30 EX自然の神 2
カウントダウン!!書籍発売までついにあと一週間!!追加ストーリーもあるので皆さまよろしくお願いします!!
ケフェリたち主神争いをしている神々の不安は、ある意味で的中していた。
光の女神ライナと大地の女神ジュリは、とある神に接触を図っていた。
「麗しきお二方が私に面会を求めて来たとは光栄の極み。さて、どのようなご用件で?」
ちょび髭を蓄え、七三分けにした髪形の眼鏡の神。
「お忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます。先日のアジダハーカの件でお話したいことがありまして」
この神の名は観測の神ハーゼ。
ケフェリたちが警戒している外宇宙の神を招こうとしている過激派ボッチだ。
観測という特殊な事象を司る神であり、一見すれば弱い神のようにも見える。
だが彼はその観測という権能で外宇宙の事象を観測し、この世界とは異なる理の力を得た神。
その異なる理の力をもっとこの世界に広めようとしているがゆえに他の神々から危険視されている。
過激的な改革派と言えばいいだろうか。
自然神であるライナとジュリとは異なる概念神ではあるし、派閥も違う。
「ふむ、アジダハーカ。ああ、そういえば先日人間により討伐されましたな」
「ええ、あまりにもあっさりと倒されたことによって神々の中で話題になっている。あのアジダハーカですわ」
そんな存在との話し合いは当然密会という形をとっている。
互いに立場があるゆえに、表立って会うのはよろしくはない。
「しかし、あれは私たち審判団も問題ないという判断で送り出した試練。こうも簡単にクリアされることは想定外であったが、倒されること自体は問題ないのであるな」
ライナとジュリからしても可能であれば会いたくない神ではある。
しかし、とある発見をしたことにより二柱はこの何とも思っていない風を装う神に接触することにした。
「噂も放っておけば、鎮火する。ことを荒立てるのは神としての品位を落とすことになる」
ひげを触り、問題にすることは良くないと大人の対応を取っているように見えるが、ライナとジュリからすればハーゼの内心でははらわたが煮えたぎるほどご立腹なのはわかっている。
それを何ともないと装うポーカーフェイスはさすがと言っていい。
「そうしたいのはやまやまでしたが、こちらのジュリがアジダハーカの側でこういう物を見つけまして」
だが、そのポーカーフェイスもジュリが表示した映像を見せた瞬間、1フレームにも満たないごくわずかな時間、されど神にとっては確信ともとれる表情の変化を見逃さなかった。
「何が望みだ?」
それは感情を表に出してしまったハーゼ自身がよくわかっている。
映像に映し出された物体は古の時代に神々が回収したと言われるオーパーツ、リベルタが回収した宝石だ。
本来であればこの世界にはあってはならない異物。
回収し忘れたと言えば聞こえがいいが、アジダハーカの側、それも封印地の地下に埋もれていたとなればそれは偶然ではあり得ない。
灯台下暗しと言えばその通りだ。
一度精査し、その後も監視する土地にまさかオーパーツがあるとは思わないだろう。
巧妙に秘匿し、そしてアジダハーカと融合させる予定であったその物体を仕込むことができる存在は限られている。
リベルタのあの戦法で、アジダハーカが吸収するまえに地面その物を固めてしまわれて不発になっていたが、もし仮にそれを吸収していたらあの戦いはどうなっていたか。
アジダハーカの体内に吸収されてしまえば気づかれることはなかったが、仕込んだ者の意に反して物質的な証拠が残ってしまった。
ライナとジュリは、これは利用できるのではと考えた。
大地の女神という絶対なる地中でのアドバンテージ。
そして光の女神という視覚に対してのアドバンテージを駆使すれば、監視している審判役の神々の監視の目をごまかすことは違反ではあるができる。
バレたらただでは済まない。
ハーゼの腸が煮えくり返っているのは、外宇宙の力が発揮されなかったことに対してだ。
その感情を利用すれば、弟の手助けができると判断し、その危険を冒してでも接触した。
保険として隠していることは話していないが、噂とこの映像を照らし合わせれば言質を取らせていないだけとハーゼは気づく。
故に、望む物を言えと単刀直入に切り出した。
「1つ、お願いを聞いていただきたく」
なのでライナも笑顔でその話に乗った。
「邪神陣営の強化に便宜を」
「たしか、貴女たちの弟が今回の邪神役でしたな。しかし、私一柱の発言だけでそう簡単に強化に許可を出すことはできないのである」
おおよその見当はついていたのだろう、ハーゼは驚きもせず、目的を聞いた。
神々のなかでライナとジュリのブラコンの話はよく聞く話だ。
一人派閥のハーゼの耳にも届き、さらに呪い付きの手紙の話も聞く。
この二柱が積極的に動くとしたら弟の件それ以外はあり得ないと断定する。
「ええ、承知しております。ですが、それは表向きですよね?」
「・・・・・」
そしてこの二柱の女神はその致命的とも言えるブラコンという欠点以外、とても優秀なのだ。
近親を異常なほど愛することなど人間のモラルとは縁のない神々にとっては日常茶飯事。
思考の偏りも神にとってはごくありふれたもの。
全ては世界を滅ぼさなければ問題ないと判断される神々の思想。
「私、知っているんです。写し身の魔導人形。あれ、実は神が下界を査察するために用意された物なんですよね?」
「調べるのに苦労しました。文献の中でもかなり厳重に封印されていた書物だったのです」
だけど、そういう思想を持つようになった原因は当然だが存在する。
世界を滅ぼす原因、リベルタの前世である世界であるのなら、隕石、地震、火山噴火などの自然現象、人為的というのであれば核兵器による核戦争などがあげられる。
では、神の基準で世界を滅ぼす原因というのは何か。それは、神の過干渉による神災。
万象通じて、ありとあらゆる物事に信仰を生じさせ、世界のバランスをとり神という存在は成り立つ。
そのバランス、秩序と言い換えてもいい。
秩序を乱すことによって、幾柱の神が滅んだか。
この滅びの原因は全て神災だ。
「地上に残された一体、あれはデータ収集用のプロトタイプだとわかったのです。過去の神災により、神が下界に直接生身で降りることは禁止されたのですが、それでも力を抑えて世界への影響が最小限になるように工夫して、神が入り込める器を作ろうとした、その試作品」
「だけど、この世界の素材では私たち神界にいる神の力に耐えうる素材は現状存在しない。であればそれはどこから持ってきたのか」
FBOで魔導人形が一体しか存在しなかった理由、そしてプレイヤーが解析できなかった理由。
前者は意図的に神によって残されたから、それは誰が何のために。
ライナとジュリはそれを完全に調べ上げた。
ハーゼが色々と理由をつけて、データ収集をするためだと世界に魔導人形を残したという証拠をずらりと映像で並べ、言い訳ができないように理詰めで追い込む。
「答えは外の世界」
「外宇宙の神々の世界にある素材を持ってくる。神々の混乱していた古の時代でもないとできない荒業でした」
ライナが空を指さしジュリが答えを言う。
古い神だからこそできる裏技を持っていると当たりを付けた結果答えはビンゴだ。
過去、失敗を経験していない神々は慎重さを欠いて色々と無謀なことをし続けた。
現在のこの世界では色々と荒れるようなことはあっても、古の神々のルールがまだあいまいな時代と比べればだいぶマシ。
「そしてその素材はまだ余っている。それも大量に」
「私たちはそれぞれで特殊な空間を持っていますから、そこに入れてしまえば見つかる心配もありませんし、この世界を乱すようなことをしなければ探られる心配もないのです」
「ですが、それも状況によっては覆ります」
だが、ハーゼは観測という権能で古の時代を生き残った生き字引。
当たり前のように古の時代の品を持っている。
「ふむ、なるほど。よく調べている」
確信を得るために下調べをして、そして交渉に挑んだ。
「欲しいのは私の持っている魔導人形、それも神の依り代になれる完成品と言ったところか」
「・・・・・さて、どうでしょうね」
「ですけど、完成しているかどうかは気になりますね」
あくまで、言質は取らせないというライナのスタンスに満足気に頷き、あくまで雑談の一環としてジュリが話を促す流れも悪くない。
「生憎と、まだである。ありとあらゆる素材を駆使しても神の依り代というのはそう簡単にできないのである。だが、実用段階には踏み込めているのである。限定的、そう、力を制限した状態でなら常用でき、限定的な時間かつ数回程度なら神の力を発揮できるところまでは仕上がっている。未完成品だが、性能は保証する」
ハーゼの予想では、魔導人形に入り込み今回送り込まれた神の使徒を排除するということだろう。
あるいは邪神勢力に入り込み戦力の強化を図る。
そのためには下界に干渉するすべが必要。
そこで着目したのが写し身の魔導人形だ。
「それを譲るのはやぶさかではない。だが、足りないな」
「足りないとおっしゃると?」
「無論である。例の宝石の口止め料として写し身の魔導人形を提供する。これは道理である。だが、写し身の魔導人形は私の工房の中にある。すなわち天界に存在するということである。天界から下界への物資の輸送は厳しく監視されている。君たちの力で、例の宝石を隠し通せたから自信をつけたようだが、甘いと断言せざるを得ないである」
ハーゼの内心ではこの取引、受けても良いと思っている。
外宇宙の神々をこの世界に引き込むためには、大義名分が必要だ。
そのための足掛かりにこの二柱の女神を利用する。
いや、互いに利用しあうという関係に落ち着くのは悪い話ではない。
今は外宇宙の力を利用することに全体的に反対の風潮があるのでハーゼの一人派閥ではあるが、この有力な二柱を派閥に引き込むことができれば神界での発言力も上がる。
派閥に入れと言って素直に聞くとは思えないし、それを理由にこの話をなかったことにされ、ハーゼにとって都合の悪い情報を流される方が損失が大きい。
「私なら、魔導人形を神界の神々にバレずに下界に送り届け、尚且つ遠隔で魔導人形の中を出入りできるようにすることもできるのである。送り届ける仕事で1つ、出入りできる設備を提供するので1つ、魔導人形の提供で1つ。合計3つである」
ならばどうするべきかとハーゼは考える。
神々というのは嘘が見抜ける。
故に虚言を使わず、有利にことを運べるようにしないといけない。
「仮に、二柱分の口止め代と考えても、1つ足りないのである」
互いに目的がある。
互いに多少の後ろめたいことは目をつむることを承認している。
互いに有益なものを持っていることを理解している。
「さて、その不足分を拒否するか諦めるかは貴女たちの判断次第である」
傲慢に強気でハーゼを納得させるにはライナとジュリの実力が足りない。
悪どく思考を誘導するには思慮が足りず、両神に対するハーゼの信用が十分ではない。
ライナとジュリは少し考え始める。
メリットとデメリット、そしてやるべきかやらざるべきか。
まるで悪魔との取引だ。
目的のために手段は選ばないとまではいかないが、それに近い覚悟が二柱にはあった。
「要求はなにかしら?」
「生憎とあなたの派閥に入ることはできないのです」
「そこら辺は期待していないのである」
内容次第と言えば、ニヤリとハーゼは笑う。
交渉の席に就けてもらえただけでも儲けもの。
「私が求めるのはただ一つ、知恵の女神の使徒。リベルタの知恵。彼の者を生け捕りにして私の祭壇に捧げて欲しいのである。これは貴女たちと利害が一致する提案であると思うのだがいかがか?」
そして提案し欲するのは観測の神として欲しい異世界の少年の魂。
それを聞き、二柱の女神がどのような反応をするかハーゼは観測するのであった。




