1 原点回帰
カウントダウン!!書籍第一巻発売まであと6日!
俺は今、最高に気分がいい!!
「さぁ!さぁ!諸君、厄介ごとは去った!いよいよ行動の時だよ!!」
アジダハーカという苦難を乗り越え、育成契約を果たしたクラリス、コン、バルバトスを見送り、ようやく身軽になったリベルタさんは元気です!!
「久しぶりに元気なリベルタを見た気がするわ」
「最近ずっと忙しかったからねぇ」
「貴族として迷惑をかけた側の私からしたら少し、直視しづらい笑顔ですわ」
「お気になさらなくても問題ありません。リベルタ様はエスメラルダ様に思うところはないとおっしゃっています」
「割り切りの良さは彼の長所ですね」
両手を腰に当て、仁王立ちからの高笑い。
ご機嫌ですと満点の笑顔を添えて、やりたいことに打ち込める時間を確保できた俺は無敵!!
「さぁ、皆!見よ!隙間時間を見つけては、コツコツと作り上げてきたこの俺渾身の街の設計図だ!!」
女性陣から優しい目線を頂いてもこのテンションを下げる気はない。
やりたいことができる。
それに何の遠慮をする必要があるか。
布をかぶせ、見えないようにしていた壁に張った街の設計図を御開帳。
「「おー」」
「素晴らしい設計図ですわね」
「はい、夜遅くまで丹念に作っておられました」
「才能豊かと思っておりましたが、街の設計もできるのですね」
こういった流れのお約束は、俺の絵が下手糞で女性陣から生優しい視線を頂き、清書してくれる設計者を探して仲間にすることだ。
だが生憎、FBOでも自分の町を作ったことがある。
さらにその際に町の図面の引き方を、別の某都市計画系シミュレーションゲームで学んでいる俺に死角はない!
ネルとアミナの感嘆の声、エスメラルダ嬢の賞賛、イングリットの努力を認める声、クローディアの感心する言葉。
これだけでもこの図面を描いた甲斐がある。
「国王陛下に貰った土地をすべてフル活用するために作った図面、これの実現に俺たちは取り掛かる!」
アジダハーカという怪物を討伐した報酬で得た土地は、おおよそ六千百平方キロメートル、山口県くらいの広さはある。
欲しい土地を示したらだいたいそれくらいになった。
「でも、王様からもらった土地ってすっごく広いよね?」
「それを私たちだけで開拓するの?」
「さすがにそれはいくらリベルタ君でも無理だよね?」
1つの県をたった6人で開拓、普通に考えれば無理無茶無謀を通り越して、馬鹿と言われておしまいの内容だ。
ネルとアミナが顔を見合わせるのも無理はない。
いくら設計図が緻密に描かれていても、これを実現できる技術者や作業者がいないと机上の空論。
「精霊様にお手伝いを願うのですか?」
「それも考えた。というか、楽しそうだから手伝うと言われもした」
そこで真っ先に浮かぶのは我らがアミナファンクラブの会員である精霊たちだ。
人数も用意できるし、なにより信頼ができる。
これ以上にない素晴らしい人材なのだが。
「ただ、いつまでも精霊たちに手伝ってもらうのもよくないし、ゲンジロウの御庭番衆やジュデスたちエンターテイナーの面々と人が集まってきたから、人間側のクランも結成したいんだよ。ゆくゆくは戦闘職以外にも、農業とか土木とか鍛冶とかの生産職の人員を集めたいし」
いつまでも精霊たちに頼りっきりというわけにもいかない。
そして、精霊たちは優秀なんだけど人間たちにしかできないことも多々あるのだ。
「将来の話になるけど、本格的に他の大陸に進出するとなると守りのことも考えないといけないんだよ。精霊たちに俺たちの拠点を守ってもらうのも難しいからね」
「精霊が集う土地と聞けば人が集まりますね。それこそ、この大陸だけではなく他の大陸からも。守るべき土地を、余計なトラブルで危険にさらすわけにもいきませんからね」
精霊というのはこの世界では大変希少な存在だ。
俺たちがちょくちょく会っている闇さんとかも、本来であれば人の一生で一回会えれば奇跡だと言われるような存在だ。
そんな存在に絶対に会えるという土地を作ってしまえば将来のトラブルなんて予想に難しくはない。
「精霊が作った街、ってだけでも西の頭の固いご老人たちからそこは我らが治めるべき土地だ!っていちゃもんつけられそうですし」
その最たる例が、西の大陸の精霊信仰ガチ勢という輩たちだ。
西の大陸の一部過激派には精霊を神と同等かあるいはそれ以上の存在として崇めているヤバいのもいる。
「ああいう連中からちょっかいかけられたくないので、今回は精霊たちの協力は極力無しの方向で話を付けました」
クラリスからその手の話で、実は実働部隊を派遣するという話も出ていたと聞いてマジかと愕然したよ。
精霊たちを王都に呼び寄せてライブをしたことが、まさか西の大陸にまで伝わっていたとは。さすがに南の大陸の王都に侵攻したら戦争待ったなしだから他の重鎮たちが止めたらしい。
そんな連中なら王都じゃない開拓地だったら遠慮なく来そうだしな。
「私たちだけでやろうという理由はわかりましたわ。となると人手ですわね。エーデルガルド家の方で募集してみましょうか?」
「いえ、実は人手に関しては、かなりガチで心当たりがあるんですよ」
そういう不安要素を取り除き、ノビノビと作業をやるのならひとまず身内で固めた方がやりやすい。
「「??」」
人手の心当たりと言って、ネルとアミナを見ると2人は首を傾げた。
「俺たちの始まりの土地、商店街の人たちを丸ごと引っこ抜く」
そう、心当たりというのは今でもつながりのあるネルの両親であるジンクさんとテレサさんだ。
他にも鍛冶師のガンジさんに、その奥さん。
ダンジョンから出た肉を卸している肉屋の店主さんに、薬屋のおばちゃん。
そのつながりで、商店街の人たちにはジンクさんとテレサさん経由でつながりがある。
「「ええっ!!?」」
そんな俺の考えなど露とも知らず、初めて聞いた2人は当然のように驚く。
最初はネームドキャラでも探そうかなと思ったけど、今から探すとなると時間もかかるし、確実に仲間にできる保証もない。
「あとは冒険者ギルドの方からデントさんも引き抜きたいなぁ」
知り合いで問題なさそうな人は一通り声をかけていく。
流石にゴーレム奇人五人衆は呼ばないけど、この世界でのつながりは全力で頼っていくつもりだ。
「ちょ、ちょっと待って。みんなここでの生活があるのよ。来てくれるかなんて」
「そのためのプレゼン資料もがっつりと用意したし、無理やり連れていくつもりもないよ。あくまで最初の候補っていうだけだ」
少なくともジンクさんとテレサさんは協力してくれると思っている。
あとは、アミナの家族は給料と生活環境をしっかりと保証すれば来てくれそうな気がしている。
ガンジさん夫婦は、色々と投資しているのでここら辺は強気で行くつもり。
デントさんは、まぁ、あの人は出たとこ勝負でどうにでもなりそうな気がしている。
机のわきに用意していた、プレゼン資料。
この町が出来上がるまでのロードマップと言っても良い。
それを机に置き、その分厚さにネルが息を飲む。
数々のゲームで、NPCの好感度を稼ぎ仲間に引き込んだ経験が役に立つとは思っているが、それだけでどうにかなるとも思ってはいない。
「最初の候補にしては、随分と気合が入っていますね」
「そちらの資料もリベルタ様がコツコツと夜なべして作っておられました」
「人を説得するために準備を怠らない。良いと私は思いますわ」
人を動かすというのは、当然、その人の今後の人生を保障する責任も背負うことになる。
ネルの言う通り、今の安定した生活を放棄させ、新しい環境で生活することになる。
この土地に愛着がある人もいるだろうし、未開拓の辺境の土地ということで忌避感を出す人もいるだろう。
それらを全てひっくるめて、説得するのに言葉だけで挑むのは愚の骨頂。
ここにいる人たちはゲームのキャラではない。
現実を生きる人なのだ。
「その資料も渾身の出来だからな!!」
その生きる人を説得するのに手を抜くはずもない。
「ちなみに、リベルタはどのような人材が欲しいのですの?さすがに手当たり次第というのは非効率だと思うのですが」
「ひとまず欲しいのは、とにもかくにも開拓要員だな。あそこは土地を拓けないと住む環境すら用意することができない。開拓作業そのものはそこまで重労働じゃないし、護衛は俺たちやゲンジロウたちがいるから安全に作業も進められるし」
「専門の知識とか技能が必要なの?」
「いや?俺のやり方は従来の開拓のやり方とは隔絶しているだろうし、きちんと手取り足取り丁寧に教えて育てますよ?」
そして来てくれた人は丁重に扱いますとも。
いやいや作業されるよりも、仕事にはやりがいを持って挑んで欲しいと思いますので、給料もしっかりと払います!
残業は極力なしの方向で。
「それにまぁ、前に会った時もう少し稼ぎたい的なことも言ってたし」
ジンクさんとテレサさんにはこの世界に来た時に色々とお世話になった。
馬小屋だけど、住まわせてくれたし、食事も用意してくれた。
後でちらっと聞いたけど、俺がストリートチルドレンと間違われないように商店街の人に話を通してくれていたみたい。
そんな俺と普通に接してくれたあの人たちに少しでもいい生活をして欲しいと思うわけで。
お給金弾んで、少しでも恩返しできればと思うわけです。
「とにもかくにも、しばらくは商店街の人たちのスカウトに回る」
絶対に住み心地のいい町を作るからついでに移住してくれないかなぁと下心もあったりするけど。
「最初はジンクさんとテレサさんのところかな。あの2人を説得出来たら芋づる式にいろんな人がスカウトに応じてくれそうだし」
「お父さんを説得できるかなぁ。あのお店苦労して開いたって言ってたし」
「無理なら無理で仕方ない。それなら、俺が作った町の商人と取引してもらうし」
愛着を無視してまで、連れて行こうとは思わない。
だけど来てくれたら嬉しいなぁ程度のスタンスがちょうどいい。
まぁ、スカウトする熱意はガチで行かせてもらいますが。
「・・・・・リベルタ、今更気づいたのですが」
「はい、何ですかクローディアさん」
「この町、かなりの規模になりそうですが、貴方の目算でどれほどの期間で造るつもりですか?」
そうやって、スカウトをやることが決まったところで、町の設計図を見ていたクローディアが、神妙な顔で聞いてきた。
はて、なんでそんなことを聞くのか。
「・・・・・確かに、リベルタだから忘れていましたわ。普通、この規模の町を作るとなると数千、いえ、一万人以上動員して、十年、いえあの辺境の土地でしたら二十年はかけて行う企画ですわ」
ああー、施工期間のことを気にかけていたか。
まぁ、普通の方法ならこの町を完成させるのに人生賭けるような覚悟で挑まないといけないような計画だ。
そこら辺を心配するのはわかる。
「リベルタ。最近の私たちもあなたの常識に染まりつつありますが、商店街の方たちはそうではありません。いかにあなたが綿密な計画を見せようとも荒唐無稽にしか見えませんよ」
そう思って、答えようとしたが、それよりも先に出たクローディアの言葉に『あ』と思わず言葉を漏らしてしまった。
確かに、クローディアのいう通りだ。
俺がいかに熱く語っても、所詮は机上の空論。
笑って流されればいい方か。
「となると、百聞は一見に如かずか」
なれば、実際に見せた方が早い。
「ええっと、闇さんたちに頼んでいた作業用のゴーレムって何台完成してたっけ」
ジンクさんたちの度肝を抜いて、それで協力してもらおうか。




