18 来訪者
さてさて、久しぶりのガチな対人戦をしてから幾日か経って、俺は自分の執務室の机に並んだ二つのアイテムを見る。
「さて、どうしたものか」
ドンたち職人たちが丹精込めて作った開拓村。いずれ「リベルタタウン」と命名されそうな勢いの、この場にある俺の住居こと領主館。
その執務室にある、妙に気合の入った高級感あふれる大きな執務机と、セットのとあるモンスターの革を使って作られた、前世でも座ったことのないような豪華なエグゼクティブチェアに座って、その机の上に乗るハイスピードメイカーと刻減らしの耳飾りの扱いを悩む。
「イングリットはどうしたらいいと思う?」
「私たちのパーティーで使うのが無難かと思います」
「そうなんだよねぇ。クローディアかネルにハイスピードメイカー、刻減らしの耳飾りはエスメラルダに使ってもらえばうちのパーティーは格段に強くなる」
ランナーランナーという予想外の敵との戦闘で、予想外のアイテムを手に入れることができた。
ハイスピードメイカーと刻減らしの耳飾り。
この二つはどちらも破格と言っていいほどの性能を誇っている。
故に宝の持ち腐れで死蔵という形はとりたくない。
盗まれたり、持ち逃げの心配はあるにはあるがそうなったら、こっちも犯人捜しを徹底的にやって全力で抹殺するから、無くすという仮定はひとまず考えない。
信用と信頼という面で、イングリットの提案であるパーティー内で使うというのは有りだ。
それこそ、「無難オブ無難」な判断だと言える。
「でも、エンターテイナーとドンたちに使わせるっていう手もあるんだよな」
「御庭番衆のゲンジロウ様たちではなく?」
「そうそう、エンターテイナーとドン」
しかし、このまま俺たちのパーティーだけをとがらせて良い物かと思わなくはない。
他の使い道にもしっかりとメリットは存在するのだ。
イングリットから差し出されたミルクティーを受け取って、悩みすぎた体をいたわるように飲む。
はぁ、甘い味が体に染み込む。
「ハイスピードメイカーは使い方によっては偵察に向いているし、追跡にも応用が利く。刻減らしの耳飾りは作業系スキルにも影響するから作業効率が上がる」
「ですが、それはあくまで個人の範疇です。一人だけ突出するのはよろしくないのでは?」
「そこなんだよね。やるなら全員いっぺんにって・・・・・何やら外が騒がしいような?」
そんな休憩をしている最中に、館の外が騒がしいことに気づく。
もっと正確に言うなら、いま絶賛廊下の方から走ってくる足音が騒がしい。
「リベルタ!大変だ!」
「なんだ?またランナーランナーでも近くに現れたか?できればまた金色だと嬉しいんだが」
「そんなホイホイと怪物が出てたまるかって!いや、ある意味でランナーランナーの方が気楽ではあるんだけどよ」
その足音の正体はこの開拓村の領地を巡回してくれているエンターテイナーたちのまとめ役であるジュデス。
ランナーランナーを見つけた時とは打って変わって大慌てで入ってくるから、ついランナーランナーのおかわりでも出て来たのかと期待したがどうも違うようで、何だと残念がる。
「・・・・・そういう反応ってことは、人か?」
ワールドモンスターが来て喜ぶのは俺くらいだろうけど、ランナーランナーの方が気楽というジュデスの言葉も中々厄介だ。
モンスターよりも面倒な出来事、それはすなわち。
「ああ、まだ領域線に到達するまでは時間がかかるけど、2日か3日くらいでその近くに軍が来そうなんだよ」
「軍・・・・・王都の騎士団か?それとも公爵閣下の兵団?いや、でも来るなんて報告受けてないぞ」
「どっちでもない、あの旗は東の領主マーチアス公爵だ。あいつら東の領から一気に北に入り込みやがった」
貴族が今回の慌てる原因ということだ。
「・・・・・イングリット、至急エスメラルダをここに。それと公爵閣下に確認を取ってくれ。転移のペンデュラムを使っていい」
「かしこまりました」
「ジュデスには悪いが、ゲンジロウのところに走ってくれ。警戒態勢を最大限まで上げる。その後は休暇中のエンターテイナーたちにも召集をかけて全方位に索敵の網を。軍勢の監視は最低でも五人以上で対応だ」
「わかった!」
その理由を聞いて、すぐに室内にいる二人に指示を出して行動を開始させる。
軍勢を率いての領への接近。
過激派の貴族なら、頭に血が上って実力行使に出るのも理解するが、そんなことをして何になる?
相手の思惑を考えて、スッと椅子の背もたれに深く寄りかかる。
マーチアス公爵の思考、思想、性格はおおよそFBOで把握している。
良く言えば合理的、悪く言えば極端な利益第一主義者。
役に立つ奴は重用するが、失敗した際はとことんまで評価を下げる。
結果だけを重要視して、過程の努力はないがしろにする。
なのでアングラ的な手段を使ったとしても、結果さえ出せば、バレていなくそして表ざたになっていなければ許容して出した人物を評価する。
真面目にやっても、失敗すれば失脚させ次のチャンスは与えない。
そんな思想の元に運営されているマーチアス公爵の軍隊は手段を選ばない。
そういう点で言えば、今回の件ありえなくない行動ではあるが、行動があからさますぎて陛下とエーデルガルド公爵に目を付けられる要因になる。
さらに言えば、レベル不足で装備不足の軍隊程度いくらでも迎撃できるし、なんなら城壁に近づく前にゲリラ戦で殲滅できる自信もある。
俺たちの実力を把握していないからこそ、低く見積もって力づくで従えようと行動してきたか。
「いや、それはないな」
そんな阿呆丸出しの行動をマーチアス公爵はしない。
いや、もっと正確に言えば部下ができないと言った方がいい。
一部を除いて、大半の配下はマーチアス公爵を恐れている。
それはもう、独裁者を恐れているレベルで、常に身の危険を感じている。
なのでいかに配下の貴族の家であっても勝手に軍を使って俺の領地に進軍するとか馬鹿げている行動をとり、失敗したらどうなるかなんて身に染みてわかっているはず。
ある意味でマーチアス公爵のおかげで派閥の貴族の危機意識というのは教育され、リスクとリターンの考えは他の領地の貴族よりも安全第一に振り切れている。
その分積極性はなく、唯々諾々と言いなりになる貴族が多い。
「となると、だ。何かの理由を付けてこの土地に近づく口実を作って偵察に来たか?」
その性質を考えた結果の結論は、密偵では得られない情報を手に入れるために、何らかの理由を使って領域線ギリギリまで接近し、挨拶に来たという口実で情報収集をしに来た説が有力と判断。
「埒が明かないとしびれを切らしたか・・・・・はぁ、めんどい」
ここで挨拶を断り関係を断っても良いが、そうなると交友を断ったといううわさを流され、お前が断ったのならこっちも断っていいよなと南の大陸での活動に支障が出る。
「ひとまず、ネルとアミナはクローディアの側から離れないように指示を出して、あとはジンクさんに伝えて、住民に注意喚起をして誘拐とかの警戒をして・・・・・」
貴族に口実を与えるのは中々面倒だ。
あいつらは悪知恵だけは働くからなぁ。
なのでこっちは歓迎という名の警戒網を構築して、挨拶を無難に過ごすことにシフトした方がいいな。
「第二城壁の中で学校建設途中なんだよ。畜生、なんでこのタイミングで来るかね。もう少し早ければ空っぽの状態で受け入れるのに。はぁドンたちに超特急で歓迎用の宿泊施設の整備と仮設住宅の用意と・・・・・テレサさんたちに食材の準備を頼んでおくか。補給支援でもすれば名目上助けたことになるだろうし」
この後、面倒な面会が待っていることに溜息を吐きたくなる。
一瞬、脳裏にエスメラルダに任せるかという思考もよぎる。
さすがに今回の行軍にマーチアス公爵自身が来ている可能性は限りなく低い。
であれば、俺が絶対に出ていく必要性はない。
「だけど、マーチアス公爵の軍でネームドを取り込んでいるかどうか確認したいしなぁ。はぁ、俺が行くか」
だけど、情報収集という点で相手の戦力を把握するのなら俺の知識が必要になる。
ただの一般兵士とかに有能ネームドとかが混じってたらマジで泣くぞ。
東の領地には何人か、使い手のネームドがいる。
戦闘もそうだし、軍師のような役割でも行ける。
不遇なポジションなら引き抜きも有りかと思うが。
「城豚公爵のところにバミューダがいる時点で、だめだな。あいつの配下だと間違いなくスパイに仕立て上げられる。そうなると、獅子身中の虫を飼うことになる。いや、契約で雁字搦めにすれば?」
リターンとリスクが釣り合わないことに溜息を吐く。
「いや、そこまでして仲間にする必要はないか。それなら信用できそうな人をそのままスカウトすればいいし」
ネームドにこだわって足を引っ張られる方がヤバいと判断して、ため息と一緒にその思考を排除する。
「それよりも、バミューダをどうするかを考えた方がいいか」
思考を排除する理由を考えるとさらにため息を吐きたくなる。
バミューダ・オルトス。
この人物のFBOでの評価は、基本的にはかなり悪い。
だが、ごく一部のプレイヤーには好まれていた。
ヴィラン系のキャラクターではある。
それ故に人格面で難ありという評価を受けることが多い。
だが、優秀な能力を持った有能な人物でもあるのだ。
バミューダ・オルトスの持ちスキルはバッファーという感じのスキル構成だ。
詰将棋の捨て駒のように配下を使い、最高効率で成果を叩きだす。
本人の戦闘能力はそこまで高くはないが、軍団を率いさせると面倒になるタイプのキャラだ。
NPCの中で、上位に入る指揮能力。
最小限の犠牲での勝利を全面的に肯定し、理想論を語らず、最小のリスクで最大のリターンを得る。
そんなキャラ故に、ゴーレムと相性が良かった。
もし仮に俺がバミューダ・オルトスという人物を使うとしたら、配下には人間を置かず、大量のゴーレムを、それも自爆機能を搭載したタイプのゴーレムを渡す。
人よりも命令に従順、壊しても直せばいい、恐怖心もなければ、嫌悪感もなく相手を倒す。
感情を排し、無機物として行動をとる。
そんなゴーレムは、コストという面では多大なる負担がかかるが、成果を上げるという面ではバミューダ・オルトスという人間ととてつもなく相性がいい。
「あいつは表面上の外面は良い。好意的に、そして友好的に接するメリットを理解している。そしてどのタイミングで裏切れば最大効率かも把握している」
正に鬼に金棒。
事実、魔道具を武器にすることに目を付けたのもバミューダの発想だろう。
魔導武具はなにも人間だけが使うわけではない。
ゴーレムも使うことができる。
バミューダのストーリーを進めると知ることができるが、奴がマーチアス公爵の配下でいるのは金を一番使いやすいことと支配思想が似ているから。
バミューダが夢想する結末は、人間の兵を排除し、抗う術を失った人間をゴーレムで支配するディストピア。
レジスタンスという名の反逆の目を摘み取り、階層支配を確立する社会構造。
それを作りたいと願っているのだ。
そしてその夢を語り聞かせ、価値を感じたのがこの大陸での権力者マーチアス公爵。
まさに混ぜるな危険の組み合わせ。
両者の人間を消耗品として捉える思考は、理解したくないと脳が拒否するレベルで徹底している。
そんな支配思考の信者が引き連れる軍勢が迫っている。
絶対に碌なことにならないのは目に見えている。
「はぁ、テロが起こるとわかっていても客人として接しないといけない現実がつらい」
そんなことを思いつつ、少しだけ温くなったミルクティーをすするのであった。




