10 スキルショップ
ゲームでよく話題に上がる内容で、金策というワードを聞かないだろうか。
これはゲーム内で消費する金が多いゲームほど、その方法を模索することが多く、MMORPG系統の作品であればアイテムを買うためにはその世界での通貨が必須になるためだ。
「はーい、そんな目で見ないでくれ。これも将来のためなんだから」
楽しかった遠足によって俺たちのレベルはめでたくこのクラス1ではカンスト。
次に必要なのはスキル熟練度上げと、新スキルの獲得、さらに装備の新調とやることが多い。
学園に入学するまでに時間があるとはいえ、そこまで余裕があるとは思っていない。
デントさんとピッドさんの懐疑的な視線からくる追及をどうにか凌いで、無事に街に戻ってきたのなら次にやるべきことをやるだけのこと。
やることは当然、モチ討伐だ。
「そうは言うけど、さすがに飽きたよ」
「そうね、ほかにいい方法はないの?」
「あるにはあるけど、安全面を考えるとなぁ」
パンパンと両手を叩き、そしていつもの竹槍を抱えて注目を集めるけど彼女たちの反応は鈍い。
初めの頃はキラキラとした眼差しを向けていたモチダンジョンの鍵も、今じゃ夕食に出てくるピーマンくらいに嫌そうな目を向けている。
「準備ができれば、なくはない」
そんな彼女たちの気持ちはわかる。
ゲーマーにとって育成の効率化は飽き対策との鼬ごっこだ。
いかに効率が良くても、新鮮味の欠ける行為を延々と繰り返すのは精神的にきつい。
目標があり、ある程度の達成感を得られることを前提としていても、惰性による行動はいずれ限界が来る。
ゲームの世界なら多少の失敗には目をつむって、効率を上げるためにリスクを上げたり、逆に効率を下げて別の場所に向かったりするという方法がとれるんだけど、生憎とここは現実だ。
怪我をすれば一生ものの障害を負うかもしれないし、下手をすれば死ぬ。
安全面を配慮しないで、命を懸けて速さと楽しさを優先する方法は生憎と現段階では許容できない。
『ネル クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力80 魔力20
BP 0
EXBP 0
スキル1/スキルスロット4
槍豪術 クラス2/レベル84 』
『アミナ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力40 魔力60
BP 0
EXBP 0
スキル1/スキルスロット4
杖豪術 クラス2/レベル83 』
『リベルタ クラス1/レベル50
基礎ステータス
体力60 魔力40
BP 0
EXBP 0
スキル1/スキルスロット4
槍豪術 クラス2/レベル94 』
一応、クラス1の状況で最強のステータスは確保できているけど、装備もスキルもしょぼい現状だとモチダンジョンが一番効率的なんだよ。
せめてアクティブスキルを習得して、さらに装備も充実すれば幅も広がる。
「ほんと!?」
「ああ」
「じゃあ、それしようよ!毎日毎日モチばっかりじゃつまんないよ」
「そうしたいんだけどなぁ、ネル、今の俺たちの財布状況を教えてくれ」
しかし、それをするには。
「私たちのパーティー資金はまとめて、三千二百ゼニね」
「足りないんだよなぁ」
三千二百ゼニ、日本円にすればおおよそ三十二万円。
レベリングのために、弱者の証を人数分強化したのがなかなか痛い出費になった。
いかに最弱の道具であっても、合成値がプラス三十となるとなかなかの合成費用が掛かる。
おまけにポーションとかも用意したから、モチで稼いでいた資金は一気に目減りして、現在俺たちが使える額はこれだけ。
「え、これでも足りないの?」
アミナからすれば、この三千二百ゼニという額は大金だ。
しかし、ゲームでの市場価格を知っている俺からしたら、足掛かりにもならないような額だ。
「次の段階に行くにして、必要な資金は最低でもこの百倍は欲しいな」
「ひゃく!?」
「三十万ゼニ……大金ね」
モチの魔石では額面的には途方もない時間がかかってしまう。
「あれ売る?」
「売ったら大騒ぎよ、ダメに決まってるじゃない」
「でも、三十万だよ。モチで稼ぐとなったらいったいいつになるの?」
ちらっと、馬小屋の片隅の地面をアミナが見た。
そこには黄金のモチダンジョンで手に入れた黄金モチが入っている箱が埋まっている。
俺たちの所有物の中で、一番の財産だ。
確かにアレを売れば、一気に金策は成り立つ。
だけど、あれを市場に放出すれば注目を浴びてしまい、俺たちに悪意を持った輩が寄ってくるのは明白。
それをネルは理性では理解している。
「それは……」
同時に、大金を稼ぐのは容易ではないというのも理解している。
「リベルタ、どうにかならない?」
「どうにか、どうにかかぁ」
FBO時代でも、金策というのは序盤は地道に、そしていきなり加速し金に困らなくなるような流れがメインだった。
「一つだけ、あのスキルが手に入れば一気に金策が捗るんだよなぁ」
各大陸で金策はいろいろあるけど、安全かつ、どこでも効率的に金を稼げるとなればあれしかない。
「あれって?」
「錬金術」
錬金術、いろいろなゲームや漫画アニメでポーションなどを作ったり魔法系の物づくりと言えばこれという代名詞のスキル。
アミナに是非とも取ってほしいスキルの第一位なんだけど。
「これを取る方法がなぁ」
この錬金術、スキル習得難易度が序盤だとクソほど高い。
一つはスキルスクロールを使った方法、これはドロップするモンスターを倒せばいいんだけど……ドロップするモンスターが最低でもクラス3以降のダンジョンにしか出ない。
おまけにドロップ率もくそだと言いたいくらいに悪い。
今の俺たちの装備でそこまで行くこと自体が自殺行為だし、何回も挑戦するリスクも負えない。
二つ目は店で買う。
まぁ、普通に考えてそれくらいの難易度なら他の人がドロップすることもあるし、店で売ってくれることもある。
しかし、錬金術のスキルはかなり有用だ。
その有用な分需要が高い。
すなわち、値段がクソほど高くなる。
ゲーム時代はそのドロップ率の悪さと、スクロールの需要から十万ゼニは最低でもした。
しかもこれは相当安い。
普通に探すとこの五倍から十倍の価格はする。
三つ目はクエスト報酬だ。
これは、まぁ、確定で手に入ると言えば手に入るんだけどそのクエストがあるかどうかもわからないし、手に入るクエストがそもそも低クラス向けじゃない。
今の俺たちじゃ受注すらできない。
いつもの頓智を利かせた裏技的な方法もこのスキルに対しては何故か応用が利かないんだよ。
「ないの?」
「あるにはある。すぐにどうこうするとしたらスクロールだけど、ショップ販売だといくらの値段が付くか……」
正直、これさえ取れればあとはいくらでも金を稼いでやるよと言える。
それくらい重要なスキルなんだよ。
「だったらそこは商人の腕の見せ所よ!!行くわよ!!」
そう躊躇う俺の手をネルがガバッと掴み、そのまま外へ連れ出される。
「え?ちょっ!?」
「今日は買い出しの日だね!!」
「そうよ!!」
なにがなんでも今日はモチを狩りたくないのか。
気分が乗らないのなら無理して狩るのも非効率だけど、どう見てもさぼりたいだけだよね。
まぁ、こんな日もあってもいいか。
金がないからと決めつけて行っていない店もいくつかあるし、今日はそこら辺を視察しよう。
「ふふふ、値切れるだけ値切ってやるわ!!」
「頼むから出禁になるのだけは止めてくれよ」
「失礼ね、そんなことはしないわよ」
転売を経験してから商売の楽しみを、いかに安く仕入れて高く売るかということに快感を覚えている様子。
下手に値切り続けて、大事な店に入れなくなったら大惨事だ。
「そうだよ、リベルタ君。さすがのネルもお店に迷惑をかけるようなことはしないよ」
商人を目指す彼女がそんなことをするとは思っていないけど、俺の手を引いて歩く勇ましさと気合の入りっぷりに少し不安になっただけ。
アミナも大丈夫だと太鼓判を押してくれるので、ひとまずは安心しておく。
スキルスクロールはプレイヤーがオンラインモードで露店みたいなのを開いて商売しているか、公式で運営しているスキルスクロール専門店がある。
この世界に俺以外のプレイヤーがいるならそういう露店販売をしているかもしれないが、そんなうわさは聞いたことがないし、プレイヤーが経営している店ならとんでもない代物が並んで話題になるはず。
もし、そんなうわさがあったとしても、ネルが聞き逃すこともない。
そしてネルの向かっている方向から予想するに、専門店に向かっているみたいだ。
「うわ、冒険者がいっぱい」
「普通に考えて一番需要があるのは冒険者だから当然だよな」
着いたのはゲームで見覚えがあり、ネルの父親であるジンクさんが経営しているお店よりもだいぶ大きな店の装い。
さらに出入りしている人も多い。
「ふ、ふん。私のお店もいずれはこれよりも大きい店を作るわよ!」
「そうだな、ネルならできる」
繁盛具合も当然その店の大きさに比例していて、さっきからひっきりなしに客が出入りしている。
それだけ店の中にある物の需要が高いという証拠か。
こりゃ、期待できないな。
客を見れば冒険者の何人かはスクロールを片手に外に出ている。
だけど、それに反して高いと文句を言いながら成果を得られず外に出てくる客も当然だけどいる。
前者と後者では後者の方が多い。
夢を語るネルに応援の言葉をかけながら、俺は今回は市場調査だなと内心で諦めつつ、そっとネルの背中を叩いて入店を促した。
子供三人で来るのは珍しいのか、一瞬視線がこっちに集まったが、それも一瞬だけ。
すぐに興味が薄れて、自分の買い物に移る。
「うへぇ、やっぱ高い」
そしてそれは俺たちも一緒だ。
元々目的があってきているのだから、真っ先に向かうのは販売価格の書かれた黒板のようなところだ。
ショーケースみたいなものは一切なく、銀行の窓口のようにカウンターで何人もの店員が客とやり取りをしている。
人込みは掲示板に募り、小柄である俺たちは隙間を縫ってそこの前に陣取る。
商品の在庫は、壁際にある掲示板のような黒板にチョークで書かれてそこに値段も書いてある。
「アクティブスキルの需要はあるのはわかっていたが、本当に高い」
そしてその掲示板の額を見て、ゲーム時代よりも平均価格がだいぶ高いことにはぁと大きなため息を吐く。
「まぁまぁ、わかってたわかっていたよ」
予想通りと言えば予想通り、現実は世知辛かったそれだけのこと。
「うーん、ネル、これって高いの?」
「高いわ、でも商品として妥当な値段ね」
「えー、そうなんだ」
商人として勉強しているネルが言うのならこれが平均的な値段なのだろう。
「私たちが見たいのはこっちかしら?」
「それっぽいな、一応見ておくか」
掘り出し物もあるかもしれないしと考えて、掲示板に書かれている、品目を頼りに目的の場所を探すと。
「……マジか」
見つけた項目に俺は思わずつぶやいてしまった。
目的の掲示板はあっさりと見つかり、剣豪、火魔法、投擲豪、などパッシブスキルの項目は軒並み高いのだが、なぜか錬金術がなかった。
剣術や盾術に水魔術とかの戦闘系は最下級からあったけど、鍛冶とか錬金、裁縫、縫製、木工とかの生産系統は豪以上が最低で術がなかった。
もしかして、別で保管しているのか?確かに中途半端から始めるよりもそっちの方がいいから、当然こっちの方が高いなと救いの目も消えたかと諦めているときにそれを見つけてしまった。
「うわ、すっごく安いよ!」
「そうね、なんでかしら?」
「いや、俺も知らん」
投げ売り、いやワゴンセールと言った方がいいか?
やたら人の少ない掲示板が二つあって、なんだろうと覗いてみたら片方は剣聖と土魔導の二つのスクロールが書かれているだけの超高額掲示板。
今の俺たちじゃ逆立ちしても出てこない金額が描かれていて、速攻で退散。
問題なのが、もう片方。
「だが、勝ったぞ」
そこは使えないスクロールの一覧なのだろうか。
ちらほらと人がいるけど、それでもちらりと見ただけで去ってしまうくらいにクズスキルが揃っている。
だけど、その中にそれが確かにあった。
〝錬金術、百二十ゼニ〟
なんという低価格、なんというコスパの良さ。
仮にプレイヤーがこれを見たら真っ先に買い占める。
そのレベルの安さ。
思わず二度見するくらいにありえない。
「もしかすると?」
使えないスキルが大多数を占める中に紛れ込んでいる錬金術。
もしやと、思って見ると。
「あった!これも!?この値段!?」
次から次から掘り出し物がでるわでるわ。
ゲーム時代では考えられないスキルスクロールが出てくる。
「クハハハハハハハハハ!」
これが笑わずにいられるか。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「リベルタ君、人が見てるから」
「あ、悪い」
ネルとアミナにはいきなり笑うことでドン引きされ、たしなめられてしまったが。
「これからのことを考えたら笑えてな」
掲示板にしっかりと書かれているスキル。
〝釣り 八十ゼニ〟
〝膨張 六十五ゼニ〟
この二つのスキルを見つけてしまっては俺の顔から笑みが消えることはなかった。
「予定変更だ」
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




