3 常識ブレイク
カウントダウン!!書籍発売まであと4日!!
本日よりコミカライズの連載も開始します!!
「ここがリベルタ君の開拓地か」
「なぁ、本当に大丈夫なのか?」
「なんだよビビってんのか?ジンクも大丈夫だって言ってただろ。何より、あのリベルタの坊主がいるんだぜ」
開拓地見学会の日程調整は思いのほかスムーズにいったというか、商店街の奥様ネットワークが恐ろしいと言うべきか。
素直に行くと決意したご主人の家庭は良いとして、うだうだと悩んでいたご主人の家庭に関しては、参加を断った後ひと悶着あった様子。
それが辺境に行くことへの恐怖なのか、それとも新しい何かを見られることへの期待なのかはわからないが、結果だけを言うのであれば。
「はいはい!皆さん、護衛から離れないでくださいねぇ!一応、ここら辺に出没するモンスターでしたら片手間でも倒せるくらいの護衛を付けてますけど、はぐれたりしたら万が一がありますからね」
昨晩、日が暮れてから俺が転移のペンデュラムでピストン輸送することで、商店街に店を構えるご主人たちの八割がここに集まった。
その数、総勢35人。
その中には顔見知りも結構いて、そのほとんどはジンクさんに誘われて参加した人たちだ。
開拓地に着いたのが夜なこともあって、まだ灯りの無い開拓地周辺の風景は月明かりでしか見えなく、全容を把握できていない商店街一行は、日が昇って朝日に照らされた自然の風景を見て、戦々恐々としている。
ジンクさんや肉屋のおっちゃんは開き直って、周辺の土地を観察しているけど、そうして未開の土地にきて開き直れる胆力がある方が希少だと思う。
なにせ、昨晩モチダンジョンに宿泊することにすら驚いて、若干睡眠不足になっている人もいるくらいだ。
王都の外に出る機会が少ないと、やはりこういう場では弱気になるか。
そんな彼らの護衛は、完全装備のゲンジロウたち御庭番衆。すぐ近くに見える森の中では、エンターテイナーたちが終始モンスターが開拓地に近寄っていないか見張っていてくれている。
そしてネルやアミナ、イングリット、クローディア、エスメラルダ嬢と俺たちパーティーメンバーも完全装備だ。
一応、商店街の人たちにも俺たちが装備を用意して、安全には細心の注意を払っている。
そんな場所で、場違いな雰囲気を漂わせる観光ガイドが持っているような旗を振り回す俺。
『商店街一行様』としっかり描いてある旗の下に集う商店街の面々は、一体これから何が始まるのかと、不安気な表情で旗を振る俺を見る。
「えー、本日はお日柄も良く、我が開拓地見学会にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
そして注目を浴びたのなら、さっそく定型文からスタートしよう。
ぺこりと頭を下げれば、流れで商店街の人たちも頭を下げ返してくれる。
「今回の見学会では、ジンクさん経由で皆様にご案内した通り、私たちの開拓地の実際の開拓の光景をお見せしたいと思います」
これから見せるのは、この世界の開拓の常識を覆す代物だ。
驚く姿を想像してちょっとワクワクし、逸る気持ちを抑え説明を続ける。
ざわめく商店街の人たち。ジンクさんはジッと俺を見て何が始まるかを待っている。
「それじゃ、アミナ頼む」
「はーい!ゴーレム召喚!!」
ならば待たせるのも何なので、もったいぶらずに一台目を呼び出す。
「ゴーレム!?」
「スタンピードの時に商店街防衛戦で活躍してくれたアングラーというやつか?」
「形は似ているが、何だあの腕」
「ゴーレムで木を切るのか?だが、あの腕じゃ斧も持てないぞ」
呼び出したのはアングラーをベースとした伐採用のゴーレムだ。
改造したのは腕。多足歩行という安定性を重視した脚部であっても一見バランスを崩しそうに見えるほど、長く伸びた腕は太く、先端は拳が肥大化したような形状のアームになっている。
実際はそこまでバランスは悪くないし、コアの改造も施して出力も上げているから、見た目がアングラーに似ているだけで中身は別物だ。
「まずは開拓地でのお約束、森林を伐採しての開拓作業ですが、その主力となるこちらのゴーレム、ハーベスタを紹介します」
FBOのゲームに登場する各種ゴーレムは、現実世界での重機が参考になっているケースが意外とある。
ハーベスタという名の由来の通り、このゴーレムはかつて俺の居た日本に実在する高性能林業機械のハーベスタが原型となっている。
ハーベスタの背中のコクピットに乗り込み、魔力を流す。
精霊たちが乗り込めば、彼らがやってくれるのだが、今回はあくまで人の手で開拓をやらないといけないので、実演と言うことで俺がやってみせる。
ゆっくりとハーベスタは森に近づき、森の端にある木に狙いを定め、太い幹を掴むようにアームが広がり。
掴んでからはあっという間だった。
「なんていう音だ」
「これではモンスターを呼び寄せるのでは?」
「だが、見ろ!あの太い木があっという間に切れたぞ!!」
「それに枝払いも済ませて、均等に切断されている」
「あれを斧でやったらどれくらいかかる?」
一本の木を丸太に変えるのに、一分もかからない。
「今度は両手が動き始めたぞ」
「まさか、あの作業を両手で同時にできるのか!?」
そしてハーベスタの腕は2本ある。
多脚という安定性の高い特殊な足を活かしてバランスを取りなおかつ、伸縮できる左右の腕によって木を同時に掴むことができる。
樹齢百年クラスの大木であっても、同時に処理することができるのだ。
「だが、木は切れても」
「ああ、大変なのは根っこの方だぞ」
その迅速に伐採できる能力は、商店街の男たちの少年心に突き刺さったのかキラキラとした目でゴーレムを見ている。
だが、綺麗に切られて枝払いされた丸太を見た後、残った根っこの部分はどうするのかと注目している。
「ご安心を!その残った根っこも簡単に引っこ抜けますよ」
「引っこ抜けるって」
「一体どうやって?」
森林開拓で一番大変な部分を、問題ないと断言しサムズアップして見せても、見学者の懐疑的な視線は薄れない。
彼らが想像しているのは、筋肉隆々の男たちが数十人がかりで根っこを引っ張って引っこ抜くという原始的な方法だ。
なので、その派生でゴーレムが根っこを掴んで引っ張るという方法を使うのかと思っているに違いない。
「アミナ!次のゴーレムを!」
「わかった!」
次のゴーレムをアミナに召喚してもらう。
「なんだ、ありゃ!?」
「腕がないぞ、って背中から腕が生えてるぞ!!」
「いや、あれは腕なのか?」
「大きな、筒?」
「いやそれよりも、足がないぞ!!」
『ロードローラーだぁ!!!』と叫びたい気持ちを抑えて召喚したのはタンク型のゴーレムだ。
下半身の前側にロードローラーのパーツを付けて、肩甲骨付近から長い両腕を生やした、異形のゴーレム。
足がないと言われていたのは、下半身がキャタピラだからだ。
このゴーレムの用途がわからない商店街の人たちの目は、次はどんなことをしてくれるのかという期待の眼差し。
ハーベスタからロードローラーゴーレムへと乗り換え、魔力を流すとキュルルルル!とキャタピラが回転し前に進み始める。
最初に使うのは背部にあるアームの方だ。
「何だあの光!?」
「光が当たった地面が水のように動き始めたぞ!」
「波だ。地面が波打ってる!」
魔力を流し動かした背部のアーム。
拳にあたる場所はパラボラアンテナみたいな形状になっていて、そこから薄黄色の光線を照射し、切株の周りの地面が液状化する。
「こうなったらこのゴーレムでいいんだよね?」
「ああ!」
その効果はあっという間で、そしてなおかつ照射していない場所以外はしっかりと地面が硬いまま。
この状況を生み出したタイミングでアミナがもう一台のゴーレムを召喚する。
「浮いてる?」
「でっかい傘か?」
「いや、なんか爪みたいのがついてるぞ」
見る人が見ればこう呼ぶだろう『アンノウンフライングオブジェクト』、UFOと。
そんな見た目の物体を前に、これは一体どんなゴーレムなのかと再度期待が集まる。
FBOプレイヤーたちからはユーフォーキャッチャーゴーレムと呼ばれる、ロードローラーゴーレムとのコンビを組むことが多いゴーレム。
「ネル!頼む!」
「任せて!」
一足飛びでそのゴーレムに飛び乗ったネルの操作で、液状化した地面に浮かぶ切株の元に陣取り、そしてアームを下ろすと爪が食い込む勢いで切株を掴む。
その動作でこのゴーレムが根っこと引き抜くためのゴーレムだというのを理解した商店街の人たちは不安気な視線でその光景を見る。
根っこを引き抜くのは並大抵の労力では済まないほどの重労働だ。
いかにゴーレムと言えど簡単に抜けるはずがないと思っていたが。
その考えとは裏腹に『スポッっ』と快音が響きスムーズに根っこは抜けてしまった。
「何だろう、すっげぇ気持ちい気がした」
「わかる」
「ああ、俺もだ」
ストレスを解消できる、見事な根っこの引っこ抜きを見せて、残るは引っこ抜いた先の穴の処理だが、それはこの液状化現象で勝手に埋まる。
柔らかくなった地面は重力に従って高いところから低いところに流れ込み水面のように平らになっていく。
スワンプトラップというスキルを付与して、光線として発射できるようにした魔道具アームによって 光線を浴びた個所は沼化して液状化するから事後処理もあっという間。
照射を止めればそこは瞬く間に元の土に戻り普通に歩けるようになる。
「おいおいおい!とんでもねぇじゃねぇか!!こんなのがあれば村を作るなんてあっという間だぞ!!」
切って、抜いて、穴を埋める。
その作業に掛かった時間は五分とかかっていない。
そのスピードに興奮して叫ぶ肉屋のおっちゃん。
その叫び声は商店街の人たちの心の代弁。
顔を見合わせ頷き合い、そして話し始める人たちが現れるが、ことはまだ終わっていない。
「ところがどっこい!これで終わりじゃないんですよ!」
まだ伐採をして切り開いただけだ。
こいつは鉄輪の部分が魔道具になっている。
どのような魔道具になっているかと言えば。
「すげぇ!あのゴーレムが進んだ地面がまっ平になってるぞ!!」
「雑草もねぇ!なんでだ!?」
ロードローラーゴーレムの本来の作業は整地だ。
そのための魔道具と言えばいいだろうか、鉄輪の前についているショベル部分で土砂を掬い上げそれを巻き込む形で鉄輪の上部に開いた口に流し込む。
そうすると中にある魔道具が整地に邪魔な小石などを粉砕し土に混ぜ放出する。
その下で鉄輪に付与された地面を柔らかくするソフトンというスキルと、圧縮するスキルであるプレスが連動して地面を整地していく。
当然、この土地は平野部ではない山の自然が作り出しているがゆえにそれだけではどうあがいても平地という物は作れない。
なので、さらに活躍するのが肩甲骨から生えている腕の魔道具だ。
さきほどの光線を照射し、軽度の液状化を発生させ地面を柔らかくし、その上を鉄輪で通る。
高低差を利用した整地だが、コツを掴めば、先ほど開拓した土地を平らにすることくらいはあっという間にできてしまう。
「「「「「・・・・・」」」」」」
驚きすぎて、もう言葉にもならないと言わんばかりの視線。
たった3体のゴーレムで瞬く間に家と畑を作れそうな土地が完成してしまった。
この世界の住人が知る開拓とは、本来もっと大変で過酷で、命がけの行為のはず。
その常識が覆り、瓦解していく音が聞こえるようだけど。
「これで終わりじゃないですよ!!」
「「「「え」」」」
本命はまだ終わっていない。
「アミナ、4台目頼む」
「はーい」
まだあるの?と脳が追い付いていないという商店街の人たちの目の前に登場するゴーレム。
「なんていうか」
「地味、だな」
ハーベスタゴーレム、ロードローラーゴーレム、UFOキャッチャーゴーレムと比べると、迫力の無い姿。
あるのは四本の足を備えた多脚の下半身の上にくっつけた椅子、そして日差しを遮るように設置された屋根とその上にあるパラボラアンテナ。
それに座って移動するのかと言わんばかりの移動用のゴーレムに見えるが。
「よっと」
こいつの外見は地味だが、とんでもない能力を持っている。
椅子に乗り込み、折り畳み式のサイドテーブルを兼ねた端末を引き出すとそこにはモニター画面が表示される。
レーダーマップのようなモニターには赤い点と青い点そして黄色の点が1個ずつ表示されている。
俺は迷わず、その3つの点をタッチすると。
「おい、人が乗ってないのにゴーレムたちが動き出したぞ!!」
「え、本当だ!」
このゴーレムの名はコマンダーゴーレム。
遠隔操作装置を付ける必要はあるけど、一台のゴーレムで複数のゴーレムを操作できるようにするゴーレムだ。
魔力供給ユニットもついている優れものゴーレム。
ゴーレム使いガチ編成ビルドのプレイヤーなら、このコマンダーゴーレムで色々ととんでもないことをできるのだが、それは今はさておきこいつが俺たちの自治領開拓の鍵となるゴーレムというわけだ。
ゴーレムを遠隔で動かしているのが俺だとわかった商店街の人たちは驚愕の目で俺を見る。
そんな彼らにピースサインを送るのであった。




