10 交流イベント 歌姫 1
書籍を買ってくださっているようで本当にうれしいです!!
書き下ろしを書いている最中は楽しんでくれるかどうか不安でいっぱいでした(-_-;)
結局なんだか、甘酸っぱい空気になりつつもネルはしっかりと乗馬の仕方を覚えた。
というか、元々やり方のコツはわかっていたみたいで手綱を渡したらあっさりと習得してしまった。
なのでそのあとは、馬の疲れ具合を気遣いつつ二人でちょっと遠乗りに行った。
日本で言うドライブデートになるのだろうか?
問題なのは、ネルに好意を向けられていると知りながら、次に別の女性を誘っているという事実。
誰かと交際しているわけでもないから、問題ないはずなのだが、何だろう?今の俺、完全にクズ男ムーブをしているよな?
だけど、ネルだけ特別扱いして他のパーティーメンバーと交流を深めないのも何か違うと思い、葛藤しつつ次のメンバーに声をかけた。
「え?出かけたいところ?」
「ああ、もしくはアミナがしたい遊びとかでもいいぞ」
ということで、次に声をかけたのは我がパーティーの二番目の加入者であり古参メンバーのアミナだ。
誰かがいる時よりも一人でいるときに誘った方がいいかと思い、屋根の上で歌の練習をしていたアミナに声をかけている。
すなわち屋根の上でデートのお誘いという、現代では考えられない光景だ。
「あ、もしかしてネルと二人で遊んでいたから次は僕と遊んでくれるの?」
そしてネルの話を聞いているという言葉に思わずドキッとする。
他の女性と遊んで次はみたいな流れは本来であれば、女性にとってはよろしくないはず。
「そうだが、ネルから聞いたのか?」
だけど、アミナにはそういう嫉妬とか嫌悪といったマイナスの感情が見えない。
「うん!すっごく楽しかったって言ってた!!」
なんというかアミナの場合は、色恋よりも先に無邪気さがくるからさっきまで考えていた罪悪感が薄れていくのがわかる。
このままだと、皆と一緒に遊ぶと言い始めるのでは?
「じゃぁ!今日は僕とリベルタ君でデートだね」
と思っていた俺だったが、こっちの世界の女の子は早熟なのか、アミナが早熟なのかはわからない。
だけど、少女が出していい色気の流し目ではないね。
元気っ子から、一転、女性としての色気を漂わせるアミナにドキリとしてしまう。
数多のゲームは攻略してきたが、生憎と恋愛というゲームに関してはビギナーを超えないのですよ。
「うん、まぁ、そうだな」
「あ、照れてる」
「そりゃぁ、アミナみたいな可愛い子からデートと言われればな?」
「ちゃんと、僕のこと可愛いって思っててくれたんだ」
ビギナーレベルであっても、褒めるところは褒める。
焦らすなんて高等テクニックを持っていないからこそ、素直という武器を使うべきなのです。
「でも、出かけるって言っても周りになにもないよね?ネルみたいにお馬さんに乗る?」
「一応、王都と精霊界に行くことはできるな。あと出かけると思っていくつかの都市部に転移地点を確保してきた」
ただし、デートプランを作成するという応用技術は皆無なので、こうやって希望を聞いているんです。
世の中の女性からだらしないと言われるかもしれませんが、一緒に考えるというのも悪くないと思うのですよ。
「うーん、人のいっぱいいるところはいいかな」
「そうか、それだとどうするか」
ひとまずウインドウショッピングは無くなって、代わりに何をするかということになる。
アミナの趣味というか、好きなことは音楽だ。
なれば、音楽関連で一緒に何かするのも有りなのだが・・・・・
「二人で歌うか?」
「んー、今日はちょっと違うことしたいな」
珍しくその歌も乗り気じゃない様子。
はて、困った。
この世界で女性と二人きりで遊ぶとなると、一体何をすればいいのか?
ネルの時も悩んだが、こういう時って何もない開拓地だと本当に困る。
なにか、何かないかと悩み。
「あ」
「何か思いついた?」
最初に出会った頃よりも長く伸びたアミナの髪を見て、自分の持っている特技を思い出す。
「いや、まぁ思いついたと言えば思いついたんだけど」
だけど、これは女の子によって良し悪しが分かれる内容だ。
「え、なになに?」
「アミナって、髪形に拘りってあるか?」
「え、別にないけど」
それはヘアチェンジだ。
ネルは髪を三つ編みにしておさげにしているが、アミナは普通に切りそろえて伸ばしている。
髪の手入れはしているが、髪形自体はそこまでしっかりとセットしているわけではない。
彼女の手の形状から、その手の作業がしにくい、故に管理が簡単な髪形にしているのだろう。
俺はFBOで色々なキャラを作るにあたって、女性ファッション雑誌を読み漁って理想のキャラを作り上げることに熱中していた時期があった。
ゲームのシステムにプリセットされたヘアパターンでキャラを作るのもいいのだが、数を熟してくると物足りないと思うときは多々ある。
そういうプレイヤーが何をするかといえば自前でセットするのだ。
リアルの顔はいじらないくせに、ゲームのアバターはやたら凝るプレイヤーは多い。
やっぱり自分の分身くらいはかっこよくしたいという願望はあるのだ。
「じゃぁ、アミナが良ければ今日はちょっとおしゃれしてみようか」
ただまぁ、プリセットを使うのと自前でやるのとではかなり感覚が違う。
自分の技術力が必要になるから、当然だけど上手い下手の差は出るし、センスも必要になる。
女の子なんだから、綺麗になるのは嬉しいのではと提案してみたが、これはアミナの髪に触らないとできないことだ。
髪は女性の命と言われることもある。それをおいそれと触っていいのかとも思ったが。
「ほい、最初はこんな感じにしてみたよ」
「わぁ!かわいい!!」
鏡の中の自分の髪形を見て、はしゃぐ姿を見るとその心配は不要だった。
場所は変わって、開拓村で住んでいる家のアミナの部屋に移動した。
そこで、ヘアスタイルチェンジに挑戦してみたが、腕は錆びついていないようだ。
流石にカットはできないので、櫛とかヘアゴムを使ったちょっとしたヘアチェンジから入ってみたが、これだけでもお気に召したようだ。
今は即席のシニョン(お団子ヘア)にしてみたが、前にやったポニーテイルよりは反応がいい。
「僕たち鳥人って、髪を手入れするの大変だからいっつも短くしているんだけど、髪が長いとやっぱり、いろいろなことができるんだね」
ヘアスタイルチェンジに使う時間は、拘りによって左右される。
手元でアミナの髪を優しく扱いながら、いろいろな髪形に変えつつ二人きりの会話を楽しむ。
こういうデートの形も良いものだなぁと一人で納得しながら、今度は細かい編み込みに挑戦してみる。
「これから髪を伸ばしてみるか?」
「うーん、でも僕の手そこまで細かいことができるわけじゃないよ?」
繊細な技術が求められているので、そこまで早くできないがいくつもの櫛とヘアピンを駆使して着々と完成系を目指す。
アイドルとか歌手って、髪形にこだわっているイメージがあるから、アミナももう少しこだわっても良いような気がする。
ただ、アミナの手は鳥人ということで、人の手とは異なる形で器用なことをするには少し不向きな形状をしている。
「そういうのも込みで練習するのも有りだよ。やり方なら俺が教えられるし」
だけど、それを理由に諦めるのはできればしてほしくないと俺は思う。
ゲームのキャラを作っていてつくづく思うけど、綺麗になりたいと思う気持ちはその人がなりたい姿を望んでいるということだ。
その手の努力は自信にもつながる。
「僕に、できるかな?」
「できるさ」
「なんか、リベルタ君に言われると本当にできるような気がするよ」
「そうか?」
「うん、実際僕ができないって思ってたことができるようになってるし」
そして自信がつけば色々と挑戦するためのきっかけになる。
「例えば?」
アミナの髪はだんだんと完成に近づいていく。
この世界だと、大抵は母親が髪を切ってくれるのが普通で、場合によっては自分でざっくりと切りそろえてそれでおしまいということになる。
ハゲ子さんみたいな美容師もいるにはいるが、髪にお金をかけられるのは貴族とか豪商とか一部の裕福な家の婦人だけ。総じて美容に強い関心のある女性ですらそれだ。
男ならもっと雑になる。
「あんな大きな舞台で歌えたことかな。精霊さんたちといっぱい仲良くなれたこともすごいことだよ」
「そうなのか」
「そうだよ」
そんな男である俺が、こんな丁寧に女性の髪形を変えていくのはきっとこの世界では稀有通り越して、異常だと思われるかもしれない。
「なら、今度はもっとおめかしして舞台に立たないとな」
しかし、できるものはできるのだから仕方ない。
最後に簪で髪形を固定したら完成。
「どうよ?」
「うわぁ!お姫様みたい!!」
編み込みに、簪といったヘアアクセサリーを使ってのキャラデザで鍛えた俺のテクニックの結晶。
アミナの言う通り、お姫様をイメージしてみたよ。
ただ、お姫様の中でも可愛いというよりちょっと大人になった綺麗な感じのお姫様だが。
「気に入ったか?」
「うん!」
始めてみる自分が髪のアレンジで綺麗になった姿。
それに興奮したアミナの笑顔は向日葵のように明るかった。
「よし、どうせならこのままもっとやってみるか」
そんな笑顔が見れるのなら、ゲーマー魂に火がつくという物。
どうせなら最後までやり切って、完成系を見せてみるのもいいだろう。
「もっとって?」
「衣装に、お化粧、全部こみこみでやってみようってことだ。アミナお姫様化計画というやつだ」
幸いにして、マジックバッグの中に化粧道具もあるし衣装に関してはアミナの部屋のクローゼットの中に雷姉妹たちが作ってくれた試作品がある。
俺が次々に道具をだす。
「僕が、お姫様?」
「ああ、とびっきりに可愛く仕上げてやるぜ」
平民出身のアミナがお姫様になる。
そんな夢を見るのはどの女の子でも通ってくる道だろう。
憧れの存在になれる。
その言葉にアミナは少しだけ考え込んで。
「じゃぁさ」
「うん」
「リベルタ君が、好きなお姫様にしてほしいな」
「えっと、それはつまり?」
少し照れながら言われた言葉を理解するのに、数秒。
「リベルタ君が可愛いって思うようにしてほしいって言ってるの」
ただ、やはり恥ずかしかったのか聞き返してしまったら少し膨れて、アミナは顔を逸らしてしまった。
俺好みの女の子にしてほしい。
うん、まぁ、昨日のネルといい今のアミナといい。
好意を伝えられるとやはり照れる。
「ダメかな?」
「本当にいいのか?」
「うん、いいよ」
そしてそんな女の子に自分好みの姿にしてほしいと言われてしまえば、最早覚悟を決めるしかない。
「よし、なら頑張ってみる」
「えへへ、ちょっと楽しみだな」
「ハードル上げないでくれよ」
「はーどる?」
「期待されると緊張するってこと」
「リベルタ君でも緊張するんだ」
「するする」
自分好みの女の子、それすなわち俺の性癖ということになる。
それを具現化するのにどれだけ勇気がいることか。
しかし、ここで無難なところで落ち着くのもなにか違うと思う。
なので、アミナを綺麗にすることは一切妥協しない。
「可愛い系よりも、綺麗系の衣装がいいな。化粧もそれにあった感じのやつにして」
「わ!すごい!」
その先にどういう感想を抱かれるかは定かではない。
ただ言えるのは、この時の俺はキャラデザをしている感覚で楽しんでいたのは確実だ。
そして久しぶりに楽しんでいたがゆえに妥協を一切せず。
「へぇ、これがリベルタ君の好みなんだ」
「・・・・・そうですよ。ええ」
「可愛い?」
「可愛い。それと、綺麗だ」
「うん、ありがとう!」
その結果、俺のストライクゾーンど真ん中に突き刺さる姿のアミナが爆誕するのであった。




