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28 祝勝会(祭)

カウントダウン!書籍発売まで残り9日!

 

「みんな!!最初から全開で行くよ!!!」


 先日の王城での祝勝会はまだ、祝勝会という体を成していた。


『『『『『『『『イエヤアアアアアアアアアアア!!!!』』』』』』』』


 だけど、アミナの掛け声で始まるこれはすでに祝勝会の範疇を通り越して祭りだ。


 人間側の祝勝会を終えて、今度は精霊側の祝勝会に参加している。

 ライブ会場の設営や、屋台の手配、大道芸のできる精霊の招集と、アミナファンクラブの精霊たちもイベントの準備に慣れてきているようだな。


「盛り上げていきますわあああああああ!!!」


 久しぶりのドラム演奏にエスメラルダ嬢もご満悦のようで、スティック捌きのキレがえぐい。

 クラス8の身体能力を駆使して、的確にリズムを刻み、尚且つ単調にならないようにしている。

 クローディアやイングリット、そして俺とネルもそのリズムに合わせて音楽を刻んでいく。


 精霊界にいたころは定期的にやっていたライブだが、アジダハーカの討伐まで結構長い日数が掛かったので、俺たちが楽器に触れるのも久しぶりだ。それでも意外と指が覚えているものだ。


 精霊たちの盛り上がり具合は、俺たちが精霊界にやって来るのも久しぶりと言うことで前よりも熱量が高いような気がする。


『フォオオオオオオオオオオ!!!』


 うん、最前列でサイリュームを振っている精霊王らしき存在は一旦スルーで。


『アミナチャアアアアアアアン!!』


 その隣で全力で叫んでいる闇さんも一旦スルーで。


 ライブで言うS席は今回のアジダハーカとの戦闘に参加してくれたり、援護してくれた精霊たちに全開放しているから、最近よく見掛ける面々がずらりと並んではしゃいでいるのがわかる。


 有志の精霊によるバックダンサーがライブをさらに盛り上げ、新曲も披露している。


 精霊たちの慰安という意味では、これ以上にない行事なのは理解できるが。


「ぶっ続けで半日はえぐいって」


 物事には限度っていうものがあるだろ。

 途中途中に小休憩を挟んでいるし、アミナが興に乗って全力で歌い続けたって言うのもある。


 熱狂的に盛り上がった場の雰囲気に押され、アンコールに応えまくった結果がこれだ。


「ぷはぁ!歌った歌った!」

「喉用のポーション飲んでおけよ」

「はーい!!」


 一番大変だっただろうアミナはご満悦で、椅子に座りタオルで汗を拭いながらスポドリ感覚でポーションを飲んでいる。


「う、腕が」

「最初から飛ばすからそうなるのですよ。手を出してください、ヒールをかけますので」

「うう、感謝しますわ」


 まぁ、一番の犠牲者はエスメラルダ嬢だろうな。

 ステータス的にも俺たちのパーティーで身体能力は一番低い。


 クラス8というハイレベルだからこそ、半日ぶっ通しでドラムを叩き続けることができたのだろうけど、それでもやり切った後にその代償を支払い、握力がだいぶ下がっている姿をさらしている。


 ペースを守っていたクローディアが筋肉痛に耐えるエスメラルダ嬢に優しくヒールをかけている。


「沁みますわぁ」

「エスメラルダさん、すごかったわよね」

「ああ、あのドラム演奏のスティック捌きはなかなかできるものじゃないな」


 よほど、ヒールが気持ちいいのだろう。

 生き返ると言わんばかりに、表情が緩み、ほっとしているエスメラルダ嬢の顔を見て、ネルと一緒に苦笑する。


「屋台から料理の差し入れを頂きました」

「外の様子はどう?」

「まだ落ち着くには時間がかかりそうですね。今は舞台で即興の、アジダハーカを倒した劇を精霊たちが演じております」

「面白そうね」

「配役とかどうなってるんだ?」


 半日ずっとライブをしていれば相応のカロリーは消費する。

 そうなれば当然空腹感はとんでもないことになる。


 イングリットも疲れているだろうけど、楽屋前に配達されてきた料理を運ぶ程度のことはできる。


 その際に外での歓声の原因を見たのだろう。


 中々興味深い内容が聞けた。


 自分たちの行動が劇になるとか、気恥ずかしさを感じるはずだけど、今はライブの後の興奮と疲労感が重なってそういうのは感じない。

 純粋に誰がアジダハーカ戦での俺を演じているかが気になる。


「リベルタ様は闇の精霊の方が演じておられました。ネル様は火の精霊様、アミナ様は光の精霊様ですね」

「うん、無難」

「髪の色の所為かしら?」

「それだと僕は地の精霊様だよ?」


 俺は恰好が恰好だから、闇の精霊が演じるのは妥当だ。

 闇さんじゃないよね?あの精霊が演じていたら結構見たいんだけど。


「エスメラルダ様は雷の精霊様ですね」

「魔法を使っていたからでしょうか?」

「髪の色も合っていていいのでは?」

「クローディア様は、風の精霊様でした。おそらく動きの早さを演出するためかと」

「それでイングリットは?」

「私は地の精霊様でした」


 舞台の配役は、なんとなくイメージが近い精霊がそのまま演じているようだ。

 とりあえず、俺たちが舞台の上にいるようで気になって立ち上がり、楽屋から外に出ると歓声が響き。


 そちらを見ればCGも真っ青なクオリティのアジダハーカと戦う精霊たちの舞台が見えた。

 舞台袖から見ているから観客席とは違った迫力があるが......


「俺、あんな正々堂々戦ってないんだけど」

「写し身の方の演出かしら?」

「僕ずっと後ろで歌ってただけだよ?」


 舞台ということで演出は過剰になり、どこの勇者様だと言わんばかりに堂々と戦う俺らしき精霊と、アミナ推しが多い精霊たちのおかげで俺を支えられるような位置で歌う精霊。


 ハメ技フルボッコで倒して申し訳ないと思いつつ、楽屋に戻る。


「いかがでした?」

「俺じゃない俺がいました」

「結構面白そうだったわね」

「最初から見たかったかも」

「あら、でしたら今度公演される舞台を見ますか?」


 見に行ったのは俺とネル、アミナの3人で、残った3人は楽屋で屋台からデリバリーされた軽食をつまんでいた。

 精霊たちの演じる舞台の感想を言えば、エスメラルダ嬢が何やら不穏な言葉を発した。


「舞台、あるんですか?」

「ええ、吟遊詩人の歌とともに奏でるミュージカルですが、お父様が全力でリベルタのイメージアップだと劇団を支援していますわ。エーデルガルド家でも家を上げて選りすぐりの演者を集めていると」


 精霊たちの舞台はまだいい。

 あれは身内ノリでやっているからいいけど、公爵閣下のやつはガチで歴史に名を残すためのような舞台だ。


「クラリス様やバルバトス様、コン様も協力されておりますわ」

「......」


 そこに神託の英雄の名を持つ弟子たちも協力しているとなると、もう俺の一言で止まる気がしない。

 いや、恥ずかしいから止めろと言えば止まる気がする。


 その代償として、しょんぼりとした弟子たちの表情がもれなくついてくる。

 それを想像してしまったゆえに、止めてくれと言うのを躊躇ってしまった。


『リベルタいるか?』

「闇さん?」


 おかげで闇さんが楽屋に来て、エスメラルダ嬢を止めるタイミングを逃してしまった。

 いつも通りの軍服姿なんだけど、腰のベルトに差し込まれた団扇とサイリュームの予備、そして頭に巻かれたハチマキがなんとアンバランスな。


『うむ。休憩中に悪いな。先日の素材の報告を忘れていた』

「素材というと、あの宝石ですか?」


 アジダハーカの側に埋まっていた謎の宝石。

 俺が知らないだけで、もしかしたら精霊なら知っているかもとアジダハーカの素材と一緒に預けていた。


『なかなか興味深いものであったぞ。長い月日を生きてきた某であっても見たことがないものであったゆえに、某よりも古い時代を生きた精霊にも知恵を借りてな』

「何かわかったのですか?」


 進展があれば教えて欲しいと言ってあったから、何か進展があったのは間違いない。


『うむ、結論から先に言えば、星屑の魔力の塊だ』

「星屑の魔力?それって普通の魔力と何か差があるんですか?」

『ある。この魔力の塊は、この星の魔力ではない』


 魔力と言えば全て共通しているエネルギーのようなものだと思っていた。

 実際FBOのゲームの世界観の設定で言えば、魔力は全ての生物に共通するエネルギーという認識だ。


 しかし、闇さんの言い分だと違う物のような言い方だ。

 貨幣で例えるのなら、円とドルという感じだろうか?

 同じ貨幣であるが、日本では円、アメリカではドルという感じで違いができる。


『この魔力ではリベルタたちが使う魔道具は起動しないし、下手をすれば暴走を引き起こす』

「規格があっていないという感じですか?」

『魔力という生命の源は神々が生み出したと言われている。他世界の神々の魔力ではこの世界の魔力で動かす代物は使えないということだな』

「なるほど」


 闇さんの説明で、すなわち貴重な品だが現状タダの綺麗な石ということが分かった。


『古の時代、神々の戦乱の時代に飛来した外の世界の神々の残留物だ。この世界の神々が全て回収したと聞いていたが......』

「俗にいうアーティファクトというやつですか......ん?」


 これは観賞用かなと締めくくろうとしたが、古の時代というワードと他の世界というワードの組み合わせに、ちょっと心当たりを思い出した。


『どうしたリベルタ?』

「いえ、その、なんと言えばいいのか」


 遠い昔、俺がFBOに夢中になり始め私生活のバランスを崩していた時の話だ。

 FBOの開発エピソードというやつで、スタッフが生放送で裏話をしてくれていた回があった。

 ネタバレにならない範囲でちょくちょくそういう話題が出てくるから俺もその度に視聴して楽しんでいた。

 そのなかで没案になって、悔しかったと開発スタッフが語る回があった。


 それが地球外生命体に襲撃させるエピソードで、そこから古代文明関連のストーリーを展開させるという話だ。

 ファンタジー世界をぶち壊すようなSF展開。


 ストーリー展開の基軸上、上が許可を出さなくて頓挫したという。

 その回の話は賛否が分かれ、面白そうと言っているプレイヤーもいれば、止めて当然というプレイヤーもいた。


 結局のところ、世界観を大事にしたいという運営の意志の下、宇宙という舞台のアップデートは見送られ、サ終するまでそれが加わることはなかった。


「嫌な可能性を思い出して」


 もし仮に、この世界をベースにしたゲームがFBOだとすれば。

 運営的に厳しい話の展開をカットした物があってもおかしくはない。


 となれば、今後の敵で宇宙からのエイリアン的な奴が襲来する可能性がワンチャンある証拠になりえると?


『何か心当たりがあると?だが、リベルタはあの宝石を見たことがないと言っていたではないか』

「実際、見たことはないです。だけど、荒唐無稽な話は思いついたというか」


 そんなのクソゲー案件ではないか。

 ゲームでは実装していない存在を現実で実装するなと言いたい。


 ここからはのんびりと街を作って行こうと思ったのに、のんびりしている暇はないと言わんばかりの情報だな、おい。


『荒唐無稽?』

「ええ、まぁ。話すのも馬鹿らしいという感じの話ですよ」


 さすがに、さすがにないよな?

 否定したい、全力で否定したい。


 だけど、あの悪名高いFBOの運営ならこっそりとそういう展開を作っていてもおかしくはないし、その原型となる情報を抱えていてもおかしくはない。


『その表情でそう言われても馬鹿らしいとは思えんな。ひとまず話せるだけ話してみたらどうだ?』

「じゃぁ、お言葉に甘えて」


 話すだけならタダだ。

 そして何より、もしかしたら闇さんも何か情報を知っているかもしれない。


 今後のことを考えると、馬鹿々々しいと一笑してくれるのが理想なのだが。


『古の伝説にそのような話があったな』

「え、マジですか?」

『だいぶ古く、そして少ないがあったはずだ』


 そうは問屋が卸さないと、フラグという名のトラブルが全力で駆け寄ってくる幻想が見えるのであった。



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
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