23 カリスマのスーツ
あまりにも豹変した態度を見せるバミューダだが、彼を仲間へ迎え入れるか。
その判断はあまりにも難しく、されど俺にしか判断できないことでもある。
神が仲介する契約をしても良いと断言するほどの覚悟。
俺の知るバミューダであれば言うはずのない言葉に、しばし黙考をした後。
「そうだね、条件付きで迎え入れてもいいよ」
「「「「!?」」」」
俺は限定的な肯定の言葉を返し、周りを騒然とさせた。
条件付きとはいえ、主を変えると公言する男を信じるのかと驚愕する俺側の人間、そして鞍替えを受け入れるということに喜ぶバミューダ。
そしていよいよ、目の前で裏切りが達成されそうになることに対して粛清をすべきか悩む騎士たち。
「条件とは?」
「遺恨なく、マーチアス公爵の元を去るための筋を通すこと」
だが、俺が言った言葉にエスメラルダを含め、仲間たちには納得の雰囲気が漂い始めた。
それがいかに無理難題と言えど、正論であるがゆえにこれを拒否することはできない。
「無理難題かもしれない。だが、やはり私は裏切りを良しとしない。ここでの情報漏洩の分も含め、マーチアス公爵に釈明し筋を通し地位を返上し、遺恨なくマーチアス公爵と別れを成し遂げた無位のバミューダ・オルトスであれば『俺』は迎え入れよう」
どういう形であれ、ここでバミューダを迎え入れることを承諾することにはリスクがある。
しかし、俺はこの変化したバミューダに賭けたくなった。
「?」
ちらりと背後を見れば、原作では最凶のヴィランであった筈が、いまでは首を傾げ狂気に駆られていないゲンジロウの顔が見れる。
であれば、忠義に準じるバミューダという原作を覆す存在も、見ることが出来るのではないかという可能性をそこに垣間見た。
僅かに素の自分を彼に見せたのは、わずかでも期待していると見せるためだ。
「そして、成し遂げたという証を神の契約で証明してみせればここにいる皆も君を迎え入れるだろうね」
筋を通せば迎え入れる覚悟はあると宣言することに対してはリスクは当然だがある。
ここで護衛をしている騎士たちは当然マーチアス公爵に向けて報告をするだろう。
そうなればバミューダの裏切り行為に対して何らかの沙汰が下されるのは間違いない。
そのリスクを負ってまでやるかやらないかはバミューダ次第。
確率は半々といったところか。
「私に惚れたと言ったな?」
「はい」
最初は信じる気はなかった。
だけど、ゲームに登場するクールなヴィランのバミューダとは違った、生きている彼の生の熱意を見てしまっては話が少し変わる。
見せて欲しいと、少し願望が入り混じった返答。
甘いのかもしれない。
だけど、ゲンジロウと一緒で、物語のヴィランにはもしかしたらまだ変わるチャンスがあるのかもしれない。
そしてもし、変わるのならどういう風に変わるか見て見たいと思ってしまった。
「男に二言がないことを証明してみせてね」
「その期待、確かに受け取りました。バミューダ・オルトスの名を忘れる日が来る前に必ずここに訪れて見せましょう」
この態度が全て演技であり、将来スパイとして入り込もうとしているのだとしても、次来る頃までには神殿を設置して神前契約できるようにしておけばスパイとして入り込むことはできないだろう。
この忠誠を誓う騎士のようなバミューダの姿が、彼本来の姿となるかどうか、その日が来るかもしれないと期待するとはFBOをプレイしていた時には思わなかった。
FBOは言っては何だが、登場人物はその作品の世界ですでにその人物像が完結してしまっていた。
システム上決まった性格、行動パターン、演出、それを範疇から変えることはできない。
可能性がないのだ。
良くなることもなければ悪くなることもない。
それがゲームだ。
しかし、この世界は違う。
歩む道を変えれば、その人の生き様が変わる余地がある。
俺はその余地を、感じたのだ。
「うん、期待しているよ」
だから、あえて期待という言葉を使った。
「はっ!」
これで話が終わりの雰囲気が漂い始める。
正直これ以上話すことはないかなと、思っていると向こう側から騎士の一人が空気が読めなくてすみませんと申し訳なさそうな表情で挙手された。
「大変申し上げにくいのですが、こちらの方で同道したこの村の住人と名乗る人物の処遇を伺いたいのですが」
ここまで話を進めてしまったら、最早バミューダの処遇はマーチアス公爵にゆだねる他なく。
その委ねるまでの過程でバミューダがどのような行動をとるかはバミューダ自身にしかわからない。
そこまでの感動の別れのシーンとなる流れを作っておいて、水を差すような話を振るのにどれだけの勇気がいっただろうか。
「エスメラルダ?」
「失礼しました」
そして俺はその話を聞いていなくてびっくりだよ。
え?村を脱出した人がいるの?もしくはエンターテイナーか御庭番衆の誰かが捕まったってこと?
隣に座るエスメラルダに確認してみたら、忘れていたとそっと扇で口元を隠しながら目線を横に逸らしていた。
「確認しましたが、私たちの村の住人ではありませんわ」
「なるほど、となると私たちの村の住人を騙った嘘つきということになるね」
まぁ、予想だけどバミューダもこの村の住人じゃないとわかっていて交渉の材料に使おうと連れて来たんだろうね。
俺が元々持っていたバミューダの行動パターンから推察すると、俺の判断を見て俺の性格を測ろうとしたと言ったところか。
その流れにならなかったからこそ、この微妙な雰囲気になったわけで。
「いかがいたしますか?」
「私に任せていいのかい?君たちの方が被害者だろうに、軍の陣地に許可なく近づいて来たんだ。軍規に照らせば相応の罰が科せられるだろ?」
それを空気読めよという話でまとめるのは酷な話だ。
なので、俺は笑顔に優しさをにじませつつ、こっちには実害はないからそっちで対処していいと遠まわしに言う。
「ご配慮感謝します」
おそらくだけど、この開拓村のことを調べようとして調べられないから、開拓村に近づいている軍のことを調べようとしたんだろうね。
それで捕まっていたら世話ないけど。
どこの調査員か気になるところではあるけど、いろんなところから調べられているから一々対処する方がコストが高い状況になっちゃってるんだよ。
尋問官なんて存在もいないから、引き取っても持て余すことになるし。
こういう面倒なことは押し付けるに限る。
バミューダに代わり頭を下げる騎士に、問題ないと手を振り。
ようやく、話を終える流れになる。
「すぐに立ち去るわけではないだろう?この城壁内であればモンスターに襲われる心配もない。食料も提供しよう。少しでも旅の疲れを癒してくれ」
「ありがとうございます」
この後どうなるかはわからないが、まだこの場ではバミューダがトップだ。
さっきまでキャラ崩壊待ったなしの状態であったが、改めて凛々しい表情を作り直して立ち上がって頭を下げた。
これで話は終わり、親書も受け取ったしオリハルコンの返礼品はダブついている風竜の素材でも包んで渡そうか。
風竜のレア素材以外だったら、渡してもそこまで痛くないし。
そう言い残して、俺が立ち上がるとエスメラルダもその後に続く。
背後に視線を感じながら部屋を後にして、変な流れでのマーチアス公爵の使者との交流は終了した。
「あれで良かったかな?」
そしてある程度部屋を離れたタイミングで、無言だったエスメラルダに問いかける。
「ええ、問題ありませんわ。親善の気持ちを受け取り、そして相手側へ配慮した対応。あとで苦労するのはあのような例外的な行動をとったオルトスだけですわ」
エスメラルダは扇を撫でつつ、俺の対応は問題ないと言ってくれた。
そのことにまずは一安心。
慣れない演技をして肩が凝ったと、内心でため息を吐きつつ本題に移る。
「そのバミューダについて聞きたいんだけど、あの態度は本心だと思う?」
「わかりませんわ。どっちともとれる。そういう印象を私は受けましたわ」
「ゲンジロウはどう?」
「・・・・・謀っていると、最初の出会いの印象のままでしたら言うつもりでありました」
「今は違う?」
俺が勝手に話を進めたが、それでもバミューダのあの変容っぷりを第三者の視点で聞きたかった。
演技か本心か。
その判断は、多くの貴族を見て来たエスメラルダであっても戸惑い悩むものであった。
そして、人を見る目という点ではエスメラルダには劣るものの、こと悪意という点に関しては散々向け続けられているがゆえに敏感なゲンジロウ。
「はい、最初は笑顔を貼り付け好印象を抱かせようという魂胆を感じ取り、危険だと思っておりました。実際にエスメラルダ殿も御屋形様が入ってくるまでそのように感じたのでは?」
「ええ、ゲンジロウさんの言う通りでしたわ。うまく隠し、瞳に映る感情もごまかし、お父様とリベルタからの忠告が無ければ好青年と思ってもおかしくないほど綺麗に擬態しておりましたわ」
そのゲンジロウはバミューダの表面の表情に騙されず、わずかであるが明確に感じる悪意に反応していた。
その点に関してはエスメラルダも同意のようで頷いている。
「ですが、リベルタ。あなたが入って来てからの彼はその印象を反転させるほど態度をガラリと変えましたわ」
「あの者が言っていた一目惚れという言葉、あれに嘘を感じることはなかったですな。正しく、御屋形様に心酔したという感情を拙者も感じました」
第一印象は警戒対象として見ていた。
敵の可能性が高い。
そんな印象を抱いていた2人が揃って、俺が入ってきてからのバミューダは変わったと言った。
「2人はその変化の理由に関して心当たりはある?」
最初から見ていた2人が異常と言うほどの変化。
原因は俺にあると言っても良いだろう。
その理由がわからなければ、今後どういう対応をすればいいか判断しづらい。
「理由ですか」
「むぅ」
何か心当たりがあればと聞いてみたら、2人の歩みが止まってしまった。
そしてその2人の視線は俺の方に集まる。
「やっぱり俺?」
「ええ、なんといえばいいのでしょうか。普段のリベルタも頼りになるのですが、今日は一段と覇気があると言えばいいのでしょうか?」
「拙者は、部屋に入ってきた御屋形様を見て一段と磨かれた風格のような物を感じましたぞ」
原因が俺しかないのだから、俺を見るのは当然なのだけど、2人の理由の説明の仕方がどうも曖昧だ。
覇気、風格。
このどちらも俺の印象を強く解釈させる言葉だ。
「それが原因で、俺に仕えたいと思った?」
「その線しか思いつきませんわ」
「王威ともとれる御屋形様の迫力に、惚れ込んだと拙者は解釈しております」
しかし、そんな風格というのが簡単に身に着く物なのか?
言っては何だが、生まれてこのかたトップに君臨するなんてことでカリスマ的なものを発揮した記憶などない。
「・・・・・もしかしてこのスーツが原因か?」
もし俺にカリスマなんて物があるのなら普段からそんな物を感じさせているだろう。
だけど、エスメラルダもゲンジロウも今日は普段と違うと言った。
普段との違い、それで真っ先に思いつくのが今着ているスーツだ。
確認する意味も込めて、俺は上着のボタンに手をかけ外し、そして上着を脱ぐ。
「あ」
「おお」
その仕草に何かを感じた2人の反応。
「どう?」
「少し、普段のリベルタに戻ったような気がしますわ」
「エスメラルダ殿の言う通りですぞ。先ほどまで感じていた風格が薄れたと申しますか」
「やっぱり、このスーツが原因だったか」
変化の原因は雷の精霊が用意してくれていたスーツ。
自信作と言っていたから、何か特殊なスキルでも付与したのだろう。
その何かを確認する必要がある。
そう思うのであった。




