7 開拓団
ついについに!本日書籍発売です!!
是非ともお手に取ってください!!
「ずいぶんと人が住める環境になったな」
「これ、3カ月前までは人跡未踏の何もない土地だったって言われても信じられないわよ」
「ええ、王国との境界線を定めるために神殿から派遣された神官も驚いていましたね」
せっせとモンスターのリポップ地点を潰してまわっていると、あっという間に月日は流れていく。他にも土地を拓いたり、家を作ったり、井戸を掘ったり、ライフラインを整備したりと忙しない日々を送っていれば時間なんてあっという間に溶ける。
最初はキャンプ場と呼ばれるような設備だった場所は、今では村と呼ぶには広すぎる土地と設備を手に入れている。
これをゲンジロウやジュデスたちと一緒に作っていると、本当にこの土地に愛着という物が沸く。
『早く畑を作りましょう!!』と沸き立つゲンジロウたちを宥めたり、どんどん自分たちの住む場所が出来上がっていく光景にテンションが上がるジュデスたちに「危ないからせめて作業着を着ろ!!」と指導したり。
大変だったけど、苦しいとは欠片も思わなかった日々だ。
そうして完成したのは広大すぎる拓けた土地と、比較して少ない住居。
開拓民を受け入れるだけの住宅は用意したけど、それも本格的に拠点を作る前の仮設住宅だ。
後々ここは、この領地の中心となる街として俺の設計図を基に区画整理をして、しっかりとした家を建てる予定で、見学会の参加者の中には大工や建築士の人もいた。
なので、今のこの拠点は村(?)という微妙なものになっている。
かといって、嫌なことがないわけではない。
「王家から派遣されていた執務官も驚いてましたわ」
「正式な書類は貰っているんです。どう開拓しても文句は言わせませんよ」
俺たちはすでに王都からこっちの方に住居を移して生活を始めているから、トラブルは確かに減少している。
かといってゼロというわけでもない。
FBOのストーリーでプレイヤーの巻き込まれるトラブルの大半が人災なのだと、つくづく思う出来事が起きているといえば起きているのだ。
貴族たちもわざわざここまで邪魔をしに来ることもないし、王家からも横槍もない。
つながりがある貴族と言えば、エスメラルダ嬢の実家のエーデルガルド公爵家くらいで、閣下とは週一で手紙のやり取りと月一の会合があるくらいだ。
「神殿の方は問題ありませんでしたが、やはり王家から派遣されて視察に来た執務官の方は何か言いたげでしたね」
「どうやってこんなに早く村を作ったとか、土地の開拓をしたかを、すっごく遠まわしに聞いてきましたね」
しかし、それでも必要最小限の接触はあるわけで、そこでトラブルが起きた。
国王陛下との取り決めで定めた国境線は、神殿からの派遣員立ち合いの元に石碑みたいなものを立てて境を決めるモノだったけど、始まりの村は確実に俺の領内の王国寄りの土地に作った。
そこに来た神殿からの派遣員と王家から派遣された執務官の対応は正反対だったと言える。
淡々と仕事をこなし、合意書を作り石碑を建てる神殿側の派遣員。
それと正反対にネチネチと『日本の野党政治家の国会質問かよ!?』と突っ込みたくなるくらいに開拓の方法を聞いてきて、「外交官特権の査察だ」と言って村に入り込もうとした王家側の執務官。
そこにすかさず神殿側が割って入って止めてくれなければ、間違いなく王家との関係が悪化していた。
クレームと一緒に公爵閣下の嫌がらせで嫌みったらしい文章を王家側に送り付けて確認したところ、貴族勢力の息のかかったその執務官の独断だったことが判明した。
公爵閣下もそこは間違いないと言っていて、本当に国王陛下は貴族連中の手綱を握れていないなとつくづく思った。
今後こういうことのないようにと念書に王印を捺させて、破った場合の罰則を定め、今回の慰謝料として開拓地の領土を少し増やしてもらった。
あと、大使館の設置は十年延期というのも確約してもらったから矛を収めた。
「本当にしつこかったので、後々、境界線にイチャモンつけられないように防壁を作る決断のきっかけになりましたねぇ」
神殿への心証は上がって、王家への心証がさらに下がって深度を増したという結末に今更だが不安を覚えざるを得ない。
このままいくと本当に罰則を無視して、やっかみ交じりの横槍が飛んで来てもおかしくはない。
スケジュール的には後回しにしようかなぁと考えていた国防防壁の建設が急務だと思わせるのって、富の匂いを嗅ぎつける王国貴族連中の嗅覚は悪い意味ですごいのではと思う。
「あの計画ですの」
「ええ、あの計画です」
「闇様からはそちらの計画に使うゴーレムはまだ5体しか完成していないと聞いておりますが」
「むしろ、この短期間に5体も完成させてるのってすごいけどね。あのゴーレムってかなりでかいはずなんだけど」
「はい、その代わり用意していた素材の減少も激しいということで」
「あー、そっちの方の補給もしないといけないか」
その防壁を作るためのゴーレムはすでに発注済みだ。このゴーレムを使うのはある程度開拓が進んでからだと思っていたんだけどな。
このゴーレムは今までのゴーレムよりもかなり巨大なので、造るために必要な素材が桁違いに多い。
かといって戦闘能力が高いわけでもない。
完全に開拓仕様のゴーレムなのだ。
「おーい、リベルタ」
「あ、ジュデス。ジンクさんたち来た?」
「ああ、あと一時間もしない間に来ると思うぞ」
そんなゴーレムを作っている期間で、ジンクさんたち商店街の人たちは決断を下し、開拓地に向かって出発している。
第一陣は王都の家を引き払い、できうる限りの財産を作り、買えるだけの物資を買い、こっちに向かうと聞いたのが一カ月も前。
その際に護衛でエンターテイナーと御庭番衆を「転移のペンデュラム」で送っておいた。
最初は冒険者を雇うと聞いていたが、「来てくれるならしっかりと道中の安全と補給はお約束しますよ」とこちらから申し出た。
こういう時に役に立つのが公爵家との縁だな。
王都からこの辺境開拓地に来るまでの通行許可証を、王家の印とエーデルガルド公爵家の印で用意してもらい、道中は護衛たちから逐一報告してもらっているのでトラブルがないのは確認していたけど、偵察に出て行ってもらっていたジュデスが到着を確認してくれて一安心といったところか。
「疲れているだろうから、風呂と食事の準備もしておこう。あとは、住居の振り分けの準備もして、仕事の分担は、明日だな」
開拓団の人数はあらかじめ聞いているから、受け入れる準備は万全だ。
「王都を出るとき、商店街以外の住民とはあまりいい雰囲気じゃなかったみたいだし。しっかりと歓迎しないとな」
「そうね」
「はい、食事に関しましてはお任せください」
「僕は宴会を盛り上げる!」
「頼むぞアミナ。楽しいって言うのは人間にとって一番重要な感情だからな」
そして予想通り、安定を捨てると判断したジンクさんたちのことをよく思わない輩もいた。
「ゲンジロウとジュデスは念のためジンクさんたちを迎えに行ってくれ。ないとは思うけど境界で野盗やモンスターに襲われて怪我をしたとか良くないし」
「承知!」
「わかったよ」
王都で店を構えるのは商人にとってはかなりのステータスだ。
そうじゃないとしても、王都に家を構え生活できているだけでもすごいことだというのは世間の認識。
それを捨ててまで、辺境に行くと考えるのはおかしいと思う人もいる。
ジンクさんのことをよく思わない同業の商人からは冷笑を浮かべながら馬鹿にされたとも聞いていた。
「残った人は風呂と食事の準備だな。残った御庭番衆は風呂と料理班に分かれて、エンターテイナーは周囲の警戒だ。周囲一帯のモンスターのリポップ地点は封じたけど、念のため」
「「「「おう!」」」」
「「「「承った!」」」」
まぁ、ジンクさんは『すぐに見返せるから大丈夫』と笑顔で言っていたから心配はしていないし、事実すぐに見返してやると俺も気合が入った。
その気合を入れた結果が予想以上に開墾がはかどった広大な土地というわけだ。
「じゃぁ、イングリットには料理の指揮をお願いする。人数多いし、子供もいるって聞いているからいっぱい用意しよう」
「はい、承りました」
ジンクさんには開拓は順調だと言ってある。
これを見て驚いてくれるかなとワクワクしつつ、イングリットと一緒に料理の準備をする。
風呂は共同浴場を用意してあるから、そっちで準備してもらって、料理も共同の炊事場がある。
一緒に作業することも多いから、一気にやった方が効率的なんだよね。
町が出来たら作業時間も分かれるだろうし、戸別の風呂や調理場は一戸建てを持つようになってからでいいかなって。
「いい匂いね」
「うん、僕もお腹が空いて来た」
「モンスターのお肉がこんなにも入っているとさすがに圧巻ですわ」
「パンもいい具合に焼けてきましたよ」
御庭番衆は戦場で料理を作る必要もあるということで、一通りの調理はできる。
刃物の使い方にも慣れているから、野菜を切ったり肉を切ったりといった下処理をステータスブーストをかけて高速で終わらせてくれている。
下処理が終われば、煮たり焼いたりと、イングリットの指揮下で迅速に料理を量産していく。
もちろん俺たちも手伝っている。
ネルとアミナ、エスメラルダ嬢でそれぞれ大鍋を五つ管理してシチューを作っている。
俺とクローディアで竈の前に待機して、次から次へとパンを焼いていく。
小麦や野菜と言った食材は毎日マジックバッグを持ったイングリットが「転移のペンデュラム」で色々な場所に買い出しに行っているから、お金がある限りは問題なく入手することができるし、公爵家の紹介で買っているから足元を見られる心配もない。
お金は、まぁ、開拓団を迎え入れても半世紀は食うに困らない程度には貯蓄はあるし、モンスターの素材を持って王都に行けば現金化して補充もできる。
むしろ王都で積極的にお金を遣わないと金貨が俺のところに集積しちゃうんだよね。
「御屋形様!!お連れしましたぞ」
「お、来たか」
そして大量にパンを焼いている最中にゲンジロウに呼ばれ振り返ってみると、駆け足でこっちに来るゲンジロウがいた。
その後ろには旅用の格好をしてローブを身に纏うジンクさんとテレサさんがいる。
俺はエプロンと頭巾を外して、炊事場を出る。
「ジンクさん、テレサさん、開拓地へようこそ。道中何事もなくてよかったです」
「ああ、君が派遣してくれた護衛のおかげでモンスターも野盗も近づきもしなかったよ。それにしても随分と広くなったね。開拓を進めているだろうなぁとは思ってたけど、想像よりも進んでいてびっくりだよ」
旅の疲れがあるだろうが、表情は明るい。
「お母さん!」
「ネル!」
そしてテレサさんの方にはネルが飛び込み抱きついていた。
ステータス的にネルが圧倒的に上で、全力でやったらテレサさんが吹き飛ぶ。
だがそこはさすがに加減して、適度な力加減で親子の再会を喜んでいる。
「旅の疲れもあるでしょう。食事の準備はできています。そして食べたら風呂に入って、あとは住居の割り振りですね」
「知ってはいたけど、聞けば聞くほど私の知る開拓村とは違うね。至れり尽くせりとはこのことだよ」
「しっかりと働いてもらうにはモチベーションが重要ですからね。今日、明日でしっかりと疲れを癒してもらわないと」
俺もジンクさんと再会の握手をしている。
グッと握り込まれた力強いジンクさんの腕に、まだまだやれるという意志を感じて思わず笑みが浮かぶ。
「手加減はしてほしいね。生憎と君やネルほど私たちは鍛えていなくてね」
「そこら辺も随時改善していくので、ご安心を。もうすぐ料理ができます。開拓団の皆さんを迎えに行ってから食堂に移動しましょうか」
「そうだね」
そしてジンクさんと並び歩いて、背後には手をつないだテレサさんとネルが続く。
この村を囲う土壁の中で唯一の出入り門である場所には、王都から来た開拓団一行が待っている。
その人たちの顔には希望の光が灯されている。
さてさて人が集まったら、もっとやれることが増える。
それを喜ぶのであった。




