30 EX 次代の神 13
神々の世界での騒動というのは、彼らを信仰している地上の人間が考えるよりも多いものだ。
その神々の騒動の中でもトビキリと言えるトラブル、それは光と大地という自然の構成要素を司る強力な権能を持っていた神の下界への追放。
それを見届けた、ケフェリ、アカム、メーテル、ゴルドスの次代の主神候補たちの反応は様々。
いや、二分していると言った方が正確か。
「・・・・・」
ケフェリは無言で、盤の縁を握りしめ今にも盤上を破壊せしめんと絶対零度の眼差しを送っていた。
「そんなに睨んでも現実は変わらないよ」
「ええ、こればかりは運次第ですし」
「そうであるな、その、なんだ。あまり気落ちするな。南の使徒であればどうにかなるであろう」
「正直、喜んでいるのがわかるので白々しいですよぉ」
その原因はただ一つ、光の女神ライナと、大地の女神ジュリが南の大陸に落とされたからだ。
散々迷惑をかけられた挙句、自分の使徒と同じ大陸に落とされたのだ、悪意を感じても無理はない。
東西北に使徒を送った三柱は一安心。
いかに力と記憶を封印しようとも、自分の使徒の近くに他の神がいることは心の平穏的によろしくはない。
しかし、下界に落ちた以上これ以上手出しはできない。
パッフルとケフェリが割を食う形で、今回の件は決着したようだ。
「どうします先輩?」
「どうしようもない。近寄ってこないことを祈るほかない」
「祈られる対象なんですけどぉ」
「知らん」
終わったことを一々気にしていても仕方ないと、ケフェリは一度大きく深呼吸して、グルフォアに作らせたソファーに身を横たえた。
「あれは、相当苛立っているね」
その勢いのまま、周囲に次々に異世界の書物を呼び出し、乱読を始める。
神の力をそのまま使えば、書籍の一冊など一瞬で読破することはできる。
しかし、それはただただ情報をインプットするだけの情緒の無い行動。
それでは、この荒ぶる気持ちを治めることなどできない。
アカムの言葉など、無視し、ケフェリが最初に手に取ったのは侍の国と呼ばれた世界に宇宙人が来襲しドタバタコメディとシリアスが展開される銀髪テンパ侍が主人公の物語。
「あれ、本当だったら笑いながら見る作品ですよね」
「そうなんですかぁ?私は読んだことがないんでわからないですぅ」
その手のジャンルを幅広く読んでいるメーテルが、思わず笑えるほど面白い作品のはずなのに、無感情で読み進めるケフェリの表情を見て、遠巻きに見ている他の神々に彼女を刺激しないように声を潜めて忠告する。
「これぞ、触らぬ神に祟りなしと言うやつであるな」
「しっ、騒いで僕たちの漫画まで取り上げられたらたまらないよ」
この状態になっても、神々は神託以外に下界に接触する方法がない。
静かに見守る以外に何もできない歯がゆさを少しでも和らげるために、漫画に没頭するほかないケフェリは、黙々と読書をする。
そうすることで、珍しくこの空間には静かな時間がやってくる。
皆が皆片手間とはいえ、下界の管理をしているから暇とは言い難いが、それでも静かな時間が訪れるのは稀有なこと。
ケフェリもその貴重な静けさを味わいつつ、書物を読み漁る。
今回たまたま手に取ったものが、コメディ要素が強めの内容だった故に笑うという感情を刺激するのが良い。
気分転換にはちょうどいいかと、このまま読み進めようと思った矢先のことだ。
階段を上る足音が響く。
ピタリと一斉に漫画を読む動作が止まる神々。
「他に試練を突破した挑戦者かな?」
「そう考えるのが妥当であるが・・・・・しかし、この気配は」
前回はパッフルという後輩が、主神争いの戦いに参入してきたがまた後発組がやって来たかと皆考えたが、それにしては感じる気配に覚えがある。
「ずいぶんと様変わりしましたな」
「アンドロス様」
そして現れた神は、前任の主神の右腕として名高い『時を司る神』ことアンドロスであった。
白髪白髭と老人の風貌でありつつも、背筋は伸び眼力は衰えない。
前主神が退位し、その折にこの神も持っていた地位を返上し今は一般神と変わらぬ生活を送っていたはずだ。
「どのようなご用件ですか?あなた様が来られるとは」
その神の登場にメーテルが真っ先に対応した。
この神は主神争いには参加しないことを明言している。
本来であればここに現れることはないはずの神、やたら本棚が並び家具も増えた庭園の様変わり具合に目を一瞬細めたが、引退した身としてそれを指摘し場を乱すつもりはなかった。
「私はメッセンジャーとして来ました」
「・・・・・どういうこと?わかる東の」
「いや、皆目見当もつかぬである」
むしろ、迷惑をかける身として本当に言うべきか否かを迷うという話になる。
アカムとゴルドスは一体何のために、アンドロスがここに来たのか、皆目見当がつかない。
「知恵の女神ケフェリよ」
「・・・・・!?」
そしてメッセンジャーの対象は、ついさっきまで不機嫌だったケフェリに対してだ。
「あなたの書物を他の神々にも開放してほしいと陳情が山のように来ています」
「断る」
そしてシリアスな空気に張り詰めていた空間が一転、真面目に不真面目な内容をアンドロスが宣って、一気に空気が弛緩した。
「そう言うでない。この空間をのぞき見した神々から、新しい刺激が欲しいからどうにかしてケフェリの書物を一般開放しろと朝から晩まで、クレームが来るのだ」
哀愁漂うとはこのことか、前回の神々のトップの運営に携わっていたから今でもその手の話が舞い込んでくる。
「のぞき見って、はぁ、暇な神も多いんですね」
「まぁ、何回か視線は感じてたけどね」
「うむ、ここまで開放的だとむしろ監視の目を無くすことの方が面倒である」
いずれ来るとは思っていた。
神々は本当に暇を持て余している。
そんな永遠の悩みを少しの間でも解消できる、ちょうどいい物を持っている神が目の前にいるのならそれを欲するのもまた神だ。
「理由はそれだけではないだろう。有象無象の輩の言葉など常に無視するのがお前たちだ。誰に頼まれた?」
あきれ顔のメーテルがなんでこんな大役をかって出たのかアンドロスに視線で問いかけると、表向きの理由を語ったが、それは嘘ではないが本題でもないということをケフェリは察した。
スッと目を細めアンドロスに向けて問いを投げかけるとそっと目を逸らして。
「孫に頼まれてしまって」
「「「「・・・・・」」」」
本音を吐露する。
いかに前の主神の補佐役と言っても、引退し家庭を持ち血縁を作った。
「そんなことでここに来たの?大丈夫?本当だったらここに来たらだめなんじゃ」
「言い訳くらいは用意しているだろう。でなければ下の門番に止められるのである」
その血縁の中で目に入れても痛くないと豪語する孫の頼みで来たおじいちゃんなのはダメだろとアカムはツッコむが、いかに権力者の関係者であっても普通来れないとゴルドスは指摘する。
「そこら辺はしっかりと手続きをしている。ここに来るのは、ここいる面々にこれを渡すためという名目がある」
プライベートで来るなよというツッコミは耳が痛いとため息を吐き、さすがにプライベートの理由だけでここに来たわけではないとアンドロスが取り出したのは一つの箱。
「世界に干渉することは許されないが、それでもできることを増やすべきということでな」
干渉せずに何ができるか、それを考えた神々の苦肉の策。
「なにこれ?」
「いえ、見覚えがありますよ」
「ああ、漫画の中で見たことがあるのである」
「・・・・・これはぁ」
「ガチャだな」
神々お手製のガチャポンだ。
コインを入れて回すと景品が出るタイプのレトロな見た目の箱。
ケフェリは知識としてそれを知っている。
それ故になんでこんなものを用意したかという視線をアンドロスに向けると、彼はさらに板状のものをこの空中庭園に設置し始めている。
「これは神託の回数を増やすための措置ですな」
そして依頼板と名札を付けられたものを設置し終えたアンドロスが振り返り伝えると主神争いをする神々に激震が走る。
「増やしていいんですか!?」
「伝えられる条件は変わらぬが、増やす手段を与えても問題ないと判断した」
神託に回数制限があり、窮屈だと感じていたこのタイミングで救済措置がありがたいとは思う。
しかし、タダでもらえるというわけではない。
「この板に神々から依頼が入る。その依頼をこなすことによってこのコインが渡される」
神々からの依頼をこなし、それによる報酬でガチャを回すことができる。
依頼は書類で自動的に貼り付けられるようになっている。
ただ、嵩張らないように魔法的処置が施されていて、検索機能も搭載しているから依頼自体は探すのは容易。
「報酬は依頼者が支払うことになっているから、その願いを叶えてガチャを回せば神託の回数が増える」
「チュートリアル Explainer の説明はそれだけか?」
問題は別のところにある。
もし仮に、ただガチャを回すだけで神託できる回数が増えるのならこれ以上ないほど甘い裁定だと言える。
しかし、ガチャはそんな善意の塊のような代物ではない。
なにが出るかわからない。
そんな悪意に満ちていると言っても過言ではない品でもあるのだ。
「答えろ、神託の回数が増える確率はどれほどだ?」
「・・・・・千分の一だ」
そしてその悪意は案の定あった。
ケフェリは嘘は許さないと言わんばかりに、鋭い視線で射貫くと再びそっと視線を逸らすアンドロス。
「他はなにが入っているんですかぁ?」
「神々から提供されたグッズが手に入る」
「中身の内容は?さすがにゴミを渡されても困るのである」
「伝説の剣などがあるぞ」
「使えないよねそれ、今の僕たち戦えないし」
一番欲しい物が出る確率が千分の一。
ガチャとして終わっているが、それでも回す価値は一考する余地はある。
せめて他の物が良い物であってほしいと思うが、ゴミはないようだが無用の長物な品が多そう。
「問題は、依頼内容です。これで南の書物を貸してくれという内容ばかりでは私たちが不利ではないですか」
「そこは公平にしている。しっかりと他の神もこなせる内容がある」
「吾輩の目が疲れているようであるが、書類の代筆と書かれている依頼が見えるのである」
「僕の目には、浮気がバレました代わりに謝ってくださいってあるよ」
「私の写真集を作りたいですというふざけた物もありますが」
「恋愛相談ですかぁ、これなら受けても良いですねぇ」
そして肝心のガチャを回すための必要な資金の集め方に注目が集まるが、その内容もさすが神と言うだけあって個性豊かとしか言いようのない内容ばかり。
「おい、ふざけているのか。私の書物の貸し出し期間が永遠と書いてある馬鹿がいるぞ」
まともという物が少ない。
一番稼げそうなケフェリであっても、借りパクする気満々の依頼内容ばかりでは受ける気もしない。
「それにこのGCってなに?」
「ガチャコインの略だ。三枚で一回回せるようにしている」
「私の写真集の作成が、そのGC九枚なのですが」
「私の書物の貸し出しが、一枚だぞ?」
本当に作った意味があるのか、そのふざけた内容に、疑念の目が持ってきたアンドロスに集中してしまう。
「まともな物もあるであろう!愛の女神の相談というのがいい例だ!」
「それ以外がまともじゃないと言っているんですよ」
「探せばある!」
流石のアンドロスもその非難の目に耐え切れず思わずたじろぐ。
「そもそも、僕たちってここから出れないから。受けられる依頼の方が少ないよ」
デバッグ作業を一切していないゲームのような対応。
せめてもう少し、詰めてから実装しろと五柱からクレームを受けたアンドロス。
「そこはそれぞれで工夫をしてくれ!私は持っていけと言われただけだからな!」
そして最終的には、説明書を置いて立ち去ることを選んだアンドロスの背を皆で見送ることになった。
残ったのはしっかりと設置し撤去できなくなったガチャボックス。
これを使う未来があるのかと神々は悩むのであった。




