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6 戦闘型商人

総合評価6000pt突破!!ありがとうございます!!

 

「世界って不公平だよな」

「子供相手に何を言っている」

「デントさんだって努力すれば結婚くらいできますよね?」


 日が暮れる前には野営地に戻ってこれて、そしてそのまま夕食。

 一日中体を動かしたやんちゃ盛りの子供なら、あっという間に大人顔負けの量を平らげることはできる。


 日本にいたころの方が当然食事レベルは高かったが、それなりに生活していると慣れてくる。

 しかし野営の食事となると街にいる時よりも質も下がってしまう。


 改めて簡単に腹を満たし、美味しく栄養を補給できる前世のレトルト食品が偉大だと実感してしまうほどファンタジーのキャンプ飯は質素だ。


 ただ材料を放り込み塩だけで味付けされた素材の味を生かしたスープに硬い黒パン。

 これが今晩の夕飯だ。


 しかし、ある意味でこれで良かったかもしれない。


 デントさんが食事の手を止めてまで俺の方をかなり怖い目でじっと見てきている所為で、今の俺ならきっと懐かしいカップ麺やレトルト食品であろうとも関係なく居心地が悪く美味いと感じられていなかっただろう。


「ねぇ、早くポイントを振りましょうよ」

「ねー、どうやって振ろうかな?」


 その理由はわかっている。

 ニコニコと俺の両隣に座りながら食事をしているネルとアミナがいるからだ。


 これで俺が端っこで、ネルとアミナが隣り合っていたらデントさんも大人げない対応はしなかっただろう。


「くそ、俺が子供の頃はあんなことなかったぞ」

「僻むな、見苦しい」

「そういった態度を見せているからでは?」


 自然な流れで左にネルが座り、右にアミナが座り、食事をしながら今日のレベリングに関して振り返り、アレをやればよかったこれをやればよかったと感想を言って、それに対して反省をして、最後は食事の後のステータスをどうするかという話になっている。


 話している内容はいたってまとも、だけど、ネルもアミナも妙に距離感が近い。

 膝を突き合わせて話し合うっていう言葉があるけど、それくらいに近い。


 というか触れている。


「まぁ、ネルさんもアミナさんも獣人ですから仕方ないですね」

「そうだな、獣人の女は本能的にいい男を見分ける。それだけだ」

「俺だって、そこらの冒険者よりも稼いでるぞ!!」

「強さや稼ぎを判断基準にすることは確かにありますが、獣人の女性はどちらかと言えば直感主義ですので」

「子供に張り合うのは見苦しいぞ、だが、俺から見ても小僧はいろいろと見えている。そこに惹かれたのであろうな」


 その距離間とデントさんたちの会話も聞こえてしまって、絶賛困惑中。


 え、うん、理解はできる。

 だけど子供だぞ?


 生憎と俺の恋愛経験値はお世辞にも高いわけではない。

 青春という青春はゲームで費やしていたし、知り合いの男女比率も男性九割五分の女性五分の割合。


 その知りあっていた女性も仕事関係ばかり。

 プライベートで仲良かった女性なんて親族を除けばゼロだ。


 そこでいきなり好意があるぞと言われても。


「……ひとまず、飯食べ終えたらな。終わったら寝るまでじっくり考えよう」


 相手は子供だからな、女性経験値低めの俺でも戸惑うよりも先に頭が冷静になるわ。


 デントさんたちの言う二人が俺に向ける好意の部分も頼れるお兄さん的な考えだろう。

 ほら、近所にいる年上のお兄さんお姉さんって憧れるっていうやつ。


「そうね」

「うん!」


 ひとまず食事を終わらせるべく、そっとスープに口をつけるとほんのりと塩が利いた素材の味が舌に広がりなんだかホッとする。


 いずれ、ここら辺も改善していきたいんだけど、そうなると例の職種のパーティーメンバーが欲しい。


 パーティー経済的にすぐに増やすことはできないけど、もう一段階クラスを上げれば育成環境も整うしその時にスカウトしよう。


 そう決めて、デントさんの視線をスルーしつつ食事を進めて、どうにか片付けまで終了。

 早くステータスについて触れたいからか、ネルもアミナも俺と一緒に作業をしたがる。


 そのたびに、冷やかしていたデントさんからたまに嫉妬の視線を貰ってしまう。


「さぁ!いよいよね!!」


 そして馬車に設置したテントに入っていよいよというタイミングでネルが司会進行をするように手を上げる。


 本当なら冒険をするにあたって夜の見張りも回ってくるんだけど、子供に見張りをさせるのは不安とのことで大人組の中で決めて持ち回りにしてくれると決まっていたらしい。


 テントに入るときに、デントさんがジト目でぼそっと言ったあの言葉は聞かなかったことにして。


「いい?せーので行くわよ」

「うん!」

「わかった」


 今まで我慢していたステータスを開帳する。


「「「せーの!」」」

「「「ステータスオープン!!」」」


 二人に合わせて掛け声を唱えると、見慣れたウィンドウが目の前に表示される。


『ネル  クラス1/レベル9

 基礎ステータス

 体力0 魔力0

 BP 9

 EXBP 9

 スキル1/スキルスロット3

 槍豪術 クラス2/レベル84 』


『アミナ  クラス1/レベル9

 基礎ステータス

 体力0 魔力0

 BP 9

 EXBP 9

 スキル1/スキルスロット3 

 杖豪術 クラス2/レベル83 』


『リベルタ  クラス1/レベル9

 基礎ステータス

 体力0 魔力0

 BP 9

 EXBP 9

 スキル1/スキルスロット3

 槍豪術 クラス2/レベル94 』


 そして見せあうために俺を中心に肩を寄せ合うようにステータスを並べる。


「上がってるわね!」

「こんなに上がったんだ」

「まぁ、上がってなければ困ってるけどな」


 最初にレベルが上がった時に確認しておけばよかったが、無事にEXBPも入っているのを確認できた。

 これがなかったら正直、ほかの条件を模索する羽目になるし、もっと言うならレベルを〝下げる〟必要も出てくるところだった。


「それでこれからはどうするの?」

「そうだな、それじゃネルから最初に決めていくか」


 それがないことで、こっちとしても予定通り進めることができる。

 最初に話しかけてくれたのがネルだから、ネルのスタイルを説明しよう。


「まず、俺がネルに勧めるのは戦闘商人っていうスタイルだ。文字通り戦闘と商売を両立したタイプの商人だな」

「へぇ、商人の人たちって確かに戦える人もいるけど、ほとんどの人が護衛を雇っているよね?」

「お父さんも戦えるけど本職の人には敵わないって言ってたわ」


 戦闘商人。

 FBOでは、全職業の中で最もアタックホルダーを数多生み出してきた職業だ。

 商人の特性である、商売を軸にして金策面で活躍もできるというパーティーに一人はいてほしいと言われる人材だ。


 二人の中では商人は護身程度の戦闘能力で、本業は商売という印象のようだ。


「それも間違ってないな。スキルスロットとEXBPをフル活用してこのスタイルはどうにか完成するっていうぐらいスキル構成に余裕がないし、育成するスキル量も多い。だけど完成すれば間違いなく純戦闘職を上回る火力と、同等の戦闘能力を得られるし、戦えるっていうことは一人でダンジョンに潜れてモンスターのドロップ品やダンジョンの宝を持って帰ることができる」


 その印象は俺も理解できる。

 だけど、それはFBOプレイヤーとしてではなくて一般人としての印象だ。

 プレイヤーとしてはこっちの戦闘商人の印象が強すぎて、戦場に商人在りというパワーワードの方が先に思いついてしまう。


「いっぱい稼げるってことね!!」


 俺の記憶にはネルを惹きつける魅力がある。

 自分で戦えば人件費が削減できる。


 さらに貴重な商品を仕入れるルートも自力で確保できる。


 一見すればトレジャーハンターのような職業にも思えるが、これもれっきとした商人の形態だ。


 グッと手元で両手に握りこぶしを作り、将来を夢見たネル。


「そういうことだ。そのためにステータスを割り振る必要があるんだが、そこで前に話したところに戻る。ネルはどっちがいい?体力四対魔力一の一点破壊型か、体力三対魔力二のバランス型か」


 その夢に選択肢が存在する。


「うーん、そうねぇ。私は詳しいのがわからないから、リベルタのお勧めは?」

「断然一点破壊型、商売のスキルはそこまで魔力を消費するわけじゃないから魔力の高さは要求されないからな」


 その選択肢の判断は全部で三つ。

 三つのうち二つが俺のアイディアというのは申し訳ない。

 残りの一つはネル自身が考えて自分で成長していくという判断。


 けれど彼女は元から俺のアイディアの二つで考えているようだった。


「欠点は、バランス型よりもスキルの使用バランスの管理が難しいのと出費が激しいことだ。代わりに一撃の威力が高いから大体の敵は屠れる」

「出費?」

「戦闘商人の武器は主に斧と槍の複合武器であるハルバードなんだ。それによって一撃の威力を確保しつつ、クラス3になった時に商人のジョブを得て、そこで得られるジョブスキルの戦闘スキルの中にゴールドスマッシュという技がある」


 メリットとデメリット。

 ここら辺を隠す必要性はほぼない。


 戦闘商人のメリットは金を稼ぐ下地があることと一撃の破壊力これに尽きる。

 その一撃を支える要がクラス3でジョブを得ることで覚えられるゴールドスマッシュというスキルであり、同時に最大の出費の原因もこれだ。


 ネルもスキルの使い回しが難しいという部分よりも出費という部分に反応した。


「このスキル、スキル発動消費魔力が極端に少ない代わりに、貨幣を消費して威力を上げるスキルなんだ。おまけにスキルの熟練度上げも使った回数でも倒したモンスターの強さでもなく、使った金額でレベルが上がる」


 スキルを使えば最大火力を叩きだすこのスキル、マネーイコールパワーを命題にしている。


「ち、ちなみに、いくらくらいでレベルが上げ終わるの?」

「締めて、一億ゼニ」

「いちおく、ぜに」


 日本円にして百億円かけないとカンストしない阿呆みたいなスキル。


「ちなみにクラスとレベルが上がるたびに、掛けられる金額が増えて、クラス10/レベル100のゴールドスマッシュの最大掛金は十億ゼニ」

「きゅー」

「ネル!?」


 そして最大火力を出すためには日本円にして一千億円という途方もない額を叩きださないといけないのだ。


 金の山が一瞬で消え去る。

 そんな夢を見たネルの意識が遠のき俺は慌てて彼女の背に手を入れて支える。


「安心しろ!ほかのスキルを駆使すればこれは数百発撃ち出せるくらいの財源は確保できるから!!」

「はっ!?それって、本当?」

「ああ!高ランクのボスを一撃で屠ることも実際にできるし、そこから手に入るアイテムを換金すればむしろおつりがくるくらいだぞ!!ただ、外したら大赤字だけど……」

「あ、赤字」

「リベルタ君!!さっきからネルの顔色が真っ青だよ!?」


 しかし、実際廃人プレイヤーの中では、ゲーム内の裏ボスやイベントで出てきた鬼畜ボスを問答無用で一撃でライフゼロに押し込むことができた。


 金さえあれば間違いなく最高のアタックホルダーになれる。


 一部のプレイヤーはアタックホルダーになるべく散財して破産もしているけど。

 早々に最大火力を叩きだすような出費になることもないから、自制心を利かせれば問題はない。


 ただ、散財してとんでもない火力を出すことに一部の界隈では快感になってしまって普通のスキルじゃ物足りないというジャンキーも存在してしまっている。

 ネルもその沼に入らないといいんだけど。


「……リベルタ」

「大丈夫か?」

「ええ」


 赤字という言葉と非現実的な出費に顔を真っ青にしたネルはどうにか体を起こし、じっくりと数秒間考えた。


 その態度からバランス型を選ぶか、それとも別の案を提示した方がいいかと考えた。


「本当に、稼げるのよね?」

「ああ、それは間違いない。そもそも、ゴールドスマッシュを使わなければそこまで出費の多い職業でもないしな」

「なら、やるわ!」


 だけど、反面、世界最高峰のアタックホルダーという側面にも惹かれていたのか。

 ネルの瞳に覚悟の火が灯った。


「私、最強の商人になる!!」

「そうか、いいんだな?」

「ええ!」

「だったらステータスを振るぞ」


 彼女が決めたのなら、俺は止めない。

 実際、ご利用を計画的にすれば儲けの方が多い職業なのだ。

 そもそも十億ゼニという大金を投入するような相手の方が少数だ。


 そこら辺でストッパーになればいいだけのこと。


「体力四と魔力一の割合で、魔力は普通のBPで体力の方はEXBPを全部使って振ってくれ」

「何かあるの?」

「レベリングするときにそっちの方が便利なんだ」


 ついでに今後のためにBPの振り方も指示しておく。


「ふーん、そうなんだ」


 理由があると知れば彼女は素直にステータスを振り分けてくれる。

 ステータスは彼女にしか操作できない。


「できたわ!!」


 細い指がせっせと動き、そして最終的に完成したステータスを俺に見せてきた。


『ネル  クラス1/レベル9

 基礎ステータス

 体力15 魔力3

 BP 0

 EXBP 0

 スキル1/スキルスロット3

 槍豪術 クラス2/レベル84 』


「うん、あとはレベル上げながら残りのスキルスロットを埋める形で四つスキルを取っていくとして」


 問題がないことを確認したら。


「次はアミナだな」

「待ってたよ!!」


 笑顔で待っていたアミナの方を見るのであった。



楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。



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