27 祝勝会(表)
書籍発売までカウントダウンします!!
残り10日!お楽しみに!!
陛下たちにしっかりと報酬の支払いを確約してもらい、さらに独立を公式に認められ土地の確保もできた俺は、ニッコニコでこの数日を過ごした。
貴族のパーティー準備には時間がかかる。
それでも今回の祝勝会はかなり早く準備が出来たと言っていい。
ただまあ俺からしたら今回の祝勝会は前座で、本命は別にあるのだが。
「楽しめてる?」
「おお師父よ!もちろん楽しんでおるぞ!!」
とは言え他大陸の英雄たちを含めた、今回アジダハーカに対して一緒に戦った面々が一堂に会す大祝勝会。
しっかりと参加はする。
会場は王城。
そのなかで一番豪華で大きなホールが提供され、城の使用人たちが総出で今回の祝勝会を用意し、王城らしからぬ飲めや歌えのどんちゃん騒ぎをしている。
パーティーメンバーも引き連れて来たが。
ついさっきまで謁見の間に厳かな空気の中整然と並び国王陛下から褒賞を授与されていたはずなのだが、それが終わって大祝勝会となったここはその空気とは百八十度違う。
俺は俺で最後に色々な報酬を集まった貴族たちの前で受け取っていたから、この会場に入るのも遅れた。
なんで式典用の服ってああもごちゃごちゃしているんだよ全く。
バルバトスのように少しラフで両手に巨大な骨付き肉を持てるような恰好が良かったよ。
「師匠、お疲れさまです」
「ああ、クラリス。綺麗なドレスだね。似合ってるよ」
「ありがとうございます」
その小さな体にどうやって収めているのかわからぬほど、巨大な肉を頬張り続けるバルバトスに話しかけようとすると、俺を見つけたクラリスが近づいて先に話しかけてくる。
初めにクラリスに出会ったときは、狂楽の道化師関連で何かトラブルでも起きるかと思ったが、蓋を開ければ何事もなく打ち解け合えて、師と弟子として良好な関係を築き修行がスムーズに進んだ。
綺麗な若葉色の露出の少ない西の大陸の民族衣装に身を包み、バルバトスとは対照的に優雅に食事を楽しんでいるようだ。
「バルバトスが満足してくれているのは言わずもがなだけど、俺たちの用意した食事はクラリスの口に合うかな?イングリットに頼んでエルフの料理を参考にレシピを作ってもらったんだ。王城の調理人にはレシピ通りの料理を作ってもらっているんだけど」
「ええ、我々エルフにも食べやすい料理が多くて驚いています。師匠は武だけではなく、料理の知識も豊富とは!師匠の万能さには本当に出会ってから驚かされてばかりです」
エルフが好きそうな料理を含め、各種族の好きな料理の傾向に関してはFBOで知っていたから、それに合わせて王宮の厨房には用意してもらっている。
おかげで東西南北混合の祝勝会は、無礼講ということも重なって盛り上がって楽しんでもらえているようだ。
「ほんまに、クラリス殿のいう通りですなぁ」
「おお、コンも楽しんでいるか?」
「ええ、もちろん。楽しませてもろうてます」
そんな盛り上がっている会場であっても、四大陸の神託の英雄が一同に集結するとなるとやはり注目は浴びる。
本来であれば、ここに愛の女神の使徒であるヒュリダさんにも参加して欲しかったのだが、誘ったけど断られた。
今回の戦いでは、万が一ボルドリンデが刺客を放つ可能性を考えて、ヒュリダさんにはエーデルガルド公爵閣下の護衛をして貰っていたため、戦線には参加していない。
そんな自分が参加するわけにもいかないと固辞されたのだ。
結果として、今回はこの四人が集まる形になった。
バルバトスは酒よりも肉、クラリスは料理と酒をバランスよく、コンは逆に食より酒を好むようで片手に酒杯を持っている。
「いや、ホンマにこの大陸に来てよかったとつくづく思いますわ。東の大陸に残ってたら絶対に後悔していた自信があります。特に、アジダハーカとの戦いにおいての師匠の神がかった戦略を見られたことは、このコンの財産となりました。僕もそれなりに頭は柔らかいという自負がありましたが、あの時は真正面から討ち果たすことしか頭にありませんでしたわ」
それなりに飲んでいるのか、わずかに顔を赤らめているコン。
普段よりも饒舌なのは酒の勢いもあるのかもしれない。
「そうであるな!我も相手の動きを読みそれに対応するという形を取ると思っておったが、まさか相手の動きを完全に封じるとは」
「意外ですね。北の戦士であるあなたでしたらああいうからめ手は好まないと思っていましたが」
「正々堂々と戦う決闘なら怒り狂うであろうな。しかし、アジダハーカとの戦いはこの世界の命運を懸けて戦う、勝たねばならない全力勝負である!万全の準備をして戦に挑むのは、正道である!」
苦楽を共にした仲ということで、気づけばこの3人の距離感もだいぶ近くなっている。
この大陸に来た当初は互いに地位や権力関係で牽制しあっているような空気もあったが、今それはだいぶ薄れている。
互いの立場もありまだ多少残っているがそれ以上のものはない。
「だが、此度の戦いで腑に落ちないことがないわけでもない」
そんな和気あいあいとした会話の途中で、バルバトスの視線が俺を向く。
食事をとり酒を飲みながらであるから、ラフな対話になる。
そこで割と真剣な表情になるから何事かとわずかに身構える。
「此度の戦に、我らが必要だったか否かの話だ。師父、正直に答えて欲しい。あの戦場に我らの力は必要だったか?」
そして出てきた質問に目をぱちくりと瞬かせ。
「当然だな」
「しかし、最後の方はただひたすらに叩くだけの作業であった。我らである必要はなかったのではないか?」
「うん、あの状態に持ち込めた後は、確かにバルバトス達じゃなくても何とかなったと思う」
バルバトス達が必要だったと即答した。
実際に、写し身のアジダハーカとの戦いのときは、それぞれの個性的な能力のおかげで助かったと断言していい。
被害ゼロという快挙を成せたのはバルバトス達がいたからだ。
「まるで、あの状態にならなかった可能性があったみたいな口ぶりですなぁ。お師匠様、もしかして別の状態の可能性があったと?」
「あったね。あの状態に持ち込めるように最善を尽くしたが、相手の行動パターンによってはあの戦法は不発になって大損害を受けていた可能性もわずかだけどあったんだよ」
結果良ければすべて良しとはよく言ったものだ。
今回の結果が良かったからこそ、バルバトス達が不要だったかもという空想を語れる。
だけど、俺の視点からすれば、そうなるように誘導して万策を尽くして最善の一手を引き寄せたに過ぎない。
「大損害ですか」
「俺の最悪の想定は全滅と引き換えのアジダハーカの討伐だったからね」
最悪の最悪を語るのであれば、こんな祝勝会なんて開くという気も起きないほどの辛勝、いや、勝ったというのも烏滸がましいほどの悲惨な結末だ。
俺が苦笑交じりにギリギリの勝利があったかもしれないという言葉にはクラリスだけじゃなく、コンとバルバトスも目を見開き驚いていた。
一緒に来ていたパーティーメンバーにはすでに話していることなので、驚くことなくそれぞれ顔見知りの人と話をしている。
エスメラルダ嬢はエーデルガルド公爵家の私兵団と、クローディアは神殿騎士団の人たちと、ネルとアミナはイングリットと一緒に食事を楽しんでいる。
「そんなに、ピンチになるタイミングなんてあったやろうか?」
「まず最初のアジダハーカの行動。あいつは地面から這い出てくることを選んだが、もし仮に爆破と同時に地中の奥深くに逃げて、地盤を固める魔道具の効果範囲よりも深く潜り結界の下をくぐって外に出たらどうなったと思う?」
「・・・・・想像しうる限りですが、いい結果になるとは思えませんね」
「結界と火炎放射器による呪毒対策が一切できなくなり、蛇竜の眷属の相手もせねばならぬ」
そんな楽しい空気とは裏腹に、こっちは少し険しい空気が漂っている。
「アースクラッシャーで一気にヘイトを稼いでこっちに敵意を向けさせたけど、あのヘイトバランスでも別の行動をとる可能性があったわけだ。あれで俺たちに襲い掛かる確率は九割五分ってところ。残りの五分ではアジダハーカが逃げて仕切り直すっていう行動をとっていた可能性があった」
戦いは無事に終わり、もう二度とアジダハーカと戦うことはないだろう。
だからこそ、IFの話としてこんな雑談ができる。
「作戦が失敗した場合はどうするおつもりだったんですか?」
「出現場所次第だが基本的には封じ込める陣地に引き込むことを想定して動くしかない。最悪の最悪はアジダハーカが戦場を離脱してそのまま他の大陸・・・・・中央大陸以外だと東か西だな。そっちの方に逃げ込んで連鎖的に同格のモンスターが復活するシナリオだ。それを防ぐために真正面から戦って注意を惹いて陣地に引き込む。その間の損害がどうなるか、考えるだけで怖気が走る」
悪いIFの話は、どれだけ戦力があっても足りないと叫んでいる俺の姿が想像しやすい。
「その可能性にあたらなくてホンマに安心でしたわ。もしそうなってたら確かに僕たちの力は確実に必要になってましたな。拘束していないアジダハーカとの戦いですか。どうですバルバトス殿、心躍ります?」
「ハハハハ!心は躍るな!されど、覚悟も必要な戦場になる。生きて帰れぬ戦場を望むほどまだ人生を謳歌しておらん!なので今は遠慮する!」
「それが賢明です。私もその場にいれば使命としてこの命を賭けて戦ったでしょうが、それでもまだ生きたいと思いますね」
その最悪の戦闘で勝ちを拾いに行くとなると、この三人も全力で働いてもらうことになっただろうな。
されど、それはもしもの話だ。
悪い方の想定が現実になった際に起こりえた可能性の1つだ。
「まぁ、ダメージディーラーとしても3人とも必要だったけどね。ぶっちゃけて言って、写し身のアジダハーカの戦闘が加わって二連戦になったから結界塔のエネルギーが足りないかもって思ったし」
加えて、今回の戦いは割とその最悪の想定というのがシャレになっていないのだ。
想定外の事態が起きて、そこから連鎖的に最悪な流れに変化する可能性は十二分にあった。
「ハハハ!あの時は我武者羅に叩いていたぞ!!」
「ええ、次の日が筋肉痛になるかと思いました」
「僕は腱鞘炎ですなぁ。もう、後先考えず攻撃し続けてました」
「中々経験できない物だったろ?」
「ああ!どれだけ攻撃しても中々倒れない存在がいるのを知れた!」
「バルバトス殿の言う通りですね。強くなったと自信がつきましたが慢心してはいけないという証明ですね」
「まったく、その通りですなぁ」
しかし、それは訪れず、こうやって大変だったと笑い合える。
それが幸せだということをここにいる面々はよく理解している。
冗談のように手首をプラプラと揺らすコンの動きに、クラリスもバルバトスも思わず笑う。
辺りを見回せば、ドワーフと獣人が肩を組み酒を飲んでいる姿が見える。
その隣を見れば、竜人の兵士とエーデルガルド公爵家の私兵が腕相撲をしているのが見える。
エルフの女性が声援を送り、獣人がヤジを飛ばし、竜人が次は俺がやると名乗りを上げている。
「・・・・・これで終わりかと考えるとなんか寂しいですわ」
この祝勝会で、彼らとの契約は終わる。
力をつけ、そして結果を示した。
思えばあっという間の出来事だったかもしれない。
「フハハハ!今生の別れではあるまい!コンよ、我はお主の大陸に遊びに行くぞ!!もちろんお主も来い!歓迎するぞ!」
「手荒い歓迎は勘弁してほしいですわ」
「それも我が国の特徴よ!!クラリスよ!主もどうだ?」
「そうですね、鍛錬に赴くのも悪くないですね」
「真面目なお主らしい!」
彼らが南の大陸から立ち去る日も近い。
しかし、縁が切れるわけでもない。
バルバトスは遊びに行く気満々。
その会話は彼らに今後の付き合いを繋げる礎になる。
「師父よ!是非とも我が国に遊びに来てくれ」
「ああ、お師匠様その時はぜひ僕のところにも」
「私のところにもお越しください。歓迎します」
まぁ、大変だったけどこういう結果になるのなら。
「ああ、もちろん。そうだ今度、国から独立して俺の街を作るんだ。遊びに来てくれな」
最後の最後に爆弾発言して驚かれ問い詰められるという結末も悪くはないか。




