5 間引き
カウントダウン!!書籍発売まであと2日!!
ジンクさんたちに向けてやった開拓地見学会は大成功と言っていい。
ジンクさん以外にも、肉屋のおっちゃんを筆頭に「家族を何が何でも説得する」と言ってくれた人が結構いて、予定の人数を大幅に上回る人員が確保できそうで、現在進行形でスケジュールを組み替えている。
闇さんに追加でゴーレムの製作を頼んだり、ダンジョンでの素材周回をゲンジロウたちやエンターテイナーたちに依頼したりと段々と楽しくなってきましたよ。
「そんなこんなで、村モドキもできたので、今日からこの土地のモンスターの間引きを行います!」
テンションが上がっている自覚があるので、そのままの勢いで壇上に立つ。目の前にはゲンジロウ率いる御庭番衆、ジュデスとシャリアが率いるエンターテイナー、そしてネル、アミナ、イングリット、エスメラルダ嬢、クローディアのメインパーティーと、俺の配下の戦力が勢ぞろいだ。
「はい、そこ、テンション上げてくれるのはいいけど脱がない」
「「「はっ!?」」」
一部、勢いで上半身裸になってポージングしている輩を注意して、無意識の行動だったことに、周囲から笑いが起こるまでがお約束。
こういうのは生真面目なゲンジロウたちが眉間に皺を寄せるかと思いきや、彼らも一緒に笑っている。
アジダハーカ討伐前のボルドリンデ一派掃討戦において共闘し、さらにそのあとも交流をしていて、すっかり仲間として打ち解けている。
そういう〝楽しませる〟勢力で、なおかつ腕もあると信頼しているからこそ、素直に楽しめるということだろう。
場を温めてくれたことに感謝し、そして一回拍手して注目を集める。
「それじゃあ、今日の予定だけど、昨夜説明した通り、この拠点の防衛に御庭番衆とエンターテイナーの一部を残して、残りは班分けして順次間引き作業に入るよ」
仲が良いことはなによりだ。今回は斥候と索敵、さらにマッピングとサポート役をエンターテイナー、戦闘を御庭番衆が担当するという混合パーティーだ。
互いのリーダーが話し合い編成を決めてくれて、それを確認している。
「目の前にある森や山、というか俺たちが貰った土地は、基本的にモンスターの支配下にある」
そんな彼らと協力して行う間引き作業とは何だろうか。
言葉通りで受け取るのであれば、周囲を徘徊するモンスターを間引くという意味合いに取れる。
だが、そこはFBOクオリティ。
この間引きは普通の間引きではない。
これから行うのはゲームバランスを壊すというか、ゲームシステム的には本来ならありえない行為だ。
「各班に地図は行き渡っているな?」
俺は演壇の背後に設置したボードに張り付けてある大きな地図に指し棒を使い、説明を始める。
FBO初期、オープンワールドの森を開拓することができると知ったプレイヤーは、自分のオリジナルの町を作れないかと考えた。
建築もできる、ライフラインも設置できる、NPCも仲間にできる。
この三拍子そろった要素があるなら、町くらい作れるだろうと考えるのはゲーマーの性。
しかし、そこで1つ問題となるものがある。
それはモンスターで溢れた土地だ。
未開拓の土地には、もれなくモンスターがセットでついてくる。
どこに行こうとも奴らは現れ、人憎しとばかりに襲い掛かってくる。
何も考えず適当な土地に町や村を作ってしまえば、そこは常にリポップするモンスターに襲われ続ける場所になってしまう。
リポップ地点の真上に町を作ってしまえば、そこは内部からモンスターが湧き出る町と化す。
モンスターは土地にセットされた生き物とFBOのゲームシステム上には設定されている。
それはモンスターの存在するゲーム世界ならごく当たり前のようなものだ。
この土地を開拓するにあたって、FBOのゲームと同じ設定がこの世界にも適用されるのか確認する必要があった。
もしかしてこの世界のモンスターは交配で生まれている可能性もあるかと調査した結果。
「基点はこの始まりの村だ。そこから王国側ではなく、海側の方に扇状に間引きを行う」
モンスターの間引きはゲームと同じ方法で問題ないことが判明した。
すなわち、この世界でもリポップ地点を潰せるということだ。
リポップ地点を潰せる。
モンスターの存在するゲームの根底を覆すような話だ。
いや、ゲームの根底というよりも、ゲームジャンルを変えかねない話だと言った方がいいか。
この仕様にはさすがのFBOプレイヤーも驚いた。
なにせこの仕様を突き詰めれば、全世界からモンスターを根絶することができるということだからだ。
この世界で町を作る主な方法は、モンスターのリポップ地点を避けた空白地を狙うことだ。
当然その条件に見合う土地は限られているし、環境も自由に選べなくなるから農地の確保も大変だ。
だからこそ、条件の良い土地を開拓しようと思えばモンスター排除と言うのは重要になるし、冒険者という職種も活躍の場を得ることができる。
しかし、この方法を使えば土地の確保は容易になる。
それ相応の準備と時間が必要だし、特に中央大陸のモンスターの根絶は、正直Mな方でも目が死ぬレベルの根気が必要になる。
まあ、やり込み過ぎてMを通りこして人外の領域に踏み込んだプレイヤーはいる。
トータルプレイ時間が群を抜いて多い人たちの中には、ラスボスの邪神や裏ボスを倒して「平和宣言」と称してモンスターを根絶したやつもいる。
まあ、その平和宣言の投稿の後に、モンスター資源の枯渇、土地の奪い合い、人間同士での戦争が始まるんですね、と平和とは正反対の投稿が重なったが。
「各班は、モンスターリストを確認して、有用なモンスターと不要なモンスターを分別してことにあたってくれ」
今は関係ない。
俺が貰った土地のモンスターリポップ地点の間引きは、計画的にやる必要がある。
領土全体の開発計画にこのモンスターリポップ地点の間引きは直結する。
生活区、農地、工業地帯、水源、資源地帯。
このどれにもモンスターは関わってくる。
「有用なモンスターは基本的には放置、よほどの重要地に分布していた場合は確認を取ってくれ」
モンスター資源は、下手な鉱山よりも貴重だ。
どんなドロップ品を落とすかをしっかりと把握して取捨選択し、有用なモンスターとは共存しながら開拓していくしかない。
その点をしっかりと周知して、最後にこの始まりの村にずらりと並んだ荷車を指さす。
「以上で、説明は終わる。行動を起こす際に、各班は荷車を一台ずつは持って行ってくれ」
闇さんたち精霊に頼んで作ってもらった、リポップ地点を潰すための魔道具だ。
封印の術式とお約束の弱者の証を用いた不壊の属性を組み込んだ封印の要石みたいなものだ。
最低でもそのリポップ地点のモンスターと同格、理想を言えば格上の素材が必要になる代物なうえに、正確なリポップ地点の中心に打ち込まないと意味がないという欠点がある。
そんな代物を乗せた荷車には車輪がない。
この未開の大地を進むのに車輪では対応できない。
浮遊のスキルを付与した荷車は、魔力を流すと本体を地面と一定間隔で浮かせるという便利グッズだ。
「それじゃ、行動開始!」
「皆の衆行くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「みんな!頑張ってね!」
「「「「「おーーーーーー!」」」」」
「うん、だから脱ぐのは止めようね?」
行動開始ということで、それぞれ班ごとに荷車を引いて始まりの村を出発する。
出発前に一瞬で衣服を脱ぎ去ってしまった集団に、ツッコミを入れてしまった。
しっかりと大事な部位は見えないようにポージングしているのが質が悪い。
ネルやアミナ、イングリット、エスメラルダ嬢と年頃の女性がいるというのに・・・・・
まあ、最初はリアクションを取っていたが、最近では白い目で見るだけでそこまで反応しなくなったけど。
「リベルタ!準備できているわよ!」
「OK、それじゃ俺たちも行こうか」
そこら辺の教育をすべきかと考えながら、俺たちも山岳地帯のふもとにある森に入る。
このエリアの特徴は、王都や南大陸のほかの街と違い、様々なモンスターが出現することだ。
イメージとして近いのは古代遺跡マダルダだろうか。
あそこも色々なモンスターがはびこっているエリアだった。
この辺境地もそれに近いか、いや、それ以上と言っていい。
なにせ、移動するだけで色々なモンスターと出会うし、その組み合わせもコロコロと変わる。
「ハンターモンキー・・・・・討伐対象ね」
「もう、さっきからキーキーうるさいですわね」
その中で混じり物、つまり他のモンスターの出現頻度が減り、一種類のモンスターのみが出やすくなっている場所を見つけることが、リポップ地点を探すコツだと言っていい。
ここら辺は歯をむき出しにして威嚇する、ハンターモンキーの出現頻度が上がっている。ということは、ここら辺がリポップ地点に近いということだ。
ネルが木の上にいるハンターモンキーをモンスターリストで確認して、討伐のリストに入っているのを確認した。
「ドロップ品の価値も低いし、あいつらは物を盗むし獰猛だからな。村の近くという減点ポイントもある。狩るぞ」
「わかったわ!」
「歌で引き寄せる?」
「ああ、一回丸ごと倒せばしばらくは襲われないからな」
「わかった!」
早速の獲物、戦闘態勢に入る。
ネルのハルバードは、こういう木々の生い茂る森の中では少々扱い難い大物だ。
だから取り出すのは、サブウェポンとして使う片手斧。
俺も槍ではなく、中距離戦でも使える鎖鎌だ。
「こういう時は格闘家で良かったと思います」
「私はアミナ様の補助に回ります」
「うーん、雷系は山火事の恐れがありますわね。氷系で援護に入りますわ」
アミナの歌が始まり、真っ先に飛び出したのはクローディアだ。
こういう木々を利用して立体的に動ける空間は、日々エリアルコンボを極めている彼女にとって、一番真価を発揮できるエリアなのかもしれない。
そもそもクラス3のモンスター相手にこの面々は過剰戦力だと言っていい。
次から次へと木々を飛び回って瞬殺していく、クローディアだけでおつりがくると言っても良い。
かといって彼女だけに戦わせるのは効率が悪い。
俺とネルも飛び出し、木々の間を空歩で飛び回り、木の上で群れるハンターモンキーの領域に踏み込む。分銅を振り回し、ミドルレンジの攻撃から入り、接近戦は鎌。
投擲極術と鎌神術の二つのスキルの適用範囲である鎖鎌は、サブウェポンとしてかなり優秀だ。
「ハーッ!!!」
近くでネルの雄たけびが響き、そして次から次へと片手斧でハンターモンキーを切り裂いていく。
アミナの歌に惹き寄せられて接近してくるハンターモンキーもいるが、ネルの声にも引き寄せられている。
そんな歌と雄叫び、そして打撃音に紛れるように空気を切り裂くような音。
「援護はお任せくださいまし!」
氷のブーメランを自身の周りに滞空させ、この狭い木々の隙間を縫うように器用に飛ばし、見事に敵に命中させるエスメラルダ嬢の技量。
そうなるように訓練を施しているけど、身に着けた技は彼女の努力の結晶だ。
「・・・・・」
イングリットは静かにその場で佇み、周囲を警戒している。
後衛の守りという重要な役割を把握している故に、静かに箒を構えている。
ハンターモンキーはそれなりに数が多い。
そして木々の上からだけではなく、地上からも接敵する。
茂みを利用し、死角から後衛に迫ったハンターモンキーが一体いた。
だが、誰も見向きもしない。
それは気づいていないのではなく。
「・・・・・フッ」
イングリットを信用しているからだ。
静かに息を吐き、抜刀の姿勢になったイングリットに一刀のもと切り捨てられたハンターモンキーは、切られたことも気づかず、黒い灰となる。
そんな戦闘を5分ほど繰り返すと、ハンターモンキーだけではなく、他のモンスターも出なくなる。
「これで終わりね」
「ああ、となるとここからは地味な作業かぁ」
戦うことが性に合っている。
だけどそれをずっと続ければ終わりというわけではない。
「はい、ネル、エスメラルダさんと、クローディアさんもよろしく。アミナとイングリットは周囲の警戒。俺は荷車を引くから」
ここからは地味な作業、闇さん特製のダウジングロッドを美少女と美女が構えるという奇妙な光景からが本番なのである。




