2 スカウト
カウントダウン!!書籍発売まであと5日!
そして明日、12月11日18時に活動報告を更新します!!
今回はコミカライズに関しまして進展がありましたのでそれについてです!!
お暇があれば是非ともご確認の方よろしくお願いします!
「ここに来るのも久しぶりだな」
「私たちは、久しぶりって感じはしないわね」
「そうだね。忙しくても月に何回かは来てたし」
町づくりのための人集め、その足掛かりとなるのはネルのお父さんとお母さんであるジンクさんとテレサさんだ。
二人に会うのは久しぶりで、俺はちょっと緊張している。本当に忙しかったが、それが言い訳になるかと不安になりつつ菓子折りを持って久しぶりに商店街の大通りを進む。
あのスタンピードが王都を襲った日からはだいぶ経っていて、商店街にはあの時の傷跡はもうない。
「よう、ネルちゃんアミナちゃん!っとそっちは坊主か!!久しぶりだな」
「あ、肉屋のおじさん」
「今は、餅の屋台もやってるぜ!肉巻き餅の売れ行きが良くてよ!!」
懐かしいと感じているのに、肉屋のおじさんは俺のことを覚えていて、バシバシと肩を叩いて来た。
「しっかし、久しぶりに会ったらでかくなってるじゃねぇか!!ま!俺ほどじゃないがな!!」
「あははは、将来は越しますよ」
気安い仲というのはこういうことを指すのだろうか。冗談なのか、本気なのかわからない言葉を言われ、俺は日本人の得意技である誤魔化しの笑顔で乗り切る。
ここで張り合っても、子供の言葉と笑われそうだしな。
「ちょっと時間がないので、ここいらで失礼しますね」
「そうか。今度食いに来いよ!!おまけしてやるから!」
立ち話していると他の人も集まってきそうなので、早々にジンクさんの店に向かう。
「いらっしゃい。って、久しぶりだねリベルタ君」
その店は俺の記憶にあるよりも少し綺麗になり、店内は棚が増えアクセサリーだけではなく化粧品も置くようになっていて、宝飾店というよりは雑貨屋という風体になっていた。
アクセサリーを磨いていたジンクさんは作業の手を止めて、カウンターから顔を上げた。俺を見ると目を見開き、そしてその後に優しい笑顔を浮かべてくれた。
「ネルから元気とは聞いていたけど、大きくなった。最初に会った時はこれくらいだったかな?それに随分と大活躍だったようだね」
「あははは、それもこれもジンクさんが馬小屋を貸してくれたからですね?」
「ははは!その恩に関してはネルをここまで育ててくれたことで返してもらったよ。まぁ、立ち話もなんだ、座ってくれ。おーいテレサ!!」
そして俺と出会ったころの身長を手で示したと思ったら、ゆっくりと話すために椅子を勧めてくれて、店の奥にいるであろうテレサさんを呼ぶ。
「なんだい、ってリベルタ君か、久しぶりだね」
「テレサさん?」
「ああ、って、ああそう言えばあんたには見せてなかったね」
以前は頭巾に覆われていた狐耳を出し、前に会った時よりも随分と若くなった姿で現れたテレサさん。一体何が起きたと思っていたら。
「どうだい?なかなか綺麗になっただろ」
「あ、はい。驚きました」
「あんたが残してくれたモチダンジョンで、米化粧水を大量に作ってね。もっと効能をよくできないかって薬屋と共同で新商品を開発したんだよ。そうしたら見てよこの肌の綺麗さ。お貴族様にだって負けてないよ!!」
「お母さんったら、会ってる人みんなに言うのよ。もう」
「あははは、実はうちのお母さんも同じだよ」
どうやら俺の置き土産で、格段に綺麗になっていたようだ。ジンクさんも鼻高々に、うちの妻は綺麗だろとドヤ顔を披露しているが、よくよく見るとジンクさんの顔立ちも皺が少なくなりテレサさんほどの劇的な変化ではないが若返っているように見える。
テレサさんは米化粧水の新商品で気合を入れて肌や髪の手入れをして、ジンクさんはほどほどにといった感じか。なるほどねぇ、フレーバーテキストしかない換金アイテムにこんな効果があるとは。
「喜んでもらえているようなら何よりです」
年甲斐もなくはしゃぎまわる母親の姿に娘たちは少し気恥ずかしさを感じているようだが、そこには触れないように話を流す。
「おかげさまで商売もうまくいっているからね。まったく、君を我が家に迎え入れた過去の私を褒めてあげたいよ」
化粧品と宝飾のダブルコンボで、商売もうまくいっているようで、これはスカウトは難しいかもなぁ。
気合を入れて来てはみたが、今の生活で満足していそうな二人にここに来た理由を話すのを少しためらう。
されど、ここまで来て世間話に来ましたとお茶を濁すのもなんか違う。
「さすが商人ってところですかね?儲けの匂いには敏感って」
「まぁ、ね。直感みたいな感じはあったよ。そして、それは今も感じている」
さて、どうやって切り出すかと考えていると優しい笑顔を引っ込めて商人の笑顔になったジンクさんが俺を見る。
「忙しい君がわざわざ私のところに顔を出したんだ。世間話をしに来たわけじゃないだろ?」
儲け話には敏感とついさっき俺が言ったばかりであるが、ジンクさん、あなたはなんでノーネームドの店員NPCだったんだ?話の流れを敏感に感じ取り、商機を掴めるなんて凄腕の商人の証左ではないか。
「お見通しですか」
「うん、昔から勘はいい方だよ」
時には理屈ではなく直感を信じられる。そんな商人を今目の前で見ていて、さすがはネルの親だと思いつつマジックバッグの中に入れていたプレゼン資料を取り出し。
「実は、この度国王陛下から独立自治権を得て土地を賜りました」
ならば本題と最初から全力全開、フルスロットルでぶち込んでいくとさすがのジンクさんでも予想外過ぎて目を見開いた。
そこから始まる開拓のロードマップの説明。
テレサさんも一緒に聞いていたけど、途中で長くなると判断してそっと店の外に閉店の看板を掛けてからはじっとジンクさんの隣で話を聞き。
「うん、なんていうか、私の勘も鈍ったかな?」
「こんな大ごと予想できる人の方が少ないよ」
冷めてしまったお茶を飲み、心を落ち着け始めた。元々商談用で用意していただろうテーブルには俺が用意したプレゼン資料がずらりと並び、その一枚を手に取ったジンクさんは苦笑している。
「リベルタ君の話をまとめると、君の開拓地に私たちを連れて行きたい。すなわちスカウトってことでいいかな?」
「そうですね。信用できる商人っていえばジンクさんですし、ネルに商人のノウハウを教えるとしたらジンクさんが一番の適任です。あと付け加えるなら、自分の方で用意できる見返りは俺の開拓した土地での御用商人の地位ですかね。」
一つ一つの話の規模が大きすぎて、現実味がないだろうが今回のプレゼン資料の中には国王陛下直筆の土地の委任状も含めてある。
少なくとも独立自治権を持った土地を得たという事実は理解してくれている。
「御用商人か、商人であれば一度は憧れる地位だね。君の突拍子もない行動力も重ねればその土地はとんでもないことになるのはわかる」
「空手形になる可能性を考えてますかね?」
「リスクとリターン。メリットとデメリット。この両方を思考の外に置いたら商人としては三流だよ。君のことを信用しているし信頼もしている。だけど、何も考えず話に乗るのとは違うね」
その点を踏まえても、未開拓の土地、そして何より辺境という未知の領域に投資すべきかしないべきか。
「私は見ての通りこの王都でそれなりに成功を収めている。この成功を放棄してまで君の案に乗るメリットは生憎と今はない」
「ええ、今はないでしょうね」
「だが、同時に君がやってきた実績を考えるとこのまま断るというのはダメだというのも理解している」
「そう考えていただけて光栄ですよ」
心情的には投資したい、しかし、商人としては慎重になるべきだと考えている。その考えが言葉に乗せられ、前向きに考えているがもう一手情報が欲しい。
「この考えはきっとこの商店街にいる人たち共通のモノだ。だけど、可能性がないわけではない。あのスタンピードの時、君は諦めかけていた私たちを奮い立たせてくれた。それに接していた者は君に希望を感じ、可能性も感じてくれていると思う。言ってはなんだけど、王都の一角の商店街は世間から見れば勝ち組ではあるが、実情は上にも行けず下に落ちないように必死に生きる人たちの集まりだ」
だからこそ、現在の商店街の実情を教えてくれる。生きる分には問題ない。多少の贅沢もできる。
だけど、そこで行き止まり。
この王都の頂点では貴族が今だ権力を振るい、大商人が幅を利かせている。いかに努力をしてもその頂に上り詰めることはできない。
それなら新しい土地で、新しい可能性に賭けてみたいという気持ちも少なからずある。そして少なからず賭ける価値があると思える存在が今の俺ということか。
「・・・・・その事なんですけど、皆さんの度肝を抜けるような見学会を開催しようと思っているんです」
なら、その希望に応えるとしようではないか。俺はそっと、もう一枚急遽用意した紙をマジックバッグから取り出してジンクさんに手渡す。
『開拓地見学会』
タイトルからして、わかりやすくしたつもりだ。
「ふむ、開拓現場を見学できるのか」
「実際の開拓作業を見て、今後の展開を考えるというのも手かと」
「うん、情報はあればあるだけいいね。でも大丈夫なのかい?開拓の人手を求めて商店街に来たんだろ?人手不足なんじゃないか?」
「いえ、大枠の開拓自体は俺たちだけでもできなくはないんですよ。ただ、細部についてはやっぱりそれ専門のプロよりも廉価版の仕上げになっちゃうし、効率も悪いので人手を探しているわけです」
「なるほど、ある程度見せることはできるようになっているわけか・・・・・しかし、うーん、辺境に行くとなると時間がかかるだろう」
この世界での開拓方法と、俺の考える開拓方法はだいぶ違う。まずはそのイメージのギャップを解消してやるべきだと俺は考えた。
「転移の魔道具を用意できますので、日帰りできますよ。ただ、色々と見てもらう必要があるんで一日は空けてもらう必要がありますけど」
「店番なら一日くらいあたしがやるよ。あんたは、リベルタ君がやることを見ておいで。あんたは見た方がいいって思っているんだろ?」
「ああ、そうだね」
この世界でいう開拓は、FBOのゲーム空間とは違いかなりアナログな方法での開拓になる。平地を作るのに、多くの人員を割き、斧で木を切り倒し、スコップで根を掘り、整地する、と全て人の手でやる。
スキルがあればそれを使うだろうけど、その手のスキルも少ないだろうし、取得する人は限られる。
いかに広大な土地があろうとも国主導の計画でない限り、多くの人手と資材と資金が確保されていなくて信用というものはされない。
時々、個人で新しい村を作ると開拓団が結成されることもあるけど、成功することは稀だ。おおよそが資金難で挫折し、解体される。
成功してもそこから村を維持するのが大変になるし、さらに途中までは無税だったが数年たち収穫できるようになれば徴税される。
そのイメージがあるからこそ、開拓というワードになかなか良いイメージがつかないのだろう。
危険と賭け、その2つが混在する。故に普通ならやらないという思考になる。
「どうせなら、商店街の男衆をできるだけ連れて行きたいんだけど」
「出来ますね。少し手間がかかりますけど前日から動けばどうにか」
そんな条件下でも、ジンクさんは俺に賭けようとしてくれている。それは俺の自治領に成功の可能性があるなら王都での生活を捨てる覚悟があると言っても過言ではない。
今は絶対に協力するとは言ってはいない。
だけど可能性を感じてはくれているようだ。
でなければ、自分1人ではなく他の知り合いにも声をかけるとは言ってはくれないだろう。
「わかった。詳しい日程を詰めようか。私たちにも予定があるし」
「はい、こっちも受け入れの準備と開拓の準備がありますからちょうどいいです」
ジンクさんの伝手でどれほどの人が集まるかは未知数ではあるが、この話を聞いて集まってくれるのならそれすなわち、新天地に興味があるということだ。
「わかった、近日中には連絡するよ。どこに伝えればいいかい?」
「エーデルガルド公爵家の別館に間借りしているので、そこに、この紹介状を持っていけば通してくれますよ」
ひとまずは第一歩だ。ここから進むことを切に願うとしよう。




