表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

403/422

17 やればできるよ?

 

 

 言うは易く行うは難し、なんて言葉がある。

 

 多分、他人から見た俺が今やろうとしていることを正確に表した言葉だと思う。

 

「そろそろかな?」

「ええ、こうも見事に対応されたのなら、是非も無し」

 

 ハイスピードメイカーを装備したクローディアの攻撃を捌き続け、尽く対応し、さらに反撃し続けた。

 誰一人として勝つことができなかったクローディア相手に、ここまで戦いを有利に進めてきたばかりか、勝ちまであと一歩というところまで追い込んだ俺に、フッとクローディアは笑みを浮かべ。

 

「天拳」

 

 彼女の切り札を切った。

 ユニークスキルの発動と同時に、クローディアの纏う圧が圧倒的なものに変わる。

 ビリビリと揺れる空気に肌が焼けるような錯覚を感じる。

 

「まるであの時の再現だな」

「ええ、最初に出会った時ですね」

「挑んだ時も結構なステータス差があったよな?」

 

 その空気に誰かが固唾を飲んだ音が聞こえる。

 味方なら誰よりも頼もしいクローディアであるが、敵に回ればこれほど恐ろしいのかと対峙して気づいたのだろう。

 

 そんな空気の中でもなお笑みを浮かべる俺に、周りはどういう視線を向けるだろうか。

 

「そうですね。少なくとも」

 

 これが、ランナーランナーと正面から戦う時の速度だと実地で見せつけられる羽目になったことにちょっとだけ後悔しつつ。

 

「ここまでの差はなかったかと」

 

 音を置き去りにして、脱力からの急加速を見せたクローディアの拳が目の前に迫る。

 

 槍を置く暇もない。

 もちろん反撃する余裕もない。

 

 さっきまで積み上げてきた優位をすべてリセットされた。

 

 その速度に反射すら通り過ぎて、未来予知で動かした槍の柄でギリギリ受け流そうとしたが、ハイスピードメイカーを装備した速度上昇だけで済んでいたときとは打って変わり、天拳で攻撃力も上がっているクローディアの拳に吹き飛ばされる。

 

「だよな!」

 

 一撃で心が折れても仕方ない、ワールドモンスターとサシで勝負してきた彼女の一撃を受けてなお、受けられるならどうにかなると思っている俺のゲーム脳は活路を計算し始める。

 

「私の攻撃を回転の力に変えますか!!」

「相手の力を利用してなんぼだろ!!」

 

 まず最初に取り掛かるのは自分の力だけで攻撃速度を確保するのを諦めること。

 

 どうあがいても自前のステータスでは攻撃速度と反撃の手段を確保することは不可能なほど、今のクローディアと俺のステータス差は開いた。

 

 ならば、まず最初にやるのは払われるか、弾き飛ばされること。

 けた外れの速度とけた外れの攻撃力で、刃先を弾かれるだけで体が持っていかれそうになる威力だが、逆を返せばその威力をそのまま利用することができれば打ち合うことが可能になる。

 

 空歩で空中姿勢制御、繊細な指先の動きと手首、さらには全身の関節を使って衝撃を分散。

 さらには、攻撃速度を確保するために必要な衝撃は回転力に換えて逃さないようにする。

 

 その全てを瞬時に、しかも感覚だけではなくある程度相手の動きを計算して行う予測交じりのギャンブル戦法。

 

 だけど、これ、初撃を捌ければ意外と相手を型にはめることができるんだよ。

 

 キンキンキンとかん高い音が響いているが、その音の発生源は俺の槍とクローディアの拳の打ち合いからだ。

 そして今の俺の腕やクローディアの手足は残像が残るくらいに高速で動き回っている。

 

「力が足りないなら他所から持って来ればいいだけのことぉ!!!」

「っ!本当にあなたという人は!!私を楽しませてくれる!」

 

 クローディアの攻撃を利用して、反撃をする。

 その反撃をクローディアは躱すか迎撃をする。

 躱されたら自力での攻撃を追加する。

 迎撃され弾かれたら小技を挟みつつその反動を利用してさらに追撃。

 

 指先の動きとクローディアの攻撃の予測が連動し続けて脳が熱暴走を引き起こしそうになるけど、笑顔で体の悲鳴を無視する。

 もし仮に超ハイスピードカメラで俺の指先を写すことが出来たら、きっと気持ち悪いくらいにウネウネと動く俺の指が見れただろう。

 

 槍は縦横無尽に俺の体を軸に振り回され、その制御に使っている指先は数ミリの誤差も許さないほど精密な動きを要求される。

 

「この力をもってしても押し切れないのですか!!」

「ステータスの差が戦力の決定的な差ではないことを見せてやるよ!!」

 

 その動きに初めて闘ったときの懐かしさを思いだしつつ、強気の啖呵を切ることで闘魂を注入し、影法師やヘイトダウンを駆使して少しでも余力を確保しようと努力するが・・・・・

 

 正直に言おう、めっちゃしんどいです。

 誰ですか、こんなヘル難易度通り越して、ルナティックな挑戦をしようとした阿呆は・・・・・俺でした!

 

 このまま時間切れまで粘っても良いけど、それだと不完全燃焼だし、俺ではランナーランナーの狂走状態に対抗できないことの証明になってしまう。

 

 一呼吸の隙を確保するのも困難な状況。

 刹那の時間に攻防を何度も交すような環境。

 闘技場の中を残像を残しながら超高速移動し、衝撃波を生み出し、移動そのものが攻撃になっているクローディア。

 

 もう、今の彼女ならきっとどこかの野菜星の王子様とも互角に渡り合えると言わんばかりの超次元的な動きを披露するクローディアにギリギリ合わせ、俺のやったことは。

 

「!?」

 

 彼女の耳元付近での防御を強いる攻撃。

 そして攻撃した際に響くのは小手と槍がぶつかったときに響く金属音ではなく。

『パン!』と響く破裂音。

 

「っ!」

 

 いや実際はそこまで大した音ではない。

 だけど、全神経を戦闘に集中し、過度に神経が敏感になっている今のクローディアにとっては爆音に聞こえたはず。

 

 槍を体で回転させ続け、彼女の猛攻を迎撃し続け、数度に一回の反撃でつかみ取ったクローディアの耳元での防御。

 俺の槍を防ぐために顔の側面に掲げた腕と刃先の接触。

 

 何をしたか、それは簡単だけどある意味で極限状態では有効な小技こと『猫騙し』というスキルだ。

 

 元々はぶつかる寸前の相手の目の前で拍手し、快音を響かせ驚かせるという虚仮威しのスキルでしかない上に、相手のステータス次第では無効化されてしまうスキルだ。

 

 だけど、このスキルの発動条件は何かと何かを打ち合わせることと、その打ち合わせている物体の片方がスキル所有者の肉体かもしくは触れている物であることだ。

 

 耳元で響いた破裂音はクローディアの三半規管をわずかに乱す。

 超高速という精密なコントロールを要求される戦闘をしているときに、それはある意味でリカバリー不能な隙を作り出し相手に晒すことになる。

 

 忘れていたと顔をしかめるクローディア。

 

「知っている相手のスキル構成は常に頭に入れておかないとな!!」

「まだ!」

 

 ぐらりと揺れる体を必死に立て直そうとしているが、高速であるが故に慣性の付いた体を瞬時に立て直せる隙ではない。

 この究極の速度戦において、バランス感覚ほど重要な物はない。

 

 それでも崩れた体勢が僅かなのはクローディアの戦闘センスにほかならない。

 生理的なダメージを計算に入れた体の動かし方を瞬時に構築、それによって対応をしようとしている。

 

 それも天拳という全ステータスが爆上がりしている状態だからこそできるリカバリー。

 それに加えてハイスピードメイカーを装備しているから速度という面ではだいぶ余裕がある。

 

 三半規管ももちろんステータスの向上で耐久性は増しているし、回復能力も増している。

 

 だが、それでも一瞬、ほんの一瞬のバランスを崩すことができれば。

 

「出来ることは増える!!」

 

 こっちの行動回数が一時的にでも増える。

 ここだ!と決め打ちしていた行動パターンを脳から体に瞬時に指示を出し、姿勢が崩れていたクローディアの蹴りを石突で払いのけ、さらに連撃で飛んできた拳を反対の肘で受け流し、軸足に足払いをかける。

 

 それによってクローディアの意識に次の攻撃がとどめの一撃となる可能性が高いと脳裏に刻ませたら。

 

 バァン!!

 

 とさっきよりも高い音量の『猫騙し』をクローディアの反対の耳元でさく裂させる。

 

「ここ、でですか」

「そう、ここだからこそ!」

 

 止めの一撃ではなく、追い詰める一撃。

 

 三半規管への追撃、ぐらりとクローディアの体は揺れる。

 攻撃スキルは禁止だけど、猫騙しはアクティブサポートスキル。FBOではスタンを誘発させるスキルとして重宝したんだよね。

 

 耳の無いモンスターとかにはあまり効果ないけど、目の無いモンスターは結構いるけどだいたいのモンスターって耳はあるし、ないとしても音響の振動を探知するモンスターは結構いる。

 

 重宝するんだよねぇ。

 特に対人戦では。

 

 モンスター戦でも対人戦でも共通することで、重要なスキル。

 それは強力な一撃を入れるための下ごしらえの技。

 

 俗にいう小技という物だ。

 

 格闘ゲームで言う弱攻撃とか特殊わざと言えばいいか?

 

 相手に確実に攻撃を当てるために用意する技。

 FBOという身に付けられるスキル数に制限がある中でも、こういう小技はしっかりと入れておきたいと考えるプレイヤーは多い。

 

 むしろこの小技の種類で個性を出してくる。

 中には使えないと太鼓判を押されたスキルを始動に使い確殺コンボを決めてくる猛者もいたくらいだ。

 

 そんな猫騙しによって今度こそ致命的な体勢の崩れをクローディアは晒す。

 

 一撃目と、二撃目、連続での音波攻撃により体の姿勢制御は完全に崩れ、そこにすかさず影法師とヘイトダウンを併用。

 

 クローディアが一瞬俺を見失う。

 これぞ暗殺者ビルドの真骨頂、正面からの暗殺。

 

 相手を見失って、索敵している間の一秒未満のコンマ数秒の時間。

 60fpsの30フレームで完結する、俺がFBOの対人戦で勝ちを拾っていた確殺コンボの片鱗。

 

 もはや頭で考えることもなく、懐かしさを籠めて体が早くやらせろと勝手に動く。

 

 払いのけたクローディアを槍の攻撃間合いへ誘導。

 足かけによるさらなる姿勢崩しの強要。

 防御姿勢の隙間を縫う急所突き。

 その後。

 

「俺の勝ち」

「・・・・・ええ、私の負けです」

 

 相手の体勢を完全に崩し、流れるように自然な形でそっと鎌をクローディアの首を狩るように振り切り結界を破砕。

 

 相手がモンスターであれば反撃する暇も与えず、即座に首狩りが発動する場面だ。

 

 この模擬戦ではどちらかの結界が砕けるかで勝敗が決する。

 結界の容量を完全に計算し、砕き切った俺の勝利。

 

「リベルタ、勝っちゃった」

「うん、勝っちゃった」

「あの逆境で勝ってしまいましたわ」

「はい、リベルタ様の勝利です」

 

 そっと脱力し、天拳を解除するクローディア。

 そして槍を引く俺たちの動きに合わせ、ネルとアミナの言葉が決着を知らせることとなる。

 

 そうすることで沸き上がる歓声。

 

「ウオオオオオオオ!勝った!勝っちまったよ!!スゲェエエエエ!見てたけどどうやったか全くわからないけど!」

「うん!うん!なんというか!もうすごいとしか言いようがないよ!」

「お見事です!お見事ですぞ!御屋形様!!」

「・・・・・ホホホ、手に汗握るとは何年ぶりだ?」

 

 仲間たちの喝采を聞きつつ、俺はそっとクローディアに手を差し出す。

 

「あの時もこうやって勝つつもりだったんですね」

「あの時は手札が少なすぎだったんだ。さすがにここまで用意できたら勝ちを拾える」

「まったく、まだまだ私が未熟と痛感しました」

「まだ登れる頂があるって言うのは人生で幸せなことだと俺は思うぞ」

 

 それを苦笑しながら掴み立ち上がるクローディア。

 その際にまだ三半規管が復活していないのか、ぐらついたところを支える。

 

「大丈夫か?」

「ええ、ヒールをかければ治ります。しかし、これで579戦、135勝225敗219分けです。勝ち越すには随分と差を付けられましたね」

「ちなみにあの猫騙しを放って体勢がくずれた時に別の勝ち筋があったけど、聞く?」

 

 戦い終えたら後腐れなく。

 それがPVPで仲良くするコツ。

 

「悩みますね。後学のために聞いておくというのもありますが、自分で考え抜いて導き出す楽しみがなくなる」

「わかってるね」

「はい、強くなることは悩むこと、貴方と会ってさらにそう思いましたよ」

 

 今日はちょっと楽しかった一幕、さてさてパーシー工房の面々の移動もあるし、明日からまたスカウト旅に出かけるかね。



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


コミカライズ連載中です!!

さらに書籍第一巻発売しました!!

第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
超必殺技すらブラフとして使う格ゲー的な感覚。
PvPで猛者どもとやりあった経験が完全に活きた結果 最後のやり取りはスキル把握を忘れた戒めですかねぇ…
ビルド作ったのはリベルタだから手の内丸見えだもんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ