27 次なる目標
さてさて、精霊界で付喪神なんてヤバいモノが作れるようになって、半月が過ぎた。
「ハハハハー!!!自由だぁ!!」
「そんなに窮屈だったんですか?パーシーさん」
ガトウにパーシー、そして可能性ではあるがバミューダという三人のネームドの加入は、この開拓村に大きな影響を与えるとは思っていた。
実際、パーシーとその部下の新しい職人団が来て、いま開拓村は随分と騒がしくなっている。
「窮屈だったかと聞かれるなら答えようではないか!窮屈だったと!!」
いや、騒がしいのはこのツナギ姿の魔道具職人ことパーシーだけだ。
ニッコニコと笑顔を振りまき、走り回る姿は大人の姿をした子供。
その姿をフェルトと一緒に、微笑ましいものを見るように眺めている。
「ごめんなさい。工房の職員を監視の目を潜って減らしてこっちに移動させればさせるほど、公爵家の家来たちからの嫌がらせが悪化しまして。この人ったら物が作れなくなってストレスを溜めていたんですよ」
「わかってますよ。自分の方でも報告を受けていましたけど、随分と荒っぽい方法を使ってきましたね」
「正直に言えば、あなた方の護衛が無かったら危なかったですね。誘拐未遂、自宅侵入、強盗未遂、兵士の捜査拒否、営業妨害による売上の低迷。やれることを全部やってきたという感じですね」
妙にハイテンションなパーシーが、引っ越し先である開拓村の工業区に新設した工房の施設を見て、大興奮と言わんばかりに万歳して子供のようにはしゃいでいるのには理由がある。
スカウトという名のマーチアス公爵の命令を拒否したことで、パーシー工房が、ついに閉店に追い込まれてしまったからだ。
正確に言えば、裏の危ないお兄さんたちに目を付けられて、潰されたという感じだ。
「冒険者ギルドや傭兵を雇おうにも、受けてくれる人もいなかったですので」
「職員の家族とかも狙われてましたからね。ご近所からも避けられていましたし、こっちとしても早急に引っ越した方がいいという案件だと思ったまでですよ」
その行動自体は俺にとっては想定内。
エンターテイナーたちを動員すればどうにかなる案件であった。
嫌がらせをするアングラな人とマーチアス公爵のつながりがあるのは明白だが、それを訴える証拠もなければ、抗う方法もない。
「ああ!炉が新品!こっちの設備も新品、あっちも!!ああ、もう!新しい工房最高!!」
それに戦ってもこっちの戦力を露呈させるだけなので、それならとすっぱり東の領地の工房を廃業させた。そして「パーシー工房」という有能な魔道具の職人団をこの開拓村に招致できたということで、こっちとしては十二分に利益が出ている。
「私たちが使っていた工房とほぼ、一緒なんですね」
「ええ、まぁ、先に来てくれた職員たちに話を聞いて、うちのドワーフたちに頼んで作ってもらっていたんですよ」
せっかく努力して築き上げた工房を失うという苦労に見合う報酬ということで、この真新しい工房と設備を与えられて、正しく新しいおもちゃを与えられ興奮している子供のようにはしゃぐパーシーが心の底から喜んでくれているのなら、今後の開拓村の魔道具開発の未来は明るいだろう。
ニッコニコと笑顔で設備を触って回り、使い心地を確認しているところ、今にも何か作り始めようとしている空気が漂ってきている。
「うん!こっちの通路は通りやすくなっているね!って、前の工房よりも大きいな!!」
「本当にここまでの設備をタダでいいんですか?」
「その分だけ、働いてもらいますよ」
そして、せっかく出迎えるということで新生パーシー工房は以前より大幅に敷地面積を広くしている。
従業員数は従来通りだが、設備を増やすことを考えたら大きめに作っておいた方がいい。
「目下、最初の依頼は学校に使う備品や設備の魔道具ですね。照明器具や空調設備、水道設備とかは数が多いので、早速取り掛かってほしいです。作った物は用意した倉庫に納品してください。これ、発注書です」
「こんなにも、よろしいのですか?」
「良い仕事には良い報酬を。それが俺のモットーなので」
そんなパーシー工房への最初の依頼をフェルトに渡すと、その発注書を覗き込むように顔が生えてくる。
「むぅ!さっそく作るか!!作るんだな!作るよね!!」
「ええ、作りますよあなた」
「驚かないんですね」
「慣れていますので」
依頼と聞いて飛び込んできたパーシーの登場に動揺せず、顔を少しずらして発注書を見せるフェルト。
そのやり取りで、本当に慣れているのだなとわかった。
俺なら後ろからいきなり顔が出てきたら心臓が飛び出るほど驚くぞ。ついさっきまではしゃぎ回っていた大の大人の気配がマジで消えて、気づいたら背後に高速移動で回り込んでいる。
パーシーは戦闘スキルはほぼ持っていないはずなのに、素でそんな動きをしてくる。
ある意味で才能の無駄遣いだよな。
「それじゃぁ、みんな!手始めに照明器具、八千個行ってみようか!」
「納期は半年後でいいんですけど、大丈夫ですか?」
「はんとしぃ……?」
そんなパーシーに向けて、学校の建築も始まるのでそこに合わせて納品してほしいと言ったのだが、ぐるりと首を回して振り返るパーシーの顔には不満があった。
「あ、短いですか。それでしたらもう少し伸ばして……」
「違う違う、その逆!」
てっきり期日が足りないと思ったのだが、パーシーはあっけらかんと表情を元に戻し、手をひらひらと揺らして否定してくる。
「これだけだったら、三カ月もあれば十分だよ」
「三カ月って……照明器具だけですか?」
「いいや、水道、空調、照明全部だ。何せ今のパーシー工房の仕事は君のところだけの独占状態!しかも素材の発注から納入までのタイムラグもなくて、商売経路も君のところだけ。作ることに専念できるからな!」
相当量の注文を頼んだ自覚はあったが、その量を想定の半分の時間で作って見せると言ってのけたことに、まずは脱帽だ。
「えっと、パーシーさんはこう言ってますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。むしろ……」
普通に考えて、納期半分は無理じゃないかと思ってフェルトの方に顔を向けてみたが、彼女は問題ないと頷く。
「この人のテンションを考えると、もっと早く作り終えて『次のお仕事を頂けないか』と相談するかもしれませんね」
「えっと、本気ですか?」
「ええ、本気です」
むしろ、仕事が足りないと言われるとは思っていなかった。
「あー、じゃぁ、他の設備の魔道具の依頼も明日持ってきますね」
「お願いします。あの人、物を作らないと禁断症状が出ますので」
「それじゃぁ、消耗品の魔道具とかも発注しますね」
「定期的な仕事があるのは助かります」
「報酬は、自由にできる素材と食料などの日用品でいいですよね?」
「はい、生活用品や消耗品は素材があればこちらの方で作れるので」
自分なりに多めの発注を持ってきたつもりだったが、開拓村に来てすぐにブートキャンプでレベルを上げてステータス補正をかけた職人たちのテンションアップがヤバいな。
嬉々として工具を握りしめて、さっそく作業を始めているけど、その手先の動かし方がロボットかというくらいに、一定の所作を精密に繰り返している。
「それじゃぁ、頼みます」
「はい」
これ、下手したらモノを作るのが楽しすぎて夢中になって、一か月後とかに「仕事ください」とか言われないよね?
そんないい意味での不安を感じながら工房を後にして、向かった先は。
「ガトウさん、いますか?」
「ああ、リベルタ君」
「リベルタ、おっす!」
「リベルタ君、お疲れ様♪」
エンターテイナーたちの訓練場という名のトレーニング施設だ。
ぱっと見はボルダリング施設だが、それ以外にも体を鍛えるためのトレーニング器具、廃墟を模した迷路、ボクシングのリングのような格闘場といった、斥候が鍛えるための設備が揃っている。
その施設に足を運び、目的の人物であるガトウを探してみれば、ちょうどジュデス、シャリアと話していた。
背景に見える、パンイチの男たちの姿はスルーして近づき挨拶すれば、3人が振り返って挨拶してくれる。
「どうだ?ガトウさんの授業は」
ガトウにしてもらっていたのは、今後学校のカリキュラムになるであろう、警戒や偵察といった冒険者の斥候に関する知識の講習。
こと、冒険という分野においては必須と言えるような知識だ。
「すっげぇ、わかりやすい」
「うん!わかりやすくて、ためになるよね。僕の知らないことも多かったよ」
その授業をエンターテイナーたちにしてもらって、教師としての経験を積んでもらおうと思ったのだ。
「ホォホォ、皆が優秀だからね。ワシの知識なんてあっという間に覚えきってしまうよ」
「いやいや、完全に俺たちの方がレベルが高いのに、かくれんぼで負け越しているんですよ!」
「そうそう!僕たちじゃ見つけるのも隠れるのも未熟だってわかっちゃったよ」
レベルの差があっても、長年実戦を積んで得た経験値という分野においてガトウの知識は本物だ。
今後のエンターテイナーたちの活躍に、いい影響を与えられればなにより。
「一番驚いたのは、入り口のすぐそばの陰に息をひそめてた時だよな」
「いやいや、僕は背後にピッタリとくっつかれていた方が驚いたよ。僕の呼吸にピッタリと合わせられたら気づかないって」
「隠れるのが上手くなくては生き残れないからね。長生きできたジジィなりの工夫だよ」
レベルが低い人に教わる。そういうことに忌避感があるかと思ったが、エンターテイナーたちにそのような思想の人はいない。
ガトウの技術をリスペクトし、尊敬しているようだ。
「そう言えば、ワシに何か用事でも?」
「ああ、今作っている学校の件に関してだけど、自然環境を使った訓練施設が欲しいって言ってたよね」
「ああ、その件ですか。このような屋内の訓練施設もあればいいのですが、やはり現場は自然環境の方が多いですからね。自然と隣接してある施設があれば嬉しいのですよ」
ガトウも自分の技術が後世に伝わることに喜びを感じているようで、教師としての役目を楽しんでいるようだ。
実際教えるようになってから、色々と要求してくることが増えた。
施設もそうだが、教材のために紙を作れないかという話を持ち込んできて、さらに製本もできないかと聞いてきたときは驚いたが、確かに製本し教材を作れれば育成も進むかと思い、そっちの設備も用意するために計画している。
照明器具の後にパーシーたちに頼もうと思っていたのだが、このペースだとかなり早い段階で取り掛かれそうだ。
「資源調査が終わって、訓練に使っても問題ない山を見つけたからね。これ、候補の山の資料です。目を通して候補を絞っておいてください」
「こんなにも早く。それに多いですな」
「ジュデスたちが頑張ってくれたおかげですね。お礼なら彼らに」
「まぁ、俺たちが使うことになるからな」
「頑張ったよ♪」
「皆、ありがとう」
こんな風に、訓練施設に接続するための高架橋の建設計画とか色々と進んでいて、段々と人手不足が露呈し始めている。
次女さんの付喪神の作成が軌道に乗れば、人手も少数で済むんだけど、安定供給できるのはまだまだ先だ。
それに仮に供給ができるようになっても、必ず人は必要だ。
「リベルタ、ここにいましたか」
「クローディア、どうした?」
「本山の方から連絡が来ました。神殿建設に関する許可と、神の像の配置の件についてです。どれほどの規模の神殿を作るかによって内容が変わりますので、一度本山の方に来てほしいとのことです」
この開拓村の弱点は間違いなく人手の少なさ。うかつに増やすことができない状況でどうにかせねばと色々と手を回しているが、中々芽が出ない。
そんなことを考えているタイミングでクローディアから渡された一通の手紙、それは神を奉る教会からの呼び出し。
「なるほど。じゃぁ、行くか」
それを受け取り一読し、次の行き先を決めるのであった。




