29 EX 次代の神 11
カウントダウン!!書籍発売まであと8日!!
「「「・・・・・」」」
「なんだ?」
「「「いや、むしろ何だと聞きたいのはこっち(ですよ・である)!!!!」」」
「そうですよ~ケフェリ先輩。さすがに聞きたいことが多すぎます。なんなんですか先輩の使徒は」
アジダハーカというギミックは、停滞した人間の文明を励起するエポックとして神々が想定する中でも、かなり危険な部類の仕掛けとして設置した物だ。
良くても南の大陸の住人の三分の一が犠牲になり、下手をすれば全滅もあり得ると想定した存在が、ほんの一部の土地の汚染だけで解決するなど神々ですら考えつかなかった。
「・・・・・私もあそこまでするとは思わなかった」
その驚き度合いは、知恵の女神と言われるケフェリですら唖然とし、目を見開かせるほどだった。
「ウソだ!!」
「おまえ、言ってみたかっただけだろ?」
「まぁ、言うタイミングは計ってただろうけどさ。実際、南の使徒の奴。あれはないって」
アジダハーカを確殺するためのリベルタの執念。人間に対して初めて恐怖という感情を覚えたのはケフェリだけではない。
戦いを司るはずのアカムですら、冗談を交えながらも「あれは恐ろしい」と真剣な顔でケフェリに問いただす。
「真に恐ろしいのは知識の多さではなく、発想力と言ったところでしょうか。あのようなアイデアをこの世界の住人が果たして思いつくでしょうか」
「おそらく無理であろうな。固定観念でモンスターとは正面から戦うというイメージがつきすぎている」
「ですよねぇ。今回の戦いに参加した他の使徒たちでも、そういう戦法があるって認識はしたでしょうけど、ここまで柔軟に〝手段を選ばない〟ことなんてできないでしょうし」
アカムを含め、メーテル、ゴルドス、パッフルたちがアジダハーカに対するリベルタの戦いを見た感想は、なんと恐ろしい発想力だろう、というものだった。
使っている魔道具はどれもこの世界で作れるものばかり。
ゆえに誰にでもできるを体現している。
いや、準備段階で常人を超えるような努力と根気を必要とするから簡単にはいかないのはわかる。
だが、神々でもこの発想力はないという事実がヤバいのだ。
「でもさぁ、これって大丈夫なの?だいぶゲームバランスが崩れているし、邪神側勢力からしたら上申してもおかしくないような惨状だけど」
アカムが感じる危機感は、ケフェリの使徒の想定外の発想力を前にして邪神勢力が今後のゲーム進行を考え、テコ入れをしてくるのではないかという不安。
「ありえるであるな」
「・・・・・・・・・問題はどのような対応をあの方々が行うかというところですが」
「色々と、楽しさで物事を決めそうなお方たちですからねぇ。さすがに世界を滅ぼすようなギミックが早々に決まるとは思いませんが」
「一柱、不安な輩がいるな。空から招くことをやたら主張している過激派が」
盤上への干渉する権利はケフェリたち主神候補たちには基本的に与えられていない。
だが、邪神側である混沌の神グルフォアはその権利を限定的に持っている。
「あれか」
「さすがにないよね?」
といっても、好き勝手に変更できるわけでもない。
この主神を決定する戦いにおいても審判のような神々はいる。
その神々の審理を経て、それで許可がでて変更ができる。
ケフェリたちが問題視しているのは、その変更できる決定権をもつ審判の神々の中に、一柱過激な思考を持った神がいるということ。
ここにいる五柱全員が、その神があの立場にいられる理由を知っている。
「力はある、力だけだが」
「それが厄介なんですよね。主神候補の選考からは外れますけど、それでも力だけは認めざるをえませんし」
「快楽主義者なのが選考から外れた理由だからな。力は本物だが」
「そうですねぇ、本当に力だけは強いんですよね。審判の席にその力で食い込んでしまうのはどうかと思いますけど」
同じ顔を想像し、そしてうんざりと言わんばかりに溜息を揃って吐く。
「外宇宙からの神の招聘を常に主張していますけど、どう思います?」
「この世界の秩序を壊したいのかと頭を疑うのである」
「普通に考えて此方と彼方ではルールが違いますからねぇ。もし私たちのゲームの盤面にちょっかいを出して来るとしても、此方の道理を理解して納得して恭順してくれるならまだいいですかねぇ?」
「僕は殴り殺す自信があるから無理!」
アジダハーカの設定を決める中で、この神だけが最後まで反対し続けた。
要素が足りない、既存の能力だけでは不十分だと言い続け、そして推していたのが外宇宙の神々の力。
この世界よりも上位の世界であったり、同格であったり、あるいは発展途上の世界の神であったり。
とにもかくにも、ルールの違う他所の世界の神の力を混ぜ込みたいという、混沌の神よりも混沌を目指す神。
「今回のアジダハーカの討伐を機に、馬鹿なことをしないのを願うばかりだ」
流石のケフェリであってもため息を吐いて、余計なことをするなと願うばかりだ。
そんな心配をしないといけないほど、リベルタがやらかしたことは神々に衝撃を与えた。
次は何をやらかすのか。
「それよりも先に君は心配しないといけないことがあるんじゃないの?」
「・・・・・」
その心配だけに集中できればどれほど良かったか。
アカムがニヤリと笑い、ケフェリが避けていた話題に触れてきた。
「なんのことだ」と、すまし顔で漫画を読み進めるケフェリ。
その体を最新式のマッサージチェアに横たわらせて、快適に過ごしているように見えるが、雰囲気から面倒事は御免だと不機嫌になっているのがわかる。
「ライナとジュリ、無視していていいの?」
「アカム先輩、あれは無視する以外どうしようもないですよぉ?」
この天上の庭園に入れるのは主神候補だけだ。
グルフォアが本体ではなく使い魔を送ってきたのは例外的な手段だと言っていい。
邪神であるゆえの特権だ。
では、他の神々がこの庭園に居る神々に連絡をとる手段があるかないかと言えば、実はある。
「ずいぶんと手紙がたまっていますよ?」
「何やら怨念がこもっているようにも見えるのである」
「というか、こもっているよね」
「下界の人間が触れたら一発で正気を失うレベルですねぇ」
今時アナログな手紙と思うかもしれないが、神々は物質の転送をすること自体は呼吸をするように簡単にできる。
特定の場所に送る際には送る場所の状態次第になるが、この世界の中ならどこにでも送り付けることはできる。
文字を書くことも神の力を使えば、怨念を込めたとしても数秒もあれば十分だ。
テーブルの上に山積みになっている手紙の数々。
澄んだ空気の庭園だけど、そこだけ空気が淀んでいるように見える。
パッフルが一通の手紙を取り上げ、ゆらゆらと揺らすだけで周囲の空気が歪む。
「全部、グルフォアのところに送り付けておけ。私は知らん」
なんでこんな不幸の手紙の上位互換のような危険な物体が送り付けられてきたかと言えば、ブラコンを拗らせた女神たちの勘違いだ。
漫画を貸し出したことによって、ケフェリとグルフォアの交流が始まったことをどこからか聞きつけた女神たちが、色恋に発展するのではと警戒心を剥き出した結果がこれだ。
嫉妬心を通り越した別の何かがこもっている物体をどう処理するかといえば。
「はーい」
ケフェリは、恨まれる筋合いはないと、一番見られたくなくそして変態姉妹への説教が一番効くであろうグルフォアのもとに呪物の山を転送する。
他の神々も、ケフェリが被害者だと理解しているがゆえにそれを咎めない。
「でもさぁ、これで逆恨みとかして僕たちの勝負に横槍とか入れてきたら面倒だよね?」
「それをやれば神としての立場も危ういものになるである。正気であるならやらないであるが」
「あのような呪物を送り付けて来るような変態姉妹がまともな状態かどうかはいささか疑問ですね」
むしろ、巻き添えで自分たちにも被害がでるかもと思っている。
主神という神々にとって大事な立場を決める勝負に、感情的なもので横槍を入れてくることはないと思うし、そうならないようにシステムを構築している。
そうそうに盤上を乱されることはないと思うが、不安がないというわけではない。
「いっそのこと、あいつらにも漫画とか貸し出してみれば?別のことに夢中になって大人しくなるかもよ?」
「あの二柱が好む作品ですか・・・・・ありますか?」
「姉と弟の禁断の愛・・・・・探せばありそうではあるな」
「愛は万能です。この嫌がらせもそれで収まるのなら」
「お前たちは漫画をなんだと思っているのだ」
その不安を払しょくするために、グルフォアと一緒に漫画の世界にのめり込ませればいいのではと、アカムが提案し、残った三柱も賛同した。
ケフェリが「そんな単純なことで大人しくなるのか?」と疑わしい視線を向ける。
「僕たち神を狂わせる魅惑の本」
「仕事を放棄させるような魅惑のある本ですね」
「価値観が一変するような魅惑の本であるな」
「愛を伝える魅惑の本ですねぇ~」
絶対に健全な漫画ではないと断言できる回答が帰ってきて、ケフェリは頭痛を堪えるように額を抑えた。
「ほらほら、物は試しって言うじゃん?厳選は僕たちがやるから」
「ええ、任せてください」
「うむ、しっかりとあの女神たちが納得できる作品を見つけ出してやるのである」
「そういう体で先輩たちは漫画を読みたいんですねぇ」
「「「そんなことはない(です・である)!」」」
本心が丸わかりでもはや隠す気がない三柱の魂胆に対して、断ったら断ったでより面倒な二柱の女神に対応しないといけなくなったケフェリ。
どっちがマシか。
「好きにしろ」
その結論は考えるまでもなく、わずかでも可能性があるのならそっちに賭ける。
それだけのことだった。
「「「漫画!!!」」」
ケフェリのフィンガースナップ一回で、庭園に現れる書棚。
漫画喫茶顔負けの蔵書の数。
漫画禁止令を出されていた神々は我先にとその本棚に飛び込む。
それぞれ好みの作品群に向かっているのはご愛嬌だ。
「提出期限は一週間だ。効果が無ければ没収する」
「任せて!渾身の一作品を見つける!」
「ふふふふ、吾輩に任せるのである!数多の宝物を見続けてきた吾輩に見つけられぬ品はない」
「ええ、調停の女神の名にかけて秀逸なる作品を見つけて見せます!!」
放置したら自分の好きな作品だけを読み漁りそうな予感がして、一応釘をさしておく。
今までも見たことのないような笑顔でサムズアップしてくる三柱の顔を見て、ケフェリは不安しか感じなかった。
これで大丈夫かと、首をかしげていると羽ばたく音が庭園に響く。
『やぁ、ケフェリ。読んだ書物を返しに来たよ。いやぁ、漫画というのは面白いね。つい夢中になっちゃったよ』
「どの面下げて来た」
漫画を抱えて飛んできた双頭の鷹。
その鷹の顔から聞こえた声にイラっとしたものを感じたケフェリは、鋭い視線を投げつける。
『あれは姉たちが悪いのであって僕は悪くないよね?』
「お前が邪神に立候補しなければこうはならなかっただろ」
『君にはわかるまい、気づいたらベッドにもぐりこまれ貞操の危機を感じる恐怖を』
「チェリーボーイでもあるまいし」
グルフォアが悪いわけではないのはわかっている。
だが、原因であるのは間違いない。
嫌味の一つや二つ言いたくなるのは仕方ないだろうと、貸し出した漫画の状態を確認し、問題ないので書棚に戻す。
『随分と作品が増えているみたいだね』
「代金を払うのなら持っていけ」
『うん、わかった。今回はなにを作ればいい?』
「お前の姿を生き写したのかと思うくらいに精巧な等身大の人形を作れ。二体だ」
『え』
どうせグルフォアは漫画を借りていくのであろうという推測から、変態姉妹の嫌がらせを減らすために対抗策をケフェリなりに考え実行する。
これで少しでも静かになればいいと思ったケフェリの提案に、鷹の表情は引きつるのであった。




