20 古代の街並み
東京の街並みといったが、スカイツリーがあったり、お台場があったり、スクランブル交差点があったりとかそのままの街並みがあるわけじゃない。
高層ビルが立ち並び、そして立体道路があちこちに交差し、現代日本の建築技術に近い光景がそこにはあったというだけだ。
「これは、なんという建築だ?」
「知らん、しかしこんな高い建築物をどうやってこさえた?建築材の強度によっちゃあ崩れるぞ」
「耐久面もそうじゃが、そもそも高所での作業になるだろ?足場を上に作り続けたとしても、こうも均一な物を作れるのか?」
「俺はこっちの道の方が気になるぞ。橋のような道をあちこちに作って、空間を上手く使って交通網を構築している」
たった一枚の絵画、しかしその絵画はドワーフたちの好奇心を刺激するには十分だったようだ。
一方向から都市を俯瞰するように描かれた想像図。
だが、その絵画を夢や絵空事と考えず、現実的に実現できるかを考え始めた彼らの表情は真剣だ。
隣同士で意見を出し合い、可否を問う。
その意見の大半は技術不足によって実現が不可能というものだが、やってみたいという意見も同じくらいに出ている。
「これを作れたらとんでもないことになるぞ」
「ああ、やりがいはある」
デザイン的にどうなのかと思ったが、それに関しては斬新ではあるが受け入れることはできるという雰囲気。
「しかし、これだけだと無機質すぎやしないか?」
「建物同士の距離を開けて、道路を大きくして随所に木を植えて景観をよくするのはどうだ?」
「あとは大きめの公園を作ればよかろう。いざという時の軍の駐留所にもなるし、祭りをする際の土地確保にもつながる」
「交通網を町の設計段階から作れるのはでかいな。交通の便が悪いのはどこの町にも共通の悩みだ」
「だが、良すぎるのも問題だろ。攻め込まれた際に簡単に中央まで攻められてしまう」
さらには、絵画から見て取れる問題点も考慮して改善案まで出始めている。
出来る出来ないではなく、やるとしたらとことんまで改善していきたいという向上心。
「そりゃ、あの城壁を越えるって言うことだろ?確かに城塞による防衛に絶対はないが、あの城壁と砦を越えるってそう簡単にはできない。そもそも王都であっても、城壁が突破されれば市街地の防衛能力はそこまで高くはないぞ」
「たしかに、そもそもリベルタ様が、あの城壁だけで防衛網を構築するとは考えにくい。まだ未完成とおっしゃってたからな」
「となれば、防衛機能よりも町としての利便性を優先しても問題ないということか」
さらには俺の言葉から、町の構築にあたっての優先順位まで配慮してくれると。
うん、さっきまで自信喪失しかけていたのがマジで理由がわからなくなるくらいに有能な行動力だ。
「もしかして、しっかりと目的を達成できれば自由に町が作れる機会だったりするのか?」
「お貴族たちの要望に応えて無駄な装飾とか施さなくていいのか?」
「機能性をガン無視して作らせたくせに、あとで使いにくいってクレームを入れられるような工事をしなくていいのか?」
そこまで話が弾んだ段階で、俺が止めないことに気づき、予想以上に自由にできる裁量権を持っていることにドワーフたちは気づき始める。
「なぁ」
「ああ、わかっている」
「ここって、最高の職場だったのか」
物をある程度自由に作れる。
それは職人たちにとってはかなり良い条件なのだろう。
ざわめく、彼らの表情がどんどん興奮の色に染まりつつある。
このタイミングでこれをぶち込むのはどうかと思ったが、隠してもしかたないということで、苦笑交じりに一回拍手して、俺に注目を集める。
話し合いに夢中で、俺のことなど置き去りかと思いきや、しっかりと俺の拍手に反応して一斉に話し合いを中断しこっちに注目した。
そのタイミングが揃いすぎて、ちょっと怖かったのは内緒だ。
筋骨隆々の髭の濃いドワーフたちの強面姿が視界一面に揃っているのは中々圧があるな、と変なことを思いつつ。
「色々な意見を言ってくれて、非常に参考になる。このまま話を進めても良いとは思うが、町を作る設計段階である程度組み込んで欲しい施設を提示する」
そんなやる気に満ちたドワーフたちが設計する町を見るのも一考だが、訂正するのも大変なので、ドワーフたちには見せていなかった新たな設計図を持ち出す。
「これは、なんだ?」
「長い箱か?」
「こっちは、長い棒が繋がっているのか?」
この世界には絶対ない代物。
設計図を見ただけでは、ドワーフたちは一切理解できず首をかしげる者が続出する。
「リベルタ様、これはいったい」
「これは魔導列車だ」
焦らす理由もないので、代表者のドンの質問にあっさり答えその正体を伝える。
二枚の設計図、片方が車両設計図で、もう片方が線路設計図だ。
交通と防衛の要になりえる魔導列車。
これはFBOの町作りではポピュラーな施設と装備であった。
「魔導、れっしゃ。ゴーレムの一種だというのは理解しましたが、れっしゃというのは?」
「列車は列車だ、としか言いようがないが、この施設に関して説明するぞ」
魔導列車はドンのいう通り、ゴーレムをベースにした鉄道列車だ。
FBOが始まった当初は、モンスターが徘徊し、盗賊の出没するといった不確定要素の多い場所に固定施設である線路を敷設することは難しいと思われていた。
だが、攻略が進むにつれて「弱者の証」を使った壊れない線路、さらには「封印」によるモンスターの排除が可能といった条件が揃うにつれて、鉄道という交通インフラが現実的に構築できるようになってきた。
「ということで、この魔導列車が設置できれば、将来的には町同士を繋げ、物資の行き来が楽になるどころか、人の移動も簡単になる。さらには、砦と城壁にも線路を敷設すれば兵士の移動も楽になるどころか、魔導列車そのものが防衛の要になるという代物だ」
鉄道の概要説明はざっくりとしたものだ。
線路という道を作り、その上を魔導列車が走る。
シンプルに言えばそれだけのこと。
馬車ではだめなのかという質問も当然出るが、生き物と違い魔導列車は一定の成果を、継続的に叩きだすことができる設備だ。
最初は大型の馬車のようなものだと説明し、さらには固定の道を何の障害もなく進めるということを説明している段階で、物資の輸送で優秀だということにドワーフたちは気づく。
さらに応用で装甲列車のような物も説明し、防衛戦力にもなると聞けば、ドワーフたちの顔つきから「作らない」という選択肢は排除された。
「リベルタ様。また、とんでもない物を思いつきますな。これが完成し使えるようになれば、世界の常識がひっくり返りますぞ」
「言っておくが、俺はこれから何回も常識をひっくり返すぞ。こんな物はまだまだ序の口だ」
「ハハハハ、これが序の口ですかい」
「ああ、序の口だ」
固定観念、いや、常識と言い換えた方がいいか。
この世界での移動手段や物資の運搬方法は、馬やモンスターを使った馬車などが主流だ。
それが常識であり、一般的。
これは庶民だろうが貴族だろうが、王族だろうが変わらない。
いままでそれで生活してきたし、不自由を感じることもなかったがゆえに、この運搬方法からの発展はあっても、その枠からはみ出すことができないのだ。
人間の発想は1を2にすることは容易でも、0から1を生み出すことは並大抵のことではできない。
そうなった理由は、ある程度は推測できる。
街道を舗装してもモンスターたちに荒らされるという維持コストのデメリット。現状でも生活が成り立つため、発展意欲を活性化させない程度の利便性。
人とは違うことをすることを良しとしない、集団意識。
新しい交通インフラを開発するための莫大なコスト。
生まれない理由や発展しない理由を上げればキリがない。
国が主導しない限り、この手の交通インフラの発展は難しいのだ。
だけど、ここには俺がいる。
0から1どころか、10も100も超える見識と知識を持っている。
なればこそ、都市計画における交通インフラの重要性と必要性にすぐに気づき、行動を起こすことができる。
「なるほど、でしたらわしたちは驚いている暇はないですな」
「いや、適度に驚いてくれ。驚く顔を見られるのは、わりと楽しいんだよね」
「ハハハハ!なんと難しい注文を!」
正直、この世界に来てから移動手段に関しては早く改善したいとは思っていた。
転移魔法を付与した転移門を作るのもいいのだが、あれは一度起動するのに莫大な魔力が必要だし、維持するにも同等かそれ以上のコストが必要だ。
現状では作れる素材もなければ、維持もできない。
他にも飛空艇という手段もある。
空輸こそ現代でも最速の人員移送手段であり、物資の移動も速い。
代わりに積める物資の量が少なくなるのが欠点だ。
これに関しても素材が揃わない限り、安全に空の旅ができないので見送りだ。
対して、現状用意できる資材と開発と維持のコストを考え合わせると、列車というのは非常に理にかなった移動手段だと言える。
いまは一キロ四方のこの土地だが、将来はもっと拡大するのは目に見えている。
さっきドワーフたちが語っていた通り、現在作っているのは第一城壁だ。
最低でも五つの城壁は欲しいし、それに見合った土地を確保する。
山手線みたいな移動手段を確保すれば、人員の移動も楽になる。
将来的には公爵閣下の領地とか、王都ともつながった線路を作りたいが、それはすぐにはできないだろうな。
そういう点で言えば、整然と計画的に作った東京のような街並みというのは理想的とも言える。
「でも、ドンだって自分が作った物を見て驚く人の姿を見たら楽しいだろ?」
「ええ、もちろん」
俺たちの中で方向性が決まった。
そう確信した。
鉄道網を作ることを前提とした、開拓の町の都市化計画。
将来の発展を考慮して、開発余地を残しつつ町の建築計画を立てる。
その考えを共有化できたことにより、作業計画は一気に進み始める。
「ブロックゴーレムは本当に便利ですぜ。いろいろな建築に応用ができる」
「といっても、それをしっかりと指示する人がいなければシンプルな物しかできないけどね」
「なら、そこら辺は任せてもらいましょう。伊達に数十年職人をやっておりませんぜ」
とにもかくにも、さっさと仮設住宅から脱却しなきゃいけないので、最初に取り掛かるのは住宅街だ。
その次に鉄道網と道路網、そして農業関連の施設、次に工業区画、最後に商業区画と順番が決められた。
建築材に関しても、ブロックゴーレムの応用でどうにかなる。
「頼むよ。あと、壊すことが前提になるけど、デザインハウスをいくつも作ってほしい」
「デザインハウスですかい?」
「そうそう、実際に見本の家を作って中を見学して、こういう家に住みたいっていう希望を具体化したいんだ」
「ほう、わざわざそんなことを……作るのにもコストはかかりやすぜ?」
「今は、コストよりも愛着だよ。ここを故郷と思ってもらうには家は大事だ。それに家を作る素材はだいたいは確保できているから、無償で提供しても問題ないよ。それとデザインハウスを作ることで、ドンたちの技術力を住民たちに知らせることもできるしな」
それに伐採してきた木もたくさんある。
なら、ここらで一つ、この開拓に付き合ってくれている人たちにプレゼントをしないとな。
「わしたちのためにですか?」
「ああ、なんなら一番人気なデザインの家は俺が住もうかな?」
ゲンジロウたちは村をプレゼントするという話になっているから、この町では宿舎みたいな家に住むことになるかもしれないが、それでもあった方がいいに決まっている。
「!?野郎ども気合入れるぞ!!!」
「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」
ちょっとやる気を出させるために気合を入れすぎたかなと思いつつ、ドワーフたちの腕前に期待するのであった。




