。
「次はそこだぁ!!」
ヤクザキックに次ぐヤクザキック、次から次へと木を蹴り飛ばして、落ちてくるスピレオンの体に短剣を突き立てて仕留めるという単純作業。
幸いにしてスピレオンがいる木の的中率は百パーセント。
「ドロップは渋いけどなぁ」
この系統のスキルを持つモンスターを効率的に攻略するために鍛えた観察眼を舐めないでもらいたい。
そんな的中率に対して、スピレオンから出るアイテムドロップの確率は芳しくない。
魔石はちょくちょく出るが、この後のボス戦で使いたいスピレオンの舌骨が出ない。
装備が制限されている現状で、投擲武器として使えるドロップ品の数はできるだけ確保しておきたい。
自給自足がデフォのこの試練ダンジョン。
時折、空歩を使って落ちてくるスピレオンを仕留め、その足で木の上に隠れているスピレオンを連続で仕留めるという離れ業をして数を稼ぐも、欲しいドロップ品がなかなか出ない。
「八つか、まぁ、節約すれば何とかなるか?」
魔石だけは、どんどんたまっていき、ポケットの中に溜まっていくが、肝心のアイテムは出ない。
そんなことを考えながら次のスピレオンを倒した瞬間に変化が訪れた。
「お、嵐が強くなった」
一定の風量であったはずの嵐の勢いが増した。
それすなわち、ギミックが起動してボスが出現した証拠だ。
それと同時に、周囲に潜んでいたスピレオンたちが一斉に木から降りて走り出した。
一匹や二匹じゃない、次々に木から降りたスピレオンが出現し、一定の方向に走り始めた。
ゲームで攻略し始めのころはこれがボスモンスターと合流するための行動だと思い、スピレオンを追いかけたのだが、その行動は不正解。
「ボスは向こうか」
その逆で何かから逃げるための行動だ。
なのでスピレオンと正反対の方向に走っていくと、ズルズルと何かを引きずるような音が聞こえ、同時に貪る音も聞こえる。
バリボリと何かをかみ砕く音。
そこに現れたのは、カバのような大きな口を持ったモンスターだ。
「相変わらずでかい口だなあ」
森喰らいこと、フォレストイーター。
カバのような可愛げのある見た目に反して、雑食で悪食の凶暴なモンスターだ。
体は鱗で覆われ、目にも敵意を隠さない。
体は象よりも大きく、俺の姿を認識していない間は、ただひたすら木を喰らっている。
クラス4のボスモンスター。
普通に考えて、クラス3のソロでなおかつ初期装備で攻略するような相手ではない。
「そのでかい口が弱点なんだけどな」
しかし、弱点を突いてしまえば一気に弱くなる。
俺はこっちに気づかれる前に駆け出し、死角から一気にショートソードの攻撃範囲まで踏み込み。
大きく口を開いたフォレストイーターの顎の付け根、関節部にマジックエッジの刃を走らせる。
そしてぷつんと何かを切った感触が俺の手に伝わると、巨大な顎骨を持っているがゆえに自重を支えることが出来なくなった顎はあっさりとバランスを崩し外れる。
強大な武器であるはずの口は、確かに強固であり強力だ。
しかし、一回でも側面に回り込み顎周りの筋を切断できれば、顎骨の重さを支えられなくなったその大口は一気に重荷になってしまう。
クラス5以下のボスモンスターはこういうギミックじみた弱点が多いから初期装備でもどうにかなるんだよね。
「さてさて、もう片方の筋も切ってやるからジッとしていろよ?」
ゆらりと歩き出す俺にようやく気付いたフォレストイーターは『卑怯者!』と叫びたいにもかかわらず、顎がろくに動かないので叫ぶこともままならない。
おまけに外れた顎骨がぶら下がって体のバランスも変わってしまい、上手く動くこともできない。
そんな身動きのままならないボスモンスターに向かってかける容赦はないので、さっそくクエスト攻略の時間短縮の餌食になって貰うのであった。




