10 ランナーランナー
さてさて、一応用事が終わり無事パーシー工房を仲間に加えることができることになって一安心。
その後は何かに絡まれることなく転移のペンデュラムを使って帰ってこれて、のんびりとしようとした時にジュデスが俺に会いに来た。
「ちょっといいか?って、なんで身構えているんだよ!」
「いや、このタイミングに話しかけてくるって何かトラブルかなって」
当面の課題だった学校の教員のスカウトは、交渉に時間を取られてもそれ以外は順調にいっていた。
裏を返せば、最近の俺の活動が順調にいっている反動で何かトラブルが起きて、ジュデスが報告に来たのではと勘ぐって変な格闘技のポーズをとってしまい、ジュデスが呆れてしまった。
「トラブルって言えばトラブルなんだけど、少しおかしいんだ」
「トラブルって基本的におかしなことが起きるからトラブルだと思うんだけど、何が変なの?」
俺に報告してくるっていうことは、ジュデスたちじゃ対応できないことってことだ。
しかし、ジュデスの表情に焦りといった緊張感はなさそう。
むしろどうしたものかと困っているといった感じだ。
「俺たちでこの開拓村・・・・・なぁ、やっぱもう村って言うの厳しくないか?」
「仕方ないだろ、まだ名称決めてないんだから」
「だけど、下手な町よりも規模が大きいじゃないか。城壁なんて王都よりも立派だし、これで村は無理があるだろ」
その困っている内容を言おうとしたが、その前にどうにかならないかとツッコミを入れるのがジュデスらしいと言えばらしい。
危急の用件であれば、話が脱線することもない。
なので、相談事自体はそこまで焦っていないのだろう。
「いや、いつの間にか勝手に首都リベルタとか命名されかけている俺にとっては、割と慎重に話を進めたい内容なんだぞ?」
「別に珍しいことじゃないだろ。町を作った人の名前がそのまま使われることなんて。むしろ光栄なことじゃないか」
「嫌だよ!?あそこが首都リベルタ!みたいな感じで語られるの!ナルシストみたいじゃないか!!」
「俺だからいいけど、他の首都でそんなこと言うなよ。中には英雄の名前をそのまま命名した町とかあるからな」
「言わないよ。いや、声を大にして別の名前にするっていうのは主張し続けるけど」
この開拓村の名前が決まらない理由は、大多数の人、主に俺のパーティーメンバーやゲンジロウたちがそうしようと賛成し、当人が猛反対しているという構図だからだ。
ネルたちからしたら、俺が主導で創り上げた村なのだから当然のような流れだけど、個人的感覚ではまだそこは異世界慣れはしていない。
FBOでもキャラクターネームを町の名前にしていたプレイヤーはいたし、中には猛者で本名を町の名前にしていた人もいた。
俺はそこら辺の羞恥心は残っているから反対している。
「まぁ、良いけど近いうちには決めてくれよ。シャリアも他の面々もここが開拓村って言うのはおかしいって言ってる」
「近いうちにな」
「そう言って決めなかったら俺たちで勝手に呼び始めるぞ」
「止めて!?」
早いところ開拓村の正式名称を決めないと、住民たちに勝手にリベルタタウンなんて命名されかねない。
ちょっと本腰を入れて決めよう。
「話が逸れたな」
「ジュデスが逸らしたんでしょ。それで、相談って?」
「変わったモンスターがここ最近村の近くで見られるようになったんだ。流浪かなって思ってゲンジロウに頼んで御庭番衆も出して討伐に向かったんだけど」
「その様子だと、討伐できなかったってことか、被害は?」
そんな悩みから打って変わって真面目な話。
開拓村の近辺でこれまでは見られなかったモンスターの出現、ジュデスの言う通り流浪の可能性が高いか。
ある程度の裁量権をジュデスとゲンジロウには渡してあるから、そのまま討伐に移行したということか。
俺が最近忙しくて、この村にいないこともあるから事後報告という形で伝えに来てくれたか。
「エスメラルダさんにも報告したけど、これまで被害はゼロ。強いて言えば討伐に向かった連中が疲れたくらいだな」
「御庭番衆とエンターテイナーたちが疲れるって相当な戦闘があったってことだろ?本当に危急の用件じゃないのか?」
「ああ、だってあいつずっと逃げ回っているだけだからな。そのくせ、追い払ったらそのまま逃げ去るんじゃなくて少ししたら戻ってくるんだ」
「逃げ回る?」
その報告の内容を聞き、逃げ回るという特徴を聞いて一つの仮説が俺の脳裏によぎる。
「もしかして、体が流線形だったりする?」
「流線形ってなんだ?」
「あー、ちょっと待って絵を描く」
いや、まさかな。
あいつがいるわけがないと、逸る気持ちを抑えつつ設計図を作っていた時の余った紙を使ってささっと心当たりのモンスターを書く。
それは生き物にしては機能美を追求しすぎたような姿のモンスター。
流線形の体は空気の流れを作ることで空気抵抗を削減に成功している。
二足歩行と四足歩行どちらにも対応できるような手足は一見すればアンバランスのように見えるが、これが意外とバランスを取れてたりする。
首は短いというか、ほぼゼロ。
無くはないが、それでも普通の生物と比べたら無いに等しい。
特徴的なとんがり頭がトレードマークのモンスターを描いて、ジュデスに見せると。
「あ、こいつだ」
「正解かよ!!」
まさかの大正解。
やっつけ仕事だから割とデフォルメ調の絵だけど、特徴を捉えていたのが良かったのか。
しかし嘘だろ、なんでこいつがここにいるの?
「それで、なんなんだ?こいつ」
絵が上手いなと感心するジュデスに絵を渡しつつ、俺は目を手で覆って嘆きの声を上げた。
俺は思わず叫び、そのあとすぐにため息を吐いて椅子に座り、よほど珍しいモンスターだという程度の認識のジュデスにジト目を向ける。
「そいつはランナーランナー、そんななりでこの前戦ったアジダハーカと同格のクラス9の怪物だよ」
「え」
そして本当に追いかけた連中が生きてて良かったよと安堵している俺と打って変わり、ひらりと絵を取り落とすジュデス。
「え!?こんな奴だぞ?俺たちが攻撃しても逃げ回るやつだぞ!?」
それを空中でキャッチできるのはさすがだが、その絵を指さして間抜け面を強調されても、事実として悲しいかなもし仮に偶然でも奴に一撃を入れていたら、この開拓村が戦場になっていた。
「こいつは少し特殊なワールドモンスターでな。スキルを走ることに特化させたモンスターなんだよ。攻撃を一度でも当てるまではひたすら逃げ回る」
「え、クラス9の怪物なんだよな?それなのに逃げるってそんなに強くないのか?」
「無茶苦茶強い。なんなら条件次第ではアジダハーカよりも厄介だよ。お前たちも戦ったらわかるだろうが、異常な回避能力を持ってなかったか?」
「確かに、分身したり、いきなり加速したり、転移したり」
「それを駆使して全長1メートルの小柄なモンスターが高速で迫ってきて、クラス9のフィジカルを駆使して物理で殴り掛かってくるんだぞ?こっちの攻撃を尽く掻い潜って来てだ」
不幸中の幸いはこのランナーランナーはアクティブモンスターではないのだ。
ワールドモンスターは全て風変わりなモンスターで構成されているが、こいつは風変わり中でも特に風変わりなモンスターだと言える。
そのランナーランナーの戦闘スタイルを伝えるとさぁっとジュデスの血の気が引いていく。
このモンスターの最大の特徴であり、一番厄介なのは小柄さと回避性能の高さだ。
攻撃方法は超高速に加速した質量攻撃とシンプルだが、そこに高速移動とかく乱スキルが組み合わさると途端に厄介になる。
「俺たち、危なかった?」
「アレに攻撃を当てられなかったのは不幸中の幸いだったな」
真っ青になっているジュデスに苦笑し、運が良かったなと言っておくが、こんなところにランナーランナーが現れたのは普通に不幸だ。
「いやいや!?なんでのんびりできるのさ!?俺が言うのもなんだけどかなりヤバイモンスターなんだろ?すぐにゲンジロウたちに連絡して対処しないと」
本来であればワールドモンスターが出現したら慌てふためくジュデスの反応の方が普通なのだ。
「まぁ、放っておいても害はないし」
「え?」
「あれ、本当に攻撃さえしなければただ近寄って逃げるというのを繰り返すだけのモンスターなんだよな」
だが、ランナーランナーだけに限って言えば放っておいても問題ないのだ。
「町中に入ってきたりは?」
「ないな」
「商人を襲ったりは?」
「しないな」
「・・・・・俺たちが討伐に向かった意味は?」
「危ない行為をしただけだなぁ」
「意味なし!?」
あいつはただ走るだけのモンスターだ。
しっかりと障害物も躱してくれるし、何かを襲うようなこともしない。
おまけにヘイト管理スキルが一切合切効かないし、アミナの歌でも引き留めることができない。
「監視と警戒だけしておいておけば、問題ないよ」
「なんだか、釈然としない」
現状で倒す方法がないわけではないが、その方法を実行するには莫大な労力が必要になる。
「しかし、意外だな。お前だったら何が何でも倒して素材ゲット!!とか言いそうだったけど」
「俺のことを正確に把握してくれていて嬉しいよ。まぁ、ランナーランナーの素材が欲しいかと言えば欲しいけど、使いどころが難しい素材だからなあれ」
そんな労力をかけてまで倒したいかと言えばそこまで魅力を感じないのがあのワールドモンスターなのだ。
俗にいうと、苦労の割に美味しくはないモンスターというやつだ。
「スキルが強いとか」
「持っているスキルがイコールドロップするとは限らないんだよ」
「素材が強いとか?」
「防御能力は低いんだよな。下手したらクラス5にも負ける。速度上昇能力は秀逸なんだけど」
「何か珍しい素材を落とすとか」
「ないなぁ、他のボスでも手に入りそうな物しか」
「本当になんなんだよあれ!?」
なので俺の熱量もそこまで高くはない。
レベリングもまだできる環境ではない今、どちらかというとネームドのスカウトの方が重要案件だ。
「無駄に金色で派手な奴って迷惑な奴だな」
「いま、金色って言ったか?」
そう思って、この話は周知してあとは見張りだけおいてどうにかしようという流れになりそうだったが、ジュデスがポロリとこぼした奴の配色を聞いてピタリと俺の体は止まった。
「え、ああ、金色だよ。隅から隅まで」
「者どもであえであえ!!戦じゃぁ!!!」
「リベルタ!?」
そして情報が確定した瞬間、俺の目は輝いていると言っても過言ではないほどに目を見開いた。
グワっと擬音がつき、そして力が入る。
「奴が通常個体ではなく、ユニーク色であるのなら話は別だ!!戦力総出で何が何でも討伐するぞ!!」
ランナーランナーは通常個体だとそこまで魅力のあるモンスターではない。
だが、ゲームで言うレア個体になると話は変わる。
「ジュデス!」
「お、おう?」
「エンターテイナーたちを全員招集だ!目標から距離を百で固定して全方向から監視しろ!」
「わ、わかった!」
「いいな!絶対に絶対に攻撃を仕掛けるな!俺たちの準備が終わるまで距離を維持して監視に努めろ!」
金色のランナーランナーには、お宝が眠っている。
ワールドモンスターは世界中を移動するモンスターで、世界でたった1体しか出現しないモンスターだ。
倒すたびに、どこかにランダムでリポップするから探すのが面倒。
レイニーデビルみたいな大きな個体なら見つけやすいけどランナーランナーのような小さな個体は中々見つけられない。
しかも、レア個体の出現確率は驚異の1.5%。
この機会を逃したら次がいつになるかはわからない。
「仕留める、絶対に仕留めるぞ!!」
それ故に俺の気合は爆上がりするのであった。




