11 スピード狂
「「「「「「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」」」」」」」」
さて皆さん、ゴーレムという便利な土木作業機器を手に入れたというのに、俺はドワーフたちや工事作業員と一緒に、スコップ片手に地面を掘りまくっています。
開拓村の近くで見つけたワールドクラスモンスター「ランナーランナー」を倒すって言ってなかったかと思うかもしれないけど、違います、これがちゃんとした対処方法なんです。
すでに四日ほど時間が経過し、その間ランナーランナーは監視網の中で自由に動き回っている。
追いかけて攻撃しなければ基本的に無害なモンスターであるがゆえに、時間をかけて万全の準備ができる。
通常ユニットの、青と灰色の配色のボディーではなく、レアユニットの特徴である金色であることに、思わず歓声を上げそうになった。
そんなランナーランナーというモンスターの特徴といえば、とにもかくにも回避特化・スピード特化のスキル構成。
某兄貴の『速さが足りない!』というセリフが聞こえてきそうな構成なのだ。
そんな相手にどうやって対抗するかといえば、殺しの間として、デバフを付与できるような足場を用意するほか勝ち目がないのですよ。
ただ、普通に足場を悪くするように崩しても意味がない。
「旦那!!これを埋め込めばいいんだな!?」
「おう!ドンドン埋めこんでくれ!」
俺たちが人力で掘り返した細かい穴、ハニカム構造に見えるような穴にドワーフたちがせっせと壺を埋め込んでいく。
アレが何かと言えば、ちょっと特殊な液体が入った壺だと言っておこう。
ただ、ドワーフたちが全身防護服を着て、かなり顔を引きつらせながら慎重に扱っているところから見てわかる通り、安全な液体ではないのは確かだ。
「気を付けろよ!!ちょっとでも触れたら大惨事になるからな!」
かといって浴びたら死ぬみたいな素材は作ってない。
しかし、ドンを含め全員慎重に作業を進めている。
「本当にあれで何とかなるんですか?接着剤で足止めって」
「割とシャレにならない戦法なんだよね。特に小柄で高速で移動するタイプのモンスターにはお勧め」
魔法薬の応用で作った、超強力接着剤。
少しでも付着すれば魔法の力で瞬く間にどんなものにでもくっつくという優れ物。
クラス9のパワーであれば引きちぎれる代物だが、当然これだけで終わらせるつもりはない。
「でも、この場所に追い詰められますか?普通に危険を察知するモンスターなんですよね」
「罠感知系のスキルも持ってるから普通に避けるな」
「だったら」
「だけど、避けないこともある」
それを蛸壺に入れて、地面に敷き詰めれば接着剤の地面が完成する。
大体幅20メートル、長さ100メートルほどの接着剤エリア。
隠してもいないから普通に丸見え、馬鹿でない限り入り込むことがないほどあからさま。
クラス9のモンスターが入り込むはずがないと、一緒に作業していた作業員の疑問に答えながらスコップを肩に背負う。
「リベルター!」
「お、来たか」
作業は概ね順調。
「壺を埋めた道に沿ってトンネルを作ればいいのね?」
「おう、アミナの方は大丈夫そうか?」
「ええ、城壁を作るのを中断して、こっちの方用のブロックゴーレムを大量に作るって」
「よし」
そこに来るのは、コマンダーゴーレムで大量のブロックゴーレムを引き連れて来たネルだ。
「予定通りこの道を覆ってくれ!ドン!穴に落ちないように注意して作業を進めてくれ!」
「わかったわ!」
「おうさ!」
道を覆うように作られていくトンネル。
かまぼこ状のアーチを作りゆくさまは。
「リベルタさん。なんか、どっかで見たことがあるような気がする見た目になってるんですけど」
「気のせいだ」
口にはあまり出したくない、黒い害虫を捕らえる罠の見た目に近くなってしまった。
俺はどこで見たかと首をかしげる作業員の肩を叩き、気のせいだと意識を逸らした。
「リベルタ」
「あ、今回はよろしく」
「それは構いません。新しい装備を使えるのは中々楽しいですからね」
そんな気を逸らした先には、軽くというには爆速な走りで荒れている大地を疾走するクローディアが現れた。
普段の道着のような装備から一転、全身を覆うようなサンライトシルク製のタイツ姿で上半身の各所には軽量のプロテクターを装備した、ライダースーツをより軽量化したような恰好だ。
「そうそう、対ランナーランナー用に雷三姉妹に特注したスピード特化にした装備だからね。クローディアのステータスとこのボディスーツのスキル構成、そこに《天拳》を加えればランナーランナーと互角以上の速度が出せる。めざせ韋駄天ってやつだ」
「いだてん?それはどのような存在かは知りませんが、この二日で精霊界で実験して慣らしているからわかりますが・・・・・本当にこれほどの速度が必要なのですか?」
専用のフルフェイスヘルメットを脱ぎ、軽くかいた汗を拭っている。
「必要、必要。本気で動いたランナーランナーには速度で勝たないと意味がないんで」
「説明があった競争本能ですか」
今回の作戦の鍵は間違いなくクローディアだ。
彼女がいなかったらそもそもランナーランナーに手をだそうと思わなかった。
チートと言われても仕方ないユニークスキル《天拳》、30分という短い時間であるが彼女のステータスはこの場にいる誰よりも強大になる。
「そういうこと。奴はありとあらゆるヘイト管理スキルが効きません。なので基本的にあいつの逃走を封じるように動かないといけません」
「ですが、壁などの遮蔽物で周囲を覆うと、その作業中に逃走し封鎖が困難になるのでしたか」
「おまけに封印系の魔法スキルや物理スキルにも耐性があって、スキルで封じることがまずできない」
この戦いの鍵であるクローディアには最初に戦うか否かを確認し、とんでもなく速い相手と戦えると聞いてワクワクして挑むことに同意してくれたが、俺がクローディアのステータスに上乗せして装備とスキルで実現した人間離れした行動速度が過剰ではないかと心配している。
しかし、それは無用だと肩をすくめて首を振って否定する。
「だけどたった一つ、あいつは自分の速度以上の存在に追い越されると、異常とも言えるほどの執着を見せる」
「自分よりも速い存在を許せないという対抗心でしたか」
「一説では、って前置きがつくけどね。あいつが越されたときの顔を見ての想像だけど、外れているとは思わないよ」
とにもかくにもランナーランナーと戦うのなら速度が一番重要だ。
追い越し、そしてそのまま先頭を走り続ける必要がある。
「そして私はその執着心を利用し、このトンネルに誘導するということですか」
「ああ、他にも罠を用意してあるから嵌らないように気を付けて」
ランナーランナーをこのトンネルに引き連れてくる方法は至ってシンプル。
競争し、競り勝ち、そのまま引き連れてくること。
「足場の工事個所はこうなっているから、完成したら確認しておいて」
「モデルを作ってもらって足場の感覚は掴んでいますが、やはり実物と比べると雰囲気が違いますね」
「接着剤が?」
「ええ、あの事故を聞いてさすがに身の危険を感じましたよ」
そしてこのトンネルに引き込んで接着剤まみれにする。
ほかに、接着剤まみれにしてその後の戦い方とかはあるが、クローディアにはそのまま離脱して《天拳》のデメリットタイムを回復してもらう必要があるから、主要戦闘はクローディアを抜いたパーティーメンバーとゲンジロウたち御庭番衆だ。
「ドワーフの職人が転んで落として壺を割ってそのまま・・・・・本当に悲惨な出来事だった」
「力自慢のドワーフが身動きが一回もできないどころか、自慢のひげや髪を全部剃らないといけないのは同情しましたよ」
ランナーランナーは速度特化故に、耐久性と防御力はアジダハーカ程高くはない。
回復スキルも持っていないから一定の火力があれば倒すことはできる。
それでもクラス9のモンスターだ。
倒すのに専用の高速移動できるユニットが必要だったり、こういった専用の罠が必要だったり、拘束用の接着剤の素材も相応に高級品が多い。
アジダハーカ程の労力はかからないけど、それでも面倒な敵なのは間違いない。
FBOではなかった「毛の事故」も起きたし、おかげでドワーフたちは全員共通認識で防護服を着てしっかりと対応してくれるようになったのは良いことだけど。
同時に振り返って、慎重に壺を地面に設置している姿は真剣そのもの。それを笑うことはないが、理由を知ってしまっている俺とクローディアは肩をすくめあった。
「コースを走ってきた感じはどうだった?」
「常に移動しているので多少の修正は必要ですけど、天気も良好で、できうる限りの確認をしました。問題なくやれますよ」
「それならよかった」
今日中にはトンネルは完成し、トラップの設置も終わる。
他のギミックも同時に終わる予定で、遅延はない。
最終確認でクローディアが走ってきて問題なければ、明日決行ということになる。
「天気は明日も良さそうだしな」
「ネルがいますので、天気が崩れる心配はあまりないですけど」
「それ言って、明日天気が悪くなったらどうしようって話になるけどね」
空を見上げても雲一つない良い天気だ。
これが崩れたら大変なことになるから、クローディアのフラグを立てるような言葉は正直少しヒヤッとした。
「大丈夫です。悪路になっても万全の走りを見せますよ」
「それなら安心」
「あとは、明日の運次第ということになりますが」
「あーそこら辺はネルに頼るしかないんですけどねぇ」
そんな俺の心配を吹き飛ばすクローディアの力強い言葉に頷く。
そして運試しは天気予報だけではないのだ。
「ドロップ品が出るか出ないかですか」
「烏滸がましい願いなのはわかっているけど、ぜひともネルには虹の宝箱を引き当てて欲しいね」
ドロップ品。それが、金色のランナーランナーを倒す唯一の理由だ。
「ネルさんなら出してくれそうな気はしますが」
「そこからさらに二分の一の確率を引っ張らないといけないのがネックですけどね」
黄金のランナーランナーは、FBOでも優秀なとあるアクセサリーを宝箱からドロップしてくれる。
その代わり、ネルの《招福招来》を使っても宝箱の数の上限が二個で固定されている。
極論言えば、二個とも虹色の宝箱であれば問題ないのだ。
「片方は確か、速度上昇のアクセサリーですよね。名前は『ハイスピードメイカー』でしたか?」
「足首に装着すると速度上昇率五割増しという、戦闘職、特に前衛からしたらかなり上等な品だ。おまけにクラス9のアクセサリーだからさらにスキルを九つ追加できる」
「普通に考えればハイスピードメイカーでも十分な成果ですよね?二個装備すれば実質二倍の戦闘速度を得られますし。それよりも欲しいアイテムがもう片方のアイテムですか」
「ああ。スキルのクールタイムを半分にしてくれるとんでもアクセサリー。さすがにクローディアの《天拳》やネルの《招福招来》は対象外だけど、それ以外の通常スキルは全適応。生産職でも戦闘職でも、誰でも装備すればスキル効率が爆上がりするアクセサリーだ」
どっちかがハイスピードメイカー、そしてもう片方が俺が欲しいと思っているアクセサリー。
「《刻減らしの耳飾り》」
これがないならないでスキルのリキャストタイムを計算すればいいんだけど、FBOプレイヤーの中にはパーティー全員に装着してDPSを上げることを考えるほどの秀逸なアクセサリーだ。
まぁ、これを揃えるのにかなりの時間がかかってしまうが、揃えることができればシンプルにスキル攻撃回数が二倍になる。
専用編成をすれば、絶え間なくスキル攻撃を叩き込むことができるのだ。
「さてと、最終チェックも済ませて今日は休むぞ。明日は決戦だ」
「はい」
出るか出ないかは、明日のネルに任せるとしよう。




