11 米化粧水
総合評価8000ptありがとうございます!!
ゲームとかで、換金アイテムという物が存在したり、低予算の物を組み合わせるとあっさりと高価な物ができてしまうということがよくあった。
「よいしょ、よいしょ」
「こんなに買い物して大丈夫なの?」
「ああ!問題ない!今回の出費分なんてすぐに取り返してやるわ!!」
スキルショップに行ってからというもの俺は普段よりもハイテンションだという自覚がある。
借りた荷車の上には、善は急げとスキルショップで見つけた三つのスキルスクロールを買った後に寄った錬金術の店で購入した機材がどっさりと。
占めて二千と九百ゼニ。
パーティーの所持金をほぼ使い切った形で、ネルが布で覆われた荷車を後ろから押しながら心配そうに聞いてくるが俺は笑顔で大丈夫だと断言する。
買い物を終えたら、馬小屋まで戻ってくる。
「あら、ずいぶんといっぱい買ってきたのね」
今日は天気がいいので、テレサさんが庭先で洗濯物を干していた。
俺たちで荷車を引っぱって買い物をしてきた荷物量を見て目を見開いている。
「テレサさんはこんにちは!いやぁ、物が安かったのでついつい買っちゃいましたよ!!」
「あらまぁ、安いのは良かったけど大丈夫なのかい?借金とかは……うちの娘がいるからさせないだろうし大丈夫だと思うけど、お金は計画的に使うものだよ?」
「わかってます!これも投資ですから!!」
俺たちがというより、俺が稼げるようになってから定期的に家賃を納めているのを知っているし、ネルも稼いでいると家族に話しているから盗んできたとかそういう心配はしていないが、買い物量的に大金を使ったのはわかっている。
実際、貯金は底をつきかけている。
「そうかい、ま、若いころにできることはやっておきな。危ないことはしないんだよ」
「はーい!」
「今日は、いつもより元気だね。ネル、何があったんだい?」
「わからない。スキルショップに行ってからずっとこんな感じ」
「すっごく良いことがあったみたいなんだよ」
「これから良いことがあるのはネルたちだと思うけどなぁ」
「「??」」
だけど、俺はそれを巻き返す方法を知っている。
「さてと、まずは馬小屋の中を整理してスペースを確保しないと」
「あははは、クッションだらけだ」
「こっちは使うって言ってた薬草とか米水ばかりよ。後は小さい魔石と全部モチからのドロップ品ばかりね」
荷車を馬小屋の前に止めて、最初にやるのは馬小屋内の整理。
馬を飼育する施設だからそこそこのスペースはあるけど、モチダンジョンを攻略し始めてからいろいろとアイテムが増えているためスペースが減り、手狭になり始めている。
一応ドロップ品は木箱の中に入れて、整理している。
馬小屋の一角、俺の寝るスペースにひとまずクッションを山積みにして、木箱をちょっと脇にどかして、寝るスペースの反対側に空間を確保。
ステータス万歳。
筋肉はつき始めているけど、まだまだ成長過程の俺の肉体でも重そうな荷物がすいすいと運べてしまう。
ちょっとした模様替えにこそこういうステータスがものを言う。
はぁ、前世でもこんな感じで肉体を強化したかったよ。
「スペース空けたよー!リベルタ君ここからどうすればいいの?」
「組み立てだな。荷車の中から材料を持ってくるぞ」
「わかったわ」
「まずは、この大きな机みたいなやつからかな?」
錬金術のお店で買ったのは、最下級の錬金術用の作業台だ。
所謂、初心者入門用のセットみたいなもので、買い物したうちの大半はこれだ。
これでネルの値切りこみで二千五百ゼニ、二十五万円。
これからの費用対効果を考えれば、十分に安いと思える出費だ。
「えっほ、えっほ」
「ふと思ったが、荷車を押しているときも何か言ってたが、その掛け声って必要か?」
「運んでるって感じがするし、良いと思うんだけどなぁ。ダメ?」
「ダメとは言わないけど、私も言った方がいいのかしら?」
「人それぞれだろ」
金属で作られた作業台は普通に重い。
あちこちに魔法陣みたいなのが描かれているから、魔力的に耐久性の高い金属を使っているんだろうな。
これが、下級、中級、上級、最上級と段階を隔てると作業台に使っている金属もレベルが上がる。
その分異常なお値段に進化するけど、その段階まで来ていると自力で作業台を作って独自カスタマイズしたり、工房を構えるレベルだから実質素材費だけで済む。
作業台の本体を運び終えたら、次にカセットコンロみたいなの、というか魔石で動くカセットコンロを作業台にネジで固定して、その隣に魔法陣が描かれた鉄板を並べてこれも指定されたネジで固定。
「引き出しをつけて、あとは鍋を置けば完成ッと」
「簡単だね~」
「これで本当に大丈夫なのかしら?」
「闇市で買ったならともかく、しっかりとした店で買ってるんだ大丈夫だろ」
魔石を放り込む引き出しと、付属品の鍋をつけてやり、子供でも簡単に組み立てられる最下級の錬金作業台。
「これで何ができるの?」
「合成と付与だな。と言ってもこの作業台だと頑張ってもクラス3のアイテム合成と付与がせいぜいだな。クラス3も限定的だ」
最下級だけあってできることは初歩的な物だけ。
「あと使えるのは、錬金術のスキルを持っている奴だけだな。それ以外のやつがやろうとすると著しく成功率が低下して大半失敗する」
でも、俺にとってこれは金の卵を産む鶏だ。
そしてその鶏に金の卵を産ませる方法も知っている。
「ということで、アミナ」
「はーい」
さらに幸いにして、錬金術を覚えてくれる仲間もいる。
ソロとして動くなら俺が覚える予定だったスクロールをアミナに渡す。
「?一つだけ?もう二つは良いの?」
「ああ、そっちは別口でな」
彼女に渡したスクロールは一つだけだ。
「そうなんだ……それじゃさっそく」
「アミナ?」
「……使い方はわかるか?」
「……わかんない!!」
錬金術のスクロールを受け取って、それを両手で広げる。
そこでピタッと止まること数秒、ネルがどうしたのかと首をかしげて尋ねたタイミングで俺はふと気づいた。
スクロールの使い方を知らない。
ゲーム時代はスクロールを使うとイメージしただけで使えた。
だけど、その方法がこの場でも通用するかと言えばそうじゃない。
笑顔で分からないと断言するアミナに俺はこんな初歩的なトラップに陥るとはと自分が浮かれすぎていたことに反省せざるを得なかった。
「とりあえず、使おうと思ってみてくれ」
「はーい!あ、できそう!」
「え、そんなに簡単にいいの?」
だけど、すぐに問題は解決した。
一体どういうシステムになっているかはわからない。
「使っていい?」
「ああ」
「それじゃぁ使うね」
再度俺に確認して、俺がうなずいたのを確認するとアミナの手にあったスクロールがスーッと消えていく。
「覚えたよ!」
「ステータスを確認してくれるか?」
「うん!」
それで覚えられたということらしいので、俺は念のためにと確認してもらう。
『アミナ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力40 魔力60
BP 0
EXBP 0
スキル2/スキルスロット4
杖豪術 クラス2/レベル83
錬金術 クラス1/レベル1 』
「うわ、こんな風に増えるんだ」
「あとは修練をしてとか、教えてもらったりとかすると覚えたりする」
「でもカガミモチを倒した時は一回で覚えたわよね?」
「あれは例外、最初だけの特別特典ってやつだ。戦闘スキルも生産系のスキルもパッシブ限定で武器を使い続けたり、物を作り続けると覚えることもできるけどな。そっちは憶えるかどうかは確率勝負だけど」
「ふーん、ならスクロールを買う必要もないんじゃない?」
「言っただろ?スキルを持っていない状況での生産は成功率が著しく低下する。鍛冶も木工も細工もすべてそう。料理とか生活関連は例外的に無効果なら簡単にできるけどスキルは得にくいし、それで成功を重ねても覚えるかどうかの確率はかなり低いんだよな。それなら材料費を払うよりもスクロール代を払った方が断然お得ってわけ」
無事に覚えてくれて何より、スキルの習得方法は複数あるけどスクロールが一番お手軽だからな。
この手段がなかったら本気で努力系の習得を試さねばならなかったよ。
「そうなのね」
「ああ」
「それでそれで?僕はこれから何をすればいいの?」
幸いにしてその心配はなく無事にスキルを習得できたので早速錬金に移ろう。
「作ってほしいのは、米化粧水だな」
「米化粧水?」
「あれ?知らない?」
「うん、ネル知ってる?」
「化粧水っていうのは知ってるわ。貴族の女性が使っているお肌を綺麗にするやつよね。王妃様が使う化粧水は一つで一万ゼニはくだらないって聞くわ」
「ええ!?」
「え?」
米化粧水、これは錬金術を覚えたら入門的に覚えるポーションよりも簡単に作れて、かつ売値も高いという換金アイテムだ。
ゲーム時代では、店売りでも一個三十ゼニは堅い。
品質次第では、イベントキャラの商人に販売すれば、その倍、六十ゼニで買い取ってくれるという優れもの。
合成で使用するアイテムは全部モチダンジョンで手に入る。
モチが落とす米水、魔石、そしてダンジョン内にある薬草のそれぞれ一個ずつを錬金術の作業台で合成してやれば完成する。
そんなお手軽商品であったが、俺が知っているお手軽品とは比べ物にならないくらいな高級品になってない?
「そそそそそそ、そんなものを今から作るの?」
「いや、そんな代物じゃないはず」
米化粧水というのは、ゲームで言う換金アイテムと呼ばれるものだ。
使えなくて、フレーバーテキストで『女性が欲しがる一品!使えばたちまちお肌を若返らせ潤いを与え綺麗にする!』とかどこの化粧品メーカーの売り文句だという文言が書かれているだけの序盤金策アイテムだ。
他に化粧水があったか?
いや、ゲーム上ではそんなものはなかった。
普通に考えれば米化粧水がそれに該当するという話と、それ以外の化粧水があるという話がある。
「うーん、ちなみにネルは化粧水を売っている場所とか知ってるか?」
「たぶん、貴族お抱えの錬金術師の人が経営しているお店とかなら売ってると思うわ。だけど、そういう人って貴族街にお店を構えているから私たちみたいな普通の商人が見ることはないの」
「売るのに何か資格が必要とかあるか?」
「ない、と思うわ。作れる人が多いならそういう話も自然と出てくると思うけどご禁制の品の中にもなかったはずよ」
「なら、大丈夫か。ネルにはこれを売りさばいてもらう予定だからそこら辺が心配だったんだ、大丈夫そうならよかった」
「売るのは良いけど、そんなにいい物なの?」
「たぶん、良い物だと思う」
冷静に考えて、売れていたのはゲームという根底があった。
だけど、ここは現実、そのまま作って売れるかどうかは定かではない。
「どっちにしろ、アミナの錬金術の練習になるし物は試しだ。アミナ今から言う通りに作ってくれ」
「いいよ」
ネルの指摘通り効果次第では売れるかどうかはわからない代物を作ることになる。
少し不安に思いつつ、ゲーム時代の記憶を掘り起こして錬金作業台を操作する。
「まずはそこの引き出しに魔石を投入。これがエネルギー」
「うん、どれくらい入れればいいの?」
「とりあえず、小さな魔石一個でいい」
「はーい」
アミナは木箱の中から小さな魔石を一つ取って、錬金作業台の引き出しに放り込んだ。
「次に米水を鍋の中に入れる」
「一個?」
「ああ、一個でいい」
魔女が使ってそうな鍋の小さいバージョンに水風船のような柔らかい物体。
握れば割れそうだが、そう簡単に割れないのはわかっている。
中身が白く濁っているのが特徴で、米を洗った研ぎ水に近い。
それを一個そのまま放り込む。
「そして最後に薬草を一房放り込んで」
「放り込んで~」
「蓋をする」
「蓋をする」
刻むこともすり鉢で潰すこともせず、素材をただ入れるだけの作業。
「あとはコンロの脇にある魔法陣に手を添えると」
「あ、合成ができる!!」
「そういうこと」
この作業台はスキルの代用品だ。
スキルの中には錬金術の合成というスキルがあって、それを使えば作業台はいらない。
だけど、代わりに貴重なスキルスロットを消費してしまうというわけだ。
それを避けるために作業台を用意したというわけだ。
錬金術を専門にした育成をするならそれもありだけど、アミナはそういうわけにはいかないからな。
「それじゃ!!合成!!」
やり方がわかったら、すぐにアミナはスキルを発動させた。
すぐに魔石が反応して、わずかな光を放つ。
そして光が収まると。
「……できたの?」
「たぶん、失敗したら爆発して黒い煙が出るはずだから」
「爆発って、え、もしかして僕危ないことしてた?」
シーンと静かになり、成功したかしなかったかわからなかった。
ゲーム時代の失敗エフェクトが出なかったらたぶん成功。
「お、できてるできてる」
恐る恐る俺が蓋に手を伸ばし、ネルとアミナが少し距離を取って見守る中ふたを開けて中を覗き込むとそこには薄緑色が混じった乳白色の液体が生まれているのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




