8 パターンブレイカー
ついにうちの近所の書店でも書籍が置かれてました!!
夢じゃない現実を与えてくれた読者様に感謝を!!
さてさて、突然だが一つの話をしよう。
よく、物語で主人公が権力を持ったり、土地を持ったりしてその領地の管理をして慣れない書類仕事に忙殺されて『もう嫌だ!!』と叫ぶシーンがあるだろう。
元々そういう仕事をしたことがないから慣れていない、そして経験がないからノウハウがない。
故に効率的に仕事を終わらせることができない。
だからこそそんな光景ができるわけだが。
「いやぁ、ピンポイントで商店街の人たちを狙ってよかったよかった!」
生憎とそれは俺とは縁のない話だ。
商店街という名称がある通り、ジンクさんたちが住んでいた場所は商店が並ぶ街だ。
つまり今回引っ張ってきた人たちは全員、商売をしていた人たちということだ。
すなわち、全員が計算が出来て文字の読み書きができて、向き不向きはあれど書類仕事ができるということだ。
それがどういうことか。
この人たちは全員が文官になれる素質を持った集団ということだ。
しかもそれは家族にも波及していて、親が子に文字の読み書きを教えさらに算数を教えるという環境が出来上がっている。
この世界では識字率はそれほど高くはない。
FBOでもそんな設定はあった。
読み書き計算ができるのは貴族か商人か、あるいは学歴のある人間かと限られている。
全体から見れば読み書き計算ができる人の割合は少ないだろう。
そんな世界で、しっかりと読み書きができる人材と言うのは貴重だ。
あの肉屋のおっちゃん親子でさえ、しっかりと文字の読み書きと計算ができるようにしている。
商売をしている人ってやっぱりすごいと思いつつ、これがどういうことか。
「書類仕事が少なくて助かる!!」
この開拓地のリーダーと言うことになっているので、俺は現在村長ということになる。
となると、当然のことながら皆をまとめていかないといけない。
そうなってくると俺の行動は戦闘者というよりは経営者としての立ち振る舞いをしないといけなくなる。
だけど、前にも言った通りそっちの方面に傾くにはまだ早い。
俺はまだまだ冒険がしたい!!ということでそういう事務作業は最小限にする方法を編み出す必要がある。
すなわち代官が必要になるということだ。
決済の確認は、ステータスゴリ押しの速読と速押しで何とかなるがそれ以外の事務作業となると別ジャンルの能力が必要になる。
そこで最初の話になるのだが、今回の開拓地に移民してきた商店街の人たちの子供数人と商人を辞めても良い人を文官にコンバートしたのだ。
書類仕事を苦にせず、尚且つ肉体労働よりも机仕事がしたいという人は商人と言うことで一定数いた。
肉屋のおっちゃんみたいに頭よりも体を動かしたいって言う人もいるから適材適所というのもある。
「いや、ジンクさん助かります」
「商売がすぐに始められないからいいけどね。商店街でも似たようなことはしていたし」
そして今回栄えある初代代官に選ばれた人は、俺の隣で書類を整理しているネルの父親ジンクさんだ。
元々商店街の人たちとの広いつながりを持っているし、意見を聞きやすい。
そしてなおかつ商人として培ってきた書類の知識が役に立ち信頼もできる。
俺が絵図を描き、その下準備をしてくれる縁の下の力持ち。
「いずれ、しっかりとした代官を用意しますのでそれまでよろしくお願いします!」
いやぁ、ジンクさんには感謝しかないよ。
「でも、俺を試すような書類を紛れ込ませるのは勘弁してください」
「しっかりと見ているか確認しないとね。ただ判子を押すだけなら誰でもできる。君は私たちの長になったんだから必要な責任はしっかりと背負ってもらわないと」
ただ、俺がさぼらないようにしっかりとチェックしてくるのは嬉しくもありつらくもある。
借用書とかわかりやすい書類だけど、脳死状態で判子を押していたら流れでやらかす。
「この開拓村に引っ越してきて二週間たちますけど、意外とトラブルが起きませんね。俺としてはもっとトラブルが起きると思ってましたけど」
「ハハハハ!リベルタ君も冗談が上手いね」
「いや、冗談のつもりは」
トントンと書類を整理して、流れで平和な生活を送れている開拓村を窓から眺めてみる。
そこには、せっせと働く男衆の姿や、その手伝いをしている子供の姿も見える。
女性陣は今頃家族の食事を作るために炊事場に集まっているだろう。
平和そのものと言わんばかりの光景は、順調に開拓が進んでいる証拠だ。
王都で全員のレベルをリセットしてもらって、こっちに来てもらうのは中々勇気が必要だったけど、おかげで男衆は着々と育成が進んでいる。
女衆の進みは男衆と比べると遅いけど、そっちも順調だ。
「これだけあらかじめ開拓されていて、尚且つ住居も用意されている。常に護衛が村を警護して、さらにモンスターは討伐されて村の周辺にはいないし、食料に関しても資金が潤沢だから買い出しに行ける。病に掛かったらしっかりと薬が用意されると。これ、王都にいた時の生活よりもいい環境だからね?これでトラブルが起きる方がおかしいよ」
「あ、はい」
生活に不満があれば、ストレスも溜まって人間関係でギスギスしたりして喧嘩の一つや二つは起きるかなと思ったが。
「ここ二週間で起こったトラブルなんて、子供同士の喧嘩くらいだね。あとは選べる仕事の取り合いかな。それも話し合いで解決できているね。いやはや、開拓資金が潤沢だというのは素晴らしいよ」
この二週間で起きたトラブルは、ジンクさんからしたら日常の延長線上で起きたようなものだ。
「不満はないんですかね?」
「強いて言えば、嗜好品が少ないことくらいだけど、それは食事が豪勢だし少ないけど酒も出るからね。特にないよ」
うーん、こういう時って『大変です村長!!』みたいに誰かが駆け込んできてイベントが発生するんだけど、モンスターが襲撃して来てもゲンジロウたちが解決しちゃう。
というか、ゲンジロウたちが率先して周囲のモンスターを討伐している。
今朝だって、朝練と称してモンスターのリポップ地点が潰れていないエリアまで遠征してモンスターを間引きして帰ってきてたな。
他にトラブルの例と言えば、噂の辺境に貴族が来て問題を起こすことだけど、こっちエスメラルダ嬢が公爵閣下と連携してそう言うことが起きないように貴族連中に注意喚起したようだ。
前の執務官のやらかし以降、国王陛下と宰相が公爵閣下と連携して厳重に警戒しているみたいだから勝手に辺境に来るような阿呆も一掃された。
他に何かお約束的なトラブルがあるかと言えば、遺跡とか見つけてそこから変なモンスターが復活したりして戦闘になるのがお約束だけど。
「まぁ、平和ならいいですよね」
この南の大陸最強のボスモンスターのアジダハーカを倒しちゃったから、他の隠しボスって居るには居るけど、どうも格下になっちゃうんだよねぇ。
FBOではこの辺境にその手の隠しボスはいなかった。
開拓している最中の今でもそれは発見されていない。
「そうだね、平和が一番だ。そして平和な時間のうちにも出来ることはあるよ」
こうもトラブルが起きないと逆に不安になってしまうのは、この世界に来てからトラブルが連発しすぎたからだろうか。
「平和だからできること?」
「そう、のんびりとできるときにしっかりと休むことだよ。ネルに聞いたけど、朝から晩まで領地経営の仕事をしているか訓練しているか、戦っているかだって。大人でもそこまで働かないよ?」
「・・・・・それが普通では?」
「ない、それだけはないよ」
そんなトラブルを処理するために必死に働きまくっていたからか、それが当たり前になっていた。
さらに最近では王国から独立してやりたいことをやってたから『休み?何それ美味しいの?』状態だった。
笑顔で首を振るジンクさんに言われ、そういえばまともに休んだのはいつだったと思い出す。
アジダハーカ戦の後はさすがに休んだよ一日くらい。
そのあとは・・・・・
「?????」
「うん、休みなさい。ここまでお膳立てされていればよほどのことがない限り変なことは起きないから」
あれ、おかしいな休んだ記憶がないぞ。
さらにさかのぼって考えるが、いっつも何かしらしているような気がする。
「・・・・・父親としてはいささか悩ましいことだが、この際だネルと一緒に遊んでくると良い」
そんな俺を見かねて苦笑しながら、休みの日の過ごし方を提案してくる。
なるほど、日ごろの豪運に感謝するためにネルを労わってくればいいんですね。
「わかりました。任せてください!」
「なぜかずれているような気がするけど、まぁ、遊ぶならいいかな」
となると他のパーティーメンバーの面々にも感謝も兼ねて何かしないといけない気がするな。
アミナなんて、歌を楽しむと言っても色々と無茶をしてもらっているし。
イングリットはそれが仕事だっていつも淡々としているけど、何かお礼をしないといけないよな。
クローディアにはいつも相談に乗ってもらってるし、あの人ってなにか欲しい物あったか?
エスメラルダ嬢には貴族関連でお世話になってるし・・・・・
「うーん」
「いや、遊ぶのにそんなに悩むことがあるかい?」
「いや、この村で遊ぶのは中々難しいかなぁと、王都に行くとトラブルに巻き込まれる未来しか見えませんし」
パーティーメンバーもそうだけど、ゲンジロウたちやシャリアとジュデスたちにも何かお礼をしないとな。
ゲンジロウは十分ですって言いそうだけど、雇い主としてきちんとそこら辺はしておかないと。
その点ジュデスたちはあっさりと受け取ってくれそうだから楽でいいな。
問題はこの開拓村で遊べる場所がないということだ。
流石に娯楽施設を作っている余裕はないし、かといって子供のように遊ぶだけでいいとも思わない。
「皆さんどうやって遊んでいるんです?」
「私が若い頃は、テレサと一緒にショッピングだね。市場調査になったし、なにより一緒に歩いて買い物しているだけでも楽しかったよ」
「なるほど」
ピクニックも有りかと思ったけど、開拓地の外には武装して入らないといけないからそれは何か雰囲気として違う。
そう考えると、色々と遊べる日本って本当に平和だったんだな。
「心配なら変装して王都に行ってみればいいんじゃないかい?イングリットさんもそうやって買い出しに行っているんだろ?」
「変装・・・・・ああ、なるほど、その手がありましたね」
王都では有名になってしまった俺たち。
下手に歩いていると変な輩に絡まれかねないから王都は選択肢から外れていたが、ジンクさんの提案で候補の中に入る。
「あとは王都以外の都市に行くのも有りだね。東西はともかく南の港町ならエーデルガルド公爵家の領地だし、リベルタ君のことを知っている人も少ないんじゃないかな?」
「確かに」
港町なら色々と見れる物があるし、ネルにもいい経験を積ませることができる。
一回王都を経由して、俺が単独で港町に向かって転移地点を確保すれば移動も楽にできる。
そこに変装を加えれば俺たちだと気づかれる心配はないか。
「ありがとうございます。参考になりました」
「うん、楽しんでおいで」
ここいらで、英気を養うという意味でいったん戦いから離れるのも悪くはない。
もしどうにもならなかったら精霊界で遊べばいいか。
欠点は、精霊たちが寄ってきて二人で遊ぶことができなくなるけど・・・・・楽しければいいか。
と思いつつネルを探しに行く。
「あ、ネルちょうどいいところに」
そして村長宅兼執務室の家を出て、ネルを探そうと思ったらちょうど家の前をジャガイモを運んで通り掛かるネルを発見するのであった。




